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47, 15才 ②

お待たせしました。

後で改稿しても、内容に変更はありません。

誤字報告ありがとうございます。




・・・***・・・(ケイ)




『――頭でもわいてやがるんですか? ウジ虫野郎』


 リフィの笑顔での言葉に、いつも他人の話を聞かずに自分の意見を押し進める第二王子ブレイブが、ぽっかーんと呆けていた。

 珍しい光景だ。流石はリフィ。もう少し、穏便に声をかけて欲しかったけどね。

 取り敢えず、僕が相手をする事にした。


「……ケイトス、何か今、幻聴を聞いたような気がしたんだが…」


 この王子がアホで良かった。

 僕はにっこり笑って誤魔化そうかと思ったけれど、やめた。現実を知って貰った方が、手っ取り早いよね。

 逸らした目線を王子に向けて、溜め息を一つ。

 リフィに下手な幻想は持たないで欲しい。持つだけ無駄だから。これまで何人も幻想を打ち砕かれてきたから。


「現実逃避したいのは解るけど、残念ながら幻聴じゃないよ。そもそもブレイブの対応や扱いが最低だからね。彼女はリフィーユ・ムーンローザ。平民だけど、僕の親戚で、ブレイブと同じ学年。貴族とは関わりたくないって公言している通り、講義も最低限しか出ていないから、あまり関わらないように。その方がお互いの為だ。近寄って、全力で逃げられるのはいい方で、下手したら君の命に関わるよ。幼稚に気に入ったとか、下僕になれとか、好き勝手に扱えると思わない事。返り討ちに遭っても自業自得。その時は、精霊魔法を使えなくなる覚悟もしておけ。というか、城で常識とか、礼儀や紳士としてのマナーから学び直してこい。そんな横暴な君に付き合ってくれるのは、余程の聖人君子か君の身分にしか用のない人だけだ」


 なるべくオブラートに包もうとしたけど、無理だった。

 言葉の刃でグサグサ突き刺してしまった。これじゃイナルの事を言えないかな。


 ブレイブは目を見開いて絶句した。多分、情報の処理に時間がかかっている。その後ろでは、嘆息混じりに首肯するスピネル達。僕の背後では、「成る程、平民のクラスだったのか」と頷くハイドに、僕に拍手を送るリフィ。

 呑気な想い人に苛立ち、僕は振り返って、黙っていれば誰もが見惚れる美少女を見た。


「……リフィ、拍手をしている場合じゃないよ。原因は君の油断と不注意もあるよね? 何でうっかり変装を忘れて、遭遇して追いかけ回されているの?」

「私に飛び火したっ! これには、それなりに深い理由がありまして…」

「へぇ、それじゃその理由をじっくり聞かせて貰おうかな。君が会いたくない、関わりたくないっていうから、協力してきたのに」

「うっ、それについては面目次第もございません。でもうっかりというか、上の空で、変装も魔方陣も忘れたのは、ケイが悩ませたのが原因――」


 リフィが突然、口を閉ざした。

 ……僕が悩ませたのが、原因…?

 思い当たるのは一つしかない。俯くリフィを見れば、微かに頬を染めて、しまった、という顔をしていた。


 僕は口元と頬が緩むのを、堪えられなかった。

 何を言っても、リフィに伝わってないというか、本気にされていない気がして、虚しさや苛立ちを感じていたのに。

 それが思いがけず、隙を見せる程、余裕を無くさせていたなんて。


「そう、僕が原因だったんだ?」

「……ケイ、意地悪な顔してる…」


 苦々しげにリフィが睨み付けてくるけれど、目元を赤くして上目遣いする姿が可愛いとしか思えない。

 自分でも微笑わらってしまうのを、止められなかった。


「……綺麗だけど、腹立つからその笑顔やめて」

「それはごめんね?」

「……もういい」


 自ら露呈した悔しさを隠して、誤魔化すように横を向くリフィが、親しい者にしか見せない子供っぽい姿が、嬉しくて和んでしまう。

 機嫌を取るように頭を撫でて、顔にかかる薄翠の髪を耳にかける。リフィは嫌がる事もなく、されるがまま。


 僕達の様子に驚く外野が邪魔だと思うけれど、今は見せつけている事に僅かながら優越感を感じた。そんな未熟な、新しい自分を自覚して、苦笑する。

 もう少し浸っていたかったけれど、そうはならなかった。


「ブレイブ…?」


 キースが、俯き放心していたブレイブに近寄った。声をかけたが、反応がない。不気味な程、静かで、不穏な気配を感じる。

 イナルが警戒するようにスピネルの前に立ち、目を細めた。


「どうした、ブレイブ?」


 スピネルが弟を案じて、声をかけた。何も反応はない。スピネルが銀の目を丸くして、息を呑んだ。

 キースがブレイブの肩に手をかけて、体を揺する。

 僕とリフィは、ざわつく精霊の気配や、重苦しくなった辺りの雰囲気に反応して、警戒した。


 濃密な魔力の気配が漂い、振り返ると、発信源はブレイブだった。スピネルのような『精霊の眼』がなくても、彼を包むくらもやが肉眼で見えた。


「ぐっ!」


 突如、ブレイブに触れていたキースが、靄に弾かれて離れた木の幹に背中を打ち付けた。

 驚くと同時に、靄とは違う黒い鞭のような物が、地中から飛び出した。


 僕とリフィが左右に離れて跳ぶ。鞭はリフィを追って行った。

 リフィが危なげなく避けるのを見ながら、僕は、ハイドと、スピネルとイナルを守る結界をそれぞれ張った。二人を守るように、キースが立ちはだかり、僕もハイドを背に庇った。

 何があるか解らないので、校舎等に被害が及ばないよう辺りにも大きな結界を張る。


 ブレイブはお騒がせな彼らしくない、無の表情。俯き、焦点の合わない虚ろな赤い目で、何かを呟いている。

 ……何というか、あんな感じの人を、少し前にも見かけた事があるような…。


 あれは、そう、劇団ステラの人気女優の一人に夢見て懸想したファンが、自分のイメージと違う姿を目の当たりにして、絶望して激怒した時の表情に似ていた。


 あの時も大変だった…。自分の理想と違う姿に、ストーカーというか、脅迫状を出して命を狙う危ない人になり、学園のリフィにまで話が届いてなくて、演技練習後の夜道で腕を切り付けられてから、事件が発覚した。


 リフィが憤怒にかられ、精霊に協力を頼んで犯人を見つけ出したんだった。

 それで脅迫状を送っていたのはファンの男だったけれど、危害を加えたのは、男を好きな幼馴染みで、二人を容赦なく一発殴って牢に入れようとしたリフィを、被害者女優と共に止めて…。


 見掛けは華奢で可憐な美少女が、鬼のように恐ろしく暴れる姿に、ある種のトランス状態だった男と幼馴染みの女が、現実に震え上がって、酷く衝撃ショックを受けていた。


 あれから更生した家具職人の男は、劇団の美術係として、家具雑貨、小物を扱う店の女も同じく美術係とメイク要員として、ステラと格安に取引して働いていた。

 因みに、劇で扱われた家具や小物が貴族、平民問わず人気で以前より売れ行きがいいらしい。


「ケイ」


 キースの呼び掛けに、僕は回想から戻り、黒い靄を纏ったブレイブに目を向けた。

 牽制なのか、近付こうとする僕達やハイド達の結界にも、鞭や火球が飛んで来る。それも普段のブレイブよりも、更に強く重い一撃で。


 中でも一番標的にされているのは、リフィだった。どれも回避しているけれど、無意識的にでもブレイブが執拗に捕まえようと躍起になっている。

 本当、何でああいう面倒なのにばかり、目を付けられるんだろう…。


 自分にも返ってきそうな言葉だけど、無視した。厄介な者に妙に執着されるのも、リフィの人徳なのかな…。

 当の本人は「しつっこい!」と苛立ちながら、襲いかかる攻撃を避けていた。それでも、魔法を使えない今のリフィには限界がある。


「……俺が、見つけた…。俺が最初に、自分で…見つけたんだ…俺の物だ……どう扱おうと、俺の自由……。王族の俺が、強くて、誰も敵わない…逆らえないんだ……」


 風魔法で、ぶつぶつ口にするブレイブの主張を届けさせた。

 全員が気まずそうな顔で、反応に困った。

 ……うん、何か色々と精神を突き抜けて、イッチャッてる…。完全に危ない人の言動で、僕達の声も届かないというか、見えていない。なのに、魔法の威力は上がって、力任せな普段の攻撃と違い、厄介だ。


 狙いすましたようにリフィを追い詰めながら、僕達を近付かせない。逃げるリフィの足下に攻撃を集中させるなんて、ブレイブは思い付かなさそうなのに。その間にも、彼の側では黒い渦が空間を歪め、鋭い風を起こしながら、徐々に大きく育っていく。


「ブレイブも色々と拗らせちゃって…」

「あの猛攻を見て、呑気にその一言で片付けられるのは、お前だけだぜ」


 背後の結界内から、ハイドが呆れたように言ってきた。

「どうする?」と、キースがスピネルの結界に攻撃してきた鞭を、風で作った魔法剣で切り伏せた。

 弟の乱心に、兄のスピネルが吐息した。


「多分、仲がいいケイとムーンローザ嬢の姿に、負の念を拗らせたって所か。ブレイブはこれまで殆どの事に我慢を必要とせず、自分の思い通りになってきた。それが何でか過去で一番欲しがった物が、いつものやり方で手に入らない。お気に入りのケイにも諦めろと諭されて、どうしていいのか解らなくて、追い詰められて、今みたいになったって感じだ」

「ただでさえ魔力の多い王族が、力を制御できないなんて厄介ですね。陛下達も散々ムーンローザ嬢に告げてきた懸念事項を、バカ息子が体現するとは思ってもみなかったでしょう。だからあれ程、ブレイブを自由にさせるのを止めて、強制的に幽閉でも何でもして、一から鍛え直すよう進言していたのに、忙しいからと後回しにして…」


 イナルが苛立ちも露に目を細めた。以前から、ブレイブの振る舞いに苦言を呈していたらしい。


「校舎や他の生徒に、被害が及ぶのは避けなければなりません。ケイ、キースも、あのバカをベッド送りにして構わないので、力を暴走させたブレイブを止めて下さい」


 不機嫌な未来の宰相から、お許しが出た。きっと責任を陛下達に押し付けようと考えているに違いない。もしくはベッドに縛り付けてブレイブの矯正を考えていそうだ。

 僕とキースが、スピネルを見やった。困り顔の王太子が、諦めたように嘆息して、頷いた。




・・・***・・・(リフィ)




 今日も厄日だ…。

 まさかの第二王子が力を暴走。息子の教育くらい、きちんとしといてよ、王様達。

 それにしても、攻撃がしつっこい!

 足ばかり狙ってくるって酷いと思う。足下に気を取られると、他の箇所に攻撃されるし、黒鞭が来たと思ったら、火球がその影に隠れてくるし。


 魔法が使えれば、もう少し楽なんだけどなぁ。

 誰かに、枷を外して貰えば良かった。こんな事になるとは思ってなかったよ。今は枷を外してもらおうにも、距離がある。ケイ達は暴走王子の反対側。

 第二王子をどうにかしたくても、近寄るのも難しい。


 取り敢えず、逃げながら拾った石や木の枝を投げてみたけれど、効果なし。全部、奴を中心に渦巻く黒い靄に防がれた。

 ていうか、時間が経つにつれて大きくなる、小さなブラックホールみたいなのが気になる。あれ、明らかにヤバイやつだよね。

 どうにかしたいけど……あの面子じゃなー。


 実質、戦力として動けるのって、ケイとキースとハイドくらい。でも、王族を危険な目に遇わせられないし、王族の守り手も必要…。

 あの人達、どこか遠くに離れるか、逃げてくれないかな―。

 なんて、思っていたら。ケイ以外が下がってくれた。


 意図を察して、私は大きく動いて注意を引き付ける事にした。隙を見せると、私を捕まえようと攻撃が集中される。それをどうにか避けて、ブレイブに向かって行く振りをする。


 私が囮になっている間に、ケイが攻撃をいなし、吹き荒れる黒い風を掻い潜りながら、ブレイブに肉薄した。

 近付くにつれて、靄が濃くなり、黒鞭がしなり、ケイの回避も限界になり、自身に展開した結界も壊された。けど、渦巻くブラックホールもどきを、光魔法で相殺し。


「こんな所で力を暴走させるなっ!」


 ガツンと一発、お見舞いしてくれた。

 ケイの拳骨で、不穏な空気も、闇落ちしそうだったブレイブの意識も、霧散した。私への攻撃もなくなった。


 第二王子を見守っていたスピネルやイナル、ハイド、その三人を守っていたキースが唖然とした。

 我に返ったブレイブが、涙目で頭を押さえてうずくまる。


「――っ、いってぇ!?」

「目が覚めたみたいだね」

「思いっきり殴ったな、ケイ!」

「ベッド送りにする予定だったから」

「しれっと物騒な事を言うな! 本当に、お前は変わらず遠慮がないな!!」


 文句を言いつつも、憑き物が落ちたように、ブレイブの表情は晴れやかだった。正気に戻ったブレイブが、ケイに感謝する。やっぱり、自分を真っ直ぐに叱ってくれるのはケイトスだと。

 ケイが呆れたように嘆息した。

 一連のやり取りを見て、仲のいい様子に少しもやっとする。何でケイさんは、慕われちゃってんの…。


 それはさておき、私が気になったのはケイの怪我。

 第二王子の腕を引いて、立たせてあげるケイの優しさは素敵だけど、暴走中に奴を守るように渦巻いていた鋭い黒い風が、靄が晴れた空間の地面や木の幹を抉っていた。


 その中心に向かったケイも、無傷とはいかない筈。

 彼らが気付いていない今の内に、そっと抜け出せば良いのは解っているけど、不安で気になった。

 一応念の為に、魔力封じの枷を一つ解除しておく。


 私は逃げ回って乱れた呼吸を整え、ケイと弟に駆け寄る王太子達や、第二王子に注意しながら、彼らから少し離れてケイの正面に回り込む。

 案の定、腕や太腿の他に、麗しの美貌に傷がついていた。

 あ、駄目だ。取り敢えず、ぶん殴りたい。

 私は一歩、踏み出した。




・・・***・・・(ケイ)




「ケイ」


 スピネル達の後ろから出てきたリフィが、沈痛な表情で不安げに僕を呼ぶので、大丈夫と笑って見せた。

 本当は去って欲しかったけれど、リフィが怪我してないか心配だったから、無事な姿に安堵した。

 不思議な事に、僕の正面に立って見上げてくる姿が、普段と違っていじらしく、可憐に見える。見掛けは。


 リフィが白い手を、僕の切れた右頬に伸ばしてくる。暖かな光を全身に感じると、痛みも服の裂傷も直っていた。

 枷を外したのだと察し、礼を言おうとして、声帯が固まった。怪我のあった頬を見るリフィの表情が、背筋が凍るほど、無だったから。

 衣擦れの音もなく優雅に、リフィが裾を翻してブレイブに向き直る。


「第二王子殿下」


 優しい微笑と呼び掛け。

 向けられたブレイブに、ちょっと嫉妬しそうになる。瞳の奥がどんなに冷たい光を宿していても。

 ほぅっと見惚れたブレイブが、熱に浮かされ、引き寄せられるように、リフィの方へ踏み出した。その瞬間。


 ばごぉっ!


 目にも止まらぬ速さで、リフィの右ストレートが炸裂した。

 惚れ惚れする程、全体重をのせた鋭い拳だった。思わずカンカンカンカンとゴングの幻聴が聞こえて、振り抜いた姿勢も綺麗なリフィの右手を天に掲げて、レフェリーの如く勝者宣言しそうなくらい。


 少し離れた場所では、訳もわからず吹っ飛ばされたブレイブが、尻餅をついていた。

 スピネルとイナルが青ざめ、キースは止められなかった事を悔やみながらも、キレキレで見事だと感心している。ハイドは噴き出していた。


「いってぇぇえぇ! ナニしやがるっ!」

「未だに力も満足に扱えない未熟者の分際で、勝手に暴走した挙げ句、私の婚約者を傷つけた罰ですわ」


 上半身を起こしたブレイブに、ゴミでも見るような眼差しを向けるリフィ。

 必死に怒りを抑えているからこその、自分を冷静にさせる為の令嬢言葉遣いだ。

 けどちょっと待って。それでも、普通は王子を殴り飛ばさないよ!?


「はっ? …え、なっ、はあぁっ!?」


 一方で、突然の情報に、ブレイブが混乱して呆然とした。暫くして、理解したのかカクッと首を落として白目を剥いた。

 魔力の暴走で精神も魔力も限界の中、強烈な右ストレートを受け、今まで令嬢に向けられた事のない蔑視を向けられ、漸く出逢えた少女に決まった相手がいる発言をされて。

 心身ともに大ダメージを受けていた。


 スピネルが前のめりに倒れかけた弟の体を支えて、「しっかりしろ」とガクガク揺さぶった。キースが呼吸や脈拍を看る。スピネルが「噂のケイの婚約者の件を知りたがっていたのに、どうしても言えなかったから……。教えておけば良かった」と自分を責めながら、不思議そうに首を傾げるリフィを見た。


「ブレイブは純真で、長らくリフィーユ嬢に憧れていたんだ」


 立ったまま様子を見ているイナルが、「ブレイブ殿下は貴女への初恋をずっと拗らせ続けてきたんです」と、ざっくりこれ迄の執着具合をリフィに説明した。

 兄の切なる呼び掛けが届いたのか、魂を飛ばしかけていたブレイブが戻ってきた。

 スピネルに支えられながら、立ち上がる。


「なんっ…どういうことだよケイトス!! 兄上たちも知っていたのかっ!」


 ブレイブの怒りにも似た痛烈な叫び声に、僕達はどう答えていいのか困った。


「オオゲサ。よくある初恋は実らないっていうだけでしょ」


 さくっとリフィが止めを刺した。

 誰も言わなかった地雷を、進んで踏みに行った。

 ブレイブに、ガーンと弔いの鐘が鳴った気がした。


「な、何、を……」


 ブレイブが意気消沈して、項垂れた。いつもポジティブで我が道を行く彼がここまで凹んだ姿を初めて見た。

 それは三人も同じなのか、当惑していた。

 けれども流石は本能のままに生きてきたポジティブバカ。立ち直りが思ったよりも早かった。

 真正面からリフィをもどかしげに見つめる。


「どうして、いつから婚約だなんて……聞いてねーぞ。何でそんな事になってんだよ…!」


 ブレイブが涙目で僕を睨み付けてきた。

 僕とリフィが婚約した経緯の理由か。

 それは何と言うか、様々な思惑が一致して、取引してし崩し的にそうなったというか、一応お互いに利用する合意の上というか…。ちょっと僕が強引に押し付けた自覚はある。


 リフィが僕に好意を持ってくれているのは解るし、誰に何を言われようとも、外堀を埋めて、覆らないように逃げないように慎重に包囲網を狭めて、手に入れるつもりだった。というより、その最中なんだけど。幸いにして、逃げないかなと思う程度には好意を感じていた。逃がすつもりは毛頭無いけど。

 ブレイブがリフィに詰め寄る。


「お前がケイの婚約者なんて認めない。相応しいか俺が見定めてやるから、俺の側近に」

「嫌ですわ」


 言い終わる前にリフィが即答した。愛想笑いもない、完全な無の表情で。

 ブレイブは自分の言葉に被された事がなく、何の興味もない目を向けられるのも初めてだったのか、リフィが聞き取れなかったと勘違いしたのか、断られる筈かないと再度、自信満々に口を開く。


「俺専属のメイドに」

「お断りしますわ」

「俺の側近に」

「嫌ですわ」

「ケイトスとの婚約を解消」

「お断りしますわ」

「俺の女に」

「嫌ですわ」

「俺と婚約」

「嫌ですわ」

「俺と結婚」

「嫌ですわ」

「俺と」

「嫌ですわ」

「俺」

「殴りたくなりますわ」


 淡々と無感情で、否定の言葉だけを紡ぐリフィ。それも関心はないとばかりに、微妙にブレイブから視線をずらしている。対面している今も。

「あ、虫」じゃないよ、リフィ。仮にも王族だから。ていうか、虫って、視線の逸らし方が雑過ぎる。


 そしてブレイブは、意外にも打たれ強かった。明らかに眼中にないと、すげなくあしらわれているのに、否定の言葉を聞き続けるなんて。

 けど、虚仮にされて固まっていたブレイブが、激昂するのに時間はかからなかった。


「お前っ、ふざけんなよ! 第二王子のこの俺が声をかけてやっているのに! 王族の俺が気にかけてやっているのに!」

「では今後二度と近寄らないで下さい」

「……は?」

「私が貴方に好意を抱く可能性はありません。特に貴方の女癖の悪さは平民でも耳にしています。それで初恋を拗らせたとか言われても信じられませんし、説得力皆無です。勝手に如何様にも一人で拗らせ続けて下さい。但し、周りに迷惑はかけずに。それでは二度と会わない事を望みますわ」


 リフィは平淡な声で言い終わると、背を向けた。僕の方へと踏み出してくる表情は、先程までとはうって変わって、穏やかな微笑みを浮かべていた。


「――っ、待てよ!」


 リフィを振り向かせようと、ブレイブが焦ったように肩に手を伸ばした。それを知っていたように避けて、逆に足を引っ掻けられる。武人として腕が立つブレイブが簡単に転倒し、怒りを露にして、リフィを睨み付けた。


「……っ、ふざっけるなよ…。それなら、王族として命令してやるっ! お前はケイトスと婚約を解消して、俺と――」

「「ブレイブっ!!」」


 止めたのは、意外にもスピネルとイナルだった。キースは僕とリフィを守るように、仕えるべきブレイブと相対していた。


「それは駄目だ、ブレイブ。嫌がらせにしても、その権力は軽々しく振りかざしてはいけないよ。王族としての地位と、国の名をかけるのなら、君もそれに伴う覚悟と責任を持たなくては。最悪、その名を失う覚悟をしなくちゃいけない」

「今まで玩具のように使ってきた命令とは訳が違いますよ。今ここで、王太子殿下や我々、サンルテア男爵たるケイトスの前で発言する重みと効力は、後で取り返しがつきません」

「後で間違えたじゃ済まないんだ。ブレイブ、ぼくは王族の盾であり剣だが、お前が間違えて道を踏み外そうとするのなら、捧げた剣にかけて、お前を止める」


 愕然としたブレイブが生唾を飲んだ。兄達が本気だと解ったらしい。これ迄のように、間違えた後で、子供だからが通じないのだと。

 実際に、続くブレイブの発言を、僕は赦す気がなかった。それは認められない。例え冗談だとしても。

 僕からリフィを奪うというのなら、最悪も辞さない。


 リフィだって、今こうしてスピネル達が諌めて、間に入っていなければ、ブレイブに刃を向けていた。それ程の嫌悪と忌避を露にしていた。


 ブレイブ達よりも、リフィが僕に好意を持ってくれているのは解る。そのリフィは殺意をおさめて、ブレイブを冷ややかに睨み付けた。


「命拾いしたね。王太子殿下たちが止めていなかったら、私は貴方を躊躇わずにこの国から排除していたよ」

「は?」

「この忠告はよく覚えておいて。もし、また権力を振りかざして私の意思を無視してどうにかしようとするなら、国と王族への協力は一切しないし、私は国を出る。それか最大限の譲歩として、第二王子の私に関する記憶を消すから」

「は、お前ナニ言って…」


 ブレイブが戸惑ったように口を開けて、リフィや兄達を見た。スピネルが顔色を悪くしながら、リフィに頷き返す。


「解っているよ。そんな事にはさせないから。今は色々と知る事が多くて混乱したせいもあると思うんだ。呑み込めるまで、私たちもしっかり見ておくから」

「王太子殿下たちがソレの手綱を握るというなら、今回は見逃しますわ。ただ、また騒ぐようなら――次はございません。陛下方にもそのようにお伝え下さい。私の存在を認識した以上、言い含める為にも、これ迄黙秘していた事情を伝えて頂いて構いませんから」

「待てよ。何でお前がそんな偉そうな事」

「リフィーユ嬢は、この国で一番の魔法使いなんですよ。一国を滅ぼす事も可能で、魔法に関してはケイよりも強いんです。貴方やぼくたちでは到底敵いません」


 イナルの言葉に、ブレイブが唖然とする。

 リフィが嘆息しながら魔力を漂わせると、抉れていた地面や草木が以前のように元に戻った。精霊達も協力してくれて、緑が生き生きしている。

 僕以外の全員が、驚いて辺りを見回す。


「第二王子殿下。私は貴方に全く興味がありませんし、関わりたいと思うほどの魅力を感じません。王族という貴方の立場がなければ、逆らう事が出来るのなら、きっとそういう異性や同性は多くいると思います。今の貴方が認められているのは血筋と容姿以外に何もないのだと」


 辛辣な言葉が容赦なく、ブレイブに突き刺さっていくのが見えるようだった。直接脳を殴られたような衝撃を受けたブレイブが心ここにあらずといった風情で脱け殻になった。


「また何かグダグダと仰るようでしたら、貴方から私の記憶を奪いますので。それと、騎士団長とウェンド侯爵が到着したようなので、私はこれで失礼します。説明は皆様にお任せ致します」


 淑女の礼をとると、リフィが自分の姿を見えなくした。「誰かに見られるわけにもいかないので、ケイの結界の一部を緩めて出ていくね」と声がしたので、僕は「気をつけて」と頷いた。


 リフィの気配が去ったのを確認しながら、僕はリフィの鮮やかな魔法に驚いているスピネル達を見た。

 もしかしたら、直に彼女の魔法を目の当たりにするのは、初めてなのかもしれない。


 辺りに視線を向けるスピネルを見た。

 スピネルはまだ精霊の眼を使いこなせていない。今はそれだけが理由じゃないと知っているけれど。

 王族の証である精霊の眼の効力が、徐々に衰えている事を聞いたのはつい最近だった。数百年前からその事に気付いた王家と側近がひた隠してきた事実。


 聞いた時、僕は少し驚いたけれど、納得もしていた。精霊王達も力の衰退で代替わりがあるのに、人で初代から血も魔力も薄れていく人の身に当てはまらない訳がない。

 だから陛下達は、精霊王と契約していると知った時から、リフィも僕も手放せない。僕達が精霊の眼を持つ可能性も、近くにいる誰かに与えられる可能性もあるから。


 特に、建国王が眼を貰った火の精霊王と契約しているリフィを手放したがらない。

 僕だけだったら、排除すれば特別な存在はいなくなるけど、リフィもいて、そのリフィに反抗されたり、何かあった時に対応する手段としては、僕が必要だろうから。


 前の陛下達は、何とかリフィと息子達を親しくさせようと、どうにか接点を持たせようと必死だった。

 今は期待せず、他所にいかないよう、他者が力を手に入れないよう見張っていた。


 僕は結界を解いて、やって来た騎士団長とウェンド侯爵を迎えた。ここに留まるのも目立つので、場所を移動しようとして、ハイドがいない事に気付いた。

 何処にいるか予想がついて、苛立つ。けれども、リフィには相手にされないと思い、僕は後で口止めしようと、問題児達をつれてその場を離れた。

 さて。

 どうしてリフィを追いかけていたのか、じっくり聞かせてもらおうかな。




・・・***・・・(リフィ)




 面倒事は優秀なケイに丸投げした私は、姿を消したまま、なるべく人気の無い場所を通って、自室を目指した。

 疲れたから、早く戻って休もうとしていた。

 枷を一つ外して魔法を使う姿を見られたけれど、きっとケイが外した事にして、誤魔化してくれると思う。


 第二王子に会ってしまったのは誤算だけど、だいぶ話も変わってきているし、今更、攻略対象者も何もあったもんじゃないよね。きっと好感度とかが目で見えたら、全員、伸び悩んでいるか、マイナスに振り切ってるんじゃないかな。

 心の安寧の為に、深く考えるのは止めて、自身をそこで納得させた。


 ――それはそれとして。


 後をつけてくるハイドはどうしたものかな…。

 一応、存在を無視して撒いているけれど、相手も姿を見つけられないながら、勘か何かで追って――今、空気の匂いを嗅いでなかった!? 犬!? 気配とかじゃなくて、匂いで追って来てるの!?

 何か嫌だ。


 少しだけ風魔法で微風を起こし、土埃で視界を少し塞いで、匂いを消して、追って来られないようにして猛ダッシュ。

 ある程度、距離を稼いで、今の魔力量でも転移魔法が使えそうな所で、直ぐに発動させて自室に戻った。


 部屋の外は危険がいっぱいだった。

 もう暫くは引きこもろう。変なのに会いたくないし、絡まれるのも面倒だから。

 大人しく引きこもっておくのが一番だね。


 学園への説明もケイ達に任せたし、賠償とか補償とかは第二王子が原因だから、向こうに請求がいくはず。

 丁度、騎士団長達も到着したし、後は……しまった。私が現状復帰した場所とか、追いかけ回された慰謝料とか、吹っ掛けておけば良かった…!


 稼げる機会を逃すなんて、何てことを。……いや、あの人達と関わる方が嫌だから放っておこう。

 それにしても、あの面子で何をしてたんだろ。なぜ国宝級の魔道具を被って気配や姿を遮断して、人気の無い所を歩っていたのか…。

 考えても解らないというか、興味ないから放置で。


 きっと後でケイが教えてくれるかな。

 なんて、甘い考えで呑気にベッドにダイブした。

 精神疲労が大きかったのか、そのままぐっすり寝こけて、ケイや王様達からの連絡を無視ししまくっていた事に気付いたのは、翌朝。


 慌ててケイに連絡を取り、怒れる魔王様に私の家で待ち合わせを約束されて、身なりを整えてから、早めに家に戻ったよ。

 学園はサボ……ごほん、げふん。よくやってる自主休講にした。

 あ。言い直しても結局、意味が同じだ。


 突然戻った為、ルミィや家を管理している『影』が驚いたけど、取り敢えずお腹が空いているので、一緒にランチとデザートを作って食事をし、温室や家庭菜園の様子を見て、のんびりしていたら。

「楽しそうだねぇ」と笑顔の魔お…男爵様。


 あの状況の後で連絡がつかなかった事に、正座でお説教された…。

 取り敢えず神妙な顔で、その後の話し合いの内容や、王子達が一緒にこそこそ行動していた理由を聞いた。


「あの後は、騎士団長とウェンド侯爵が学園長と話して、四人を連れて城に帰ったよ。結界を張る前に少し漏れた、荒れた魔力を感じ取っていた学園側は、騒ぎを大きくしない代わりに、学園の方針に王候貴族の口出し不可と、生徒である子供が幅を利かせない事を要求したんだ。陛下達はこれ以上ブレイブの評判を含め、民にも周辺国にも、シルヴィア王族の地位を貶める話を広めない為に同意したよ。ブレイブは二週間の謹慎。彼が調査を任されていた案件を片付けながら、城の自室でみっちり朝から晩まで半日以上、これ迄さぼっていた勉強を詰め込んで、性格というか、考え方を矯正させるつもりみたい。それでも直らないようなら、拘束期間が延びて、学園に復帰するのが遅くなるって。一年を目安にしているけど、時間がかかる場合は、リル王女と他国に遊学した事にするらしいよ」

「え、王女様、留学するの?」

「うん。殿下が結婚するとしたら、国内よりも他国の王族か、有力貴族とさせたいというのもあるけど、本人の希望でもあるんだ。甘やかされない環境下で、もっと広く物事を見て自立したいそうだよ」

「偉いねぇ。二番目の兄に似なくて良かった」

「それはそうだけど、何でリフィが感慨深そうなの?」

「まぁいいじゃない。これで、第二王子に会う事も無いから、明日は学園に行こうかな」


 軽い気持ちで言うと、ケイが重々しく頷いた。


「君はそうした方がいいと思うよ。王家の口出しが無効となると、今迄サボりを見逃された君の特例も無くなるかもしれないから」

「何ですと!?」


 え、待って。何で私に飛び火してきたの?

 被害に遭ったのは、私も学園と同じというか、寧ろ私じゃない!?


「ちょっとだけ君の事も話題になっていたよ。今迄、見掛けなかった薄翠の髪の少女が、講義を受けに来ていたって。その中で数人、去年と一昨年に僕がエスコートした人だって気付いて、まだ五月の初めだからか、新入生だったのかもって勘違いしていたよ。新入生が何故か、二年生から選択する講義を受けたのかは、儚げな容姿から体が弱い新入生で、久しぶりの学園だったからって、勝手に理由がつけられて納得されていたよ」

「喜んでいいのか微妙。でも、私の特例がなくなるのなら、ケイだって」

「僕は一応、領地ある男爵で、公的な仕事もあるから、これ迄通りだよ」

「……学園を脅すネタって何かあったかな…」

「こらこら。物騒な事を考えない。改めてスピネル達もなるべく君と接触しないよう言い聞かせたし、ハイドも口止めに応じてくれたよ……って、そんな疑惑の目を向けない!」


 だって信じられないでしょ。ハイドが何の条件も出さずに大人しく引き下がるなんて。


「リフィの言いたい事も解るよ。実際に条件があるから」

「やっぱり。何を要求してきたの? ていうか、何で私に要求してくるの。そこは王子達に条件を出す所でしょ」

「本当ならね。けど、ハイドが陛下達に、君と個人的に友人として親しく付き合いたいと言ったから…。陛下達も君が了承するなら構わないって」

「それって自分達に損害が無いから許可を出して、私に忖度しろと? それとも私なら条件を呑まないと思って?」

「両方だろうね。他の生徒には内緒でいいから、あくまで個人的に友人になりたいそうだよ。街に遊びに行ったり、冒険者としてパーティー組んだり、お茶したりする普通の友人に」

「断ったら?」

「君の事を探し回るかな。実際に今日まで、貴族クラスを中心に探し回っていたから」

「こわっ!! え、本当に…? ……こわっ!!」


 いい加減に、親しくするの諦めようよ…。私と仲良くしても、こき使うか権力を利用するだけで、お得な事なんて何も無いよ。


「隣国の王子が、学園で探し回って騒ぎになったり、下手に暴走されるよりは、僕が必ず間に入る事を条件に、友達認定をしておいた方がいいと思うよ。何かに誘われても、三回に一回だけ応じるくらいにして」

「じゃあそれで。ケイに負担をかけちゃうけど」

「負担ではないよ。婚約者を他の男と二人で会わせておく方が問題だから」

「……」


 さらって言われたけど、何だかじわじわと頬が熱くなる。いつの間にか、こんなにイケメン度を上げてくるのは止めて欲しい。

 ここで「ありがとう」とにっこり微笑んで流せれば、大人の女性な対応なのかもしれないけど、現実は気恥ずかしさから「…それはどーも…」と無愛想に返してお茶を飲んで誤魔化すのが精一杯だった。くそぅ、何だこの乙女のような反応は。むず痒い雰囲気に消えて欲しい。

 そんな私を見て、静かに喉を震わせて笑うケイ。

 思わず半目で少し睨んだ。


「ごめん。僕こそ君がそんな風に反応してくれて、感慨深いよ。何しろ、何十回と思いを伝えて漸く信じてくれて、今ではこんなにきちんと考えてくれているから」

「ぅぐ…」


 何とかお茶を飲み下して、噴き出すのも噎せるのも回避した。何を返しても墓穴を掘る気がして、話題転換する。


「そういえば、どうしてあの四人はこそこそと動いていたの?」


 明らかに甘くなりそうな話から逃げたけど、ケイは応じてくれた。


「あれはブレイブが任されていた調査の案件と関わっているというか」

「うん」

「何というか、今年の新入生から四人が逃げているというか会わないようにしているというか」

「んん?」

「……サリーか誰かから何か聞いていない?」

「サリーは先月末から明日まで、家の事情で休んでいるよ。チェシーも、外交官としてまた他国に行くお父さんを見送るからって、一週間位お休み。だから私も引きこもり生活を満喫して、久々に今日出てきたんだけど…」

「……自由を満喫してるね、リフィ」

「もちろん」


 自信満々に答えておいた。ケイが少し悩んで、口を開く。


「君の学園での情報源であるサリーやチェシーが不在の間に、スピネル、イナル、キース、ブレイブ、後はケビン先生に殆ど毎日何かしら接触がある少女がいるらしいんだ。僕も仕事で離れたり、あの四人と違う講義で会わなかったりで、詳しくは知らないけど。四人とも廊下や階段ですれ違った際に転んだり、転びそうになったその子を助けていたり、偶然探し物をしているその子とぶつかって一緒に探したり、混んでいるカフェで相席してお茶することになったり、早めに行った教室や、講義後に残っていた教室で二人きりになって閉じ込められたり、何か色々接触があったそうだよ」

「…そうなんだ。えっと、四人というか、五人全員が?」

「五人全員が」


 ……それはまた何というか…。


「凄い偶然もあったもんだね」

「棒読みで心にも無い事を言わない。というか、何で少し嬉しそうなの」


 にやけそうになってたのが、バレてる。だって私としては、彼らが気にする他の何かがあった方が嬉しいから。


「四人は、ケビン先生も同じようになっている事をまだ知らなくて、ただ一昨日の休みに陛下達に呼び出されて、四人がとある調査を任された後に、城で話す機会があったらしいんだ。そこで最近の出来事でよく知り会う子がいるって話になって、その子の特徴や知り会うシチュエーションがそっくりで驚いて、何だか怖くなったのか、会わないようにする為に」

「国宝の魔道具を持ち出して姿を隠して、会わないようにしていた?」

「みたいだね。四人とも僕や君みたいに光の屈折で姿を隠せる程、器用でコントロール出来る訳じゃないし、光魔法の適性も殆ど無いから。悪い子じゃないし、普通に好感が持てる子らしいけど」

「偶然にしては出来すぎている。というか、自分達に接触があるなんて何か理由がありそう?」

「そう考えているみたいだね。特にイナルが」

「大変だねー」

「……他人事だね」


 軽く流した私に、ケイが吐息した。ちょっとだけ心配になる。もしかして、ケイにも何かアプローチというか、接触があったのかな…。


「ケイは何か言われたか、その子と関わったりしたの?」

「僕はまだ関わっていないけど、四人で任された学園での調査があるから、僕にその子の事を調べて欲しいって、イナルには頼まれたよ。それでケビン先生とも接触があった事に気付いたんだけど」

「ケイ。調査料はしっかり請求してね」

「いきなり何の話?」

「親しくしても、タダ働きはダメですよっていう話」

「……そんな話してなかったよね?」

「そうだね。調査結果が解ったら、私にも聞かせてね」


 呑気な私の返答に、ケイが少し呆れた。


「僕としては、君やチェシーが何か知らないかなと思ったんだけれど」

「その五人が関わっているとそう考えたくなるよねぇ。でも、私は知らない。詳しいとしたら、私よりもチェシーだと思うよ。私は一つの決められた話しか知らないけれど、チェシーなら色んなイベン…出来事を知ってるんじゃないかな。相当やり込んでいるみたいだったし」

「解った。チェシーには改めて聞くとして、君の意見も聞いておきたいな」


 真剣に見つめられて、私も真面目に考えた。


「私は…まだ何とも言えない、かな。その四人、じゃなくて五人が接触した話を全部詳しく知りたいのと、その女の子はハイドとは接触しているの?」

「そこはまだ確認中。僕もイナルに相談されたのが昨夜だから」

「それならハイドにも聞いてみて。ハイドが……」

「君探しに夢中で覚えてないとしても、従者としてついてきているヴァンフォーレや影ながらの護衛達なら、何か知っているかもしれないね」

「…そだね」

「もしハイドから話を聞き出すとしたら」

「…解ってるよ。友達の私が同席した方が聞きやすいんだね。その時は言って。私もその子に興味があるから知りたいし、少しは協力するよ」

「ありがとう」


 私の承諾を得られて、ケイが満足そうに笑った。

 紅茶を飲んで、内心で溜め息を吐いた。

 ……何だか、私が上手く利用されている気がするのは…あ、いつもの事でしたね。


 私もケイに甘くて、助けになりたいと思ってい………はぁぁあぁ。これは…本格的にヤバイというか毒されているというか…知っていたけど! ………認めるしかないのかな…。


 紅茶を飲みながら、今後の予定を立てているケイを見て、私は自覚というか、観念して認めた。

 どうやら、腹黒くても執着されていても、私はこの男爵様が好きなようです……。




お疲れ様でした。

次は、コメディの強いアホ話の番外編と思っていたのですが、今回の続きと番外編を併せた本編③にしようかと…どんな話になるか未定です。


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