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イシュト大陸物語 ~終着の地~  作者: 明星
聖王都への旅路
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二つ名の段

ギルの勢いに任せた初撃を、リザードマンは剣で受け止めた。

その威力で剣が少し欠ける。

それが気に入らなかったのだろうか、リザードマンはそれ以降ギルの攻撃を受けることはせずに、受け流すようになった。

反撃はしてこない。

まるで使い慣れていない剣の感触を確かめているかのように、ギルの攻撃を受け流し続けている。

そう、受け流し続けているのだ。それがギルには悔しくてたまらなかった。

どんなに鋭く斧槍を振るっても、どんなに力強く斧槍を振り下ろしても、リザードマンはことごとくそれを受け流してしまう。

さも見えている、とでも言うかのように、その動きには余裕すら見て取れた。

リザードマンの表情は変わらない。

爬虫類特有の、のっぺりとした顔でギルを見据えている。

と、ロザーナのいる方向からゴブリンの叫び声が上がった。

それは暗闇の中でけたたましく響き、明らかに異常な声だった。

その声に、ギルは思わず反応してしまった。

戦いの最中にありながら、つい声のする方を見てしまったのだ。

(しまった!)

直後、ギルは自分の不用意さに歯噛みしながら慌ててリザードマンへ向き直る。

すると、驚いたことにリザードマンもゴブリンのいる方向へと目を向けていた。

そして「やれやれ」とでも言うかのように首を左右に振ると少し表情を歪ませたのだった。

(苦笑いしている?)

そうとしか見えなかった。

のっぺりとしたトカゲ顔が、まるでゴブリンに呆れて苦笑いしているかのように歪んでいるのだ。

(そんな、まさかな)

魔物の出自は理解している。それは黒い竜の夢の残滓。

ならば一体黒い竜はどんな夢を見て、このリザードマンを生み出したというのだろうか。

(いや、今考えるようなことじゃない、な)

どこか人間臭いリザードマンと改めて対峙し、ギルは短く息を吐き出すと、再び思い切り地面を蹴って飛び出したのだった。


ゴブリンは壊れてしまった兜に対する苛立ち全てをロザーナにぶつけてきた。

(そんなの八つ当たりなのに)

そんなゴブリンの振るう拳を避けながら、ロザーナは困惑していた。

集中した意識下では相手の動きが遅く視える。

しかし、それにしてもこのゴブリンの動きは、他の魔物や人間と比べると随分と早いからだ。

だが、今のところ対応はできている。

ゴブリンの初撃を避けて殴り返した。

しかしこれは躱された。

相手の反撃を再び避けて、蹴りをいれる。

しかし、これもまた躱された。

避けて、躱され、避けて、また躱される。

(これじゃあ、きりがないよ)

それに、とロザーナには不安があった。

このままでは呼吸が続きそうにないのだ。

意識を集中して接近戦を行う場合には、どうしても呼吸が止まってしまう。

要所要所で浅く息をするのだが、こうも立て続けに攻撃を繰り出されては落ち着いて呼吸をする余裕がない。

どこかで一旦距離をとって思い切り息を吸いたい。

ロザーナの心の中に、これまでになかった戦いの中での焦りが生まれていたのだった。 


リザードマンはようやく剣が馴染んできたのか、少しずつ反撃するようになってきた。

そしてその軌道は少し特殊なものであった。

一般的な剣の軌道と違い、少し波打つかのような、そんな読みにくい軌道をしているのだ。

ここに来る、と思った場所から少し外れたところに剣が当たる。

今のところ頭を中心に盾で守りながら、体は外套によって守られ、無傷で戦えてはいる。

しかしこのまま戦いが長引き、この武具の性能に相手が気づけば、武具のない場所を狙って攻撃を繰り出し始めることだろう。

そうなった場合、どこまで反応できるのか、ギルにはあまり自信がなかった。

(少し前までは、それなりに戦えている自信もあったんだがな)

だがこのところ多いのだ。所謂辛勝、とでもいうのだろうか。

勝った、というよりも勝てたと言ったほうがいいような戦いばかり続いている。

(どうにかして)

勝たなければ、とギルは相変わらず簡単に捌かれてしまう一撃を繰り返しながら、己の戦い方について逡巡してしまうのであった。


ゴブリンの体は小さい。

自分の半分程度しかない。

その為攻撃を仕掛ける場所がどうしても限られてしまう。

通常なら下段蹴りになるところでも、相手がゴブリンではせいぜい中段の蹴りになってしまう。

拳による攻撃などは全て相手の上段に向かって放つことしかできない。

そうなれば相手は自身の上半身にのみ意識を集中しておけばいい。

きっと、だからなのだ。

先程から自分の攻撃がことごとく躱されてしまうのは。

そんな風にロザーナが思い至ってしまったのは、慣れない焦りからくるものであった。

その焦りから導き出した結論、それは「ならば下段に攻撃を仕掛ければ当たるのではないか」というものだった。

だが実際それは「当たって欲しい」というロザーナの願望でしかなかった。

ゴブリンの攻撃を避けた後、思い切り繰り出された地面すれすれの下段への後ろ回し蹴りは、ゴブリンにとって特に意外なものではなかった。

ゴブリンは何の躊躇いもなく、宙へ跳んで避けてしまったのだ。

(あっ)と思う時間しかなかった。

跳んだゴブリンによって繰り出された横蹴りを、ロザーナは正面から食らい、派手に後ろに吹き飛ばされてしまったのだった。

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