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Gilbert side 2

 昼の客入りが一段落ついて、ダリルに酒の仕入れを頼んだ後、ポーラから、夜の営業の前に、一旦家に帰らせて欲しいと頼まれた。

 彼女の兄のヒューが、上官の供で、戻ってきているという。

 しかも。


 「ジーン少佐って、ダリルさんの恋人だったって、聞いたんですけど・・・」

 「そうだね」

 「ダリルさんに、お伝えしといた方がいいでしょうか?」

 「―――別に、いいんじゃない?周りが変に気を回してもさ。あちらは何か任務なんでしょ?」

 「そう、ですね・・・。とりあえず、私、兄さんに、話聞いてきますね」

 「うん」

 「それじゃ、4時までには戻りますから」

 オレは、ポーラを見送って、厨房の勝手口から表に出た。


 店の裏にはマスター、といってもダリルじゃなくて、先代のマスターから受け継いだ、小さなハーブガーデンがあった。ここで、調理に使うハーブを何種類か育てている。

 今日の賄いは、新しいメニューの試作を出そうと決めていたから、調理の仕上げに必要なハーブを摘みに向かったのだ。

 若い、先端の芽を摘んだ瞬間、少し刺激のある青い匂いに、鼻腔をくすぐられる。

 この店とハーブガーデンを残して、先代のマスターが亡くなったのは、本当に突然のことだった。マスターは、肺炎をこじらせて、信じられないくらい呆気なく逝ってしまった。

 オレが、はしばみ亭で働き始めて、半年も経たない頃だったと思う。

 「はしばみ亭は、俺が継ぐよ」

 オレが途方に暮れていたその時、ダリルは、そう告げてくれた。

 オレは、ダリルとジーンにまつわる昔の事を、とりとめもなく、思い出していた。




 ダリルが、この店を継ぐ前、まだ城勤めをしていた頃、非番の日には、よく、オレを遊びに連れ出してくれた。

 休みが合えば、ジーンも一緒だった。


 初めてジーンに会ったときには、綺麗なお姉さんだと憧れたし、ジーンはいつでも優しく接してくれたから、オレはすぐにジーンになついた。

 オレは三人で過ごす時間を、無邪気に喜んでいた。


 けれども、中等教育を受け始めてから、友人たちが恋愛に興味を示すようになった頃、オレも、自分が二人の時間を邪魔をしていたのかもしれないと思うようになった。

 それに気付いてからというもの、オレは、ダリルから三人で出かけようと誘われると、拒むようにした。

 初めのうちダリルは、オレが断ると、ジーンとの予定自体をキャンセルしてしまっていたが、何度か、頑なに断り続けるうちに、やっとジーンと二人の時間を持つようになった。


 オレは、肩の荷がおりたように、ほっとした。

 ―――と、同時に、勝手なもので、それはそれで寂しさを覚えた。

 そして、決定的だったのは、街中で二人が仲睦まじく並んで歩いているのを、見かけたときの事だった。


 通りすがりの露店のアクセサリーを、ジーンが手にとって眺めていた。

 ダリルは並んで、何か話しかけながら、ジーンの背に腕を回した。


 その瞬間、オレはカッとなって、直ぐにその場を立ち去った。


 それまでに、二人を見ていて、そんな感情を抱いたことはなかったし、自分の気持ちの訳がわからなくて、ひどく混乱した。

 家に戻り、ベッドに潜り込んで、落ち着こうと考えを巡らせているうち、どうやら自分はジーンに嫉妬したのだと・・・悟ってしまった。


 あの時の気持ちは、今でも思い出すと、苦いものが込み上げてくる。

 ダリルの事は、血は繋がっていなくても、本当の兄さんみたいに慕ってる。

 そう、思い込んでいたのに、実は、初恋でした、なんて。

 一体、何の冗談だろう。


 それからしばらくは、ダリルと顔を合わせるのも辛い日々が続いた。

 オレの尋常ではない落ち込みを察して、ダリルはあれこれ気を回してくれたけれども、それは、オレにとっては、全くの逆効果だった。


 けれどもある日、思いついて、オレは、ダリルに、はしばみ亭に連れていって欲しいとねだった。

 ダリルは、オレが漸く元気を取り戻したのかと、少し安心したようだった。

 次のダリルの非番の日、オレ達はこの港町を訪れた。


 「秋から、ここで、働かせて下さい」

 オレは、はしばみ亭につくなり、マスターに頼みこんだ。

 ダリルには何も伝えていなかったから、もの凄く驚いたと思う。

 度胸がなくて、ダリルを振り返る事は出来なかったから、その時ダリルがどんな表情をしていたか、オレは知らない。

 ただ、マスターとの約束を取り付けて、家路をたどる間、ダリルの足取りも、口調も、いつになく重かったのを覚えてる。


 月明かりの中、ダリルの後をついて歩いていると、ダリルはぽつりとつぶやいた。

 「お前、いろいろ考えてたんだなぁ・・・」

 ダリルは、オレが早く独り立ちをしたいと考えたのだと、誤解したようだった。

 「ありがとう、兄さん」

 ダリルのことを、そう呼んだのは、このときが初めてだったと思う。




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