ところが、ですね……『五名』で正しいのです
雪華は朝の出来事を思い出し、点と点が繋がった心地だった。
軽薄男の熊郎獲め……やりやがったな。
おそらく今の自分は腹を空かせた狼のように獰猛な顔つきになっているはずだ――どうしようもなく熊の馬鹿に腹が立っていた。
雪華が怒ったように朱翠影を見返したので、彼が目を瞠る。涼しげな瞳に驚きの感情が浮かんだ。
雪華はゆっくりと話し始めた。
「朱殿――まず姉の向燕珠は『家族なし、ひとり暮らし』ではありません。妹の私とずっとふたり暮らしをしていました」
朱翠影が幼い豆妹のほうに視線を移す。
「――事実か?」
彼の立場からすると、裏取りは必要だろう。その点、豆妹は最適な確認相手だ――隣家に住んでいるから、こちらの事情に通じている。
豆妹は目を丸くし、朱翠影と雪華の顔を交互に見た。それを二往復ばかり繰り返してから、観念した様子で椅子に座り直して口を開く。
「はい、本当です」
「彼女――向雪華はずっとこの家に住んでいたのか? 最近同居しだしたわけではなく」
「ずっと住んでいました。ええと……でも私は七歳なので、その前は知らないけれど」
豆妹の実直な答えを聞き、朱翠影も嘘は言っていないと悟っただろう。
それに朱翠影は豆妹が雪華に懐いているのを実際に見ている。雪華がよそ者で最近やって来て居ついたのだとしたら、家族のようなこの空気は出ない。
「そうなると」朱翠影が難しい顔つきになる。「別の問題が出てくるな」
あなたはそう考えるでしょうね……雪華は瞳を細めた。ただ、そうはならない……雪華にはそれが分かっている。
「君はいくつだ?」
問われ、雪華は正直に答えた。
「十六です」
「では地主の熊家から提出された名簿には、不備があったわけだ」
朱翠影がはっきりと眉根を寄せた。彼が不快に感じていることが、向かいにいる雪華にも伝わった。
「烏解に住む十三歳から十八歳までの中陽族の娘――該当者は五名と書かれていた。そして未婚者は一名だと。しかし名簿の中に君の名前はなかった。本来、該当者は六名なのだな」
ところが、ですね……『五名』で正しいのです。




