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怪 談   作者: 冬月 真人
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【迷い道】


駅の改札で手紙を貰った。

透を見掛けたこの時間に待っていたそうだ。

ここは通勤で使っているわけじゃなく、外回りの帰りに乗り換えで使う駅。

まぁ、根性というか執念というか…

手紙を渡してきたのは制服も眩しい高校生。

数年前まで高校生だったというのに今や学生時代が懐かしい。

そんな高校生からのラブレター。

大喜びすべきだろう。

それが詰め襟の男子でなければ……


当時はストーカーなんて言葉も無い時代。

その男子の姿を様々な場所で見掛けるようになった。

(絶対に家と職場を知られちゃいけない)

そう思った透はなんとかこうと細い路地に入り、適当に角を幾つか曲がって逃走を計った。

そうして見事に迷った。

何処をどう曲がっても何故か同じ場所に出る。

方向感覚には自信の有る方だった。

タクシーの運転手すら敬遠する世田谷迷路や目白の住宅街だって迷わない透が、今は徒歩で迷っていた。

(あり得ない)

焦っていた。

ポケベルの時代。

携帯はまだショルダータイプで一般には普及していない。

電話で助けを呼ぼうにも電話BOXも無い。

よくよく考えてみると電柱に住所表示のプレートも無い。

田舎から出て来た当初、電柱や角の建物に貼られている住所表示に(東京は親切な街だ)と感動したものだ。

田舎にはこんな気遣いは無い。

その東京の街にそれが見当たらない。

(そうだ、誰かに道を!)

思い付いた所で気付いた。

そう。

透は路地に入ってからは誰ともすれ違っていなかった。

寒気を覚えた。

(こんなことあるわけが無い)

否定してみた所でこれが現実だ。

夢を見ているわけでは無い。


透は落ち着く為に一度立ち止まると宙を仰いで。

それからゆっくりと深呼吸をした。

アスファルトに熱せられた空気が肺を蒸す。

不味い空気でも今は有難い。

徐々に平常心が戻って来た。


先ずはこの丁字路を見回す。

今来た通り、右、左。

なるほど、ここは飲み屋の横丁。

昼間は人が居ないのも頷ける。

あとはこの迷宮の謎解きだがどうにも解せない。

ここを右に行っても左に行ってもここに戻る。

これでチェシャ猫が居れば笑えるが、ノラ猫すら居ない。

「あ…」

肩を落としてうなだれた透は思わず声を上げた。

足元に僅かに伸びる影。

さっき迄は真下にあったが少し日が傾いたのだろう。

影に方向がついていた。

透は影の向きを見ながら歩き始めた。

伸びる方向が変わらないように歩く。

するとすぐに大きな通りに出た。

いつも見慣れたビルが今日は嬉しい。


(ヤバイなぁ、随分と時間を…営業日報どうしよう)

安心したのも束の間、リアルな不安が襲う。

とりあえずロスした時間を確認しようと時計を見て首を傾げた。

5分も経っていない。

電池切れかと思ってポケベルを出したが、液晶の時間は同じだった。


透は思わずさっきの路地を振り向いた。

そこにはさっきと変わらない路地を大勢の人が行き交う姿があった。





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