この青は将来、あなたを助けることになる
雪華は冷めた顔つきで小さく息を吐き、衫の袖をたくし上げる。薄手の衫は袖口が広いので、肌が容易に露出された。
朱翠影は目の前の若い女性が雪のように白い腕をためらいなく肘上までさらしたので、眩暈を覚えた。
雪華は彼が身じろぎしたのを見て、『刺青』を見たせいねと解釈した。
「私は赤子の時捨てられ、ここ烏解で団子屋を営む夫妻に拾われました。私を拾ったのが向燕珠の両親です。夫妻は私がまだ小さい頃に亡くなり、以降は姐姐――向燕珠が私を育ててくれました。ですから互いに血の繋がりはありません。そしてこれを見ていただければ分かるとおり――」
雪華は自身の左腕をそっと指で撫でた。肘下あたりに細く青い線が描かれている。真っ直ぐに引かれたそれは腕をくるりと一周し、輪状になっていた。それがふたつ並び、二輪が描かれている。
朱翠影が呟きを漏らした。
「二輪の刺青――それは滅亡した巫竹族の象徴だな」
「ええ」
雪華はまくり上げていた衫を戻し、椅子に座り直した。
「捨てられた赤子の時に、この刺青はすでに入っていたそうです。ですから私の出自は巫竹族となります――つまり後宮入りの条件『十三歳から十八歳までの中陽族』には当てはまらない」
当てはまるのは年齢のみ。滅亡した異民族の血を引く雪華は中陽族ではないので、後宮の妃にはなりえない。選外だ。
とはいえ……地主である熊家のしたことには問題がある。
熊家が朝廷に提出した名簿の中で、姐姐――向燕珠について『家族なし、ひとり暮らし』と記載したのは非常にまずい。
嘘はいけない――『血の繋がりはないが、十六歳の義妹と同居中』と書くべきだった。
「地主の熊家は君の出自が巫竹族であることを知っていた?」
だからあえて記載を省いたのか? という点を確認され、雪華は答えた。
「いいえ、熊家は知らなかったはずです」
なぜなら雪華は亡くなった養父母、そして姐姐から「家族以外に刺青を見せるな」と言い聞かされて育ったからだ。過去に一度「どうして?」と理由を問うたことがあり、その時返されたのはたったひとことだった――「どうしても」――ただそれだけ。
……巫竹族の血を引いているのは、いけないことなの?
一時期、自分の腕に刻まれた二輪の青が汚らわしいものに思えて、たまらなく嫌だったことがある。
けれどある日、姐姐に言われた――「この青は将来、あなたを助けることになる。特別なお守りだと思いなさい」
姐姐が物思う様子で華奢な指を這わせ、雪華の腕に刻まれた二輪の青を撫で――……その瞬間からこの印は『巫竹の青』ではなく『姐姐が願をかけてくれたお守り』になった。
そして今――雪華は家族ではない相手――都から来た朱翠影に刺青を見せた。
かつて姐姐が言っていた「この青は将来、あなたを助けることになる」――その日がついに来たからだ。朱翠影には見せる必要があった。
そうしなければ、雪華は後宮に入れられ、妃の末端に加えられる。




