姐姐は遠出する感じだった?
遠くに見える火の手はなかなか治まる気配がない。
団子屋の店先に佇んでいると、風向きにより時折、いぶくささが強まったり弱まったりする。
ぼんやり火事を眺めていた小さな豆妹が、不意に何かを思い出した様子で、こちらを仰ぎ見てきた。
「――そういえば姐姐は帰って来た?」
隣家同士親しくしているため、豆妹も燕珠のことを「姐姐」と呼んで実の姉のように慕っている。
そして雪華のことは二番目の姉――「二姐」と呼ぶのだ。
姐姐は帰って来たかと尋ねられた雪華は、豆妹の小作りな顔をまじまじと見おろした。
火事の騒ぎでも姐姐が顔を見せないので、「もしかして今店にいないの?」と不思議がられるなら分かる。けれど先の問いは、そういう訊き方ではなかった。
「豆妹は姐姐が出かけたことをなぜ知っているの?」
「それは朝まだ暗いうちに、姐姐がうちに来たから」
「あなたの家に?」
驚いた……姐姐は同居している私を起こさず出かけたのに、ひと手間かけて隣家を訪ねたの?
豆妹が懸命に説明を続ける。
「外から戸が叩かれて、私が出たの。家人は出かけたあとで、家には私ひとりしかいなかった。戸を開くと姐姐が立っていた」
「あら、だけど奶奶は? いつも一緒でしょ?」
豆妹の両親は仕事で不在だったとしても、同居している祖母が一緒にいたはずだが……?
「奶奶はいない。隣村に住む姑母が子供を産んだから、昨日の夜手伝いに出かけて、まだ戻ってない」
豆妹から見て叔母にあたる人が出産したばかりなのか。
「そうだったの……」雪華は考えを巡らせてから、豆妹に質問した。「訪ねて来た姐姐はどんな感じだった? 奶奶ではなく、あなたが応対に出て驚いていた?」
「ううん」豆妹が首を横に振る。「もともと私に用があったみたい。奶奶が家にいて戸を開けたのだとしても、姐姐は私を呼び出したと思う。『豆妹にしか頼めないことなの』と言ってたから」
「姐姐は遠出する感じだった?」
「そうだね、よそいきの格好をしていたし、大きな荷物も持ってた」
「元気そうだった?」
「うん……でもなんか……いつもと違った」
「どんなふうに?」
「顔が少し強張っていた」
幼い豆妹が違和感を覚えたくらいだから、姐姐はかなり切羽詰まっていたのかもしれない。




