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後宮の縁切り女官 ~悪縁を断つ救国の巫女は皇弟に溺愛される~  作者: 山田露子 ☆ヴェール小説4巻発売中!


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――ぱちん!

 

 瞬きする間に収束が起こった。眼前を覆い尽くしていた糸がふっとかき消える。

 そして最後に一本だけが残った――残されたのは、黒い糸。

 黒い糸の端は朱翠影の腕にからみついている。彼の腕にまきついたそれは、垂れ下がり、さらに向こうへと伸びている。

 雪華はそれを視線で追った――もう一端は賊の腕にからみついていた。黒い糸が朱翠影と賊の両名を結んでいるのだ。

 敵は額に茶器を食らったものの、すぐに態勢を整えた。剣柄に手をかけ、今まさに抜剣しようとしている。

 ほとんど無意識だった――雪華は空いている左手を動かし、腰帯に挿したはさみを指で上に弾いた。

 勢いがつきすぎて鋏は中空に飛び出し、雪華の頭上を越えた。くるりくるりと回転し、弓なりに落ちて来る。


 ――朱翠影は雪華の額に触れた瞬間、自身の腕に黒い糸がからみついていることを認識した。

 突然現れたこの糸はなんだ?

 からみついた黒い糸は垂れ下がって伸び、どういう訳か賊の腕と繋がっている。禍々しい嫌な感じがする糸だった。

 慌てて雪華から自身の手を離す。ひと目見て黒い糸が『良くないもの』だと分かったので、ほかの人に接触しないほうがいいと思ったからだ。

 糸の存在を認識した途端、体が痺れて重くなった。金縛りに近い状態だ。

 黒い糸に気を取られていると、今度は中空に回転する鋏が現れた。鋏のほうは、どうやら雪華が上に放り投げたらしい。


「雪――」


 彼女のほうを流し見た朱翠影は背筋がぞくりとした。

 武人としての本能だろうか――彼女の動きに脅威を感じた。指先の挙動、視線の動かし方、すべてに一切の無駄がない。舞を踊っているように優雅でもあったし、獲物を仕留める鷹のように苛烈でもあった。

 宙を回転する鋏の持ち手に、雪華が華奢な指を挿し込む――正確で大胆な動きだ。


 捉えた――。

 複雑に回転する鋏の持ち手に人差し指を引っかけた雪華は、朱翠影の腕を眺めおろした。

 狙いは一点――彼にからみついた黒い糸だ、これを断つ。

 穴に挿し入れた人差し指を中心に、鋏が惰性でしゃんしゃんと回転を続ける。

 二回転後――刃先がちょうど下を向き、両端が良い具合に開く。

 雪華は器用に親指を引っかけて回転を止め、渾身の力で鋏を振り下ろした。

 刃先が空を切る音を聞きながら、脳裏に姐姐ジェジェが書いた字が浮かんだ。

『白い糸を切ると原因の相手に災返る、黒い糸を切る時は助けたい相手のために――……』

 おそらくこれをすることで、私は何かを失うだろう……直感的にそれが分かっていた。

 けれどやる。

 朱翠影の腕をこするように鋏が通過し、開いている刃先のあいだに黒い糸が入る。


 ――ぱちん!


 禍々しい黒い糸が断ち切られ、ふっとかき消えた。


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