団子屋の娘、なぜか出世する
その鋏は土より生まれ、水を通り、現世に現れた。
名を、水月剪。
目に見えぬ因果を断ち、理を違えるものなり。
鋏を振るいし者は、等しくその報いを受ける。
* * *
大銅鑼を叩く音が宮城全体に響き渡った。
ハッとして気持ちを引き締める。
十六歳の雪華は、どういう訳か今、国の中心である広安城にいた。
宮殿の玉座には杜陽国を統べる若き皇帝――朱喜皓が鎮座し、十一名の臣下を見おろしている。
礼をとる臣下たちの一番前にいるのが、辺鄙な山奥から都に出て来たばかりの雪華なのだった。
ひと月前まで「団子屋の娘」と呼ばれていた自分が、一体なぜこんなことに――……。
慶昭帝が気まぐれに唇の端を上げる。皇帝は明らかにこの状況を楽しんでいた。
「烏解出身の団子屋の娘、向雪華――そなたの功績を評価し、部下十名を与える。それに伴い、そなたの外朝での役職は『書令司』とする」
役職……やだ、嘘でしょう?
頭を垂れ慶昭帝の話に耳を傾けていた雪華は、背筋が凍る思いをした。
こんな話、きっと誰も信じないわ……山村育ちの団子屋の娘が、突然部下十名を束ねる官吏になるなんて!
雪華は自分の右斜め後ろにいる、端正な青年の存在を強く意識した――先に賜った部下十名の中には高貴な『彼』も含まれているのだ。
ああ、なんてこと……眩暈がする。




