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怪 談   作者: 冬月 真人
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【魔のカーブ】


魔のカーブ。

全国いたる所にそういった名のカーブがある。

事故、特に重大事故が多発するカーブに警告の意味を込めて付けられるのだろう。

その付近には沢山の立て看板や手向けられた花束が見られたりする。


と或る国道に不思議な魔のカーブがある。

緩やかなカーブで、警告の立て看板も何もないカーブ。

実際、そこでの重大事故は記憶に無い。

そこから北へ15kmほど離れたカーブには『死亡事故発生現場』とか『魔のカーブ』とかの看板や、地元の子供達の安全標語や数体の地蔵と祠がある。

誰が見ても「ああ、ここは魔のカーブですね」と分かるカーブだ。

だが、そのカーブには何も無い。

そして知っている人はこの何も無い魔のカーブを『本当の魔のカーブ』と呼んでいる。


その晩は新月だった。

英雄は和恵の実家から自宅に向かっていた。

大人ふたりと子供ふたり。

昭和の時代。

この頃の大衆車はパワー不足でなかなか重たい。

まあ、月明かりの加護が無い夜道。

パワー不足で速度が出ない方が安全かもしれない。

間も無く本当の魔のカーブ。

何故そこが本当の魔のカーブと呼ばれているのか。

英雄達は知らない。

ただ、そう呼ばれていることしか知らなかった。

……今日まで。


車がカーブの頂点に差し掛かった。

ヘッドライトの明かりは路外を真っ直ぐに照らす。

その光に誘われるように蛾が飛び込んで来た。

車の巻き起こす空気の対流に巻き込まれるように、そのままフロントガラスに直撃した。

破裂するするように弾けた直後、真っ赤な液体が拡がる。

「うわっ、なんだ気持ち悪い!」

英雄はウォッシャー液とワイパーで血のように赤い体液を洗い流した。

ワイパーの届かない場所の汚れはそのままにするしかない。

それにしても気持ちの悪い蛾だった。

あんな経験は今までに無い。

たかだか虫の体液とは思えないほどの量。

まだ暫くは民家も少ない、街灯すら無い道を走らなくてはならないというのに薄気味悪い。

英雄はそんな嫌な空気を振り払うようにアクセルを踏んだ。

が、すぐに和恵にたしなめられて速度を落とす。

「お父さん、あれは何かの警告かもしれないからゆっくり行きましょう」

それが正解だったのかどうか。

1時間後、一家は無事に帰宅することが出来た。


そして翌朝。

あの気持ち悪い汚れを落とすために洗車をしようとした英雄は驚いて家族を呼んだ。

フロントガラスは多少の汚れはあっても赤い跡は無く、代わりにその場所には手の平の形によく似た曇りがついていた。



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