第2話
ある程度の大きさの街には、必ずと言っていいほど討伐隊というものが存在している。
討伐隊、という名前ではあるが、その仕事内容は多岐にわたる。
その前身は、まだこの大陸がドゥムジによって統一されていない頃、自国の防衛や他国への侵略を役割とする、いわゆる軍隊と呼ばれる組織であった。
その後大陸が統一され、ドゥムジ神聖国となってからは人と人とが大規模で争うことがなくなり、代わりに人々の生活を脅かす存在として現れ始めたのが、魔物であった。
軍隊はその役割を魔物や賊といった、他者へ被害を与える者たちの討伐へと移していった。
だが大陸中に存在する大規模な討伐隊を維持することはドゥムジ神聖国にとって大きな負担となってしまった。
そのため討伐隊は討伐のみならず、報酬を得るために徐々に様々な仕事を請け負うようになっていったのだった。
その討伐隊の建物は軍隊であった頃のものがそのまま使用されており、中々の広さと様々な建物で構成されている。
ギル達がようやく討伐隊まで来たとき、ギルもロザーナも、そしてマシューも、それぞれがそれぞれの理由で疲れ切っていた。
ギルにとって、1人で旅をしていた頃はいろいろな意味で楽だった。だが今また1人旅に戻れば、きっとそこに寂しさを感じてしまうだろう。
それは誰かと旅をすることの楽しさを知ってしまったからだ。
街から村への道中はどこか心が浮ついてしまうような、そんな日々だった。
1人黙々と馬を操る日々にはなかった充実感が、たしかにあったのだ。
だが、更に人が増えたにも関わらず、今回の旅は何も楽しくはない、むしろ一刻も早く終わってほしいとさえ思ってしまうものだった。
村から街へ戻る間、マシューを含めた3人は会話らしい会話もなく、見上げた先の曇り空と同じような重苦しい空気を漂わせていた。
ギルとしてはマシューと話したいことなどない。話せばまた都合のいい言い訳を口にされそうで、それならばいっそ黙ってもらっていた方がよかった。
マシューはマシューで、始めこそ強気な態度を示していたが、街へ近づくに連れて随分と大人しくなっていた。
また逃げるつもりなのではないか、そんなギルの思いは杞憂と終わり、マシューは思いの外大人しく荷台に座っていたのだ。
そんな2人を見てロザーナがぽつりぽつりと話を振る。
だがロザーナに気を使ってのギルの返事や、つれないマシューの返事に、ロザーナも徐々に口数が少なくなっていってしまった。
ある夜ギルが「気を使わせてすまない」と謝ってきた。
「どうにもマシューさんとは馬が合わないのだ」とも。
困ったようにロザーナは笑い、仕方がないよ、と返したが、翌日から尚更どう話し掛けていいものか分からなくなってしまい、ついにはロザーナもただただ周辺を見渡しながら暇をつぶすようになってしまったのだった。
そんな行程だったものだから、遠くに街が見えてきたとき、ギルは心の底から安堵のため息をついた。
ようやくこの空気から開放される、と。
それは温かい食事にありつける喜びや、柔らかい寝床で眠れる安心感などよりもずっと魅力的に思えるものだった。
「このまま、討伐隊に向かいます」
返事が来ることを期待してはいない。
ギルはマシューの方を振り返ることもせず、そのまま街の中へと荷馬車を進めていったのだった。
見慣れない武具を身に着けた男、そして手甲、足甲を身に着けた若い女性と、平凡な格好の村民。
そんな目を引く組み合わせの3人に対して、討伐隊の面々は特にどうということもなく部屋まで案内をしてくれた。
通された一室でしばらく待つと、1人の若い男性が現れた。
「お待たせしてすみません」
そう言って入ってきた青年は部屋を見た瞬間訝しそうな顔をした。
「マシューさん、でしたね」
以前狒々の件で村を訪問させていただきました、そう言って青年は自らをカールと名乗った。
「てっきり正式な依頼かと思いましたが」
どうやらそうではなさそうですね、そう言ってカールは3人を見る。
椅子に腰掛けているのはマシューで、その両脇にギルとロザーナが立っている。
そしてマシューの前にある机には麻袋に入った大きな塊が置かれていた。
その様子はどう見ても穏やかなものではない。
「2つの要件があり、お伺いしました」
そういったのはアッシュと名乗ったギルだった。
討伐隊とカーマイン商会には大きな繋がりがある。
情報の共有や商品の提供、道中の護衛など切っても切れない縁があるのだ。
その為ギルは万が一にも身分がばれないようにと、ここでもアッシュと名乗ったのだ。
「マシューさんから、話してください」
ギルに促されたマシューは苦虫を噛み潰したような顔をしたまま黙っている。
誰も話さず、誰も動かない状況を察したカールが「この中身を確認しても?」と言いながら自ら麻袋に手をかけた。
中に入っていたのは狒々の頭。
狒々の頭は綺麗に洗われており、気温の低さもあって腐敗も進んでおらず、一目でそれと判別できる状態であった。
「つまり、狒々を討伐した為依頼の取り下げにいらっしゃった、ということでしょうか?」
カールの問いにギルは頷く。
「狒々は私と、こちらのロザーナで討伐しました」
あの狒々をお2人で、とカールが確認してきたのは疑いからではない。
以前依頼を受けた際に村を訪れカールは遠目にだが狒々を見ている。そしてその狒々を討伐するために人数や日数、費用を計算したのは他でもないカールなのだ。
自分の見立てよりもずっと少ない人数で狒々を倒した。それは純粋に驚くべきことだった。
「どうやって」と聞きたい好奇心を抑え、カールは先程から不機嫌なマシューに目をやる。
その視線に気づいたマシューは忌々しげに「間違いない」と頷いた。
「なるほど、詳しくお話を伺いたいところですが、もう1つの要件というのは?」
とカールが麻袋の紐を締めながら聞いてくる。
だがギルが再度話すように促しても、マシューは口を開こうとしない。
しばらく沈黙が続いたあと、カールは困った顔で「お2人はこちらに」と部屋を出て、隣の部屋へと案内した。
「少し待っていてください。隣の部屋にも人をやりますので」
そう言ってカールが部屋から出ていったあと、しばらくして戻ってきたカールの手には盆に乗せられた飲み物があったのだった。




