29 港町タヘノス
海が近付くにつれ、肌にまとわりつくような独特の空気が、三人を出迎えた。冬の潮風は冷たかったが、海が見えてくるとアールファレムはそわそわ浮かれ出し、嬉しそうに身を乗り出した。
「この匂いがまたいいんだな」
胸いっぱいに空気を吸い込むと、後ろに座っているリベリオを呼んだ。
「ほらほら、若旦那! カモメが飛んでいるぞ」
「初めて海に来たわけじゃないだろうに」
そう言うリベリオも、楽し気に深呼吸をしていた。
「今日は魚を食うぞー!」
リベリオは大きな声で叫び、すれ違った荷馬車の親父は「食べ過ぎて腹壊さないようにな」と笑顔で手を振っていった。
「こらっ、目立つなよ」
アルスラーダは楽しそうな二人を最初は黙って見守っていたが、さすがに制止した。
往来も激しくなり、荷馬車が盛んに行き交っていた。
「すまん、すまん。調子に乗りすぎた」
反省して座席に座り直したリベリオと、澄まし顔で行儀よく座るアールファレムがいた。
リベリオは軽くアールファレムの頭を叩いた。
「痛っ、暴力はよくないな」
「抜かせ! お前もはしゃいでいただろうが」
「汚ない言葉を使うなよ。品位を疑うぞ」
「どの口が言うんだ」
後ろから手を伸ばし、アールファレムの両頬を引っ張った。
余りに低次元な会話にアルスラーダは、頭痛がしそうだった。この二人が王族だとは、誰も思わないだろう。
「ほらほら、帆船が見えますよ」
アルスラーダは二人の気を逸らす為に、沖合いを指差した。大きな四本マストの帆船が、沖合いに見えた。どうやら入港してくるらしかった。
「あれは客船かな。乗ってみたいな」
「今回は諦めて下さいね。乗るだけならいずれは機会も訪れましょう」
皇帝旗艦も建造される予定だったが、未だ具体的には何も決まっていなかった。アールファレムの欲求が高まった以上、来年から着手されるだろう。つまりアルスラーダの仕事が一つ増えた訳だ。
「川船はあるが、海で船に乗った事はないな」
「意外だな。若旦那は旅好きだから、経験があると思った」
「馬でいける範囲だけしか、行った事はないさ。ほとんど国内だな。外国もガルフォンとシャリウスだけだ。ベイロニアは危険だからな。テオドーロ王に見つかったら、生きて帰れるかどうか分からん」
少し内容が際どくなりアルスラーダは咳払いして、注意を喚起した。馬車の走行中とはいえ、会話が洩れないとは限らなかった。
「町中では、一層気をつけてくれよ」
「私も気を引き締めていこう。すぐに油断してしまう」
アールファレムは自分の顔を叩き、気合いを入れた。
いよいよタヘノスに到着し、アルスラーダはまずリベリオの為に茶色の付け髭を購入した。アールファレムがにやにやしながら、リベリオの鼻の下に取り付けた。
「思ったより違和感がないな。つまらん」
「男前はどうやっても、決まってしまうから困るんだよな」
リベリオは手鏡で確認しながら、満更でもない様子で髭を軽く引っ張った。
「似合ってよかったな。港近くの宿をとって、馬車を置いて動くとしよう」
アルスラーダは、後ろを振り返りもせずに言うと、馬車を発車させた。
丁度手頃な宿が見付かり、無事身軽になった三人は、腹ごしらえをすませると、港へと足を運んだ。
先程の客船が桟橋に係留されており、既に乗客は下船しているようで、船員達が積み荷を忙しなく下ろしていた。
邪魔にならないように、離れたところから荷下ろしの様子を物珍し気に見物する三人は、非常に目立っていた。
「近くで見ると、一段と大きいな。どこの国の船だろうな」
アールファレムは見上げながら、感嘆の声を上げた。
「ガルフォン国籍のラジエンデ号ですよ。ルディベルド大陸南部を周遊しております。申し遅れました。私はこの船の船長を勤めるベッカーと申します」
ベッカーは不審な三人組が、船を偵察しているとの報告を受け、自ら確認しにきたのだ。
三人とも身なりは立派で剣を佩いている事から、貴族ではないかと思われるのだが、貴族が頭にバンダナなど巻く筈もなく、どうにも正体がつかめないのだ。黒髪の護衛らしき人物も、素人目で見ても身のこなしに隙がなかった。万一貴族であるなら粗相する訳にもいかず、偵察と相成った訳だった。
「いやぁ素晴らしく立派な船だな。一度は乗ってみたいものだ」
アールファレムは笑顔で、ベッカーと会話を交わし出した。アルスラーダとリベリオが一瞬、目配せしあったのを、ベッカーは見逃さなかった。警戒しつつも、ベッカーは笑顔を絶やさず探りをいれようとした。
「閣下であれば大歓迎致します。次の航海には是非、乗船なさって下さいませ」
「閣下ね。貴族だとばれたか」
「勿論でございますとも。お忍びでございますか?」
「ああ。船長少し時間を貰えるかな? 案内を頼みたい」
「かしこまりました。よろしければ、お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
アールファレムは折角見付けた案内人を、逃がすつもりはなかった。
「フィリップ・フォン・ ビットナーだ」
「ビットナー家! フリードリッヒ将軍の縁者の御方でしたか」
「将軍とは従兄弟にあたる。私は宮仕えはごめんだがね」
ビットナー家の家名を出した方が、協力的になるだろうと、勝手に利用した訳だが、当人が知れば恐縮するだろう。恐れ多くも皇帝の従兄弟になってしまったのだ。
ベッカーは残りの二人にも視線を向けた。思った以上の大物の出現に、内心悲鳴を上げていた。
「私はデムーロ商会の者だ。タヘノス進出を検討しているんで、フィリップに案内を頼んだ次第だ」
デムーロ商会はミュスタンで最も有名な商人で金融、交易と幅広く手掛けていた。当主のファビオはリベリオから内密に相談を受け、二つ返事で飛び付いてきた。今回同行を申し出たが、まずはリベリオが様子を見る事で納得させた経緯があった。
「我が家はデムーロ商会とは昔から取引しているんだ。友人でもある若旦那に頼まれると断れなくてね。だがまだ本格進出を考えている段階みたいでね。現時点で警戒されると困るんだ。秘密が多くてすまないが、デムーロの名前も内緒にして欲しい。もう一人の目付きの悪いのは、気にしないでくれ。私の従者のアルスだ」
アルスラーダは普段から目付きが悪いが、警戒している今はいつも以上に険しくなっている。他人がいる前で油断する訳にはいかず、アールファレムが嘘を並べ立てるのを平然と聞き流していた。
「ベッカー船長、私からも宜しく頼む」
リベリオは手を差し出し、ベッカーと強引に握手を交わした。
「ちなみにラジエンデ号はどこの所属の船なんですか?」
アルスラーダの質問は、新たな波紋を呼ぶ事になる。
「マイヤール商会の船です。御存知ですかな?」
御存知も何も、ガルフォンで最大規模の商会で、会長のマイヤールはアールファレムの昔からの支援者だった。
「我が国でその名を知らぬ者はおらんさ。相変わらず儲けているみたいだな」
「会長とお知り合いですか? 今夜約束しているのですが、よろしければ御一緒なさいますか?」
「よろしいわけないだろう!」
「フィリップ様。残念ながら手遅れのようです」
アルスラーダは、小太りの禿男が近付いてくるのを視界に捉えた。
「いったいどんな確率なんだ!」
アールファレムの嘆きは、無理もなかった。一日ずれていれば、会う事もなかった。
まさかタヘノスに来た初日に正体がばれるなど、有り得なかった。ルドルフには、勿論会うつもりだったが、マイヤールなど計算に入っていなかった。
アルスラーダは先手をとり、マイヤールに駆け寄った。
マイヤールはアルスラーダに気付くと、驚いて声を上げた。
「アルスラー……! もがっ!」
アルスラーダは手でマイヤールの口を塞ぎ、耳元で囁いた。
「話を合わせろ。あそこにいるのは、フィリップ様だ。私はただのアルスだ。分かったか」
マイヤールはアルスラーダに睨まれ、訳の分からぬまま何度も頷いた。
「マイヤール、久しぶりだな。帝都で会って以来だな」
「はい。フィリップ様お久しぶりでございます」
アールファレムが何を言い出すか分からぬまま、会話を続け、現状を把握しようと努めた。アルスラーダの視線を感じ、マイヤールの背中を冷たい汗が伝った。間違いは許されなかった。
「マイヤール、お忍びで来ているんだ。ここでは家名は伏せておきたい。ビットナー家の名は決して出さないようにしてくれ」
「ビットナー家? はっはい。勿論でございます」
「ベッカー船長に案内を頼んだんだ。構わないか?」
マイヤールは勿論、引き受けた。理解出来なくても、皇帝に恩を売るに越したことはない。
この時期の皇帝のタヘノス訪問など、マイヤールの商売人としての勘が、何かあると告げていた。
それにもう一人の長身の髭男の正体も気に掛かった。アールファレムの配下は一通り見知っている筈だが、全く見覚えがなかった。
「私も同行致しましょうか? それなりに顔が利きますので、お役に立てるかと、存じ上げます」
アールファレムはマイヤールを頭の天辺から足の爪先まで、値踏みするように眺めた。昔からの付き合いで気心も知れており、利に敏い面もあったが、十分信用出来る男である。
「マイヤール会長は口が固いと評判です。そうだな」
アルスラーダはマイヤールの同行を口添えをした。
「そうだな。頼むとしよう。マイヤール、こちらデムーロ家の若旦那だ。タヘノス進出を考えているんで、タヘノスの現状を知りたいと言う事で案内している」
マイヤールは目を見開き、リベリオを眺めた。皇帝が外国の商人に肩入れするなど尋常でなかった。しかも同盟国シャリウスではなく、ミュスタンの商人である。現在ガルフォンとミュスタンは交易はあるが、シャリウスとは規模が違う。だが皇帝自らが後押しするとなると、大掛かりな計画が背後にあると見てよい。
金儲けの匂いが漂い、マイヤールは僥倖に感謝していた。上手く立ち回る必要があった。
「マイヤール会長がいらっしゃるのなら、私は失礼しましょうか?」
ベッカーはおずおずと切り出した。政治的な事に巻き込まれるのは、まっぴら御免だった。
「いやいや、船の専門的の意見も聞きたい。是非同行願いたい」
リベリオはベッカーの肩に手を回し、にっこり笑い掛けた。
ベッカーは肩を落とし、災難を受け入れる覚悟を決めた。
「ではどこから見て回りますかな」
マイヤールは先導しようと、張り切った。
「造船所を見てみたい。可能か?」
「勿論ですともフィリップ様。是非こちらへどうぞ。我が商会が懇意にしている造船所がございます。今も建造中の筈です」
「いったい何隻所有する気なのだ?」
「まだまだ不足しております。これからの事を考えれば造船所を経営する事も考えたのですが、彼らも中々技術者を手放さないので諦めたのです。確か国が所有する造船所が、タヘノス以外に何ヵ所かありますよね」
「軍艦を造るのに追われているさ。民間に回せる余裕はないんじゃないかな」
「フリードリッヒ様なら詳しいでしょうが、私どもではさっぱり分かりかねますな」
アルスラーダはしれっと流す事にした。マイヤールの狙いは読めている。マイヤールが造船所を手中に収めれば、融通が利きそうだが、あまり肩入れする訳にはいかなかった。
「今後は我々ミュスタン商人も、商船を自前で持ちたいと考えている。つまり造船所は手一杯と見ていいのだな。そして技術者の引き抜きも難しいのか」
「その通りでございます。常に順番待ちしております。造船技術者は需要が高まる一方です。引き抜きを掛けるのも、中々厳しいでしょう。我々が諦めたのも、故あっての事です。勿論、国からの命令があれば別でしょうが」
マイヤールはアールファレムの顔色を窺いながら、話を進めた。
「国が積極的に介入するかは、方針次第だろうな。国にミュスタンと関係を密にする気があるなら、口出しもするかも知れん」
マイヤールの眉がぴくりと動き、興奮気味に鼻を膨らました。
ベッカーは彼らの正体が誰であれ、追及しない事を決めた。マイヤールの態度は慇懃過ぎたし、アルスという従者からの威圧は半端なかった。宮仕えしていない筈のフィリップ様の言動も怪しすぎる。だが自分はただの船乗りだ。雇い主の要望通り、船を航海させるだけでいい筈だ。声を掛けるんじゃなかったと、自責したが後の祭りであった。
一行は造船所に到着した。マイヤールは挨拶し、造船所の中を回る許可をとった。
建造中の船はまだまだ着工したてのようで、船底の枠組みが完成しているだけの様だった。船大工達が手際よく、作業を進めるのを邪魔にならないよう端で見学しながら、リベリオはマイヤールに尋ねた。
「この船の発注はどれくらい前に行ったのか?」
「確か半年前です。約一年の納期で返事を貰いました。何ヵ所かに依頼しておりまして、どこも大体の納期はそれぐらいですな。勿論、規模の小さい船でしたら、それよりは早くなるでしょう。小さな商売でしたら、中型船までで、十分対応出来ます。まず中古船を購入して、順番待ちされては如何ですかな?」
眉を寄せて考え込むリベリオだったが、右手の拳で左の掌を力強く殴り付けた。
「よし! 最初は新造艦がよかったが仕方無いな。まずはそこから始めるとしよう」
「船員はよろしければ、こちらで紹介しましょうか? 育成もベッカーに任せて下されば、短期間で一人前に仕上げて見せます」
マイヤールはとんでもない事を言い出したが、ベッカーは既に達観しており、無言で一礼した。
「それは頼もしい限りだ。船長宜しくお願いする」
リベリオはベッカーの背中を叩き、肩を抱いた。ベッカーは作り笑いを浮かべ、その場をやり過した。アルスラーダはベッカーに同情したが、肩を竦めただけで口出しは控えた。
その後、船選びのこつをベッカーから学んだ三人は、マイヤールの食事の誘いを断り宿に戻った。
「話を進めて大丈夫だったのか? まだ同盟の話は結論出していないんだろう?」
リベリオは部屋に入るなり、アールファレムに確認した。
「交易拡大に関しては、認めるさ。我が国にも十分利益があるからな。問題は海軍だ。前にも言ったが簡単には認められない。シャリウスに宣戦布告するようなものだからな」
「ふむ。まぁ段階的に関係を深めていけばいいか」
リベリオはあっさりと引き下がった。
「最初から、軍に関しては通ると思っていなかったんじゃないか」
アールファレムは笑いながら、寝台に寝転んだ。
「アルファ様、だらしないですよ」
「リベリオどうなんだ?」
アールファレムはアルスラーダを無視して、リベリオに重ねて尋ねた。
「今のところはな。ジェラルド王が存命中は無理だと思っているさ」
「今日見たようにタヘノス港は広い。だがそれでも軍艦を駐留させるとなると、手狭になる。その場合、我が軍も当然配備する必要がある。ましてミュスタン商船も受け入れるとなると、やはり拡張工事は必須だ。まずは工事を先行させる」
つまりいつでも受け入れる事が出来るように態勢を整えておくという事だ。
「一筆書いてもらいたい。口約束では安心出来ないな」
アルスラーダは眉を吊り上げ、不満足に鼻を鳴らした。アールファレムは手でアルスラーダを宥めた。
「当然だな。書面は残そう。だが期限は設けないからな。そして商売は当面はマイヤール商会を通してくれ。あの男はやり手だが、自分だけの儲けに走るような真似はしない。デムーロは信用出来るのか? あまりいい噂は聞かないな」
デムーロ商会がかなり強引な商売を行うという噂は、アールファレムの耳にも届いていた。
「心配ない。昨年、代替わりしてファビオが当主になってからは、体制を一新させた。奴は信用出来る男だ。俺が保証する」
「リベリオがそこまで言うなら信用しよう。だが一度会ってみたいな。デルレイアに来るなら顔を出すように伝えてくれ」
「喜んで行くだろうな。お前の容姿はミュスタンでも評判だからな」
「男じゃないのか?」
「彼奴は綺麗だったら性別は気にしないさ」
アルスラーダは気色ばんで、リベリオに詰め寄った。
「そんな男をアルファ様に会わせられるか!」
「皇帝に手出しする訳ないだろう。性癖以外は問題ない男だ」
リベリオは太鼓判を押したが、安心出来る筈もなかった。
「面白そうだな。構わんさ」
アールファレムは寝台の上で、ごろごろ転がりながら返事した。
「少しは警戒心を持って下さい」
アルスラーダは頭を押さえながら、アールファレムを諭したが、当人はからからと笑うだけだった。
「そろそろ飯にしよう。魚が俺を待っている」
リベリオは返事も待たずに、部屋を出ていった。
「アルファ様。私は反対です」
アルスラーダは寝台に腰掛けると、アールファレムの頬っぺたをつついた。アールファレムはくすぐったそうに、アルスラーダの手を掴んだ。
「アルスは心配性だな。大丈夫だ。守ってくれるんだろう」
アールファレムはアルスラーダの手の甲に口付けた。
「この手で私を守れ。アルス命令だ」
「御意に従います」
アルスラーダは屈んで、頬に手を添えながら、唇を重ねた。
アールファレムは目を瞑り、アルスラーダを受け入れた。二人は暫く密な時間を過ごした。
「遅いな。何をしていたんだ」
リベリオは待ちくたびれて、先に飲み始めていた。
「すまんな。アルスがぐずったんだ」
上機嫌なアルスラーダは何を言われても、まったく気にならなかった。
「申し訳ありませんでした」
殊勝に謝り、運ばれてきた魚介料理を嬉しそうに、取り分けた。
「フィリップ様、沢山食べて下さいね」
「こらっ! 一番大きい貝を取るな。狙っていたんだぞ」
「意地汚いなぁ。また頼めばいいだろうに。ほら、若旦那」
アールファレムは、リベリオの皿にその貝をのせた。
「仕方無い。名残惜しいが、この海老は譲ろう」
およそ王の食事風景とは思えない光景が、その後も繰り広げられた。
「旨かったな。いつもは新鮮な魚は川魚しか食べられないからな」
「まったくだ。デルレイアでも、中々食べられないからな」
「食い溜めできたらいいんだが、そういう訳にはいかんな」
スープに、サラダ、塩焼き、パスタに煮込みと、片っ端から頼んだ三人は腹がはち切れそうになるほど、魚介料理を堪能した。
「釣りをしてみたいな」
アールファレムは港で釣り人がいたのを思い出した。
「時間が余ればいいがな。明日はどうする?」
「領主館に行ってみようと思う」
アールファレムはゆっくりと食後のお茶を楽しみながら返事した。他の二人はまだ酒を飲んでいた。
「従兄弟殿とご対面か。仲はいいのか?」
「ふむ」
アールファレムは軽く首を傾げる仕草をした。リベリオは思わずうなじに目をやってしまい、慌てて酒をがぶ飲みした。アルスラーダは机の下で、リベリオの足を蹴飛ばした。顔をしかめてアルスラーダを睨みつけたが、逆に睨み返された。
「あまり会ってないからな。普通じゃないかな」
二人のじゃれあいの原因を作ったのにも気付かず、呑気にお茶をすするアールファレムだった。
食事を終え、部屋に引き上げようとしたが、アルスラーダは何者かに腕を引かれた。リベリオとアールファレムは前を歩いて気付かず、二階に上がっていった。
アルスラーダが部屋に戻ったのは、大分たってからだった。
「アルス、遅かったな。何かあったのか?」
一人で風呂に行くのは禁止されていたので、待ちくたびれたアールファレムは、リベリオの肩を揉まされていた。
「先程釣りがしたいと仰っておられたので、宿の者に聞いていたんです。どうやら朝の方が釣れるみたいですよ。釣った魚も宿に持ち帰れば調理してくれるそうです。ルドルフ様の元へは昼から訪ねてはいかがでしょうか?」
アルスラーダはアールファレムと交代して、リベリオの肩を揉んだ。
「いたたっ! 馬鹿力で揉むな!」
「アルファ様に何をさせているんだ!」
アルスラーダは最後に一段と力を入れると、肩から手を離した。
「若旦那の肩は固くてな。筋肉が凄すぎる」
リベリオは肩をさすりながらも、見せびらかした。
「お前とは鍛え方が違うさ。明日はもうひとつ俺の隠れた才能を披露しよう。お前らの分まで釣り上げてやるからな」
「何を! 私に勝てる筈がないだろう」
「どうせ自分で餌もつけられないだろう。ミミズだぞ」
「その様な事は私がする」
アルスラーダが、アールファレムにミミズなど触らせる筈がなかった。
「うー、アルス頼む。無理だ」
アールファレムは血なまぐさいのには慣れているのだが、虫には触りたくなかった。
リベリオも、アールファレムの限界は理解していた。
「ふっふっふ! 今度の旅では、本当にいいところがないな。俺様が助けてやろう」
反論する事も出来ず、いじけるアールファレムを慰めながら、アルスラーダは予定が変更された事に安堵していた。




