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【書籍化決定】後宮の縁切り女官  作者: 山田露子 ☆ヴェール小説4巻発売中!


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どうか雪華様が慶昭帝を説得してください

 

「そういえば」


 雪華はあることを思いついた。


「案内役の甜甜《テンテン》も、消えた女官の話はしていませんでした。なぜかしら?」


 甜甜《テンテン》は気さくな娘で、色々と教えてくれた。それなのに行方不明の女官、魏祥《ぎしょう》について一切触れなかったのは不自然である。

 雪華の疑問に、朱翠影が答えてくれた。


「おそらくですが、後宮にいる者たちは、魏祥《ぎしょう》が行方不明になっている件を知らされていないのだと思います」


「上の人が箝口令《かんこうれい》を敷いたのですか?」


「飛頭蛮《ひとうばん》の噂で、皆、ただでさえ不安になっていますからね。実際に女官がひとり消えたとなると、後宮全体にさらなる恐怖が広がってしまう。魏祥《ぎしょう》の不在については、体調不良で療養中とか、事情があって実家に帰っているとか、表向きはそれらしい理由がつけられているのかも」


 寺院にいた黄《おう》賢妃《けんぴ》、そして女官の豊紈《ほうかん》、桃義《とうぎ》らは事実を知っているけれど、「魏祥《ぎしょう》が消えたことは誰にも話すな」と上から指示されれば、その言いつけを守るだろう。この世界で口の軽さは命取りだ。

 豊紈《ほうかん》と桃義《とうぎ》が雪華に事実を話したのは、『救国の巫女』という、慶昭帝のお墨《すみ》つきがあったためか。



「豊紈《ほうかん》と桃義《とうぎ》は、ほかになんと言っていましたか?」


 朱翠影に尋ねられ、雪華は続きを語り始めた。


 * * *


 三者面談をしていると、華やかな桃義《とうぎ》の表情が段々と険しくなっていき、やがてその状態で固定した。

 黄《おう》賢妃《けんぴ》のいた寝所では澄まし顔をしてたけれど、たぶんこの険しい顔こそが、桃義《とうぎ》の本質なのだろう。

 彼女は腹の中に激しい怒りを抱えているようだ。しかし知り合ったばかりの雪華には、彼女の怒りが正当なものなのか、ただの自分勝手な八つ当たりなのか、判別がつかない。

 先ほど彼女は、消えた同僚の魏祥《ぎしょう》について「実家がお金持ち」と悔しそうに語っていた。一度悪口を言ったことで火が点いたらしく、強い口調で訴えてきた。


「雪華様――あなたは慶昭帝を味方につけていらっしゃいますね? だってあの偉大な慶昭帝が、『救国の巫女』と呼んでいるわけですもの、それって特別ってことだわ」


 だからなんだ、と雪華は瞳を細める。

 慶昭帝の心の内なんて、私には分からないし、分かった気になるつもりもない。

 こちらが反応しないことに焦《じ》れたのか、桃義《とうぎ》が前のめりになって訴える。


「どうか雪華様が慶昭帝を説得してください――魏祥《ぎしょう》が戻ったら、厳しく罰するように」


 皇帝を説得するという考え自体がとんでもなく不敬であるが、それはさておき。

 今の発言は非常に興味深い、と雪華は思った。


「あなたは魏祥《ぎしょう》さんが、もうすぐ戻るとお考えなのですね?」


「ええ、そのうちひょっこり、ね。そういう女です。魏祥《ぎしょう》は元々、素行《そこう》が悪かったのです。すぐに仕事をさぼるし、機会があれば規則を破ろうとしました。上にばれなければ、それは悪事ではない――魏祥《ぎしょう》はそういう卑怯な考えを持っているんです」


「桃義《とうぎ》さんは、彼女のそういうところが嫌いでしたか?」


「とても嫌いでした。だらしない人を見ていると苛々します。そんな人の実家がお金持ちなんて、ずるいわ。彼女は冷宮《れいぐう》行きになるべきでした」


 冷宮《れいぐう》行き、ね……ずいぶん過激なことを言う。

 後宮内には罪を犯した者が閉じ込められる、冷宮というおそろしい場所が存在するらしい。そこは不潔で暗く寒い、生き地獄のような場所なのだとか。

 時代によっては皇帝に飽きられた妃も送られたらしいが……慶昭帝はどうなのだろう。なんとなくだけれど、彼は縁切りの目的では冷宮を利用しない気がする。

 慶昭帝が善人だからという理由ではなく、そうする意味がないと合理的に考えそうだから。

 ただ、罪を犯した者に関しては、何か罰を与えないと治安が乱れるので、冷宮送りという制度を残しているのかもしれない。


 現に黄《おう》賢妃《けんぴ》は、冷宮送りにされていない。実家が凋落《ちょうらく》したことがきっかけで、不仲だった皇后に追い詰められ、後宮での居場所を失ったが、出家という形で話がまとまった。絶頂期を経ての出家は、本人にとっては充分に屈辱的だろうが、それでも冷宮暮らしに転落するよりだいぶましである。


 こういうところで慶昭帝の器《うつわ》が測《はか》れる気がした。

 おそらく彼はすべきことを躊躇《ためら》わない人で、そういう意味では苛烈である。必要だから黄《おう》賢妃《けんぴ》との関係を切り、後宮から排除するのを認めた。

 それは皇后をはじめとする上位妃たちが、黄《おう》賢妃《けんぴ》に憎悪を抱いていることを考慮したからだろう。これまでは黄《おう》賢妃《けんぴ》の実家に力があったから、本人が自由に振舞うことを許していたが、状況が変わった。このまま彼女を後宮に残すと、災いの種になりかねない。

 だから後宮からは追い払うが、出家よりもひどい状況には追い込まないという、最低限の温情は見せている。


 判断が冷静で適切――それはある意味では「熱がない」とも言える。

 やはり慶昭帝は妃たちに一切興味がないのかもしれない。

 だから黄《おう》賢妃《けんぴ》にも執着せず、彼女は後宮を追われることになった。



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