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怪 談   作者: 冬月 真人
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【家内安全】


「っつーか、このお守り何?」

和宏の車のフロントガラスで揺れるお守りを透が指差す。

正確にはバックミラーを通して支柱に掛けてあるお守り。

「お守り……だけど」

(何か?)と付け加えたそうな顔をして和宏は透を見た。

「だ・か・ら、どうして車に『家内安全』なんだ?」

少しイラついた。

「どうしてって、どうして?」

「普通、車なら交通安全だろ」

「そうなのか?」

「世間はな」

和宏の天然というか無知は今日に始まったことでは無い。

透は諦めることにした。

「信じる者はってことで」

「イワシの頭もってヤツだな」

和宏の言葉に透も違う言い回しで返す。


最初の就職先、新卒の同期だった和宏はアホだが憎めない男だ。

お互いに転職した後もこうして会っている。

そんな和宏と暫く連絡が途絶えた時があった。

(まぁ、縁なんてものはこうやって切れていくものだ)

透がそう思い始めた頃だった、和宏から連絡がきたのは。

「オマエ、何やってたんだよ!」

携帯越しに怒鳴る透に和宏はいつものように手応えの無い反応で意外な近況を話し始めた。

『実はさ、事故っちまって廃車よ。で、俺も何日かだけど入院してた』


和宏の運転は非常に下手だった。

下手にも関わらず走り屋とかに憧れていて、まぁ憧れるのは自由なんだが実践する無謀なヤツだった。

そして今回、見事にシャレにならない事故を起こしたという訳だった。

峠でガードレールをぶち破って転落……一歩手前で路外の木に引っ掛って止まったらしい。


『でよ、お袋が[もう車は買うな!]ってカンカンでさ、今は会社の軽トラで通勤してる』

「マジか」

『ま、仕方ないさ。暫くは連絡するのも忘れてヘコんでいたけどさ、慣れりゃこれでも不便は無いさ』

「命が助かって悟りの境地か?」

透は受話器越しに笑いかけた。

『まぁな。生きてるのが奇跡だったよ。そうそう!あの家内安全のお守りさ、俺を停めてくれた木の枝に引っ掛ってたんだぜ』

「リアルに信じる者は救われたってワケか」


退院した後に事故現場の木の枝からお守りを回収した和宏は、それを神社でお焚き上げしてもらったと話した。

あれから10数年経つが、和宏はいまだに軽トラに乗っている。

遠出はバスかJRだそうだ。




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