秘密の段
「魔女の仲間、ですか?」
討伐隊員は不思議そうに首を捻った。
「ああ、あれは、間違いねぇ」
魔女と同じ髪の色、見慣れない武具、そして黒い血。
あいつらは魔女の仲間なのだ、と男は心配そうに周りを見渡しながら言う。
「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ」
ここは裏通りですから、と討伐隊員は男を宥めたが、男が落ち着きを取り戻す様子はない。
走り去ろうとする男を呼び止めた討伐隊員は、とりあえず、と裏通りへ入ることを勧めてきた。
こんな大通りを走っていては目立って仕方がないと言われ、男は討伐隊員の提案をすんなりと受け入れた。
焦っていたのだろう。
慌てていたのだろう。
多少のことがあっても冷静な判断ができる人間だ、自分のことをそう思っていた。
だがいざその時になってみれば、情けないことに何も考えられずあんなに目立つ場所を走っていた。
そんな自分自身に失望しつつも、男は先程鍛冶屋で見たことを討伐隊員に伝えたのだ。
だが理解しくれているのかいないのか、話を聞いても尚、討伐隊員はどこか呑気に構えているのだった。
「確かにですね、魔女の話は随分前にこの街にも伝わってきましたよ」
しかしそれ以降魔女に関する事件など一度も起きたことはない、と討伐隊員は言う。
「知らされたところによりますと、カンザイコ、でしたか?それがどこなのかは分かりませんが、魔女はそこにいるということですし」
そんなに心配することはないと思いますよ、と討伐隊員は顎を撫でている。
「じゃあ俺が見た、あれはなんだっていうんだ」
討伐隊員の態度に男は少し苛立ってしまった。
「思えば初めから怪しかったんだ。ちょっと魔女の話を振ったら警戒しやがったし」
鍛冶屋での青年の顔ははっきりと焦っていた。
「なにか後ろめたいことがなきゃあんな顔しねぇって」
男が熱弁を振るうのを見て、討伐隊員は足を止めて何かを考え始めた。
「仕方がないですね。では一緒に討伐隊へと向かいましょう」
そう言ってまた、歩き出す。
「もしも本当に魔女の仲間だとしたら、僕とあなたの2人でどうにかできるとは思えません」
討伐隊へ向かい、そこで隊員を集めて鍛冶屋へ戻る。
それが討伐隊員の提案だった。
「ああ、じゃあ急ごうぜ」
男にとって、一刻も早く安全を確保できるのなら方法は何でもよかった。
安全を確保したかったのだから、当然男は討伐隊員達と一緒に鍛冶屋に戻るつもりはない。
預けてある武器は問題が解決したあとに取りに行けばいいのだ。
遅くはなってしまうが、事情を説明すれば文句を言われることもないだろう。
今は命を守るために、少しでも早く討伐隊に避難しなければならないのだ。
2人は大通りを避け、そのまま裏通りを歩いた。
時間のせいなのか、それとも場所のせいなのか、人通りはとても少ない。
大通りを歩くのがいい方法だとは思わないが、裏通りを進むにつれ徐々に人気がなくなってきていることに、男は不安を隠せなくなってきた。
「なぁ、この道で合ってるのかい?全然討伐隊に着かねぇじゃねぇか」
道は狭く、横を流れる小川はゴミで詰まり異臭を放っている。
討伐隊のような場所がこんなところにあるのか、そんな疑問を口に出さずにはいられなかった。
「安心してください。あそこです」
討伐隊員が指差す先、それは左に曲がった路地の先。
「あそこにある階段を上がれば、討伐隊の裏口に着けますよ」
討伐隊員の示す場所から斜め上を見上げると、確かにそこには討伐隊と思われる大きな建物があった。
なるほど、と男は思わず安堵の息を吐いた。
大通りを進んでいれば、討伐隊の正面に辿り着いたのだろう。
今はその大通りに並行する裏通りを進み、目立つことなく討伐隊に辿り着けたというわけだ。
「それなら、早く行こうぜ」
とはいえやはり心は落ち着かない。
あの赤い髪をした青年がどこまで迫ってきているのか分からないからだ。
自然と男の足は早くなり、討伐隊員を追い抜いて我先にと路地の角を曲がった。
「どうされました?」
討伐隊員も遅れて路地を曲がった時、男は呆然と立ち尽くしていた。
「どうした、じゃねぇよ」
なんだここは、と男は声を荒げる。
「階段なんてねえじゃねぇか!」
そう叫びながら男は討伐隊員へと振り返った。
路地は完全に行き止まりで、その狭い道幅に立ち塞がる討伐隊員によって、男は袋小路に追い詰められたような状態になっている。
「道を間違えた、ってわけじゃなさそうだな」
討伐隊員の表情のない顔を見て、男はようやく自分が嵌められたのだと気がついたのだった。




