第2話
「ロザーナが戦う必要はないのに」
見たところ相手は1人だ。腰から片手剣をぶら下げてはいるが、それを上手く扱えるような雰囲気には見えない。
それに、そもそもギルは女性に戦わせるようなことはしたくなかった。
だがしかし、「私は嫌よ」とロザーナは言う。
「私にはギルと出会ってからの記憶しかないの。なのに自分が何もしなかったせいであなたに何かあったら、悔やんでも悔やみきれないわ」
だから何もせずにいるのは嫌なのだ、と。
ロザーナが自分を想ってくれていることを嬉しく感じたが、しかし何だかおかしな話だとギルは思った。
見知らぬ場所で目が覚めて、何も覚えていない。それはとても恐ろしいことだと思う。
しかしロザーナは最初こそ困惑していたものの、今はもう記憶がないことを気にしているようには見えない。
また、手から黒い液体を流し、「人ではない人間」だと分かったあとも、ロザーナはそのことについてギルが心配するほど気にしていないように見えた。
記憶がないからこそ、そんな現状を受け入れることができているのだろうか。
ギルにはロザーナの苦労を想像することしかできない。
そんな、今一番心配しなくてはいけない人物から心配される、というのはどうにもおかしな話だ、とギルは軽く笑ってしまった。
「おおい」
と前方から近づいてくる男は大きく手を振り存在を示した。
もとより気づいていたギルは男に小さく手を振り返すと馬を止めた。
バリーの件もあった。相手の素性が知れないうちは用心するに越したことはない。
ギルはいつでも動けるように外套の下で斧槍を握り、ロザーナもまた毛布の下では既に武装を済ませていた。
「あんた達はどこから来たんだい?」
近づいてきた男はギルと変わらないほどの歳に見えた。
その青年の格好は討伐隊でもなければ旅人でもなく、また商人でもない。着の身着のまま、たった今村から出てきたような、そんな格好だった。
北の街から、とギルが答えると青年は不思議そうに荷台を覗き込んだ。
荷台には若い女性しかおらず、荷を運んでいるわけではない。ではなぜこんなところに、と思うのは当然のことだっただろう。
「私達はバリーという方の住む村を探しています」
とギルは短く答えた。
村から女性が消えた原因がバリー達なのであれば、これまで巡ってきた村々の様子を鑑みるに、彼らの村はこの辺りで間違いないはずなのだ。
しかし今のところその村がどこなのかという目処は立っていない。
このままもう少し南に進もうと思っていた矢先に出会った青年、その青年が「あんたらバリーさんの知り合いかい?」と笑顔を見せている。
青年はバリーと同じ村の者だった。しばらく前に村を出たバリー達一行が帰ってこないため、村長に言われて探しに出たのだと言うのだ。
「あ、もしかしてあんた達、討伐隊の?」
ギルの格好を見て、青年はどうやら早合点したらしい。
思いもよらず聞いた討伐隊の名に、ギルは返事をできずにいたのだが、青年はそんなギルの反応を気にすることなく「ようやく依頼ができたのか」と笑った。
「ええ、私達はあなた方の村の問題を解決するためにきました」
その問題が何なのかは未だに分からないが、少なくとも嘘はついていない。
「やっぱり」と青年は人懐っこい笑顔を浮かべる。
「あいつも悪いやつじゃなさそうなんだけど、作物を荒らすから大人達には嫌われているからなぁ」
「あいつ?」と聞き返すギルに、青年は「猿のことだよ」と答えた。
「あんた達、バリーさんに頼まれてあの猿を退治しに来たんだろ?」
猿、と言われ、ギルはまた少し混乱してしまった。
バリー達が人を攫っているのとその猿と、どうにも上手く繋がらないからだ。




