第一話-9 どころじゃない! かつてない大事件の始まりだったー!!
☆☆☆
すると春ちゃんは、会長の方を向いてペコリと頭を下げた。
「始めまして、獄落院春風と申します。
会長はん、そのコンサートの演出、ウチにやらせて頂けまへんやろか」
「「「えっ?」」」
「そりゃあ構わないけど、それが君のナンバーズ特典のお願いなの?」
「はい、ウチもお二人のコンサートならぜひ見たいですもん。ウチが思いっきり盛り上げてあげますよって。お二人はん、ええやろ?」
「えー……。いや、でも」
さっきまでの邪悪な笑みはどこへやら、ニコニコと笑いかけてくる春ちゃんに戸惑いながら、それでも口ごもるあたし。
「嫌ならかめへんよ、そしたらお願いを別なのに変えてもらうだけや。みんなの為やのうて、ウチ一人だけの楽しみの為のものになあ。
もちろんその様子は、HPに晒してもろうてな。うふふ、それはそれで楽しみやあ……」
うっ……。ニコニコしてるけど、目の奥に邪悪な光が。
「そうだなあ、コンサートが駄目なら僕も個人的に楽しませてもらおうかなあ。もちろんHPに晒してね」
会長も乗っかってきたー!
「さあ、どうする? 壬鳥くん」
「どないする? 撫ちゃん」
「柊くうん?」
「巴絵ちゃあん?」
ううっ、なに二人揃って迫ってきてるんだよ。
「あーもお、わかりました。コンサートやります」
すると巴絵が、諦めたように手をあげた。
「本当かい?!」
「きゃああっ、巴絵ちゃん大好きっ!」
春ちゃんが巴絵に飛びつく。
「巴絵ー、本気ぃ?」
あたしが聞くと、巴絵は春ちゃんに抱きつかれたまま溜息をついた。
「まあ学校の中だし、きっとこないだの株主総会よりはマシよ、はは……」
「ああ……」
やっぱ巴絵も、あの悪夢の総会が忘れられないんだな。
「まあアレよりはね。わかりました会長、やればいいんでしょやれば」
「本当かい? ありがとう!
いやーよかった。ありがとう、ほんとにありがとう!」
会長があたしの手を握ると同時に、教室中に歓声が沸き起こった。
「ウオー! スゲー!」
「やったー! さすが生徒会長!」
「獄落院さん、グッジョブ!」
大歓声の中、あたしと巴絵は顔を見合わせてまた溜息をついた。
「「はあああぁ……」」
「まあまあ二人とも、そんな顔しないで。お祭りなんだからあまり難しく考えずに、楽しくやってくれればいいんだからね」
相変わらず爽やかな笑顔の会長。動じないなあ、この人。
「さてと」
パンッ、と会長が手を打つ。
「話が決まったところで、本題に入らせてもらおうかな」
「えっ?」
本題って、これが本題じゃなかったの?
「あー、柊くん」
会長はコホンと咳ばらいをすると、急に真面目な顔になって、巴絵の方を向いた。
「はい」
巴絵がきょとんとした顔で答える。
「柊くん」
「はい?」
「ええと……」
「何ですか?」
「あっ、あの……」
なんだろう、さっきまでの颯爽とした態度とは別人のように、歯切れが悪い。
あたしと春ちゃんも思わず顔を見合わせて、「「?」」となった。
「えーと、こ、こんな場所でこういうことを言うのはちょっとあれかもしれないけれど、でも僕もほんとにそんなつもりはなくて決していい加減な気持ちだとか浮ついてるとかそれは言われても仕方ないかもしれないでも決してそんなことはなくて僕は真剣に考えてでもやっぱりこんな教室なんかで皆も見てるのに君に恥をかかせるようないや恥をかくのはむしろ僕の方でもなでとも大好き倶楽部の会員規則では直接交渉が禁止なのに生徒会長ともあろう者が規則を破るなんてそんなことだから仕方なく君と話せる機会を持つためにわざわざ交渉を買って出たりしてほんとは別の者が来るはずだったのに無理やり代わってもらってえっとだからその……」
緊張しきった顔で、しどろもどろになりながらまくし立てる会長。
何を言ってるのかさっぱりわからないけど、ここまでくれば、あたしにだって会長が何をしようとしてるのかくらいは察しはつく。
ま、まさか会長!
周りのみんなにも、それは伝わったらしい。
さっきまでのお祭り騒ぎはどこへやら、教室内はしんと静まり返り、みな息を飲んで会長の次の言葉を待った。
そして会長は、はっきりとこう言ったのだ。
「柊くん、僕と付き合ってくれないか?!」
★★★
生徒会長のその言葉に対し、私の口から出たのは、
「え? どこへですか?」
だった。
「え? いや、どこへというか、どこへでもだけれど」
「はあ」
コンサートの話しでしょ? 生徒会室? 体育館? だからどこへ行けば……。
あれ? 撫子が目を丸くしてこっちを見てる。春風さんも大生くんもそんなびっくりした顔して。
えっ、他のみんなもどうして私を見てるの? なんでなんで?
「あー、うん。僕の言い方が悪かったようだね」
会長が、咳払いをして私の前に立った。私も何故かそれにつられてしまい、椅子から立ち上がっていた。
うわあ、この人背が高いな。同級生の中には男子でも私と並ぶ人は一人もいないのに、やっぱり先輩は違うんだなあ。
「改めて言わせてもらいます。柊巴絵さん、僕とお付き合いして頂けませんか?」
パチクリ。
えっと……、僕と……お付き合い……って。
「もちろん、君には壬鳥くんがいることは知っている。女の子同士だとか、何で壬鳥くんじゃなくて君の方がお嫁さんなのかとか、(笑)って何? とか。
そういう事はともかく、僕は君達のことは認めているつもりだ。これは僕だけじゃなく、君達の友達全員がそう認めていることだろう。
でも、だからと言ってそれで僕の気持ちが変わるわけじゃない。この君を好きだという気持ちを、僕はもう自分で抑えることができないんだ。
いつから君のことが気になりだしたのか、自分でもわからない。気が付いたら僕の心の真ん中に君がいて、そしてそれは僕の中でどんどん大きくなってきた。
本当はもっと早く伝えたかったんだ。でも僕にはその勇気がなかった。
ファンクラブが出来るって聞いたときは、とても嬉しかったよ。ラッキーナンバーが取れた時は、神様は本当にいたんだとさえ思った。
ほんとはね、あの特典を使って僕と付き合って下さいってお願いしたかった。
でもそんな卑怯なまねなんか、できるわけがない。そんなことをしても、君に軽蔑されるだけだからね。
だから、一人のファンとして、あの特権はみんなの為に使おうと初めから決めていたんだ。
そしてファンとしての義務を果たした後は、一人の男として行動すると決めた。
もう一度言う。僕とお付き合いして下さい!」
えー、なに言ってんのこの人。選挙演説でもしてるつもり?
ここ、どこだと思ってんの? 教室よ? 昼休みよ?
みんな見てるじゃないの。やめてよね、まったく。付き合って下さいだなんて、冗談じゃないわ。
今初めて会って、ロクに話もしてないのに、いきなりそんな事言われて「はい、いいですよ」なんて言うわけないじゃない。
こんな人が生徒会長? 馬鹿なの? それとも私を馬鹿にしてんの? 何考えてんのホントに。
ああもお、なんだか腹立ってきた。
しょうがない。みんな見てるとこで恥かかせるのはかわいそうだけど、自業自得よね。
もう二度とこんなマネできないように、はっきり言ってあげるわ。
「会長」
「ん」
会長が真剣な目で、真っ直ぐ私を見る。男の人にこんな間近で見つめられるのなんて、初めてだ。
「申し訳ありませんけど」
「うん」
私も会長を真っ直ぐ見返す。この人、きれいな目だなあ。
そういえば、今まで私の周りにいた男の人なんて、兄貴と大生くんくらいだったな。他の男の子達は、みんな私に対してどこか一歩引いてる感じがして。
でも兄貴はあんなだし、大生くんはこんなだし。
この人はどっちとも似てない。他の誰とも全然……。
「はっきり言いますけど」
「ああ、遠慮なく言ってくれ。覚悟はできてる」
ええ言ってやりますとも。きっぱりと言ってやるから、だから……、そんなに見つめないでよ。そんなキラキラした目で……。
どうしてこの人の目、こんなにきれいなの?
やだもお、だから……えっと……。
「す、少し……、考えさせて……ください……」




