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【書籍化決定】後宮の縁切り女官  作者: 山田露子 ☆ヴェール小説4巻発売中!


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隠蔽なんて許されません

 

 黄《おう》賢妃《けんぴ》に付いてきた護衛は二名――うち一名の程汧《ていけん》は、小火《ぼや》騒ぎの確認に向かった。

 残ったのは、護衛一名と、お馬鹿な宦官の田《でん》丹《たん》、そして黄《おう》賢妃《けんぴ》、桃義《とうぎ》、豊紈《ほうかん》。

 その中に、魏祥《ぎしょう》の姿はなかった――。

 桃義《とうぎ》が続ける。


「私は確信しました――小火《ぼや》騒ぎは、魏祥《ぎしょう》の仕業《しわざ》だわ、と。外の人間にあらかじめ頼んでおいて騒ぎを起こし、寺院の警備を混乱させ、その隙に男を境内に引き入れて、暗がりで会っているに違いありません。私は黄《おう》賢妃《けんぴ》のそばに行き、『ほら、魏祥《ぎしょう》がやらかしましたよ。この騒ぎのどさくさに紛れて部屋を抜け出して、境内のどこかで男と密会しているはずです』と囁きました。黄《おう》賢妃《けんぴ》は青ざめた顔で『すぐに確認しなくては』と言い――そして私に命じたのです――『今残っている護衛の武官と、宦官の田《でん》丹《たん》殿、ふたりをこの場に引き留めておいて』と」


 引き留める? なぜ?

 雪華が眉根を寄せると、桃義《とうぎ》の顔つきが険しくなる。彼女が吠えるように説明を続けた。


「ここで黄《おう》賢妃《けんぴ》が散歩に出ると言えば、護衛の武官と宦官は一緒に付いて来ます。当然ですよね、それが仕事なんですから」


「彼らが一緒に付いて来るとまずいのかしら?」


 黄《おう》賢妃《けんぴ》がなぜそれを避けようとしたのかが分からない。


「まったく――黄《おう》賢妃《けんぴ》はどうかしています! 魏祥《ぎしょう》が男と密会しているのを見つけたら、それを内密に処理するつもりだったようです」


「内密に?」


「そう――魏祥《ぎしょう》の悪事を見たのが黄《おう》賢妃《けんぴ》だけなら、表向きは何もなかったことにできるでしょう? 本人に厳重注意するだけで、大事《おおごと》にしたくなかったようですわ。だけど武官や宦官に見られたら、そういうわけにはいかない」


「黄《おう》賢妃《けんぴ》はなぜそこまでして、魏祥《ぎしょう》さんをかばおうとしたのです?」


 この時点では魏祥《ぎしょう》が本当に男と会っていたかは不明だけれど、もしもそれが事実なら、大事になっても仕方がないと思うのだが……。

 桃義《とうぎ》の顔が怒りで歪んだ。


「魏祥《ぎしょう》をかばうというより、慶昭帝への気遣いでしょうね――黄《おう》賢妃《けんぴ》はもうすぐ後宮を出て行くので、とにかく綺麗に去りたいわけです。最後の最後で、自分の女官が寺院で男と会うため小火《ぼや》騒ぎを起こした――そんなみっともないことを慶昭帝に知られたくなかったのでしょう」


 なるほど……そういうことなら納得できる。

 けれどよく桃義《とうぎ》が言うことを聞いたな……彼女からしたら、大事になったほうが嬉しいはずだ。率先して魏祥《ぎしょう》を地獄に突き落としそうだけれど。


「桃義《とうぎ》さんは抗議しなかったのですか?」


「強く抗議しました」


 桃義《とうぎ》がぐっと奥歯を噛み、長方卓の上で拳を握った。

 少し前から、当初の可憐な印象は完全に消え失せている。まるで鬼女のごとしだ。


「隠蔽《いんぺい》なんて許されませんと私が言うと、黄《おう》賢妃《けんぴ》がぞっとするような冷たい声で私に言いました――『いいこと、あなたは武官と宦官をなんとかして足止めするのよ。失敗したら、私が出家する前に、あなたの今後の行き先を慶昭帝に頼んでおきます。あなたは冷宮《れいぐう》の管理人になるの。嫌だったら言うことを聞きなさい』――そんなふうに脅したのよ!」


「それはひどいですね」


 よりによって冷宮の管理人……そこは桃義《とうぎ》がもっとも嫌悪している場所だ。憎き敵の魏祥《ぎしょう》をそこへ送り込もうとしたくらいだ。『管理人』という扱いでも、充分に屈辱的だろう。


「黄《おう》賢妃《けんぴ》は人でなしです!」


 小火《ぼや》騒ぎで寺院中がばたばたしている空気の中で、とんでもない駆け引きが繰り広げられたようである。


「ですが桃義《とうぎ》さん」


 雪華は疑問を伝えた。


「魏祥《ぎしょう》さんが外の人間に頼んで小火《ぼや》騒ぎを起こした、とのことですが……旅先なのに、彼女にそんなことが可能だったのでしょうか?」


「あら、そんなの簡単ですわ」


 桃義《とうぎ》がこちらを鋭い目で睨みながら答えた。


「だって魏祥《ぎしょう》は沶竟《いけい》出身なのですから」



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