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次男登場。

母の本性を知り、自分自身地を押さえなくていいと分かってからは、非常に有意義な日常を送ることができるようになった。

この世界には27年間違う世界で暮らしてきた自分には理解できない事象があり、そしてその中で培われてきた歴史がある。その一つ一つを知っていくことができるというのは、今まで生きてきて感じたことがないくらい楽しかった。

また、それを知っていくことが苦にならないほど、この体のスペックは高い。一度覚えたことは忘れることはないし、まだしっかり習ったことはないにしても、魔力の量は周りにいる誰よりも高い気がする。


10歳になった俺は、それはそれは美しく健やかに成長していた。まだ少女ではあるものの、親譲りの美貌は人を魅了してやまない。



「クリスティーナ!」

俺が自室で本を読みふけっていると、突然大きな声で名を呼ばれる。

ふと振り返ってみると、2年ぶりに見かける兄の姿が目に入った。目には涙を浮かべ、手をわなわなと震わせている。


「ああ、兄様。おかえりなさい。今良いところなので、話しかけないでください。」


「クリス!?久しぶりの再会を喜んではくれないのか!?」


「今はこちらのほうが興味があるので。…とはいっても、本当にお久しぶりですね。どちらに行かれていたのですか?」



兄とは裏腹に、淡泊極まりない反応を返す。これが昔からの私たちの関係だ。

私には二人の兄がいる。長男はカイル、二男はアルバートという。そして今俺の目の前にいるのが二男のアルバートである。この兄弟二人の俺に対する溺愛ぶりは伝えるのも恐ろしいくらいなのだが、年が離れているため仕方がないとも最近思う。ちなみに、長男は23、二男は19だ。

どちらの兄もすでに政務に関わっており、長男は内政、二男は外交を担当している。そのため、長男とは会う機会が多いのだが、二男はほとんど国に身を置いていないため会うことがない。


「そうだな、あまりにも多くの国に足を運んだから良く覚えてないな!」


「それでは話しかけないでください。」


一瞬で興味を失った俺に対して驚愕の表情を見せ、この世の終わりのように詰め寄ってきた。


「嘘です嘘です嘘です!

一番の大国で言うとアジュール国、他にもダコタやケイズ、ガナーシャ国に行ってきた。どの国も今は安定しているから、良い貿易交渉ができたぞ!」


「…では、詳しい話を後でお聞かせください。」

微笑を浮かべ兄に言うと、咲き誇った薔薇のような笑顔を俺に向けてくる。この兄も親譲りの美貌を持ち合わせているため、普通の令嬢がこの顔を見たらいちころであろう。元男の俺にとっては何の効果も生み出さないが。

兄はとてつもなくうざったい時があるが、とてつもなく仕事ができる人でもある。その人が持ってくる話は興味深いものばかりで、そのような兄は困ったことに尊敬できなくもないのである。


「それにしてもクリスティーナは見るたびに美しくなっていくな!もうすでに多くの婚姻の申し込みが来ているそうではないか。

俺の可愛いクリスはそう簡単に渡さんぞ!!」


「誰が兄様のものだ。しかし私自身そんなものに興味はないゆえ心配なさらずとも良いかと。」


兄が俺の顔をじっと見つめてくる。そして、深いため息をついた。

人の顔を見てその態度とは、どんな教育を受けてきたのやら。と考えるが、そういえば元は同じだった。いかんせんあまり会わないものだから兄と言う認識が自分の中で甘い気がする。


「兄はお前がそのような性格に生まれてきてくれてうれしく思っている。聡明で自分の考えをしっかりと持ち、まさにユークリッドの血筋と言えよう。

だがな、私は心配もしている。お前は本や剣術や魔術にばかりに熱心で、女性としての興味関心があまりにもなさすぎる。それが悪いとは言わないとしても、それは必ず後から必要となってくるものだ。それを忘れてはいけない。」


真面目な表情で言われると、さすがの俺も何も言えなくなってしまう。

もちろん自分でも分かっている。女に生れた以上、他の女の子と同じようにフリフリのドレスを着て、レディとしての教養と社交界でのスキルを身につけていかなければならないということを。しかし、いかんせん元が俺なものだから、必然的にそれらの優先順位が下がってしまうのだ。


そもそも、俺が男に興味を持つようになるのだろうか。

ちなみに今は、同世代の男を見るとバカだな、幼稚だなという感情を抱き、女の子は守る対象として認識している。そして、兄様年代の人をみると、男としてかっこいいなという尊敬の念は抱くも、トキメキは一切と言っていいほどない。ちなみに、年上の女性に対してはトキメキ指数鰻登り。

男とあれこれ色恋沙汰を起こしている自分が全く想像できないのが事実であった。そのため、出会いを求める場でもある社交界が面倒で、デビューは小さい頃に果たしたものの、それから一度も参加したことがない。



あれこれ考え込んでしまった俺を見て、兄はふっと微笑んで俺の頭をポンポンと優しく叩いた。

「すまんな。クリスはまだ10歳だし、好きなことを好きなようにやればいい。そうすれば、きっとお前にとって最良の未来が開けるはずだ。

それに、兄が全力でお前を魔の手から守って見せるしな!!」


その後、兄は用事があるからまた後で、という言葉を残し、部屋を出て行った。

兄が出ていき一人になった部屋の中で、俺は女であることについて考えたが、結局頭が混乱してきたため不貞寝することにした。



この時の俺は、この後俺にどんな出会いが待っていて、男としても女としても迷う事態が今後襲ってくるなんて想像もしていなかった。






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