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11才 (ケイ ② ・リフィ )

お待たせしました。急いで書き上げたので、後で直すことがあるかと思いますが、内容に変更はありませんので読み返さなくても大丈夫です。


会議の続きになります。

二万二千字以上あって長いので、疲れないよう読み進めてください。


 ・・・ *** ・・・ (ケイ)


 会議場の視線を集めたウェンド侯爵は、名案とばかりに口を開いた。


「陛下、ムーンローザ嬢をサンルテア男爵子息ケイトスに嫁がせるか、婚約者として扱っては如何ですか?」


 それがいいと頷くウェンド侯爵以外、全員が反応に困って固まり、僕は白けた目を向けた。ウェンド侯爵は難問を解いたように興奮し、自分の思考に没頭して話す。


「彼女はケイトスを大切にしています。憎からず思っているのは明白。そしてサンルテアの直系ですから血筋も問題ない。婚約者としてケイトスの側に縛り付ければ、貴族の社交界に入り、国と王家を無視できなくなりましょう。悪知恵が働くものの、分も弁えている彼女なら、自分の立ち居振舞いが及ぼす影響を理解しています。サンルテアの立場を悪くしようとしない筈です」


 僕は陛下や周りの反応を一瞥いちべつした。

 リフィが婚約者……楽しそうだけど、きっと色々と巻き込まれて振り回されそう…って、今とそんなに変わらなかった。何だか虚しい気分になる。


「確かに名案ですね」

「そうだな。彼女なら侯爵が仰った通り、婚約者として正しく振る舞うでしょう」


 宰相が頷き、騎士団長が含みを持たせながら肯定した。子供組が何か言いたそうに…キース以外が憐憫れんびんの眼差しを僕に向けてくる。

 最終的に、全員の視線が陛下に向けられた。陛下は眉間の皺を揉みほぐしながら、嘆息する。


「案としては悪くない。騎士団長も肯定した通り、リフィーユを確実に社交界、ひいてはこちら側の権力圏に引き込める。だがな、契約書にあっただろう。彼女のプライベートに一切関わるなと」

「ですから、サンルテア男爵家、或いはドラヴェイ伯爵に命じれば宜しいかと。血筋を保つ為に、リフィーユ・ムーンローザ嬢とケイトスを婚姻させよと。我々が直接あの娘に関わる事は出来ませんが、貴族たるサンルテアに関わる事は禁じられておりません」


 陛下が吐息した。僕を見てくるのを止めて欲しい。


「そうは言うが、ウェンド侯爵。サンルテアやドラヴェイに不必要に手を出せば、彼女が黙っていない。『大波』も、今回のケイトスの怪我も、国として与えられたサンルテアの仕事だから、リフィーユは沈黙している。そうでなければ、不平不満を容赦なく述べて、国を困らせるくらい平気でする。大神殿の不祥事の件もこちらへの警告、と言えなくもない。それに…文句は言わなくても不満だと目で訴えてきたぞ…」


 最後の方で溜め息を飲み込むように俯かれて、僕は王の言葉を聞き取れなかった。どっと疲れたような顔をしている。

 黙考していたダスティ侯爵が、口を開いた。


「お言葉ですが陛下、古くからある血筋を保つ事も貴族の務めでしょう。国から与えられたサンルテアの仕事と言えます。それなら何の問題にもなりますまい。サンルテアにとってもあの娘を手に入れるのは利益がある」

「――だ、そうだが、ケイトス?」


 僕に話を振るのは止めて下さい。というか、僕に侯爵二人の説得を任せないで欲しい。


「王命とあらば従いましょう。ですが、僕が申し込んでも彼女が頷くとは限りませんよ」

「え?」

「何だと?」


 侯爵二人が虚を衝かれた顔をした。


「僕が彼女に強制できる事なんてありません。彼女が嫌だと断れば、話はそこで終わりです。そもそも暗黙の了解で、血筋云々は伯爵位以上の筈でしょう」

「そういう事だ。リフィーユが選ばないと意味がない」


 陛下が頷き、ダスティ侯爵とウェンド侯爵が何か言いかけて、騎士団長と宰相の鋭い視線に押し黙る。珍しい牽制を意外に思いつつ、余計な事をされては迷惑だから、もう少し釘を刺しておく。


「皆様、何か勘違いされているようですが、リフィがずっとサンルテアにいるとは限りませんよ」

「どういうことだ?」


 ダスティ侯爵が眉を顰めた。


「いくら王命で国の為でも、彼女の力を利用しようと欲すれば――もし僕が彼女の信頼を裏切るような真似をすれば、彼女は僕とサンルテアから間違いなく離れますよ。むしろ、異界にでも逃亡しかねません」


 そんなの僕は御免だ。

 今の関係が全部壊れて、リフィが離れていくなんて。

 僕は、さもありなんと顔を青ざめ、想像している大人たちを見た。「そうなったら、オレに文句…いや国に嫌がらせしてくるな」と陛下が呟いた。


「天災規模の力が行方知れずになるなんて…恐ろしすぎる…」


 ウェンド侯爵が頬を引き攣らせた。大人組が無言で首肯して、戸惑いながらそんな親たちを不安そうに見る子供組。


「リフィが本気で逃げれば、捕まえるのは困難ですよ。『影』の手段も、誰がどんな風に探すかも、罠も読んだ上で逃げますから。先程も申し上げた通り、魔法はリフィの方が上です。精霊たちも彼女の味方をする可能性が高いでしょう」


 沈黙する大人たちに、イナルが頭が痛そうにこめかみを揉んだ。


まさしく、触るな危険で、現状維持にしておく他ないという事ですか…。ですが、彼女の気分次第で振り回されるというのも釈然としませんね」


 息子の言葉に宰相が諦念の溜め息を吐いた。


「だからこそ現状維持なんですよ。これまでの話通り彼女に何かしなければ、普通にこの国で暮らしていつも通りなんです」

「……とんでもなく厄介な存在というわけか」


 スピネルが嘆息した。陛下が「まぁ、ケイトスがいれば大抵は上手く間に入ってくれる」と謎の期待をかけてきた。


「そういうわけだからケイトス、例の奴を『影』に見習いとして入れる話をどうにかしてくれないか」


 スピネル、イナル、キースが、眉間に皺を寄せた。話には聞いていても三人が関わっていない件なので、口を結んで様子を見守る。


 僕が、南方のルドルフ地方に盗賊捕縛任務で赴き怪我をした原因――魔物襲撃に混乱した新人騎士に斬られた政治の関わる一件。

 新人騎士は、我が国の属国となった元ルドルフ国を治めるデネシャ・ルドルフの関係者だった。


 正確に言うなら、ルドルフ領地を治める後継者。更に正確に告げるなら、子供のいないデネシャが亡き弟夫婦の代わりに育てた甥っ子であり、後を継がせる予定と思われるモレク・ルドルフ十九歳。


 何かにつけて国や王都と張り合っては、議会で国政に口出しするデネシャ・ルドルフ。その甥が僕を傷つけた騎士で、この一件があってからルドルフは中央への態度を緩和してきた。ついでにくだんの騎士モレクが、僕に『影』として仕えたいと国を通して申し出てきた。


 国としては、モレクを取り込んで今後のルドルフ地方と良好な関係を築き、デネシャの力を抑止したい。謂わば人質であり、特殊な護衛対象を『影』に預けてお守りをすると同時に、何かあれば責任はサンルテアに。そうしてルドルフを完全に国の一部として囲い込んで、風通しのいい政を行う為に必要な駒にしたいのだと思う。


「難しいですね。彼を預かる事に『影』は賛否両論ですが、リフィが反対していますから」


 思わず吐息が零れた。

 デネシャやモレクの事は伏せていたのに、いつの間にか精霊の協力を得て自分で調べて真実を知り、『影』に入れようという動きも国の思惑も知って大反対。リフィの意向もあり、『影』も反対姿勢が強い。


「お前の従兄弟は『影』の首領ドンか何かか…?」


 陛下が疲れたように項垂れた。僕は曖昧に微笑んでおく。

 実は、反対するついでにリフィが、モレクの受け入れを断る理由に自分を使っていいと言ってきた。父もクーガも迷っていたけど、僕に判断を任せた。

 キースが発言を求めて、王が許可を出す。


「ぼくは反対です。彼では『影』の足手まといです。ただサンルテアの屋敷に囲われて守られるだけになるでしょう。勝手に動いて『国の闇』を暴こうとしている可能性もあります。勿論、そんな事にはならないと思いますが、『影』の任務に支障をきたすと思われます。リフィーユ嬢も反対していますし、これ以上彼女の機嫌を損ねる真似はしない方がいいのではないでしょうか?」


「それもそうなんだが、お前が取り持てば一発だろ、ケイトス。それに任務も問題ないだろう。何せ、お前が参加した任務では死者が一人も出ないという『戦神』らしいからな」

「それ、やめて下さい」


 この一、二年で、地方の騎士団の救援や盗賊団の壊滅、魔物の討伐に参加しているせいか、僕がいれば誰も死なずに勝利すると、どんな困難な任務も成功すると、幸運のマスコットのように戦神と噂が出回っていた。

 ダスティ侯爵が口を開く。


「モレク・ルドルフの受け入れをあの娘が拒否したのは、我々への当て付けか?」

「違いますよ、僕が怪我した元凶だからです。明確な理由は告げず嫌としか言いませんが、『影』に入ったら訓練で叩きのめされても誰も文句を言えないよね? と、笑顔で問われたとだけ答えておきます」

「死刑宣告に聞こえるな…」


 虚な目をした陛下に、宰相も「サンルテアの守護があるから頼みたいのに、大事な預り物に何かあっては本末転倒ですね」と嘆いた。

「本気で鍛える分には都合がいいのだがな」と騎士団長が何とも言えない顔をした。


「ルドルフ地方との確執は有名で、政治が関わる事ですから、リフィも大っぴらには敵対しませんよ。――ヤるなら、証拠を残さず事故死あたりです」

「全然安心できねぇ」


 真顔の陛下に、僕は「冗談です」と微笑んだ。「全く冗談に聞こえなかったぞ」という抗議は無視した。


「恐らくリフィの説得は出来ます。彼に知られず護衛で囲み、屋敷に滞在させる事も可能ですが、『影』に入れるのはお断りします」


「何故だ?」と問う騎士団長に、僕は真面目に回答した。


「キースが危惧した通り、デネシャ・ルドルフは国の裏情報を集めたいのでしょうが、そうはいきません。彼は国が預かって下さい。それに、サンルテアに恨みを持つ輩がいますので、僕の周りは何かと危険です。守れというのでしたら守りますが、魔物の襲撃に恐怖して取り乱した彼が、僕の側にいて精神を病まない保障はありません。友好な関係を築く所か、錯乱したモレクが自分への嫌がらせと逆恨みした挙げ句、デネシャから甥を傷つけたと抗議されて関係が悪化という可能性もあります」


 暫く沈黙が場を支配して、王が嘆息した。


「わかっている。お前は特務騎士として、たまに騎士団の手伝いをしている事にして、モレクは城に滞在させて騎士団で預かるとしよう」


 そうして、人質兼この国に逆らわないように刷り込み、将来的に友好な関係を築きつつ従属させるのだろう。それはモレク次第だが、僕は厄介なお守りが回避できた事に安堵する。生憎、任務と父の手伝いとリフィの面倒を看る事で手一杯だ。


「ケイトス、今後は建前の特務騎士としてモレクと何度か任務に当たらせるぞ。その際は、彼を守れ。モレクが誰かに傷つけられる事も、傷つける事も許すな」

「御意」


 僕は余計な事は言わず、目を伏せた。

 いくつかの確認事項や連絡事項を話し、詳細や決定事項の擦り合わせは後日にして定期報告会は無事に終了した。


 色々と知った子供組は、あまりの濃い内容に当惑していた。陛下たちも頃合いだと感じたのか、僕たちは退室を促され、石の間を後にした。


 地上に向かって歩きながら、リフィが婚約者候補だった事に、私には御せそうにもないとスピネルが呟き、イナルとキースは返答を避けた。

 僕は自由奔放な従兄弟を思い浮かべ、コメントを控えて微笑む。リフィが嫌がっているから、それはあり得ないと思いながら。


「ケイトスは私たちより早く、ああいう政治の世界で戦ってきたのだな」

「そうですね。ここ数日で、すっかり頭が混乱しています。ケイは堂々と、陛下たちに臆する事なく相対していたというのに」

「これも経験の差か。はぁ、これから関わっていく事を考えると今から憂鬱だ」


 三人の反応に、僕は苦笑を返した。関わらざるを得ないから、自然に身についた僕とスピネルたちは違う。物心ついた時から大人に囲まれ、裏での交渉事や騙し合い、駆け引きや詐欺を日常に見聞きしてきた僕と違って、三人は正攻法に国同士や貴族のやり方を学んでいくべきだ。


「三人はこれから慣れていけばいいんだよ。僕の専門は裏での交渉事だから。スピネルやイナル、キースは正面から国や貴族や民と誠実に向き合えばいい」


 地上への階段が見えてきて、僕が行方知れずの従兄弟を探しに行こうしたら、三人に止められた。もう少しリフィについて話していけと腕を掴まれる。


「そんなに急いで帰る事もないだろう」

「そうですよ。陛下や父たちからの情報ではまだ不足しています。彼女をよく知るケイからの意見も聞きたいです」

「何か予定が詰まっているのか?」


 予定があるなら無理強いはしないと、キースが目で訴えてきた。大抵の事なら、王族優先で済ませられる。けれどキースは、「用事がある」と言えば、身分が上であってもを説得してくれるだろう。イナルも言うまでもなく引くだろうし、スピネルも優しいから「後でいい」と納得してくれる。

 僕は少しだけ友人に、正直に向き合ってみた。


「実は監視対象が異界と通じる森で行方不明だって、会議前に連絡が来たんだ。また問題が起こる前に、速やかに見つけて回収しなくちゃいけないから行ってく――迎えが来たみたいだ」


 三人が目を見開いた。人気のない回廊を、極彩色の尾と白金の羽毛を持つ、風の上級精霊ウィンが飛んできた。

 左腕を差し出すとウィンが止まる。

 地上の回廊に出たので、僕は遮音と読唇不可の結界を張った。


「探したぜ、ケイトス」

「どうしたの、ウィン」

「リフィの姿が見えなくなって一時間が過ぎた。どこを探しても見つからないと恐慌状態のアッシュがついにブチギレたぞ。ノームたちが宥めても治まらないから、お前がどーにかしろ」


 話を聞いて慌てるスピネルとキース。冷静に僕を見たイナルが「大丈夫なのですか」と不安そうな顔をした。


「本人の前ではそんな風に見せないのに、アッシュは相変わらずリフィに過保護だね」


 微苦笑した僕に、ウィンが同意するように頭を下げた。


「全くだ。神経が極太のリフィを心配しすぎだ。ノームがもしかしたら、王長の所に行ったのかもしれないと言っているのに、腹を空かした猛獣のように辺りを威嚇しまくっている。あのヒヨッコめ」


 言いつつも、そわそわと落ち着きなくウィンが尾羽を動かし、片翼を開いては閉じている。その態度がアッシュに似ているとは言わずに微笑んだ。

 三人に目を向けると、「お、王長…」と口を開閉、混乱して頭が動かないのか硬直していた。ウィンが気にした風もなく、黄色い嘴を羽に突っ込んで羽づくろいをする。


「兎に角、側に行け。お前が行けば、あれも周りの精霊たちも落ち着く。それに前みたいに、変なのに遭遇したり、連れ拐われたりしていないとも限らないからな」

「……前みたいに? 何かあったのか、ケイトス」

「変なのに遭遇って何かトラブルでも?」

「連れ拐われたりって、何があったんだ。探すのなら手伝うぞ」

「それなら人手が多い方がいい。私も行こう」


 善意から申し出てくれたキースに、スピネルが乗ってきた。


「大丈夫だよ、こっちで探すから。それに土地勘のない場所に行って君たちが二次被害に遭う方が問題だ」


 この世界と上級精霊の住む異界が通じる、清らかな場所があちこちにあるけれど、辿り着ける人は滅多にいない。多くが奥深い森や山、洞窟や滝壺や湖にあるからだ。

 地理を知って通い慣れた人か道に迷って偶然発見した人、魔道具や精霊の加護持ちや精霊の案内で行けるが、それを知る人も少ない。


「ケイ、殆ど人と会わない場所で、あなたの従兄弟は何度かトラブルに巻き込まれたというような事を言いましたよね?」

「……うん。リフィは珍しい薬草や木の実を採りに、アッシュや精霊たちとその森に行くのだけど、偶然にも精霊を密猟する男の上級冒険者三名に遭遇して、出会い頭で精霊避けの石で作られた虫取り籠の中に捕まった下級精霊を見て、問答無用で顔面に蹴りと拳をお見舞いして大男二人を倒し、襲いかかってきた一人も後ろ回し蹴りで叩きのめしたんだ」

「「「………………」」」


 スピネルたちが呆けて口を開けた。反応に困っている。

 気持ちはよくわかる。僕も精霊たちから聞いた時は耳を疑った。いかに精霊たちが格好よかったとヒーローのように、興奮して語っても、ナニしてんのリフィ…、と思ったから。


 因みに特殊な籠は売り手を見つけてから粉砕して、男三名は荷担した籠の売り手共々、ギルドマスターのクルドに貸しとして、高値で身柄を売りつけていた。

 精霊を敬うシルヴィア国でそんな不祥事が発覚したら、国民から冒険者たちへの当たりがきつくなり、他の冒険者たちの活動に支障を来たし、ギルド支部を縮小されて、国から賠償金を求められるから。

 シルヴィア国内での冒険者活動において、規定規約を無視した犯罪に変わりはないので、本国で重犯罪者の牢屋に入れられているらしい。


「でもそっちはまだいい方で、大変だったのは本人に自覚なく連れ拐われていた方かな」


 ウィンが「ああ、あれなー」と疲れたように同意した。


「何しろ精霊王たちが出張デバってきて、下手したら村一つ壊滅の危機だったからなー」

「は?」

「はい?」

「え?」


 スピネルたちが理解するのを拒絶したように、息を呑んで固まった。それでも国の危機を知らなければと思ったのか、イナルが「……何があったんです?」と聞きたくなさそうに、続きを促してきた。キースも顔面蒼白で、しっかり僕を見てくる。


「精霊たちと手分けして貴重な薬草採取をしていたら、道に迷った青年と出会したんだ。困っていた青年に、リフィは人助けで村へ案内してあげたんだよ……うっかり誰にも言わずに。それで忽然と姿が見えなくなったリフィに精霊たちが慌てふためいて、上を下への大騒ぎになったんだ」

「……無自覚に連れ拐われたと言っていませんでしたか?」

「ぼくもそう聞いた。今の話じゃ、迷った旅人を送り届けただけだが」


 何もおかしな所はないと首を捻るイナルとキース。ウィンが嘆息した。


「出会ったのは異界と通じる清らかな場所。リフィにもそう説明されれば、人ならそこで精霊をよく見たという噂を思い出すだろ。幻想的なその場所で、目の前にはこの世のものとは思えない綺麗な娘。上級精霊が人型をとる有名な話もある」

「……目の前の少女に見惚れて、上級精霊と勘違いしてもおかしくないですね…」


 イナルが額を押さえて深い溜め息を吐いた。


「本人は呑気にはぐれないよう手を繋いで森と街道を歩いて、村に道案内したがな。その道中に話して仲良くなり、ある町へ薬師くすし見習いとして向かう途中と聞き、悪い人ではないと思ったらしい。田舎から出てきたその男は、すっかりリフィに見惚れて夢現。幸先がいい、手元に欲しいと無意識に思っていたようだが」


 ウィンの言葉に、三人の表情が強張った。


「あれは本当に見てくれだけはいいからな。お陰であちこちで、妙なのに目をつけられて誘拐されては、ケイとアッシュが奔走する羽目になる」

「笑い事じゃないよ、ウィン。ようやく騙されては誘拐され、薬を嗅がされて拐われたりする事が減ってきたんだから」

「それなのに、そいつにはまんまと引っかかったんだよな。村まで案内した迷い人に、送り届けてくれた礼に菓子と飲み物を貰って、人畜無害そうだったからと渇いた喉を潤して、意識を失った。眠り薬が混入されているなんて考えなかったらしいな」

「ムーンローザ嬢は大丈夫だったのか!? 何も被害に遇わなかったのか?」


 今までトラウマ話を聞いてきたスピネルが心配し、眉間に皺を寄せて難しい顔をした。


「何もなかったよ。強いて言うなら、その青年が闇魔法の使い手で、眠り魔法を使ってくれたお陰で、リフィは連れ拐われた自覚なく宿のベッドでぐっすり眠っていた事くらいかな。二人が村まで散歩している間、精霊たちが捜索隊を組んで探し回って、リフィを見つけて。その話が精霊王たちに届いて、誘拐犯を抹消しようと誰が始末するかで揉めたお陰で、僕が止めるのに苦労したってだけ」

「「「はぁぁぁあ…」」」


 スピネルたちが詰めていた息を盛大に吐き出した。疲れた顔をしている。ウィンがうんうんと首を振った。


「あの時は止めるのが大変だったな。リフィは寝ているし、迷い人もそんなリフィを見ているだけで満足して何もなかったから。精霊たちも不思議に思って、人の事はケイとアッシュに聞こうと連絡を入れて」

「本当に。もし髪や指先でも触っていたら、精霊たちが暴れた可能性が高かったから。精霊王たちも顕現しかけていたけど、誤解が解けて大人しく帰ってくれて、何事もなくてよかったよ」

「迷い人も折角知り合った上級精霊ともう少し一緒にいて崇めたかっただけで、無害だったからな」

「うっとり陶然とずっと見られているのもある意味怖いけど、本人は寝ていたから」


「そんな事で危うく村一つ消えかけたのか…」

「精霊王たちが出てきていたら、それ以上の被害でしたよ」

「というか、滅多に人と遭遇しない場所で、よくそんなに巻き込まれるな」


 キースの言葉に、僕は胸中で深く同意した。スピネルが苦笑いしながら、「何事もなくてよかったけど、その迷い人はどうしたんだ?」と、不思議そうな顔をしたので、精霊たちが怒っていて、もう関わるなと青年に言った事を教えてあげた。


「リフィを盗られると思ったチビどもが、近寄るなってうるさかったなー。でも、無害だったから三日くらい精霊が力を貸さなくて魔法を使えないだけで済んだ筈だぜ」


 ウィンの何気ない言葉に、イナルが青ざめた。そうだよね、三日も魔法が使えないって不便で、何かあった時に困る。

 寝ていたリフィは僕とアッシュで引き取って、勝手にいなくなったから精霊たちや精霊王たちが危うく暴走しかけた事だけ話した。


 精霊たちがそこまでするとは考えていなかったらしく、リフィは混乱しながら謝り、それでも精霊王たちにこの世界で何か壊したら契約解除しますと注意していた。

 久々の話し相手と、こっちの世界に出現できる契約者の存在を失ったらつまらないからか、自由な精霊王たちが不満そうに承諾していた。


「……精霊王たちまで簡単に説得できるって……本当に厄介な存在ですね。その力が誰かの手に渡った時の事を考えると、頭が痛いです」

「大丈夫だよ、イナル。リフィは利用される相手を選ぶから。それ以外は自分の意思で力を振るうけど、普段はそんな力なんて埋めておけばいいとしか思ってないんだ。だから、契約書がある。今の所、リフィがどうにか出来ないのは権力に対してだけで、『大波』の件がなければ陛下たちが知る事もなかった。正神殿長と共謀して力の存在を隠したままだったよ」

「別の意味で頭が痛いです」


 僕が苦笑すると、イナルが吐息した。


「ですが、解りました。現状維持にしておけば彼女の存在は一部以外に秘匿され続けて、これまで通りなのですね。国や貴族に利用される事を危惧して、我々に口止めと接触不可の契約を結ばせた」


 感心するイナルに、「そんな理由だけじゃないと思うぜ」とウィンが水を差す。


「あれはただ面倒なのに関わりたくないだけなんだよ。貴族は面倒で嫌が一番の強い理由だ。それよりケイ、アッシュが痺れを切らして迎えに来たぞ」


 ウィンの視線を僕たちが辿れば、丁度アッシュがノームを連れて転移してきた。傍目には、灰白色かいはくしょくの成犬と黒ウサギの組み合わせ。

 ただアッシュの目はギラギラしていて、周囲に重苦しい威圧感を放っていた。


「ケイ、リフィがいない。探しても全然見つからねー」


 獣型のアッシュが精霊で、僕の側にいるのを何度か見かけた事はあっても、話す姿、ましてや人型で会ったスピネルとイナルはすぐ結びつかないのか、キースと一緒に驚き、気圧されたように下がった。


「ですから、アッシュ様。リフィ様は大丈夫ですよ」

「ノームの言う通りだよ。リフィなら大抵の事は大丈夫。何がそんなに不安なの?」


 ウィンが僕から離れて飛び回り、アッシュがウィンを睨んでから僕の足元に歩いてきた。落ち着くように頭を撫でると、アッシュが苦そうな顔をする。


「また変なのに巻き込まれていないとも限らねー」

「うん」

「王長の所にいるとしても、その王長に迷惑をかけているかも」

「……それはあるね」

「王長の逆鱗に触れてどこかに閉じ込められたり」

「それはないんじゃないかな」

「王長の側近に不敬だと閉じ込められていたり」

「それもないと思うよ。大丈夫。その内戻ってくるから。僕も手伝うから、範囲を広げて一緒に探そう」

「それでも見つからなかったら?」

「一緒に待ってよう。君も含めて精霊たちはリフィが好きなんでしょ。王長もその側近も、同じ無属性の力を持つリフィを悪いようにはしないよ」


 俯いていたアッシュが撫でる僕の掌に、頭を擦り付けてきた。かがんで不安げな緑の目と視線を合わせて微笑むと、苛立ちや焦燥が少し落ち着いたようだ。重苦しい空気が消えた。


 僕は幼馴染みとも言える三人に向き直り、森に向かう事を告げた。三人が戸惑いなからも頷く。

 ノームを抱えると、ウィンが僕を挟んでアッシュとは反対側の地面に下り立つ。

 転移魔法を発動させながら、あの従兄弟はどこに行ったんだろうと、僕は内心で溜め息を吐いた。




 ・・・ *** ・・・ (リフィ)




 子供たちが去って、静まり返る石の間。だが、誰も動く者はいない。侯爵二人が退席を求めて王様を見たけど、彼は沈黙を返した。ややあってから、おもむろに王様が口を開いた。


「もうそろそろ、いいのではないか?」


 声をかけられたので、わたしは魔道具を解除して、姿を見せた。王様の背後の壁際に突然現れたわたしに、ウェンド侯爵とダスティ侯爵が驚く。ああ、この二人にはわたしがいる事を話せてなかったんだ。


 注目されながら、素早く且つ優雅に歩いて、ケイがいた席の側に立った。驚きを収めた侯爵二人が呆れ返った視線を向けてくる。ウェンド侯爵が吐息した。


「魔法が使えないこの部屋で、よくもまぁ姿隠しをしたものだ」

「魔法ですとケイに勘づかれる可能性がありましたので、道具を使わせて頂きました。王太子殿下におかれましては、まだまだ『眼』を使いこなせていないご様子でしたので」

「――陛下を抱き込めば、ケイトスにも我等にも知られぬと計算したか。相変わらず可愛いげのない」


 ぶつくさ文句を言うダスティ侯爵に、淑女の微笑みを返した。


「それで、ケイトスに内密で何用だ? 散々、我等を邪険にして関わるのを嫌っておったのに。何か面倒でも持ってきたのか?」

「まぁ、酷い仰りようですわ。わたくしが迷惑をかけているのはサンルテアだけです」


 ケイたちには心当たりが多すぎるけど、国を困らせたりしていない。……たぶん。


「それともダスティ侯爵は、わたくしと遊んで迷惑を被りたかったのですか?」

「そんなわけあるかっ!」

「落ち着いて下さい、侯爵。ムーンローザ嬢も無邪気に心にもない事を言わないで下さい」

「お言葉ですが、宰相様。心にもないなんて心外ですわ。わたくしを庇護して下さるなら、契約内容を改める事も厭いませんのに」


 息子によく似た伶俐な面差しに微笑んだら、ヒクリと片頬を引き攣らせた。目が細められて、何を企んでいると言わんばかりに乾いた微笑を返される。疑ってかかるなんて失礼デスヨー。


「ほーぉ。では王家が庇護してもいいのか、リフィーユ」

「勿論ですわ、陛下。ただし、庇護ですから、わたくしの出す条件は全て呑んで頂いて、幼気いたいけな子供を利用しようとしない方に限りますが」

「………ムーンローザ嬢。一度、幼気の意味を調べる事をお奨めします」

「宰相に一票。お前の言うそれは、都合のいい生け贄と言うんだ。何かあったらまるっとその庇護者に全部被せて、逃げる気だろう」


 ノーコメントで笑っておいた。この人たち、わたしが何を言っても裏があると考えて、冗談や子供の可愛い言葉として受け取る気がない。お互いに言うだけ声の無駄遣いになる。笑顔も無料ただじゃなくて浮かべる労力がかかるし、さっさと帰ろう。


「それで、知りたかった事は知れたのか?」

「そうですね。まさかわたしに知らせず、両親が父の死亡偽装で取引していた事には驚きましたが……それはいいです。済んだ事ですので」


 始めにわたしが事実を無かった事にしたから、自分でペナルティを負う覚悟をしていたけど、既に両親が動いていた。ケイも男爵の仕事を負担して大変だったのに、三人とも何も言わずに王家から出された条件を呑んでくれて――感謝だね。

 だから、念押ししておこう。


「わたくしとしては、後で誰かに掘り返された際に、密約が反故ほごされる事なく、皆様が両親の味方をして下されば何も問題はございません」


 にっこり笑えば、固い笑顔が返された。王様が深く長い息を吐き出す。

 わたしに関する定期報告会の様子も一度見知っておきたかったし、王子たちの反応も見れて、ケイが特に困る事もなく契約書にサインを貰えて、概ね満足。

 何より、わたしを守ろうとケイや両親が無理難題を吹っ掛けられて、国に縛られてないと知れてよかったよ。

 わたしは厚手の外套のポケットから取り出した銀の腕輪を、簡易机の上に置いた。真正面の王を見る。


「この場に参加させて頂く為の約定通り、陛下がご要望された、緊急時わたくしに直接繋がる魔道具をお渡しします。だから決して、両親やケイ、サンルテアに手出しなさいませんように。わたしの存在を犯罪者にするとか、どこかに幽閉する等と脅しの材料として彼らの生活を脅かす事も、理不尽な条件をつける事も許しません」


 契約書を交わしていても、わたしの知らない所で不条理に何か要求しないとも限らない。王家として、上位貴族として命じられれば、納得のいかない事でも貴族である両親とケイは、少なくとも表面上は従わざるを得ない。

 国としての命令を、貴族のサンルテアに下す事は契約違反ではないから。


 そして、この場の面々との関わりを忌避しているわたしには、貴族のサンルテアが無茶な要求を突きつけられているかどうか、早期に知る術はない。ケイたちは道理に合わない命令を受けても、わたしが気に病まないよう内緒で従う可能性が高いから。


 勿論、契約書には魔方陣が組み込まれていて、サンルテアに命じた本人が僅かでも不条理だと思っていれば、契約違反がすぐにわかるけど、理不尽でも国として必要な判断で命じた事柄に関しては、その限りじゃない。


 王様たちがそんな酷い事をするとは思いたくないけど、しないと断言できる付き合いでも間柄でもないので、予防線を張っておくにこした事はない。


 ウェンド侯爵が、翡翠が一つ付いた銀の腕輪に細工がされていないか魔法で確かめ、手に取った。用心に用心を重ねて、魔道具の片眼鏡を通してじっくり見てから、王様に差し出す。


「因みに掛けられる通信は一度きりです。一回使えば壊れます」

「は?」

「報告会に参加したいとお願いしましたら、緊急時にケイやサンルテアを通さずに話が出来る魔道具が欲しいと仰ったではありませんか。何度も通信できては、いつが本当の緊急時かわかりませんし、火急の意味がございませんでしょう?」

「おい。リフィーユ」

「はい、何でしょう?」

「……お前という奴は、本当に…子供らしい可愛いげがないな」

「お褒めに預り恐縮ですわ。陛下方こそ、わたくしを子供として扱っておりませんのに、そのようなものが必要だと思えませんので省かせていただきました」


 間違えて酢でも飲んだような苦い顔の面々を見て、わたしは笑みを深めた。自業自得の状況とはいえ、多勢に無勢で不利な子供に、味方以外に優しくする余裕を求めないで下さいね。


「更に勘違いがないように付け加えますと、通信は出来てもその緊急の依頼を無償で必ず引き受けるとは約束しておりませんので、悪しからず。陛下もそのように要望されておりませんでしたよね。当然、証言の映像もごさいますわ」


 宰相と侯爵二人から無言で責める視線を受けた王様が、ぐっと言葉に詰まった。


「だってお前っ、会議前にいきなり現れて、ケイトスが怪我した事とか恨んでますって目で見てきて、この場に出席したいと圧力をかけてきて、ケイトスには内緒にしろだの取引だのと、時間ないのに出席に必要な条件を言えと迫ってこられたら、混乱するだろっ」

「……一理ありますね。ムーンローザ嬢、突然の訪問はマナー違反です。せめて三十分前には一言、連絡を頂きたかったです。ですので、陛下の出した要望の訂正を求めます。まさかマナーを知らなかったとは申しませんよね」

「まぁ、それは失礼致しました。わたくしもそのマナーを知っておりましたが、つい先日、王太子殿下とエンデルト様が、突然わたくしと病床の従兄弟の元へ執事の制止も振り切ってお越しになられたので、てっきりマナーが新しく変わったものと思い違いをしてしまいましたわ。後日、エアル様も急に訪われましたし、そういえば以前、王女殿下も突然何の約束もなく」

「――わかった! こちらが悪かった! 模範となるべき王族と高位貴族が勘違いをさせて申し訳なかったっ」

「陛下から直接そのような謝罪を受けるなんて、痛み入ります」


 王様も宰相も何故か疲れたように項垂れてしまった。きっと連日の激務でお疲れなんだね。それは察せられるけど、わたしを注意する前に、息子たちのマナー教育ぐらいしっかりしておいて欲しかった。そうすれば会わずに済んだのに。と、自分の油断を棚に上げて、若干の恨みを込めさせて貰いました。


 ダスティ侯爵が、「儀礼の再教育を厳しくする必要があるな」と静かに怒っていた。

 疲れた様子の陛下を見かねたのか、腕を組んでいた騎士団長が吐息して、わたしを観察してきた。


「その節は愚息が失礼した。それにしても、ムーンローザ嬢。よく警備の目を掻い潜って陛下の元まで辿り着けたな。誰かの――『影』やサンルテアの手引きがあったのかと、或いは重要機密事項である城内の見取図でもどこかで見たか、知らされたかと勘繰ってしまう」


 騎士団長から喧嘩を売られました。

 いいですよ、高値で買いますよウフフフフ。

 よりにもよって、忠臣である大事な従兄弟やお父様、『影』を侮辱してくるとは流石、騎士団長。サンドバッグ志願とはいい度胸だわー。


 ほんの少し城外と父の執務室までの道は教えて貰っても、それ以外や城内の部屋や路なんて教わってないよ。本来ならそれすらも教えちゃいけないんだろうけど、それを曲げてケイが教えてくれたのは、わたしが共犯者に巻き込んだから。まぁ、わたしが悪いのだけど…。いよぉーし、フルボッコじゃー。


「建国以来、『影』ながら支えて参りましたサンルテアに対して、随分なお言葉ですね。警備に穴があるとは少しもお考えになられませんの?」

「……」


 トン、と。

 微笑みながら、わたしが人差し指で机に触れると、机が粉々に砕け散った。王様たちの顔面から血の気が引く。気にせず、塵となった破片に触れて、修復の光魔法と創造の無属性魔法で机を元に戻すと、はっきり不気味だと雰囲気で語ってきた。化け物と目で言い、得体が知れないと態度で告げてきた。


「わたくしに古い結界魔法や格下の警備が弊害になると思われますか? 三年前も申し上げた筈ですよ。この空間で、皆様の生殺与奪を握っていると。あれから、わたくしへの対策を怠り、ご自分の職務怠慢に目を瞑られ、サンルテアを貶める発言をなさるなんて、騎士の名が泣くのではありませんか?」


 薄く冷笑すれば、ぶるりとウェンド侯爵が体を震わせ、ダスティ侯爵が固唾を飲んだ。空気が冷えていく中で、王様が掠れた声を出し、咳払いした。


「仕える騎士の無礼は主の責だ。すまなかったな、リフィーユ。オレも騎士団長も、ここにいる全員が、どんな難題にも応えて尽くしてくれるサンルテアを疑ってなどいないから安心しろ」


 一貫して、表情を読ませない騎士団長は、わたしを観察したまま。それがふっと力を抜いて、「無礼が過ぎた。申し訳ない」と頭を下げてきた。

 あらら、呆気ない。ここは「小娘が何をぅ」って怒り狂って突っかかってくるところでは? え、違うの?

 首を傾げたわたしに、騎士団長が苦笑した。


「本音を少しでも見たくて、失言をした。あなたの実力なら、この城どころかどこだろうと大抵は何とかなるだろう」

「こちらこそ生意気を申し上げました。……それで、観察結果は如何でしたか?」

「以前にも増して、サンルテアが大事なのだという事はよくわかった」


 間違っていない。けど別に、それを隠そうともしていない。

 ……騎士団長って天然…?

 王様と宰相がガクッと肩を落とした。寿命が縮まったとか、肝が冷えたとか呟いている。


 うん、気を取り直して、次いってみよう。

 わたしが城でこの人たちと関わるなんて、そうある事じゃないからね。今の内に知りたい事は聞いておかなくちゃ。


「ところで陛下。リル王女殿下の件ですが、彼女にはあの事件の真相をお知らせになったのですか?」

「まだだ。もう少し王族としての自覚をもってから、知らせようと思う。あれが十歳になった時にでもな」

「そうですか。それなら、よかった。わたしの大事な従兄弟を苦しませておいて、ただで済ませようものなら、あなた方を見限っておりました」

「………あー、その節は悪かったな。オレも軽率だった。お前も捕縛に手を貸してくれたそうだな。礼を言う」


 それからポツリポツリと質問された事に、答えられる範囲で返した。王様には情報料を安くしろと、宰相には魔道具を安く回せと言われたけど、商売人なので「びた一文負かりません。値引き交渉なら美少女写真か美女写真、少し捻った美少年写真で承ります」と返した。王様たちで「こうなったら息子を売るか」と話し合いが始まり、その間に質問に積極的なウェンド侯爵が、魔道具や精霊王たち、アッシュについて貪欲に情報を求めてきた。


「そういえば、契約していないながらもあなたとケイトスの側にいる次の土の精霊王はいつ代替わりするのだ? そもそも他の精霊王たちは何代目で、何故代替わりをする?」

「……その情報、いくらで買われます?」

「これだけ出そう」


 気前よくウェンド侯爵が小切手をくれた。自然と笑顔になる。さっきから今日だけで結構な額を儲けていた。

 王様たちの呆れた視線も何のその。貰えるものは貰っておくよ。


「アッシュがいつ代替わりするかは知りません。何百年後かもしれませんし、数ヶ月後かもしれません。未だに初代なのは、土の精霊王だけですよ。風が五代目で代替わりが一番多いです。光と水は二代目。火と闇は三代目になります。代替わりするのは力の衰退が一番の理由らしいですが、他と比べて風の代替わりが多いのは、精霊王が面倒で自由気ままに過ごしたいからだそうです。後継かどうかというのは、力の強さで何となくわかるそうで、当代の精霊王が次の後継者を望むと誕生するというような事を言っていたと思います」

「そんな理由があったとは…!」


 ウェンド侯爵が速記で、内容を書き綴っていく。


「ところで『精霊の眼』は精霊王が全員持っていると過去の記述にあったのだが、本当か? 陛下や殿下と王家に受け継がれている理由は?」

「『精霊の眼』は精霊王全員が持っていますよ。陛下方のは初代火の精霊王の『眼』をシルヴィア王族が頂いた物です。力の源を与えるような物ですからね、渡さないのが普通ですが、代々受け継がれるようにして『眼』を与える程、初代火の精霊王に建国の王は気に入られたのでしょうね」

「因みに王長は実在するのか? 王長も代替わりがあるのか?」

「いますよ。各精霊王たちをまとめて束ねる長ですから。王長は精霊王たちとは一線を画した存在で強さも桁違いで、代替わりはしません。この世界では王長の力は大きすぎるので、精霊王たちが住む異界とは別の界隈にいます。王長には側近が一人いまして、その側近が精霊王たちと同等の存在という程の力を有していますよ。王長に連絡が取れるのは精霊王だけですが、精霊王たちは敬い崇めているので畏れ多いと滅多に連絡を取りません。普段は年功序列なのか、土の精霊王が各王から一目おかれてまとめ役をしてますね」

「王長に会ったことが?」

「ありますよ。滅多に会えませんけど」


 異界と通じる森にいたら、いつの間にか何もない白い空間にいて、土の精霊王がいるって思ったら、自分は王長で、わたしのイメージを借りて見せているだけと返答があった。それでどうしても我慢できず、「お髭を触らせて下さい」と言っていた。気になっていた誘惑に逆らえず、ついポロっと。


 意外にも笑って了承されたから、ふわふわの白く長い顎髭を触った。側近には珍獣を見るような目で見られ、無礼だと淡々とお説教されたなぁ。その後はカードで遊んで寝てしまって、気づいたら家だった。側近が送ってくれたらしく、わたしが無礼だとケイとアッシュに文句を言って帰ったそうで。何をしてるの君は、とケイに苦笑され、アッシュに呆れられた。


 回想から現実に戻ると、王長の側近のように、面妖なものを見る目を向けられていた。……ワタシ何もしてないハズ。あと地味に傷つきました。


「こいつにいちいち驚いていたら、身がもたん」と王様が頭を抱え、あちこちから賛同するように溜め息が重なった。ああ、これ『影』で身に覚えがあるやつ――残念とか、珍妙とか、煩いですよ、侯爵二人。うら若き乙女を珍獣扱いするのはどうかと思う。


 思いがけず稼げたし、そろそろ帰ろうかな。撒いたアッシュとケイが心配しているかもしれないし。お昼も近くなってきた事だし。


「リフィーユ」

「はい、陛下」

「今回ここに入れる手引きをして話を聞かせた事、これまでのお前や家族に関する資料を読ませた事、今後お前の家族に何かあったのかお前に知らせて家族を巻き込まない事と、貸しは三つあるのだからお前との取引もあと二つあると思わないか?」


 ほほぅ、わたしにもっと要求を呑めよと……欲張り~。

 とりあえず聞くだけ聞いてみようか。


「一つは契約にある息子たちの接触不可の項目の削除と――」

「あ、無理です」

「早いな、おい」

「陛下、誠に残念な事に無理なんですよ。それなら、陛下たちとの関わり拒絶を緩めた方がまだいいです」

「喜んでいいのか微妙! 何でうちの息子たちそんなに拒絶されてんだ!? 親バカでも、顔もいいし権力も能力もある将来有望な奴らだぞ。お近づきになっておいて損はないだろ」

「お断りします」

「せめて少しくらい悩め」


 嫌です無理ですノーセンキューです。

 三人とも好意というより、わたしの身の上話に同情的で、何か関わると危ない人という丁度いい認識をしているのに、ナゼ仲良くする必要が?

 意味不明で、わたしの頑張りを無駄にする自殺行為だよ。


「数年かけて厳選に厳選を重ねた婚約者候補が沢山いると伺っております。悪い事は言いませんから、その方々と仲睦まじく一生を過ごしていって欲しいと幸せをお祈りしております」

「重い! まだ決まってないのに一生は重すぎるだろ。それに何だそのいかにも善意で奨めてますみたいな雰囲気は」

「紛うことなき善意です」

「リフィーユが言うと胡散臭い」

「何か裏がありそうでイマイチ信用できません」


 王様と宰相にディスられた。

 酷い、ちょっと今すぐにでも傷ついた心を癒しに、もふもふを堪能する必要がある気がする。

 大人たちからの疑わしげな視線に、盛大に嘆息した。


 いやもう、本当にお構い無く。友達も遠慮したいんで。というか、ケイと仲がいいからそれで問題ないでしょうよ。ケイを嫁に欲しいと言われたら、ちょっと悩むけど。そこは本人たち次第で―――


「いやいやいや、正気かリフィーユ!? まさかケイトスが言っていた嫁に出す疑惑を知る事になるとは……恐ろしいな、お前」


 また無意識に口に出していたらしく、戦々恐々とする王様たち。

 もう何なんですか。わたしなら兎も角、うちのハイスペック従兄弟に何の不満があるんですか! 文句があるなら受けてたちますよ?


 厳選に厳選を重ねた候補の中には、俗に言う悪役令嬢もいるのでしょうし、いやもう本当にマジ勘弁。これ以上厄介事はお断り。回避しようと必死なのに、自分から渦中に飛び込んでいくとかないわー。


 漫画で読んでいただけだから、悪役令嬢の名前を知らない。というか、思い出せないんだよね。小説には出てこなかったし、漫画でもそんなに出てこなかったんだよ。


 最初にヒロインが気に入らないとバカにする時は、ババンと取り巻きと一緒に登場してきたけど、縦ロールの印象が強くて…。本当に見事な縦ロールを作ってたんだよ。くるくるーって。

 長ったらしい多分一度は出てきた(?)カタカナの名前よりも、この縦ロール毎日セットするの大変だろうなって、メイドさんの苦労が偲ばれるといった印象が強くて、そんな感想しか思い出さなかった…。


 見た目も性格悪そうなキツめの美女だなぁってくらいしか思わなくて。よく出てくる主要人物の名前は覚えても、こそっと出て来てちょっとした嫌がらせする人は二、三コマ描かれてもいちいち名前なんて出てこないし、ゲームでは何度もがっつり出てきたのかもしれないけど、メインは主人公と相手との恋愛だから、本では省略されたのか何なのか「ナニあれ気に入らない」と取り巻きと睨んでいる場面はあっても一コマで、滅多に出てこなかったからなぁ。


 一応、婚約者とは幸せになって欲しいから、敵の敵は味方とざっくり分けて探そうとした時期もありました。――困難を極めたけど。


 それでも優秀な従兄弟と『影』の力があればと思い、巻き込んだケイに、伯爵位以上の年頃の女の子で人探しを依頼したところ。髪の色とか目の色とか知っている特徴を教えてと言われて「た、縦ロールの人」としか答えられなかった。

 ――困った笑顔を無言で返されました。


 結果、優秀な従兄弟と『影』でも難しく、発見には至らず、わたしも居たたまれなかった…。

 子供の時も縦ロールとは限らないし、カラーでは見た事ないから、髪や目の色なんて答えられない。

 ケイに、候補者が絞られたらわかるかもしれないと慰められたのは、従兄弟の優しさを語るいい思い出だよね。

 その後は色々と忙しくて、それどころじゃなかったけど。


 まぁそんなこんなで絞られて、調査してくれていた『影』から資料を渡されて、うっすら記憶に残るそれっぽい名前と照らし合わせて、見つけたご令嬢が一名。


 わたしみたいに記憶持ちじゃないかなと思っていたのだけど、奇怪な言動は特になく。アッシュには奇怪なのはお前だけだと言われたので、サリーにモデル犬として貸し出して、資料を読んでみた。


 暫定のライバル令嬢は、物心つく頃に母親を亡くし、外務担当で忙しい父親を持つ、大きな邸に使用人と暮らす同い年の寂しい少女だった。その寂しさを紛らわすためか、家では好き放題、何でも買い与えられて、誰も逆らえないワガママ侯爵令嬢が出来上がっていた。……無言で資料を閉じたよね。

 これは今のところ関わらなくていいかなって。


 資料によると、あと一ヶ月と少し先の十二月の後半に十歳になるらしい。兎にも角にも、益々学園には通いたくなくなったし、どうか婚約者とお幸せにと祈っておいた。

 それなのに、王子たちと面識を持っちゃって……。

 溜め息が止まらない。


「聞いているか、リフィーユ」

「何でしょうか、陛下」

「まずケイトスを嫁に出すのはヤメロ。次にお前は気兼ねなく息子たちといい友人になってくれ。ここまではいいか?」


 不敬だとわかっているのに、吐息が零れた。


「陛下、わたしもわかっていますよ。わたしは平凡な一般人だと」

「どこをどうとったら、そんな不思議な解釈になったのか甚だ疑問なんだが」

「何を仰いますか。全属性とこの魔力がなければ、わたしは、とるに足らない平凡で小さな存在ですよ。膨大な魔力と精霊王たちとの関わりがなければ、皆様はわたしを気にも留めなかった筈です」

「それは…」

「わたしが傲慢にもこの様に会話を許され、自由に過ごせるのは規格外のこの魔力と精霊の加護があるから。だから、ワガママに自分の要求を強気に押し通せるのだと解っております」

「リフィーユ…」

「もし周りがわたしの顔色を窺い、何でも願い通りになるなら、わたしはさぞかし傲慢に世界は自分の思い通りになると好き勝手したでしょう。今後もそうならない保証はありません。……ありませんが、もしそんな酷い人になったら、きっとケイや家族が止めてくれます。わたしを窘めて、自分の立ち位置を思い出させてくれると思います。そんな家族に恥じないようにする為にも、勘違いをする分不相応な接触を持たせようとしないで下さい。わたしが何の取り柄もない平民でしかないのだと解っておりますから」


 石の間が神妙な空気に包まれた。

 よし、言い切った。どうかこれで諦めてくれますように。接触しようと考えませんように。この人たちが関わろうとしなければ平民として穏やかに暮らしていけるんだよ。


「リフィーユ、お前の気持ちはよくわかった。それで二つ目の要望だが」

「……陛下? 何でこの流れでその話に戻るんですか」

「そうだな。お前の意見は理解したが、オレは王として傲慢に国の利益を追及しようと思ってな。だから存分に利用したいと思うんだ」


 王様の横暴に周囲の反応を見れば、宰相を始めとした全員が味方じゃなかった。いい話っぽくまとめて有耶無耶にしたかったのに、失敗した。流石に一筋縄じゃいかないか。


「それで二つ目の要望だが――…当ててみるか、リフィーユ」

「え?」

「わたしは何でもお見通し、なんだろう?」

「いえいえ、それはお祭り騒ぎのノリで言ってみただけです」


 本当に見通せたら、どんなに楽か。そんな力があったら、契約書なんて面倒な物を作って条件をつけたりせず、攻略対象者とは会わないよう避けまくってるよ。それで今頃、快適自由自適な生活を満喫しているだろうなぁ。――はっ、脱線しかけた。


「リフィーユ、お前の力で王妃の病を治してくれないか」

「……」

「お前も知っての通り、嫁いでから王妃マリーは体が弱く体調を崩しがちだ。何故だかどんどんゆっくり……緩やかに死に向かっているそうだ。城の医師も名だたる治癒魔法の使い手も手に負えない。お前ならどうにか出来るんじゃないか」

「王妃様は陛下と対なす国の象徴であり、社交や外交のもてなしや福祉活動等の中心人物です。外せない公務だけ何とかこなしてきましたが、来年は厳しいかと」


 殊勝な様子の王様と宰相に、しんみりとした騎士団長と二人の侯爵。嘘ではないように見える。


「……陛下、わたしは名医でも薬の専門家でもありませんよ。人より少し魔法に長けているだけです」

「……そうだな。悪い、今の条件は無かった事にしてくれ」


 様々な事情も思いも飲み込んで、王様はいつも通りに笑った。何て事無さそうに。カラッとした笑顔で。それから揶揄うように、ニヤリと太々しい笑みを浮かべた。


「そういやリフィーユ、内緒でケイトスたちとの話を聞いていて、どの話が一番興味深く印象に残った?」


 話を聞いていて印象に残ったこと?


「…わたしも忘れがちですが、意外にも皆様がわたしを美少女と認識していた事に驚きました…?」

「注目するのそこか!? 他にもっとこう色々大事な所があっただろ? って、何で他に何かありました? みたいな顔をしてるんだよ。あっただろ、年頃の娘なら気にする話題が」

「陛下たちの女装写真でも値引きには応じます」

「違うっ! そこは気にするポイントじゃない! オレとしては知りたくなかった!」


 テンション高いですね、王様。まるで何かを誤魔化すように。そして何故他の方は一様に疲れたように黄昏てるんだろう。


「他に……とりあえず、城に来たモレク・ルドルフを一発殴っても宜しいでしょうか」

「冗談抜きでヤメロ。本気でもヤメロ」

「あ、『影』の買収話には興味が沸きました」

「リフィーユ、そこじゃない」

「そうですね、不敬かと思って飲み込んでおりましたが、一つ王太子殿下の言葉を修正したく思います」

「え?」

「わたしはゴリラ女ではなく、ゴリラよりも強い女です」

「その訂正いるかっ? 何で真面目な顔で訂正するのがそこなんだよ!?」

「個人的に大事な所でしたので」

「ムーンローザ嬢。あなたは自分や従兄弟の婚約話よりも、ゴリラよりも強い事が重要なのですか」

「いいえ、宰相様。同じくらい大事な事です」

「………陛下。約束があったので、そろそろ退席しても宜しいでしょうか」

「一人で逃げようとするな、宰相」


 王様が深く息を吐き出す。真剣な表情に戻した。


「なぁ、リフィーユ。なぜお前は、家族やケイトス、サンルテアに執着している? 内密でこうして一人で来たくもない城にまで来て、彼らを守ろうとするんだ」


 わたしが巻き込んだから。でもそれだけじゃない。


「――一度失って手に入れたものだからです」


 死んで再び手に入れた大切な家族と居場所。また失いたくない。その為なら、どれだけでも冷徹に薄情に、非情になれる気がした。

 だから、王様の気持ちもわかるよ。

 わたしの理解しがたい発言に、不思議そうな顔をする一同を見た。


「陛下、わたしは病に関しては教わった方から得た知識しかございませんが、師と繋ぎを取る事は可能です」


 先生の過去を知らなかったから、何気なく会話から出てきた言葉に驚いた。


「陛下のご要望でしたら、ソール先生に話を通す事は出来ます」

「………ああ、頼む」

「承りました」


 わたしは腰を落として、優雅に一礼を返した。


「そのついでに息子たちの契約を」

「欲張ると身を滅ぼしますよ、陛下。二つに一つです。わたしの頼んだ件と陛下の要望では、釣り合いが取れてないように思いますので」

「今は王妃を優先でいいか」


 今後も、もう一つの要望は受け付ける予定はありませんので、早めに諦めて下さい。

 わたしは微笑んで、退室した。



・*・*・*



 転移魔法で森に移動すると、ケイとアッシュ、精霊たちが待ち構えていた。思わず曲がれ右したくなったよ。


 予定通り、薬草を探して奥へ奥へと進んで気がついたら、王長のいる空間にいたと告げて誤魔化した。そこでわたし特製のお茶を淹れて、美味しいと飲んでくれた事、相変わらず側近は名前を教えてくれず無礼者と怒っていた事を話すと、アッシュとウィンが呆れた。


「帰るぞ」と促されて、わたしはピョコピョコ揺れるアッシュの尻尾の後ろをついて歩くと。ケイから不意打ちで声をかけられた。


「城に行ってないよね?」

「え」

「城の単語だけでそんな嫌悪しないで」

「え?」

「わかりやすく顔に出てたからね」

「わたしったら正直者で」

「今さら照れたように言っても効果ないよ。それでどこに行っていたの?」

「どこって王長の所だよ。珍しい植物を見つけて摘んだけど、使えるか聞いたら、媚薬の原料だって側近に言われて没収されちゃった。他に、王長がお茶を美味しいと言ってくれたから、王長も絶賛するお茶とキャッチフレーズをつけて売り出していいか聞いたら、許可をくれたの。でも王長が絶賛したなんて誰もわからないから、こうなったら召喚するべきか今悩んで――」

「うん、それはちょっと止めておこうか」

「……ダメ?」

「神話の記録にしかない存在が召喚されたら、大陸が大わらわだからね」

「イケると思ったんだけどな」

「別の方法を探そうか。でもそれよりは」

「お茶の味を変えろ」


 アッシュが会話に割り込んで来た。上機嫌なのか、アッシュの尾が上向きでゆらゆら揺れている。それをじっと見つめて、わたしはもふもふの尻尾に手を伸ばした。


「ギャンっ!」

「は、つい誘惑に負けて」

「……リフィ、君は懲りないね」

「アッシュ、ごめん。お詫びに抱っこするから」

「寄るな触るな、遠慮するっ」


 アッシュに逃げられたので、わたしは追い駆けた。その後をケイとウィン、ノームが苦笑しながらついてくる。お昼ご飯で釣ってアッシュと仲直りしようと考えながら、わたしは早く帰ろうとケイたちを呼んだ。




お疲れ様でした。

次は11才本編になります。

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