11才 (キース ・ ケイ ①)
お待たせしました。
まず何よりも、この話を読んでくれている皆様に感謝を。
例によって例のごとく、本編より長い番外編になります。キース視点→ケイトス視点で、二万三千字近くあります。
本当は一話にしようとしたのですが、まだ時間がかかりそうなので、分けました。
主人公は少ししか出てこず、地味な城での会議の話です。
脱字や間違いのご指摘により改稿してますが、内容に大きな変更はありません。
珍妙な仮面少女とサンルテアの屋敷で再会して素性を知った後、城でケイに会ってメイドの少女について訊いたら、「その説明は騎士団長から聞いて」と笑顔で言われ、友人は帰ってしまった。……何だろう、笑顔なのに怖い気がした…。
他にも、昨日ケイを見舞いに行ってから、スピネルとイナルの様子が変だから、心当たりがないか聞きたかったんだが……後でもいいか。
二人に聞いても歯切れ悪く、「何でもない」と言うだけ。
王太子の執務室に行けば、ぼんやりと考え事をして動かない二人。昨日はそわそわと落ち着かず気もそぞろだったのに、今日は黙りか。ぼくは嘆息した。
王都の屋敷に帰り、父と夕食を共にする。
高度な魔法を使えてぼくを投げ飛ばした少女が、サンルテアでメイドをしていたと告げると、夕食後に酒を飲んでいた父が噎せた。珍しい姿に戸惑う。
彼女を上級魔法使いとして城に迎えてはと進言し、父が既に素性を知っていたのに、放っておいた事を思い出した。━━どうして教えてくれかったのか。
疑問がわいて、ケイに言われた通り彼女は何者かと父に尋ねれば、困った顔をされた。王家やサンルテア家に確認してから詳細を話すと返された翌日、領地で魔物が出現したと報告があり、父が討伐に向かった。
何事もなく父が無事に戻ったのが二日前。事後処理に追われて落ち着いたのが昨夜遅く。そうして、大事な話があると陛下たちに呼び出されたのが今日、彼女と再会してから一週間後の事だった。
場所は、王城の地下にある石の間。
ここは国のトップが話し合う月に一度の六人会議の他に、魔力の多い貴族や危険な反逆者を裁く時に使用される。一度だけ見た事はあるけれど、入ったのは初めてだ。
視線だけで中を確認する。
名の通り、四方八方を無骨な石に囲まれた部屋で、魔法の発動を阻害し、無効果する特性がある。そして、一度入れば王族の許可なく出られない。
許しなく扉を開けると外に異空間が広がり、出ても部屋に戻される。それどころか入室した時点で、部屋が城とは別次元に切り離されるから、膨大な魔力の持ち主が魔力を暴走させ、部屋を破壊しても、城に影響はない。
灯りはあるものの、窓のない石に囲まれた重々しい空間に、入り口から赤い絨毯が真っ直ぐ、正面の少し高い壇上に向かって敷かれていた。
最奥には王族専用の入り口、その前に椅子が二脚ある。その一つに、三十代半ばの紫の髪をした陛下がいて、そこから左右に、机と椅子が二つずつ。陛下の左隣に眼鏡をかけた宰相と、その横に騎士団長。体調が優れないのかマリー王妃の椅子は空席だ。
陛下から見て右側に、忠臣の高位貴族で頭が寂しいご老人のダスティ侯爵と、魔法研究の第一人者で厳つい片眼鏡のウェンド侯爵。
今日は陛下と対面の席にケイトスが着座し、陛下の斜め左後方にスピネル王太子、宰相の左後方にイナル、騎士団長である父の左後方にぼくが座った。一体これから、この面子で何が話し合われるのか皆目検討もつかない。
国を動かすトップたちに緊張していると、「時間になりましたので、彼女についての定期報告会を始めます」と宰相が口火を切った。これ迄の報告会の内容と、話題の人物の概略が簡単にまとめられた資料が配布された。
資料に目を通しながら大人しく話を聞く。どうやらケイが件の人物の監視役らしく、この一ヶ月の様子を淀みなく語った。王太子もイナルも、全員が話の人物を知っているようなのに、ぼくは誰の話をしているのか、さっぱりわからない。
この場にいるからには、ぼくも知っている筈と資料を読み込む。三年前の『大波』の事件で大活躍して被害を出すことなく平定し、ケイをも凌ぐ魔力の持ち主。全属性持ちの上に六歳で全精霊王と契約済み、サンルテア領民に慕われるサンルテアの宝。━━聞いたことはあるが、つまりそれってサンルテア直系の姫であるシェルシー様のことか? ケイの義理の母となられた社交界の華で王妃の友人の。
シェルシー様がそんなに凄い方だったとは初耳だ。
報告を聞く限り、最近のサンルテア領地の活性化はその人のアイディアによるところらしく、興味津々に為政者たちがケイに質問を投げ掛けている。
話を聞きながら、ぼくは資料のページをめくり、プロフィールを見た。
話題になっているのは、平民の少女であるリフィーユ・ムーンローザ。十歳の女の子で……え、ケイのイトコ? シェルシー様の実の娘でサンルテアの直系??
話には聞いていたけど、そう言えば会ったことはなかったな。
「陛下の命令で、今の成長したリフィの写真と映像も撮って来ましたよ」
一切の感情を廃して淡々とケイが報告し、記憶玉から映像を浮かび上がらせた。透き通るような薄翠の長髪に、息を飲むほど整った人形のように綺麗な顔立ち。柔らかなシャンパンゴールドの瞳の少女は映し出された映像の中で、町中で肉を買っていたり、王都で流行りの劇団『ステラ』の練習風景を見て真剣に大人の女性と話し合っていたり、顔に土を付けながら野菜を収穫していた。
ぼくは映像を見て驚いた。
「え、メイドの子!?」
映像を見ていた父とケイ以外の全員が、驚いた顔でぼくを見てきた。
丁度映像では、少女が地図を持って道を尋ねてきた若い男に、親切に答えて背を向けて歩き出した所だ。男が醜悪な顔で笑い、無防備な少女に背後から手を伸ばし━━空を切った。
いつの間にか男の後ろへ移動した少女に、臀部を押すように蹴りだされた男が「ふべっ」と顔から地面に突っ込む。顔を上げた男に手刀を叩き込んで気絶させ、「縛る物がない」と悩む映像の少女。鮮やかな手際に、ぼくはポカンと口を開けてしまう。スピネルとイナルも呆けていた。
ふと思い付いたように少女が、男のズボンのベルトを抜き取り後ろ手で縛った。そこに黒い衣装に目以外を隠した男が現れた。『影』だ。
『丁度いいところに来た。この人の事、お願いしていい? 王都の警備隊でも、ラカンさんの所でも好きな方に連れて行って』
『コレは長老の方がいいな。最近探してた筈だ』
『それじゃクーガに連絡して、取引だね。確かラカンさんが隠蔽した事件で欲しい情報があったと思うから、身柄と引き換えにしよう』
『……それでいいのか、お嬢。それと怪我は?』
『怪我はないし、この人に興味ないから別にいーよ。じゃ、あと宜しくね』
『はいよ。気をつけて帰れよ~』
映像の少女は、ひらひらと手を振って何事もなかったように去って行った。
ぼくは混乱した。……ナニこの映像…。いや、ここは何なんだこの子は、と言うべきか。儚げな少女の容姿と言動に物凄い違和感がある。
混乱しているのはスピネルとイナルも一緒で、そこで改めてケイから、彼女について説明された。サンルテアの直系であり、ケイの従兄弟。サンルテアのメイドではなく、彼女がリフィーユ・ムーンローザであると。
・・・ *** ・・・ (ケイ)
どうやらキースだけ、リフィの事をまだ知らなかったようだ。「メイド?」と訝る陛下たちに、キースが城でリフィに偶然会い、サンルテア家でメイドとして会った事を告げる。騎士団長も魔物騒動で、まだ息子に事情を説明してなかった事を話した。
そこで何故か全員の視線が僕に集まる。面倒に思いつつも、僕が負傷した事でリフィが悪ふざけでメイドになり、付きっきりで看病した事を話すと、子供組がちょっと驚いた顔をし、大人たちがニヤニヤした。……報告するの辞めたい。
陛下と宰相も、三年前の『大波』については王子とイナルに話したが、他は詳しく話していないらしい。
キースも含めて三人には、改めてこの場が特異人物のリフィに関する月に一度の定期報告の場であると教えた。どうして定期報告会をしているか、僕が監視役を引き受けている事も含めて、『大波』の真実から掻い摘まんで話すと、初めて聞いたキースはあまりの内容に戸惑っていた。
それからはもう一度、これ迄の報告資料を読み返している。
陛下たちが「それで」と僕を見てきた。
「ここ最近、サンルテア領は他の領地と比べてとても賑わっている。領民の結束力も固く、観光客の増加、移住する民も増えて、税収もアップ。一体どんな仕組みが? どんな政策をしたんだケイトス?」
王の問い掛けに、宰相や侯爵たちが目を鋭くさせて、関心を向けてきた。調べて予測がついているだろうに、僕の口から事実確認をしたいらしい。
「それは領主の父にお尋ね下さい」
「ジルはお前が関わっているから、ケイトスからの方がよく話を聞けると言っていたぞ。それに、この一年はお前が領主のように色々と仕事をこなしていると聞いた。既に男爵みたいなもんで領地経営もこなして、いつでも後を継げるそうだな。ジルもそろそろ男爵位を譲りたいらしい。世襲で最年少の継承になるぞ。確か三十年前に十五歳で伯爵位を継いだのが最年少記録だったな」
「それを父に冗談でも言うのはやめて下さい。本当にそうしようとしますから」
……帰ったら、父とじっくり話し合う必要がありそうだ。後を継いだら今以上に忙しくなるのは目に見えている。そんなのは御免だ。
「それで、どんな事をしたんだ? 変わった催しが多くて、民も観光客も楽しんでいると聞くが」
「領地の発展は僕ではなく、リフィのお蔭ですよ」
「具体的には?」
「我が領地については、監視の定期報告に関係ないですし、この一月も彼女は大人しくしてました。以上です」
端的に報告を終える。王子たちのサインを契約書に貰って早く帰りたかった。僕がいない間に監視対象者がまた何か面倒、或いは面白そうな騒ぎを起こしていないとも限らない。
取り敢えず、アッシュでも見つけられず行方不明という連絡が来ていたから、早く探したい。……まぁ、ふらっと姿を消す事は今迄にも何度かあったし、どんなトラブルでもリフィがどうにか出来ない事なんて滅多にないけど。
「そう急いで帰ろうとするな、ケイトス。彼女に頼まれて、スピネルたち用の他言無用の契約書を持ってきたのだろう」
渡りに船と、三年前より枚数の増えた契約書を取り出して、王子たちに配った。ついでに陛下たちにも同じ物を見せた。
契約書に目を通した陛下たちが、驚いた顔で一斉に僕を見る。言いたい事は何となく解る。契約の内容が陛下たちの時よりも厳しく制限がある事だろう。
王子たち三人が当惑したように、父親たちや議会の面々を窺っていた。
僕は無言を通す。契約内容について僕に文句を言っても仕方ない。要望くらいは伝言を預かるけど、リフィは変更しないと思うよ。それを知っているから、陛下たちも眉間に皺を寄せて悩んでいる。
陛下たちが連れてこいと煩いから、彼女が『影』として参加した任務報告の際、たまに城に連れてくる事がある。その度に王たちが親交を図ろうとしても、リフィは報告終了サヨウナラが常の状態だ。以前から宣言していた通り、王侯貴族に関わろうとしない。しつこい時は、契約をちらつかせて黙らせては帰って行く。……陛下以上に王様みたいだ…。
毎回どうしたものかと思うけど、僕は僕の監視役の任務をこなすだけだから、口出しはしなかった。
王たちが諦念の表情で息子たちに、「この契約内容でいいか、何か要望はないか。特に接触不可の細かな項目とか」と確認する。
「彼女は貴族が苦手なのでしょう。ケイトスから事情は聞いていますから、仕方ないです」
神妙な面持ちで理解を示したスピネルの言葉に、陛下たちが首を捻った。話を知らないキースに、イナルが僕が語ったリフィのトラウマについて簡単に話す。真面目なキースが「そんなことが…」と、痛ましげな顔をする。
ただ陛下たちは鵜呑みにせず、どこか胡乱げで、「先手を打たれた」とウェンド侯爵が小さく息を吐いた。「小賢しい真似を…」と舌打ちするダスティ侯爵。
宰相と王が何やら相談しているけど、キースが既にサインを終えてしまった。
「会えないのは残念だが、事情があるのなら仕方ない。少し話ができたのに、会った二回とも急に逃げるように去ったのは、貴族が苦手だったからなんだな」
しんみりとしたキースの言葉を聞き、スピネルも契約書にペンを滑らせた。
イナルは困ったように宰相と陛下たちを見て、契約書を見た。流石は未来の宰相候補。簡単に動かされた王太子と違い、今後の国益を考えてこれでいいのか慎重に判断を下そうとしている。
王たちはごねても無駄と知っているけど、このままサインさせるのも辞めさせたいと難しい顔。
「今は避けられるのは仕方ないとしても、これから先はまだわからないよな、ケイ。少しでもトラウマが和らいだり、これからの生活で慣れてくれば、ケイを通してまた知り会う機会もあるだろう。変な輩もいるが、そうじゃない者もいるとわかれば、少しは平気になるかもしれない。慣れようと訓練するなら、手伝うから声をかけてくれ」
キースの真っ直ぐな言葉に、王たちは「…今はそれでいいか」と嘆息した。イナルがサインして、新たな契約書が三部、僕の手元に戻る。……この契約書がある限り接触不可なんだけど…。
キースの生来の誠実さに、騙したようで少し胸が痛んだが、そっと息を吐いて平静を保った。今後、キースたちを避けても関わる機会があったら、一度くらいはリフィに正式に紹介しようか。
用が済んだから早く辞去したかったのに、簡単にはいかなかった。
陛下たちが、どうしてサンルテア領地が賑わっているか教えろとしつこい。話さないなら、父を最低でも三日は城で仕事漬けにして、僕に皺寄せがいくようにすると権力をちらつかせてきた。━━身内だけになると時々、子供みたいな駄々をこねるな…。
こっそり息を吐けば、スピネルたちが自分たちもリフィについて知りたいと言ってきた。
どんな子で何をしたのか、僕の従兄弟なら今後、偶然会う可能性もあるからと。何だか解放してもらえそうにない。少しだけ、一人で交渉を引き受けた事を後悔した。
*・*・*・
早く解放されたかったので、話の最後の方だけ掻い摘んで聞かせて終わらせようとしたら、「始めから詳しく話せ」と命じられたので、僕は事の発端である三年前を思い返した。
「事の始めは悩む我が家のメイド長マースからの相談でした。
マースの出身は、都市部から離れた南西のサンルテア領地で、何の特産もない内陸の田舎町だそうです。その近隣の村と町も似たり寄ったりで、若者が離れて子供達の数も年々減少していたそうなんです。マースの友人はその初等学校で校長をしてまして、子供も少なく学校に通うのも楽しくなさそうという彼女の嘆きを聞いて、自分の生まれ育った土地がどうにかならないか、悩んでいたんです。それを聞いたリフィが何か行事をして地域で力を合わせて盛りたてるのはどうかと提案したんです。例えば、運動会はどうかと」
「ウンドウカイ?」
「僕もよくは知らないのですが、リフィがマースの故郷に行って色々と見て回り、近隣の五つの初等学校で色分けしてチームを組んで、競技大会を催したんです。家族や地域住民も参加できて、見ても楽しく、応援される方も嬉しく、軽いお祭りのようで、屋台も出たりして。
後は地域の有志で景品も少し揃えたと言っていましたね。それを丁度、賑わう港町や中核都市で目立つ行事がない五月にぶつけて、宣伝もして、人を呼び込んだんです。もちろん協力者もいましたよ。僕が紹介した商人のルディにプレゼンして、面白そうと協力を取り付けていました。町の活性化になるならと僕も必要者類を確認して不備がなかったので、領主代理として承認しました」
「よく承認したな」と、陛下。
賭けではあったけど、一度くらい試してみるのもいいかと思ったんだよね。すぐに結果が出るとは思わず、材料や運営費用は自治体持ちで、ルディやリフィの出資援助もあり、労働力は地元の有志だったから。たまに非番の『影』と『夜』が、リフィとマースに労働力として「祭りだワッショイ」と連れ去られていたけど。
「我が国の五大商人であるルディが出資したのですから、それだけでも宣伝になりましょう。サンルテアに本店を構えているとはいえ、あの強欲商人をよく引っ張り出せたものです」
ダスティ侯爵が苦虫を噛み潰した顔で告げると、スピネルとキースが驚いた。キースは兎も角、王子は知っておいて欲しかった。過去に国として何度か取引しているよ。
「正直あまり人は望めないかと思ったのですが、皆が知らない行事や内容に興味をひかれ、暇だった事もあってそれなりに集まり、白熱した賭けまで生じて、地域外の人たちも一緒になって参加して応援して盛り上がったんです。単純な競技ではなく、借り物競争や障害物競争、二人で転がすデコボコ大玉競争に動く篭に入れる玉入れ、二人一組でするダービーレースもありました」
何がなんでも景品を掴み取れと、一部の女性や奥方たちが物凄い形相で恐ろしかったり、裏で男性同士が喧嘩したり、武骨ながらも競技で活躍した頼もしい男性たちと付き合う人が増えたり、ハプニングがあって盛り上がったそうだけど、それは語らなくてもいいかな。
僕は笑顔で、何も問題はなかったと綺麗にまとめた。
「子供から老人まで、参加者も開催者も楽しんでいたのが功を奏したのか、今年で三回目でしたけど、年々集まる人が増えて、地域興しになったみたいです。子供を参加させてみたい、自分たちも関わりたいと大都市に流れていた若い世帯が戻ったりして賑わったそうですよ。それからは、二、三カ月に一度、運動会の他に体を動かす大会を開催しては、人を呼び込んでいます」
お蔭で『影』や『夜』への人員確保にとても役立っている。たまに乱闘騒ぎもあるらしいけど、開催を妨害すると苦労した領民が黙ってないので、会場から速やかに排除されているらしい。誰の受け売りかは考えない。『夜』の仕事振りが発揮されているようでよかった。
「それだけじゃないだろう?」
「何がですか?」
「他の町でも、何か奇抜な祭りが増えたと聞いたぞ。それについても話していけ」
「やっぱり既に調べて知っているじゃありませんか」
「開催の場に参加してないから、参加者に聞いた話ばかりで、凄かったとか、イイモノ見たとか、そんな感想ばかりの報告で要領を得んのだ。で、何をしたんだ」
有益な話を期待する面々に、僕はそんなものないですよと進言するけど、陛下たちはあくまで一つの事例として聞くと食い下がる。王子やキースは、運動会楽しそうと、興味津々の目を向けてくる。話せと言われて、渋々口を開いた。
「……冬が明けて春の豊穣を祈願する祭りが、各地でありますよね。領内の南東地方で、いつも通りでつまらず祭りなのに人も規模も減っていると相談を受けた使用人のラッセルが、リフィに助言を求めたら、普通の美男美女コンテストならどこにでもあってつまらない! 男装女装コンテストをしよう! と言いまして…」
「……何でお前が疲れてんだ、ケイトス。楽しそうじゃないか。見てる分には」
――そうですね、見ている分には。
僕が頷いただけなのに、察しがいい陛下。
「………まさか」
「そうですよ、人を呼ぶ話題になるよう僕も参加させられました。しかも記念すべき第一回目の優勝者ですよ!」
「そんなヤケになって答えんでも。お前なら、完璧な美少女令嬢になっただろう」
「そうですね」
「少しは謙遜しろ。だが、納得だ。確かにイイモノ見た、だな」
嬉しくない誉め言葉だ。僕は、笑ったスピネルに微笑み返して黙らせた。
「リフィは男装の優勝者ですよ…」
「………大変だったな…」
「本当に。僕もリフィも領内ではそれなりに知られていますから、『性別逆転! 男装女装ペア大会』に、領民の為と言われて強引に参加させられました。断ったのに、勝手に民たちには出場すると言っていて、直前に更衣室に入れられ、メイドが準備万端で待ち構えていて、ここで逃げたら嘘つき領主だよと言われたら……」
つい、深いため息が出てしまった。
「ものすごく大変だったな……」
「まぁ、目論みは成功して大勢の人が集まり、話題にもなって観光の目玉になりましたよ。今年はペアだけじゃなく、ソロ部門も出来ました。本当に妙な事ばかり企んで……。ついでに王道もいっておこうと、まともな意見が出て美男美女コンテストもやりましたね」
「……まさか、女装ソロ部門も出たのか?」
「出ませんよ。断固拒否しました。ただ話題作りと宣伝のため、リフィが『影』たちから会う度に拝み倒されて、男装はもういいからと美少女コンテストに出されましたね。本人は男装ソロ部門の殿堂入りを目指していたようですが…」
「それで?」
「メイドも母も張り切って、リフィを飾りました。文句なしのほぼ満場一致で選ばれましたよ。出来レースの声もあがりませんでした」
王たちがリフィの容姿を思い浮かべて納得するように、首肯した。
「あの子ならそうだろうなぁ。でもよく承諾したな。殿堂入りしたかったんだろう?」
「優勝の目録が会場の飲食店のタダ券二十枚綴りと賞金三万バールだったんです」
「は? え、それだけで?」
僕は一つ頷いた。
本当にそれだけの理由だった。出場させる餌として、リフィが欲しがる物を考えた結果だが、目論みは成功した。
因みに、男装の優勝賞品だと賞金と金のブローチだったけど、売る以外の活用法がないと真剣に考えているリフィの姿に、『影』はおろかメイドたちが膝から頽れた。
「珍しく本人ヤる気になってましたね。実行委員会も気合い入れて、集客が期待できる美少女を逃がさないようルディや母やメイドたちと結託して、地方で評判のお菓子屋に出展要請をかけていました」
「……すげー大事だな。でもそれなら、その菓子目当てでも人が呼べるか。ついでに、綺麗な華に変な虫もたくさん寄ってきそうだがな」
人が悪そうにニヤニヤ笑う王。少し腹は立つけど、反応するのもバカらしいのでスルーした。
「そうですね、集まってきましたよ。わんさか、どっさりと。コンテストは初日だったので、後二日祭りがあるからと最終日のダンスや、それまで会場を見て回ろうと誘いが多くて……暗殺してやりたいくらいに沸いて出たんです」
潰しても潰しても何処からか現れて、駆除が追い付かなかった…。何しろ外見は将来が楽しみな極上の華だ。成長するにつれて、他所からの観光客を含め、近寄る輩が増えた。
鬱陶しさと疲労を思い出した僕に、同情の視線が多数寄せられた。
「………大変だったな…」
「半分はリフィ自身が追い払ってくれたんですけどね」
「どうやっ……何でそんな遠い目してんだ!?」
王たちが知りたいようだから、教える事にした。
契約書は貰ったから、儚い令嬢の印象が多少…大分変わってもいいかな。
「まずはタダ券で意気揚々と食べたい珍しいお菓子や串焼きや麺料理をどっさり購入して、テーブル一つを占拠して食べ始めたんです。それをギャラリーがいても気にせず、次々と平らげて…」
石の間が、束の間静寂に包まれた。どこからか溜め息が聞こえてくる。ついでに淑女なご令嬢しか相手にした事がない少年たちから、何かが豪快に崩れた音がした気がする。
「………そりゃ引くわな。あの容姿でそんな事されちゃ幻想がガラガラ崩れるわ」
「それでも声をかける男は後を絶たなかったんですが、食事に集中できないとリフィが怒って、猫のようにキシャーと全身全霊で威嚇しまして」
「すごすごと引き下がっていったと」
「はい。それでも、面白いお嬢ちゃんだと孫や姪っ子感覚で気のいいおじさんたちが、餌付け…ごほんごほん。差し入れだと色々持ってきて機嫌が直り、笑顔でおじさんたちのダンスの誘いに簡単に頷いたんです」
「……それ、差し入れ貰う事しか頭の中にないよな。チョロすぎだろ…」
「それを見た若者たちが行けるんじゃないかとまた群がってきたので、面倒になったリフィが腕相撲で勝ったら、踊るか一時間デート、負けたら貢ぎ物を置いて帰るよう勝負を吹っ掛けたんです」
「………どこの追い剥ぎだよ。山賊か?」
「本人曰く、一般市民だそうです」
「いねーよ、んな一般市民。居たらビックリだわ」
「言葉遣いが悪いですよ。陛下」と宰相が窘める。
「それで全員と腕相撲したのか」
「してましたね。意外に熱を帯びてどんどん盛り上がり、黒山の人だかりが出来て、賭け事が始まり、悲鳴と野太い応援と歓声が上がってましたね…」
「どこの裏社会の賭場だよ…?」
「ですから、町の春の豊穣を祈願する祭りでしょう」と遠い目をして突っ込む宰相。
無言で話を聞く大人たちと、困惑し通しの子供組。……スピネルたちにとってはこれも社会勉強って事で、スルーしておこう。
「いや地方の祭りでも、明らかにおかしいだろ」
「意外にも、女性陣から旦那をぶっとばしてくれたら、スープもう一杯サービスとか、飲み物奢るよとか、その気持ち悪いストーカーぎったんぎったんにしてとか熱烈な応援がありましたよ」
「おかしい。その応援はおかしい」
「まぁまぁ、白熱して熱気渦巻くいいお祭りだったんでしょう」
宰相が綺麗にまとめてくれた。
「そうですね、来年から腕相撲大会も開催されるようですよ。既に何人からか参加予約の申し込みがあって、大人気です。観光客や参加者も増えてますよ」
「………リフィーユはずっと腕相撲してたのか。というか、腕は大丈夫なのか?」
「鍛えてますからね。本人もムキムキの筋肉が欲しいと、いつか言っていましたので」
「今のは聞かなかったことにしとく。それで実際は? それだけで何事もなく終わったのか?」
深々と嘆息される陛下。そこから表情を真面目なものに戻したけど、衝撃を受けた王子たちはどこかに意識を飛ばしているようだった。「貴族の男が苦手…? 平民とか関係あるのか…?」と聞こえない声で呟いている。
リフィが見たら「強く生きろ」とでも言いそう。最近、新しく来た見習いの『影』たちを叩きのめした後にも、よく言っているから。
王に促されて、僕は続きを話した。
「途中で、どうしてもリフィを手に入れたいというか、親密になりたいバカ共が貢ぎ物に薬を盛りだしたんです」
「――それで?」
「彼女は薬草や薬関係は強くてですね、鼻の利く番犬もいましたから対戦する前に気づいて、側にいたメイドに腕相撲対戦の選手交替をしまして、物を証拠品として押さえ、『影』に薬を調べるよう指示を出したんです」
ちらりと目を向けると、スピネルがパカッと口を開いていた。王が気にしなくていいと微かに首を振るので、話を続ける。
「ついでに運動してくるとその場を少し離れて、怪しい人物を潰して回って、麻薬を扱っていたシンジケートを芋づる式に釣り上げて、捕まえてくれました。祭りに水を差さないよう、こっそりと。他に、薬を盛って若い娘や子供を連れ去っていた奴らも『夜』の牢屋に入れられてましたね」
再度、石の間が静寂に包まれた。
「…………あの娘は何なんだ? トラブルメーカーなのか? 何で祭りでそんな大捕物をやってる? おかしいだろ?」
「不思議ですねぇ。麻薬を扱う輩は、殆ど蜥蜴の尻尾切りでなかなか捕まらないんですよ。頭を押さえるのは物凄く大変な筈なんですが…」
頭が痛そうな宰相を見て、騎士団や陛下の密偵は六割が逃げられていたなと、思い出す。
「わたしは何でもお見通し? って笑っていましたよ。八つ当たりされた組織は、折角の楽しい気分に水を差すなと酷く怒られたそうですけど(物理で)」
「その後、本人は?」
「犯罪者の片付けが終わったら、邪魔者がいなくなったと席に戻って貢ぎ物を食べ始めましたよ。本人が言う事には、成長期だそうですので。因みにそこから、大食い大会が開催される事も決まりました」
「………ケイトス、あの娘に言っておけ。そんな十歳の令嬢が実在したら怖いぞ」
青ざめ引き攣った顔で、ウェンド侯爵が呟いた。王太子とイナルは酷く困惑しながらも沈黙している。投げられた経験があるキースは当惑しながらも小さく頷き、宰相が「それでも無害ですけどね」と、締め括った。
「腕相撲に参戦したメイドも全戦全勝して、お嬢様のダンス相手を誰が譲るかと叩きのめしたそうです。女子供に負けたとあって、多くの男性が意気消沈してましたよ」
「男の矜持をへし折るとは、流石サンルテアのメイドだな」
「楽しく盛り上がったんだな」
感心する陛下に、騎士団長が感想を述べた。
「豊穣祭の他にも、半年前に観光名所が出来ましたよね?」と言外に、宰相が情報をもっと出せと言ってきた。
「そうですね。美味しい物はあるけど観光名所がなくて、ツアーなどで人が呼べないと、ある村が嘆いていたら、無ければ作ればいいと巨大迷路やら、貴族気分が味わえる広大な薔薇の庭園だとか、花畑とかアスレチックとか作っていましたよ。一度やってみたいと各地から人が押し寄せているようです」
「何かオレより儲けてそうだな。アドバイス料とか貰ってるんだろ」
「彼女の個人資産を知りたいですね」と、宰相が頷く。
それなりに潤沢だとは思うけど、僕も総資産額は知らない。知っているのは。
「貰ってませんよ」
「は?」
「リフィは案を適当に出しただけで、後はほんの少し宣伝の協力や、難しい所に手を貸したり、スムーズに連携がとれるよう人を紹介して繋げただけで、頑張ったのは町や村の人たちだからと、お礼や挨拶の菓子折りは受け取っても、お金は受け取ってません」
「菓子折りは受け取ったのか」
「子供らしい可愛さじゃありませんか」
「どこがだ!? これ迄の話でどこに子供らしい可愛さなんてものがあった? 山吹色の菓子かもしれんだろ」
「陛下。あなたはすっかり汚い大人になりましたね…」
宰相がさらりと言葉の刃で刺した。イナルに似ている。
「安心して下さい、賄賂なら笑顔で受け取って――」
「ほら、受け取っていただろ」
「――証拠品として『夜』に提示した後で、あくまで謝礼金として受け取って孤児院に寄付してます。汚くてもお金はお金だからと。その後はその地域と距離を置き、行政に査察が入って一切関わろうとしていません」
「オレが悪かったから、そんな目で見るなよ。確かに無償過ぎるのもよくないよな。賄賂じゃなくて謝礼金なら仕方ないか。国が介入出来んな」
冷たい視線を大人組から受けた陛下が、取り繕うように話を誤魔化した。宰相が「貴族ではなく領内の平民のした事ですから、制裁を下すのは自治体か領主ですけどね」と指摘する。
「何はともあれ、リフィは一事が万事そんな感じですよ」
その言葉で、まとめた。
「ところで、男たちと踊ったのか」
「最終日に踊っていましたよ。全員、歳が二十近く離れた相手でしたけど。それを周りが微笑ましく見守って、何人か若い娘にもダンスを申し込まれて、踊っていましたね。若い男たちはうちのメイドに阻まれていましたが」
「お前は踊らなかったのか?」
「もちろん、巻き込まれましたよ。メイドも母も結託してきたので。リフィも受けてくれたんで」
「相変わらず溺愛か。全く…」
「ケイトス、あの娘に言っておけ。平凡に生きたいのなら、裏ではなく一般の場で『影』を使うのも、『影』の真似事をするのも止めろとな」
面白くなさそうに鼻を鳴らしたダスティ侯爵。僕は「伝えておきます」と返した。「ただ、自身の身の回りやサンルテア関連で何か起きない限りは、大人しいですよ」とも。
陛下が少し呆れた。
「ムーンローザ嬢も相変わらずだな。案を出したのも手伝ったのも、サンルテアの使用人と繋がりがあったからか」
「あの、さっきから父上たちもケイトスもおかしいですよ。どうしてあの可憐な少女が『影』を知っていて、動かして、犯罪組織を潰したり出来るんですか? って何で変なこと言ったみたいな顔をするんですか!」
どうやら優しい王太子は、考える事を放棄したらしい。若しくは同一人物じゃないと思ったか、理解を拒否したのかな。今までの会話から、彼女の略歴から、話を聞いていれば解りそうなのに。
「ああ、そうか。『大波』や魔力量のことは話しても、こっちはまだ話してなかったか。リフィーユは『影』の訓練に混じってついていけるどころか、その幹部も叩きのめせる実力を持っているぞ」
「━━は?」
「ナニを言って…?」
「ああ、確かにあの身のこなしなら納得だ」
三者三様の反応を示す。イナルの表情も崩れた。順能力高く頷いたキースは知ってるよね。投げられて逃げられたそうだから。
「今はお前と彼女、どちらが強いんだ、ケイトス?」
「相変わらずほぼ互角ですよ。魔法は彼女が一枚上手ですが、体術武術は僕に分があります。今のところ二勝一敗一引き分けで僕が勝ち越してますが、お互いに八割くらいで戦ってなので、本気だとどうなるかは予想がつきません。しかも僕とリフィは本気で殺しあうつもりでやっていないので、もしそうなったら」
「被害が尋常じゃねーな」
「何を呆けているのですか、殿下、イナル、キース。これ迄の話や、概要から彼女の危険性は充分解る筈ですよ」
「え」
「あの、権力を持った男性が苦手なのでは…?」
「そこまで強いのか…」
驚愕する三人をよそに「ますます化け物染みてきたな」とダスティ侯爵が苦い顔になる。イナルが当惑しながら、口を開く。
「希少な無属性と全属性の最上級魔法を使えて、魔力量が異常としか聞いてませんよ。それを知るのがここの限られた方のみとしか。何で領地を活性化させていて、ケイと互角の実力があるんですか。ですが、最上級魔法を使えるという事はもしかしなくても――」
「報告書にある通り全精霊王と契約済みで、お気に入りだそうだ」と、羨ましそうなウェンド侯爵。
「挙げ句、魔力封じは効かないし、魔方陣にも精通していて、神殿とも関わりのある『紅の戦乙女』フロース・メンシスであり、画期的な魔道具を造るミラ・ロサなんだよ」
「……頭が痛くてこんがらがっているのですが」
「陛下を始め、私どももどう扱うべきか非常に困惑しているんですよ。周囲の国に知られるのも得策ではないです。脅威的な爆弾を持っていると距離を置かれるのも、奪って利用しようと争いを持ち込まれるのも御免ですから。かといって飼い慣らす事も首輪をつける事も出来ないんですよ」
宰相が大きく息を吐いた。会話を聞きながら、僕はやっぱりそこまで知っていたかと確認した。恐らく『翠の聖女』の件も勘づいていそう。さっき気になったのは、陛下がリフィを名前で呼んだ事だけど。この国の最高権力者で、態々ムーンローザ嬢と呼ぶ必要はないから、かもしれないけど。
「今回の件で、サンルテアの姫は、ただでさえ結束の固い領民をまとめて、領民は彼女を以前より大切な宝だと認識を強めています。彼女を奪えば、サンルテアの民が黙っていません。領地活性化の立役者の一人として、他の貴族にも多少知られていますし、鼻が利く者は何か勘づいていそうですが、彼女の特異性はサンルテアという特異な土地だから、周囲の貴族も口を出さず容認しているのしょう。黒の森という脅威と魔物をサンルテア領地に任せきり。前の『大波』もサンルテアに任せて何の対応も取らなかった他の貴族や我々城が手に入れたら、軋轢や反発が生じるでしょうね。――だから、現状維持なんです」
宰相の言葉にイナルが呆然とした。
「それでは、契約書の接触不可は…ウソなのですか? トラウマの話も?」
「嘘ではありませんよ。実際に彼女が遭った事ですから。その事実とは別に彼女自身、貴族嫌いと公言して憚りませんし、関わるのを疎んでいますから。国に利用される気はないそうなので、頼み事にはお金がかかります」
「本来なら、不敬罪だけどな。『大波』の件で借りを作り、貴族嫌いの一端を作ったオレたちは何も言えん。これ迄も数える程しか会えてない」
陛下の言葉に、頷く大人たち。イナルたち三人が愕然としながら、契約書の内容を確認して「それならどうしてそう仰って……」と言いかけ、気づく。
「もしや陛下方も?」
「お前たちよりは軽めの条件で契約書を交わしてある。だから、彼女の不利益になる事ははっきりと話せないんだ。何か頼むにしても、ケイトスを通してになる」
陛下や宰相が、三年前に交わした契約について、その前にしたリフィとのやり取りを息子たちに語って聞かせた。
それが一段落すると、視線が泰然とする僕に向けられた。
「魔力や『影』の件を抜きで、存在を他の貴族にも知られた。他の貴族がいる手前、国の重鎮たるオレたちが彼女を気にかけ、その理由を探られて特異性に気づかれる訳にはいかない。ますます容易に手を出しにくくなったわけだが、……まさか、狙ってないよな?」
「少し利用させて頂きましたが、リフィは無意識ですね。きっと他の貴族が領地活性化について相談したいと寄って来ても、鬱陶しくなったらトンズラするか、どこかに身を隠して大人しくしますよ。そうなったら、原因を作った人たちをサンルテアの領民は許さないでしょうけど」
笑顔で事実を告げたら、沈黙を返された。陛下が頭を抱えた。
「ホラ、これだよ。もうやだ、コイツら」
「けれど、サンルテアがなくなると流通に支障が出て、王都へ届く海の幸も宝石も異国の品も三割減です。それだけでなく木材や野菜、金や穀倉の類いは四割減です。そして誰もサンルテアの領地を代わりに治めたい人もいないでしょう」
宰相の言葉に、ダスティ侯爵が首肯した。
「あの土地は肥沃で貿易も含め特産も多いですが、港の異国間のトラブルやゴルド国と国境、それも黒の森を挟んでいるという緊張感のある場所で、他と比べて強力な魔物が出現しやすく、群れで出てくる事も多いですからね。施政の仕事量も普通とは比べ物にならないほど多いですよ。それを建国以来何事もなく治めていて何の文句も言わないから、誰もが当然とその凄さを解ってませんが、高位の貴族や昔からある名家は知っているから強く文句も言えないんです。弱味も握られていますしね」
不意にイナルが顔を上げた。宰相を見る。
「それなら国の闇だけでも、城で管理すればよろしいのでは?」
「どうやってですか、イナル?」
「『影』をそのまま買い取ってはいかがでしょう。サンルテアの力を削げます」
「悪くない着眼点ですが、ケイトスはどうですか?」
「僕は構いませんよ。彼らが納得するのなら」
答えた僕に、宰相が嘆息した。
「問題はそこですよ。給金も待遇もよくすると言っても八割は確実に辞退して『影』に戻っていきますよ。彼らが従うのは自分たちが認めた『影』の主だけですから」
「残りの二割は何ですか、父上?」
「これ幸いと辞めて一般市民になるか、お金だけの割りきった付き合いになるか、我々の内情を探ってどこかに売るか、或いは使えない怠け者か。絶対の忠誠はないですね」
「一から作り上げるしかないということですか」
「それも『影』の質には及びません。この議題が千五百年以上一度も王家で出されなかったと思いますか。国の密偵でも魔法の能力が高かろうと、一般市民出身の『影』とは互角か、負けますよ。それも最近は『影』が扱う道具がとても性能がいいそうで」
「でも全員が僕たちに忠誠を誓っている訳ではないですよ。割りきった関係の『影』もいますけど、何でか離れていかないだけです。結局どこかしらは他よりマシで気に入っているんでしょうけど」
「こういうわけです。その忠誠心のない『影』も、誰かがサンルテアにちょっかいをかければ、手を出した者を叩き潰すでしょうから」
「なんですか、その気まぐれな猫みたいなのは」
「つまり曲者揃いの彼らを扱えるのは結局の所、サンルテアだけという事ですよ。それどころか何故かうちの暗部も、憧れたり尊敬していますから。自信を無くして辞職する連中も多いですし」
溜息を吐く宰相と陛下。騎士団長が静かに頷いた。
「それがサンルテアで、ムーンローザ嬢のいる場所なんだ。彼らが地位と権力に全く興味ないから、この国は存続してきた」
「大袈裟ですよ。最近も、新人が何だこの役に立たなさそうな世間知らずのお嬢様はと、舐めてかかってリフィに反発していましたから。もれなく全員が、訓練で本人に一対多で瞬殺されるか、任務で彼女の働きを見て自信喪失してます。八割が服従し、軽んじるバカはいなくなりましたが、まだ痼が残って気に入らないと残りは突っ張って頑張ってます」
一同の反応を窺うと、陛下たち大人は悟りきったような生温い視線と微笑みを浮かべ、スピネルたち子供組は、疲れきった雰囲気で無表情。……きっと色んなものが盛大に破壊されたに違いない。ラッセルたちが言っている異性への憧れや夢やらロマンやらといったものが。
「『影』も、『影』見習いも含めてぼこぼこって、何だそのゴリラ女は」
王太子の呆然とした呟きに、笑いが漏れた。僕も苦笑した。
「そんな彼女がサンルテアの『影』や使用人が認めて従う直系の姫であり、領地に活気をもたらし、サンルテアを発展させる宝であるんです。彼女が来てから、『影』の結束力が高まりましたし、様々な案や道具、王都の裏社会で睨み合っていたラカン長老との和解、宗教国家トレアで御殿医を勤めあげながらも引退し、堅物で貴族嫌いのソール医師との繋がりや隣国ゴルドのハイドたちとの繋がり等々が出来ましたから。――だから言ったでしょう。なるべく関わらないようにして下さいと。奪うなら、相応の覚悟をなさって下さい」
スピネルが「そういう事になるのか…?」と考え込む。
ウェンド侯爵が片手を挙げ、陛下が発言を許可した。片眼鏡を掛け直す。
「ところで、サンルテア領地の南の方では、メガネ祭りがあると耳にしたのですが?」
「……ありますよ。レンズやガラス作りが特産の地域で、それなら他とは違う特産を活かしたメガネの美男美女コンテストをしようと開催してましたね。きちんとその人にフィットしているか、色や形は合っているかという厳しい審査で、メガネ祭りの異名を取ってます。いいメガネを作った職人には賞金が出て、盛り上がったそうですよ。ルディもメガネの掘り出し物があったり、安く仕入れることができて喜んでいました」
「この国の五指に入る大商人が関わるなら、ある程度盛り上がるだろう。本当にあの娘は、いつの間にか一癖も二癖もある輩と繋がっているな」
呆れ返るダスティ侯爵に、僕は微笑んでおいた。
「ルディとは陛下たちよりも長い付き合いですよ。彼自身リフィを気に入ってますし、商品化で悩んだり行き詰まった時は、相談して知恵を求めるくらいです。ルディもリフィの為なら、祭りに隊商を動かして援助を惜しみません。リフィがする事に経済効果があり、何より楽しく面白いからと」
陛下が嘆息した。
「あの守銭奴に金を出させるとは………恐ろしいな。既に魔道具造りのミラ・ロサとして、儲けているだろうに。色々と造った道具を『影』で融通して貰えて羨ましい限りだ。『精霊の眼』のお蔭でたまに聞こえる精霊たちの囁きでは、魔法銃や他にも楽しそうな道具が沢山あるらしいな。オレたちも欲しいくらいだが、どうにかならんか」
「通常相場の五倍を出せばやってくれるかもしれませんね」
「何でだよ!?」
あまりの価格設定に陛下が目を剥いた。
「リフィはこうと決めたら譲らない所があります。その一つが、無属性の魔法道具です。魔法銃は造る数を五十、多くても百と決めていました。ただ、冒険者が増えて生存率の上昇や、僕たちが魔物に相対する危険性が減るからと三百まで数を増やしましたが、それ以上を造るのは拒みました」
何度有名ギルドに依頼で指名されても、大金を積まれても、数が多いと何か事件に使用された時に管理して把握できないからと、脅されても造らなかった。
「その三百の内、百が『影』にあるんだろう。ずるいだろ、それは」
「それもリフィので判断です。だから、『影』も僕も彼女の信頼を裏切るような使い方はしません。お望みなら、割引もしてくれますよ。恐らく、美少女か美女に変装してくれたら」
「………何でだよ」
陛下が「少し感動しかけて損した」と呟いた。僕は苦笑する。
少し前からリフィは、記憶玉や結界玉といった物以外、あまり魔法道具を造らなくなった。以前僕や母にくれた身代わりの守護お守りも、間違いなく有益な発明品の一つだ。けれど、リフィを欲しがる人が後を絶たなくなるから止めさせた。
それを造ると、リフィの魔力が全て持っていかれて、三日は回復しなくなるらしい。二つ目を造った時で二日、三つ目で魔力の回復に丸三日かかった。幼い頃ならともかく、今リフィから魔法が使えない日ができるのはまずい。拐われたり、変なのが襲いかかってきたりと色々あるから。
それに、使う方も気を付けなくちゃいけない。バレたら世紀の発明品と騒がれて煩い。一度は琥珀核の守護と誤魔化せても、頻繁に何度も奇跡的に助かったら怪しまれる。だから、作らないようアッシュと言い聞かせた。
「前々から思ってはいたが、ケイトスやサンルテアは愛され過ぎじゃないか。というか、彼女がお前に執着しすぎだな」
「でもそれを知っていたから、僕を彼女への抑止力にして利用したのでしょう」
場の空気が変わる。
スピネルとキースは目まぐるしく変わる話に、雰囲気に、目を白黒させている。イナルは軽く話しながらも探り合い、本音を見極めようとする僕たちのやり取りを聞きながら考えているけど、観察する余裕はなくて内容についていくのが精一杯のようだ。
後学の為、三人に馴れさせる為にこの場に出席させた事も、陛下たちが自陣側の自分たちを観察している事にも気づいていない。
「大分前に、お前の父に説得しろと言ったが、ムーンローザ嬢…リフィーユはジルの頼みでも断ると宣言した。それなら、母であるシェルシーかお前かだが、シェルシーに手を出せば王妃が怒る。おまけにドラヴェイ伯爵とジルの機嫌も損ね、付き合いの長いサンルテアの民の反発も大きい。三年前はまさか、リフィーユが既にサンルテアの民を味方にしているとは思わず、予想外だったが。おまけにラカン長老やソール医師まで。他にもルディや隣国、ギルドマスターと、油断できんな」
「だからって掌中に収めるのは自重して下さいね。捕まえようとしたら、本気でこの国から逃げますよ。異界でも別の国でも雲隠れしますから」
「………………。はぁぁああぁぁ。わかっている」
「そうですよね、僕を彼女への楔にしてこの国に繋ぎ止めようとしたのですから」
王が開き直ったようにふんぞり返り、短く息を吐いた。
「ジルでは彼女を繋ぎ止める役にならないが、リフィーユが命懸けで守ったお前ならと思った。それにあの場に現れたお前に対して、随分と素直に従うのを見せられたからな。お前の力が抑止力にならずとも、お前がいればあの娘はこの国に繋ぎ止められる。その選択は正しかったと思っている」
王の言葉に、宰相と騎士団長が頷き返した。
「ええ、彼女を優先しようとしたのは意外でしたが、国への翻意はないと間に入ったのは、サンルテアの後継ぎとして流石でした、ケイトス」
「あの時はこちらもどうしたものか困っていたからな。間に入って緩衝材になってくれて助かった」
「他国へ逃がすわけもいかず、留め置く事も出来ず、厄介だったからな、アレは」
鼻に皺を寄せるダスティ侯爵に、ウェンド侯爵が思い出したように口を開いた。
「厄介と言えば、まさか彼女が神殿と親しいとは意外だった」
三年前は大神殿の勢力が強く、正神殿の力が弱まっていたが、それが今では逆転していた。正神殿にとって代わろうとした大神殿の勢いは衰え、落ち目の一途を辿り、権力も資金も規模も縮小された。本来の力関係に戻り、貴族との近過ぎる距離も正され、あるべき形に形成された。
それを成し遂げたのは、ルワンダ正神殿長の辣腕もさることながら、影の立役者として彼からの依頼をこなして助力したフロース・メンシスの功績も大きい。ペナルティだからと、リフィは精力的に動いていたね。
まだ大神殿は、かつての栄誉を諦めてないみたいだけど。
「その神殿関係ですが、フロースが大神殿の不正の証拠を色々と掴んだそうですよ。それを癒着していた貴族情報込みで五十万で売ってくれるそうです」
とんでもない情報に、陛下たちが大きく目を見開いた。
「取引してきて?」と無邪気な笑顔でリフィがお願いしてきた時、そうしないと自分で行って話をつけてくると副音声を聞いた気がした僕も、同じ顔をしていたのかもしれない。
「本当は無償にして大神殿を潰す足掛かりにしようとしていたのですが、そもそも、大神殿の腐敗も助長も権力欲も神殿の混乱も、全ては大神殿を作った王家や許してきた貴族の責任で、その尻拭いをタダでするのはバカらしいそうです。正神殿のこれ迄の苦労も知らずに放置してきて、無責任な対応をしてきたのだから、自分たちでどうにかするべきだと言っておりました。
情報を買わないなら、不正を隠したい大神殿に売ってその弊害により民に混乱が及ぶか、正神殿に売って国の不甲斐なさを露呈させるか、マスコミに売って国や貴族の癒着と大神殿の腐敗を国の恥として報せるか、お好きな選択をして下さいませと伝言です。
リフィは特に、国や神殿や貴族に興味はないので、どれかに肩入れする事はありませんよ。ただ、正神殿長のルワンダさんとは仲がいいので、国と彼なら彼に肩入れしそうですけど。正神殿の力が増して王家と拮抗するなら、それはそれで構わないようです。王家への抑止力になるからと」
「また忌々しく成長したな、あの小娘は!」
「本当に十歳か!?」
いきり立つダスティ侯爵とウェンド侯爵。呆れつつも頭を抱える陛下と宰相はいつもの事として、すっかり呆けている子供組。
「後日、しっかり協議してから返答します」と宰相に言われ、「期限は五日以内だそうです」と他人事のように返した。
「ケイトス、お前のメイドだったんだろう。もう少し値引きするよう命じろ」
「陛下、そのニヤニヤ笑い止めて下さい。もうメイドではありませんし、そうなったのは僕が怪我したせいですよ。いつもはここまでしません」
「本当にお前が大好きだな、あの娘は。羨ましい限りだ」
「僕が安静にしているか監視しているメイドですよ。羨ましいですか? ずっと監視するメイド」
「……怖いからいらん」
「ずっと付きっきり…」
キースの他意のない呟きに、考え込んでいたイナルが、心配するように僕を見てきた。
「思ったのですがケイ、貴族が嫌いと言いつつ結局、あなたに関わっている時点で、彼女はあなたやサンルテアの権力や力を利用していませんか。あなたが庇護していますし、頻繁に一緒に過ごしているようですし、あわよくばケイを取り込んで自分が婚約者の座に収まろうと目論んでる可能性はありませんか?」
リフィが僕を利用しているのではと、身を案じて気遣ってくれたイナルに、僕は苦笑した。ダスティ侯爵が「あの狡猾な小娘なら可能性はあるな」と仲違いを狙っているのか、イナルの話に乗ってきた。
ウェンド侯爵までもが「有り得る。容姿や将来性、権力に財力……サンルテアにいれば未来の安全が保証されたようなものだからな」と、これ迄のリフィによる苦悩と苦労を思い出したのか、真剣に思案した。
僕は話を聞いた面々の反応や表情を具に見ながら、困り顔で笑みを深めた。
シナリオ通りになるのが嫌で、年々サンルテア屋敷への訪問回数も減っているのに。その気になれば問題の学園を消すどころか王都を火の海に沈める事も、他国で一人暮らしが可能な力を持っているのに。地位や権力や財力はおろか、将来の安全だって、ハイドに言い寄ったり国と交渉してその気になればいくらでも手に入るのに。
「――そんな事あるわけないでしょう」
「え?」
「心配してくれてありがとうございます、イナル様。ですが、彼女が僕にすり寄る令嬢たちを牽制して近づかせないなんて事はありませんし、貴族の集まりに出席しても行きたいと言いませんし、着いてきません。たまに同じ会場で遭遇しても、サンルテアとの関係をひけらかす事もなく、挨拶のみです。他の令嬢の悪口を吹き込む事もなく、プライベート以外では他人のようですよ。それをこれ迄、徹底しております。何より再婚時、自分でサンルテア男爵家に入らず、相続の一切を放棄したのですから」
非公式とはいえ会議の場だから、男爵子息として公爵子息に答えた。イナルも自分が気を抜いて私的な発言をした事に気づいた。騎士団長が感情を読ませない静かな目を向けてくる。
「では何故、彼女はお前に執着しているんだ?」
「僕が居なくなったら、サンルテアの後継はリフィ以外にいなくなるからですよ」
「……………確かに三年前、本人がそう言っていたな。自分の為にケイトスを助けたのだから、恩なんか感じなくていいと」
「騎士団長の仰った通りです。貴族になりたくないものの、僕がいなくなれば彼女は後継者になりますよ。どんなに嫌でもサンルテアの使用人や領民と関わって彼らに好意がありますし、母と父が大好きですし、彼らに懇願されたら断れません。そうなるのが嫌だから、僕を守ろうとするんです。恐らく自分が後継者になった時は、無邪気に両親に弟妹をねだりますよ」
それでその子を後継にするだろう。現在二歳のサリーの弟を可愛いと愛でているから、単純に弟妹が欲しい可能性は高いけど。
ウェンド侯爵が探る眼差しを向けてきた。
「だが、後から婚約者になろうとか、次期男爵を裏から操ろうとか、都合よく利用しようとか、考えている可能性もある」
「リフィを甘く見ないで下さい。そんな事を考える筈がないでしょう。そんな普通の事を!」
「は?」
「確かにリフィの考えは読めません。けれど、ただ単純に自分の欲望のままに突っ走っていくので、解りやすくはあります。そんな風に思ってくれたら、どんなに楽か。悲しい事にリフィなら、僕を嫁に出すくらい考えていても不思議じゃないんです!」
「はぁぁあ?」
陛下が素頓狂な声を上げた。他も理解できなかったように、口を開けて呆けている。
僕は三日前、サリーからもたらされた情報を思い出す。
アッシュの写真をペット服のカタログに載せる、写真や使用料の交渉をしていた際。テーブルに肘をついて両手を軽く組み、リフィが物憂げに言ったらしい。
『アッシュのどんな衣装も揃えていると豪語したけど、一つ用意してない服がある事に気付いたの』
酷く真剣なリフィに、サリーは漏れがあった自分を責めた。
『それは何かしら? すぐにその衣装を作るわ!』
『ありがとう、サリー。今日ここに来るまでに街で見掛けて、忘れていた自分にショックを受けたけど、立ち直れそう』
『任せて! それでその衣装って何かしら? コック服も水着も神官服も修道女も王様のマントからナース服や着ぐるみまで作っていた中で、用意していなかった衣装って?』
『――花嫁衣装』
『え?』
『花嫁衣装』
『それは…っ、確かに作っていなかったわ…!』
『でしょう! 教会から神官様と新郎新婦が現れたのを見て、シマッタこの衣装ないって思い出して、その場に膝をつきかけたよ』
『大丈夫よ、すぐに作るわ。まずはデザインを決めるわよ。それからヴェールと…』と、話が盛り上がったらしい。
花婿衣装じゃないかと疑問に思ったサリーだけれど、ノリに合わせておいたと報告書に書かれていた。ついでに花婿衣装も作っておくようだ。きっとアッシュがその場にいたら、反対して作らせなかったと思う。
昨日アッシュを見て「純白も似合うよ~」と、にへらっ笑ったリフィに、毛を逆立たアッシュが怪訝な顔で震えていたけど、逃げてとは言えなかった。教えたらサリーしか知らない話を誰が知らせてアッシュを逃がしたか考えたリフィが、僕に辿り着きそうだから。
因みに偶然居合わせて、一緒に報告書に目を通したラッセルが、「幸せそうな新郎新婦を見て憧れるでもなく、考えるのがアッシュの衣装なのか、お嬢!? 注目するのそこか!?」とショックを受けていた。「乙女として終わってる…」と顔を覆い、何故か僕に同情の視線を向けてきたけどスルーした。
アッシュの他に、僕に合う白いドレスの話で盛り上がり、リフィが「これ似合いそう」と頬を染めて微笑んだ時は、思わずサリーも息を呑む程、綺麗だったそうだ。欲しいなら作るわよと冗談混じりに締め括られていたが、丁重にお断りした。
深く嘆息して最後の一文を黒く塗り潰す僕を、ラッセルが読めなかった僕の手元の書類を見ながら青ざめて震え、「若も苦労するな…」と呟いた。
――昨日の事を思い返して、僕は吐息した。
「は? え? ケイトスを嫁に出す…?」
混乱している王に「冗談です」と微笑むと、何故か皆がほっと胸を撫で下ろした。――全員、頭でそれはないと思いつつも、リフィなら本気でやりそうと理解しているんだなぁ…。
しみじみ思っていたら、ウェンド侯爵が「案外、名案かもしれない」と口にした。
「そもそも当初は、ムーンローザ嬢を城に置いて教育を施し、いずれ王家かそれに近い重鎮に嫁がせて国で管理する予定だった」
その言葉に、心が冷えた。
陛下と宰相、騎士団長が顔色を変えて焦り出す。僕はその様子に疑問を覚えたけど、それよりも心を落ち着けて、ウェンド侯爵に意識を集中した。
お付き合い下さり、ありがとうございました。
特にこの2ヶ月、更新してないどころかログインもなかなか出来なかったにも関わらず、ブクマしてくださった方々、それ以前からブクマしてくださっていた方々に深い謝意を。m(_ _)m
お陰でちまちまと書き進めることが出来ました。
遅筆ながらも、まだ見えぬ完結まで書き進められるよう精進しますので、この物語にもう少しお付き合い下されば、幸いです。m(_ _)m
今月中に、この番外編を終わらせられるよう努力します。




