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月ノ光  作者: 藤井 周
7/9

7 遠雷

カズさん――。


客に抱かれている時、奇妙なことにハルは城戸の存在をより近く感じていた。

城戸の息遣い、汗の匂い、指の感触、すべてが城戸を思い起こされ、一瞬、城戸に抱かれているかのような錯覚を覚えた。


「ホントに感じてただろ、おまえ」

常連客のミナトが横に寝転がって言った。

「ミナトさんがイイから」

「そんなこと言って、オトコいるんじゃないの?」

こういう人種は勘が鋭い。

「ないですって」

ミナトがハルの下半身をまさぐる。

「くすぐったい」

ハルが身をよじって逃げようとすると、ふいに強い力で両手首を掴まれた。

週3でジムに通っているというだけあってミナトは体格がよく、腹筋が割れ、腕力も強い。

「離して。痛いってば」

「離さない」

ミナトが意地悪く笑った。

「俺にこんなことをさせるハルが悪いんだよ」

「誤解だって」

振りほどこうとしても、両手首は頑強なミナトに掴まれてほどけそうにない。いっそう強い力で締め上げてくる。

「他の男のこと考えてた、だろ?」

「ち、違う、って」

痛みで、ハルの目に涙がにじんだ。

「だったら動画とっていい? ウソじゃないならいいだろ?」

店の決まりで動画撮影は禁止事項のひとつだった。バレたら出禁だ。

「マズいですって。それだけは、ホントにやめて」

ハルが枕に顔を押し付けられながら懇願した。

「悪いのはハルだからな」

ミナトの声がして、意識が遠くなった。


スマホが鳴っている。

気がついたハルが電話に出ると店からで、予定時間の10分前連絡だった。

「延長入った?」

「いえ、すみません、すぐ出ます」

ミナトの姿は見当たらない。

とりあえず、急いで服を着てホテルをチェックアウトする。

ワゴン車に拾ってもらうと、

「ハル? どうしたの? 髪ぼさぼさじゃん」

後部座席でメロンパンを食べていた勇斗が驚いた声をあげた。

「客、常連なんだけど、機嫌が悪かったみたいで」

ハルがごまかした。

枕に強く圧しつけられて気を失っていたのだろう。ミナトはそれを知りながら放置したということになる。出禁ものだが、ハルは店には報告しなかった。

ミナトはもう来ない気がした。


「ゲンさん」

ハルが髪を直しながらドライバーに呼びかけた。

「俺、今日は早上がりで。店に連絡お願い」

ゲンさんというのは元会社員で、定年退職してからドライバーの仕事についた中年男だ。

「なんかされた?」

勇斗が訊いてきた。

「ちょっと疲れただけ。お先」

受け取った売り上げを財布に入れ、ハルはクルマを降りた。


まだ12時前の歌舞伎町は人で混雑している。

その人ごみの中をハルは漂うように歩いた。

どこというあてもなく。


夜がハルの生きる時間、生きる場所だった。

これまではそうして生きてきた。

そのはずだったのに、雑踏にまぎれ、ハルはひとり孤独を感じていた。


月が出ていた。

地上の明るさにまぎれて月の光は届かない。


――カズさん。

むしょうに城戸に会いたくなった。

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