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なんだか……焦げくさいですよ

 

 雪華がゆうのほうを見ると、彼は事態が理解できていないのか、しばらくのあいだ澄まし顔で佇んでいた。ゆっくり数呼吸ぶんくつろいだあとで、突然ギョッと目を剥いた。


「は、はあ!? 馬鹿な、俺の家が燃えているって!?」


「う、うん……」


 豆妹は噛みつかれると思ったのか、ビクビクしながら数歩下がる。


「おいおいくそがき、ほらを吹くんじゃない。俺の家が燃えるわけないだろうが」


 何を根拠に「俺の家が燃えるわけない」と主張できるのか謎であるが、おそらくこれは現実逃避しているだけだろう。言葉で否定していれば、現実もそのとおりになると信じたいのかもしれない。

 その証拠に威勢よく声を張り上げていても、熊の頬はわずかに引きつっていた。


「で、でも本当に燃えてて……」


 信じてもらえず、豆妹は眉尻を下げて口ごもる。


「うるせえ! 下らないことを言ってると、お前の小さな尻を叩くぞ!」


 口を開くたびに好感度が下がっていくどうしようもない男だが、雪華としては放置もできない。それで熊に声をかけた。


「――熊殿、確認のため帰宅されたほうがよろしいかと」


「必要ない!」


「ですがなんだか……焦げくさいですよ」


 そう――豆妹が団子屋に飛び込んで来たすぐあとくらいから、煙臭がし始めた。店の引き戸を開け放ってあるので、外気が流れ込んでくる。どこかで何かが燃えているのは間違いない。

 熊が顔色をサッと変え、よろけながらきびすを返した。彼は店から外に出たところで、数歩と進まず足を止めた。

 雪華と豆妹は視線を交わし、黙したまま熊に続いて外に出る。

 地主である熊の屋敷は山の上のほうにあるので、店の前から仰ぎ見るだけで状況が確認できた。

 確かに豆妹の言ったとおり、熊の屋敷から炎が立ち上がっている。風下であるこちらに煙が流れ込んできていた。


「嘘だろ――なんでだよ!」


 熊が震える声で叫び、駆け出す。

 雪華と豆妹はこの場に残り、走り去る熊の後ろ姿を見送った。

 同郷の仲間として駆けつけて手助けすべきなのかもしれないけれど、足が動かない。逆の立場なら熊はこちらが困っていても一切気にかけないだろうし、なんなら他人の不幸を面白がるかもしれない。不誠実な相手にこちらだけ誠意を尽くすのは難しい。

 だからといって「ざまあみろ」という気持ちにもなれなかった。



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