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エデンの園  作者: 北東
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第九話【黒ひげ2】

最近投稿スピードが著しく遅くなってる気がするんですが、気のせいでしょうか?………気のせいじゃないですよねぇ、投稿スピードは明らかに遅いですよね。でもまぁ元々不定期更新でしたから、遅くても速くても余り変わらないですよね。

嵐の中荒波に揉まれ揺れる船の甲板に、2人の男が立っている。一方は見た目が18歳くらいの青年、方やもう一方は40代後半に差し掛かっているかと思われる男。どちらも嵐など起きていないかの様に平然と揺れる船の上に立ち、お互いの得物を敵に向けている。


40代後半と思われる男ーーー黒ひげが右手に握る剣を天に掲げる、すると波が意思を持つかの様に動き巨大な津波になる。津波は2人の男が乗る船を軽々と飲み込む様な大きさで、今にも船を海底へと引き摺り込もうと黒ひげの剣が降り下ろされるのを今か今かと待っている。


「海の藻屑となれ。」


一声発せられた言葉は、聞こえるか聞こえないかくらいの小さなものだったが、目の前に立つ青年ーーークロウにはハッキリと聞こえた。その声をクロウが聞き取ると同時に黒ひげは掲げていた剣を降り下ろし、巨大な津波を動かす。


現実(リアル)で見ると迫力が違うな………。」


巨大な津波が迫って来ているにも関わらず、クロウは焦った様子を見せない。それどころか津波の迫力に感心さえする余裕もある程だ。まぁそれは当然とも言える、何故ならーーー。


「津波は所詮水の塊、草薙の剣で斬れない訳がない。」


船を飲み込もうと向かってくる大津波を片手に持つ1本の刀で払う。すると強力な斬撃が刀身から放たれ、津波を凪ぎ払う。青年はたった一振りで船をも飲み込む津波を斬り裂く刀を持つのだ、余裕で居るのが当然なのだ。


振り切った刀を払う。勿論刀身に血が付いた訳でもーーーましてや塵1つすら付いた訳ではないが、振るった後に刀を払うのはクロウの癖の様なものだ。勿論刀を払えば斬撃が飛んでいき、太刀筋にあった海を斬り裂く。しかしそれすら気にする事はなく刀を構え直し黒ひげと向かい合う。


波を操り津波を起こした怪物(クロヒゲ)と、その津波を容易く斬り裂いた化物(クロウ)がぶつかり合う、その光景はまさに怪物vs化物。誰にも止められない怪物と化物が、人知れず戦いを始めた。






「斬撃で波をを割るとは………その剣、神級(ゴッド)だな?」


「あぁそうだ、こいつは草薙の剣。神級(ゴッド)の中でもピカ1の攻撃力を誇る刀だ。」


船を飲み込む様な規模の津波を斬ったのが信じられないのか、少しポカンとしていた黒ひげが話し掛けてきた。船員達が喋っていたのでもしやと思っていたが、どうやら人型モンスターは喋る事が出来るらしい。


しかも武器の等級まで理解していると言う事は、それなりの知能と知識があると言う事だ。これは少し厄介な事になるかもしれない。モンスターとは、予め決められた幾つかの動作をランダムで行い攻撃してくるのが普通だ。そして動作毎にこう言う動作にはこう対応すればいいと言う攻略法がある。


しかし今や相手は考える頭がある。AI(人工知能)に制御されて、特定の行動パターンを繰り返すだけの馬鹿ではないのだ。知能がある生物は効率化を図るものが多い、人は弓や槍等の武器を作り狩りを効率化したし、猿も枝や葉っぱを道具の代わりに使いエサの確保を効率化する。


ゲームでは黒ひげに意図的に作られた隙があった。ゲームではその意図的に作られた隙を狙って黒ひげに攻撃する事で、ただ単に正面からぶつかるよりも倒しやすくなる様に出来ている。しかし意図的に作られた隙は不自然なものが多い。無理矢理隙を作っているのだから、当然と言えば当然だ。


AIが生み出した不自然な隙は、効率化を図る頭脳により無くなる。つまり黒ひげは今まで存在していた、無駄な動きを効率化して無くしている可能性があるのだ。それは同時に、ゲームの時より黒ひげが強くなっていると言う可能性もあると言う事に繋がる。


隙を突いてダメージを与えるのが俺の戦法だ。力でゴリ押しするには筋力や物攻が足りないし、スピードで翻弄するには速度が足りない。器用貧乏とも言える浪漫型では他の一点を特化させているプレイヤーと同じ戦い方は出来ない。


全てのステータスを均等にしている俺には、相手の隙を狙って攻撃すると言う基本的な戦法しか取れないのだ。勿論相手が自分より弱ければ他の戦法も取れるが、今から戦うのは俺とほぼ同格とも言える相手だ。下手な戦法は命取りになるだろう。


「取り敢えず戦ってみて様子を見るか。」


取り敢えず戦ってみない事には分からないので、此方から仕掛けてみる。船の後方に居る黒ひげに向けて走り出すと、それを阻止する為か、黒ひげが剣を振り波を操り甲板に水を流し込む。そのまま走っていると波に飲まれて甲板から海へと引き摺り込まれるので、空気を踏んで宙を駆ける。


「………空も走れるのか?珍妙な男だな。」


「それは誉め言葉として受け取った方がいいか?」


「貶しておるんだよ。」


黒ひげが空を走る俺を珍妙な男と言ったので、誉め言葉として受け取ったら貶していると言われてしまった。ちょっと傷付いたので草薙の剣で斬撃を飛ばしておく。しかしその斬撃は黒ひげの持つ剣で弾かれ、斬撃を弾いた勢いで剣を振り風を操り俺の体のバランスを崩そうとしてくる。


「そう言えばあの剣は風も操れるんだっけ?」


強風で流されそうになった体を立て直しながら草薙の剣を強めに振って衝撃波を飛ばし、風を掻き消す。しかし黒ひげはそれを読んでいたかの様に風とは逆側から弾丸のごとき水滴を飛ばしてきた。俺は風を掻き消す為に剣を払っている為、水滴を防ぐ事が出来ない。まぁスキルを使えば関係ないがな。


「フェイントを入れてくるとは、やっぱりゲームの時とは違うな………《爆発(バースト)》、《フロスト》!」


MPを大量に消費する替わりに物理的攻撃を全て弾き返す《爆発(バースト)》を使い水滴を弾き、ついでに甲板に打ち上げられた海水を凍らせ斬撃を飛ばして砕き大きめの破片を黒ひげに向けて蹴り飛ばす。それに対して黒ひげは剣を振り、マストに掛かっていたロープを操り、氷塊に絡めて止める。


そしてそのまま剣をもう一振りして、マストに帆を縛るロープを解いて帆を張る。そしてもう一振りして追い風を起こし船を動かす。


「マズい!」


帆が風を受けて大きく膨らみ、船が一気に加速する。しかし俺は空中に立っているので、急加速でも体勢が崩れたりはしない。ただし宙に浮いているので進んでいく船に置いて行かれてしまう。それは困るので咄嗟に近くにあったマストにしがみ着き、置いて行かれない様にする。


「アホめ、わしが船を操れる事を忘れたのか?」


しかしそれを待ってましたとばかりに黒ひげが剣を振り、マストに絡み付いていたロープを操り俺の足を縛りマストから引き剥がす。当然掴まる物が無くなり俺は海に落ちる筈なのだが、俺の足には今だロープが絡まっており船に引き摺られる様な形で海には落ちていない。


これ幸いと急いでロープを掴み足に絡まっている部分を斬り放す。そしてロープを伝って船へと戻ろうとすると、後方で波が動き大渦巻きを作り出した。おそらく黒ひげはあの渦巻きに俺を落とそうとしたのだろう、しかし今はロープを確りと掴んでいるので渦巻きに落ちる事もない。


「もう少し遅かったら渦巻きに飲まれてたかもな………。」


危なかったと思いながらロープを伝って行き、最後は勢いをつけて船の甲板に飛び乗る。今度はロープに注意を配りながら近くの手摺に掴まり、振り落とされない様にしながら黒ひげに斬撃を飛ばす。すると黒ひげは船を操るのを一旦止めて斬撃を弾き、何かを唱え出した。


「黒魔術か!?それはヤバいっ!」


黒魔術を使うには詠唱が必要なのはゲームと変わらないみたいで、黒ひげは何語き分からない言葉を唱え始めた。黒魔術は何種類かあるが、どれも食らうとろくでもない目に合うので詠唱の段階で止めたい。斬撃を飛ばしていたのでは弾かれるだけなので、一気に走って近付く。


音速を越える速度で走って近付き斬り掛かる。それを本能的に察知したのか、ギリギリの所で避けられたが詠唱を止める事には成功した。


「………空を走る上に目にも止まらぬ速さ、本当に珍妙な男だ。」


「珍妙って言うな!」


人の事を珍妙珍妙と連呼しやがって!流石に怒るぞコノヤロー!キレ気味になりながらそのまま降り下ろした刀を返し斬りつける、それを黒ひげは剣で受け流しつつ波を操り津波を引き起こす。その津波を黒ひげが動かすよりも前に俺が刀で凪ぎ払い、払った刀を引き戻し黒ひげに横合いから刀で斬り掛かる。


しかし黒ひげは上手く刀を受け止めて、そのまま鍔迫り合いになる。まぁ筋力値は俺の方が少し上なので、ジリジリと黒ひげを押して行く。このまま刀で弾いて吹っ飛ばそうかと思ったその時、突然押していた刀が押し返され吹っ飛ばされた。


「………今のは《プッシュアサルト》か?」


空中で体勢を立て直し船の手摺に着地しながら考察する。我ながら曲芸師みたいな事をしているなと思いながら、次の一手を考える。斬り結んでみたが、予想通り黒ひげの剣の腕はゲームの時とは比べ物にならないくらい強くなっている。隙が無くなってるし、スキルを使うタイミングも上手い。


このまま押し切れると一瞬気を抜いた瞬間を狙い、スキルを使い俺を弾き飛ばした。タイミングも狙いも下手なプレイヤーより上手い、これは気を引き締めてやらないと少々危ないかもな………。


自分が考えていた最悪のシナリオ通りなのにうんざりしながらも、気を引き締め直して刀を構え直す。そして次の瞬間には黒ひげの背後に周り込み斬り付ける。今度も避けられはしたが肩の辺りを軽くかすったらしく、黒ひげの左肩が斬れている。


流石にいくらレベルが高くても草薙の剣の切れ味の前には、黒ひげなど豆腐と同程度だ。刃先がかすっただけで深く斬り裂いてしまう。まぁ黒ひげは肩を斬った程度じゃ死にはしないだろうがな。


「くっ!………やはり速いな、全く見えなかったぞ?」


「嘘言え、見えてなかったら避けられるかよ。」


さっきのは左腕を斬り落とすつもりで振ったのに、上手い事体を反らして避けた。まぁ俺も強引に腕を伸ばしたからギリギリ刃先が当たったので斬れたが、普通なら完全に避けられていた。あれは明らかに俺の動きが見えていたから出来る芸当だ。


「まぁ見えてないと言えば嘘になるな………。」


「はっ!嘘を付くのが下手なんだよ。」


軽口を叩きつつもお互いに剣と刀を振り、ぶつけ合う。その度に火花が散り、刃を消耗する。消耗と言っても大したものではなく、ほんの少し刃が欠ける程度で、どちらも武器自体の自己修復機能で数秒程で直る些細なものだ。そうして打ち合いを数度続けて、最後に1度強く打ち合いお互いに後ろに跳んで距離を取る。


「打ち合いじゃあ埒が空かないな、《ファイアストーム》。」


剣での打ち合いでは埒が空かないので、魔法スキルの《ファイアストーム》で前方を焼き払う。炎の竜巻が甲板を走り黒ひげに迫るが、剣の一振りで波を甲板に打ち上げて炎を消してしまう。


火属性の魔法では波に消されてしまうな………。水属性も余り効果は無さそうだし、土属性はまず土がないので使えない、風も黒ひげの持つ剣で操られてまともに当てられないだろう。上記の上位属性も効果は余り変わらないだろう、となれば残るは光か闇もしくは雷と雷の上位属性の天くらいだ。


黒ひげの黒魔術には光や聖属性を無効化するものがあるので光は無し、闇や重力属性は黒ひげの得意分野なので相殺されるだろうから無し、なら残るは雷か天属性だろう。


「雷が効くのかは分からんが、取り敢えずやるか、《サンダーアロー》。」


「雷か?ーーーフンッ!《フロスト》。」


《サンダーアロー》は《ホーリーアロー》の雷版で、威力は低いが連射性に優れる魔法スキルだ。試し撃ちなので5発程度撃つが、黒ひげは剣で甲板にある水を操り自分の前に壁の様に集めて、《フロスト》で凍らせ即席の壁を作り出した。


ただの水の壁ならば感電させる事が出来たのだが、氷の壁では感電させる事が出来なかった。意外と氷は硬いと学んだ今日この頃、草薙の剣で氷壁を砕き数週間前にシーバイソンの群れを全滅させた《十字雷(クロスサンダー)》を使う。


「焼け焦げろ!」


「甘い!」


降り注ぐ十字架型の雷を腰に差してある残りの8本の剣の内の1本4で弾く。どうやら雷属性の効果が追付された剣らしい。厄介だな、これじゃあまともな攻撃魔法が1つも使えない。


「面倒くさいなぁ………やっぱりゲームとは違うな。」


遊んでいたのでは勝てないので、ちょっと本気を出そうかなと思う。草薙の剣をアイテムボックスにしまい、体を解す為に準備運動をする。アキレス腱を伸ばしたり手首や足首を回し、体の緊張を解して怪我をしない様にする。


そうして力を抜いて脱力した状態から、一気に走り出す。そうすれば1歩踏み出す頃には最高速度に達して、黒ひげの元まで瞬きをする暇さえ無いくらいの速さで到達して握り拳を放つ。


拳を撃ち出す為に限界まで腕を引き、光を越える速度の移動により勢いを乗せた破壊力抜群の拳を目にも止まらぬ速さで放つ。その一撃は当たった者を吹き飛ばす事はない、高過ぎる威力と速過ぎる速度ゆえに当たってから数秒後全身に衝撃が突き抜けていくだけだ。


普通の人間(レベル5000~9000くらいのプレイヤー)ならば一撃で死亡する様な攻撃だ。さらにここは現実、当然光速の一撃を食らえば食らった者は原型を留めてはいられずに、跡形もなく消し飛ばされてしまうだろう。


当然黒ひげは反応も出来ずに必殺の一撃を受けて、跡形もなく消し飛ぶーーー筈だった。確かに跡形もなく消し飛びはしたが、消し飛ぶ数秒前、黒ひげに拳が触れた瞬間足下に魔方陣が浮かび上がり黒ひげが一瞬消えたのだ。ほんの一瞬だが、確かに黒ひげが1度消えてまた現れた。


魔方陣は黒く輝いていたので黒魔術だろう。今の状況から考えると何らかの物質入れ換え系のスキルだと思われる、《身代わり人形》が一番可能性としては高い。《身代わり人形》とは、予め用意しておいた人形と1度だけ入れ換われるというものだ。


これが厄介なのは、どんなダメージーーー極端な話HPが0になる様な攻撃でも、人形と入れ換わればなかった事に出来るという所だ。例えば先程のパンチは既に黒ひげに当たっており、普通ならば黒ひげは消し飛んでいたのだが、拳が触れた後で人形と自分を入れ換えてダメージを人形に肩代わりさせたのだ。


因みに《身代わり人形》は人形を用意した数だけ使える。つまり100体の人形を用意すれば、100回傷を無かった事に出来るのだ。勿論これだけ強力なスキルならば大きなリスクがある。それは人形が攻撃を受ければ、人形を用意した者がダメージを受けるというものだ。


身代わりになった人形は、入れ換わった後にはどうなろうと用意した者には影響が無いが、入れ換わる前に人形にダメージが加わると、用意した者にもダメージが与えられるのだ。つまりこのスキルは、入れ換わる前の人形を見付けられたら終わりなのだ。


人形の首を斬れば用意した者も首が斬れてしまうのだ。人形は何処かに隠すのが基本なので、探し出して破壊すればダメージを与えられるのだ。しかし今は探している暇はないし、今入れ換わった人形しか用意してないかもしれないので探すだけ無駄になると思われる。


この船をくまなく探すのは時間が掛かるので、探すよりももっと短時間で出来る方法を使う。人形は“1度だけ”入れ換わる事が出来るというものなので、何度も黒ひげを攻撃して人形と入れ換わらせれば、最終的には人形が尽きるだろう。この方法ならチマチマ探すよりもずっと効率よく人形を全て破壊出来る。


先程と同じ様に脱力する。実はこの脱力はしない方が速く走る事が出来るのだが、脱力した方がゲームの処理能力の限界にギリギリ収まるのだ。無駄な動きは処理に負荷を掛けてしまうので、出来る限り無駄な動きを削った脱力状態の方が良いのだ。


ゲームで処理能力に負荷を掛け過ぎると、移動中に体がぶれたり体が動かなくなったりと面倒な事が起きる。まぁ現実でそれが起きるかは分からないのだが、用心して置く方がいいだろう。


取り敢えず今のところ処理能力を考えて、脱力した状態での戦闘をした方がいい。なので出来る限り脱力して処理するべき情報量を減らす。そして1歩を踏み出すと同時に最高速度に達して黒ひげに近付く。


「ウラァ!!」


「ムゥンッ!!」


「ム、ムゥンッ!?何だそれは?」


黒ひげに近付き渾身の一撃を加えようとした瞬間、黒ひげが変な掛け声で気合いを入れながら剣で拳を受け止めた。当然俺の本気で撃ったパンチを受け止めた剣は、耐久力が足りずに半ばから折れてしまった。しかし黒ひげが距離を取るには十分な時間が稼げていたので、拳は当たる事なく空を切った。


神級(ゴッド)の剣を1本犠牲にしてまで避けるという事は、もう身代わりにする人形がもう無いか、用意した人形の数が少ないかのどちらかだろう。これは勝機アリだな。


再度黒ひげに近付き左手で攻撃する。しかしそれはフェイントで、素早く左腕を引き戻し右腕でジャブを打つ様に拳を撃つ。流石に黒ひげも光速でのフェイントには反応出来ず、拳を諸に右頬に食らった。


「今度こそ死んだか?」


周りを見た限り黒ひげの姿はないので、《身代わり人形》で入れ換わってはいない様だ。しかしなんだか釈然としない、あんなにアッサリと黒ひげが死ぬとは思えない。それに黒ひげが死んだらアン女王の復讐号は沈む筈なのだが、現在船は沈む兆候は欠片もない。


しかし黒ひげは確かに仕留めた筈だ、経験値がいくらか入っているので間違いない。ならば何故こんなに違和感を感じるのだろうか?何かがおかしいのだ、明らかに黒ひげはレベル相応の動きをしていなかった。


あの黒ひげは全く銃を使ってこなかったし、スキルも殆ど使っていなかった。それに黒ひげ最大の攻撃力を誇る黒魔術の《芸術的影(アートシャドウ)》や《メテオラ》を使ってこなかった。脱力状態での光速移動に反応したのや剣技はレベル相応の動きだったが、他はなんとも微妙な動きだった。


「確か黒魔術の中に分身を作る、《偽物人形(ドッペルゲンガー)》ってスキルがあったっけ?」


偽物人形(ドッペルゲンガー)》自分そっくりな分身を一体だけ作る事が出来るスキルで、影武者としてよく使われるスキルだ。容姿や装備品まで完璧にコピー出来るが、ステータスは自分の半分程度になるので本当に影武者としてのみ使われる。


しかし黒ひげレベルの奴が使えば、ステータスが半減していても影武者としてではなくちゃんとした戦闘要員として使える強さになるだろう。おそらくさっきまで戦っていたのは黒ひげの偽物、本物は船内の何処かに居るのだろう。


「居るとしたら船長室かな?」


わざわざ探すのは面倒だが、探し出さないと決着が着かないので船長室へと続く扉へと向かう。木製の美しく滑らかな手摺を撫でながら階段を登り船長室へと繋がる扉を開ける。しかしそこには幾つもの本棚と、大きな机と椅子が1つずつあるだけで、黒ひげの姿は見えなかった。


部屋を見渡す限り隠れられる様な場所はないし、元より黒ひげが隠れる訳がないので探す意味がないのだが少々気になる物を見付けてしまったので、部屋の奥へと向かう。


見付けたのは1冊の本だ。題名(タイトル)は【失楽園】、現実(リアル)では創世記第3章の挿話として蛇に唆されたアダムとイヴが神の禁を破って「善悪の知識の実」を食べ、最終的にエデンの園を追放されるという物語とされている。


【エデン】には楽園と呼ばれている街がある、空中都市ハコブネだ。その昔製造された巨大飛行戦艦の残骸の上に作られた空に浮く小さな都市で、天上人達が住まう都市として一部のプレイヤーにしか知られていない隠れ里的な場所だ。その街を作った奴の名前はアダム、神の禁を破りエデンの園から追放されたアダムと同じ名前だ。


関係があるのか分からないが、見てみる価値はあるだろうと思い本を手に取る。かなり古い本なのか、表紙はボロボロで所々ページが破れているので全てを読む事は出来ないが大体の内容は分かる。


内容はアダムという男が神の楽園であるエデンの園から追放された後、巨大飛行戦艦の上に都市を築くまでの話を書いたものだ。どうやらお伽噺として扱われているものと言うよりも、本当に確りと歴史を書き込んだ文献の様なものだ。


アダム本人が書いたと思われる日誌の内容が書かれていたりと、かなり古い本だと分かる。アダムがハコブネを築いたのは5000年以上も前という設定がハコブネにあったので、この本は5000年近く存在している事になる。興味深い本だ、普通なら知り得る筈がない内容が大量に書かれている。


「………ここにある本盗んでもバレないかな?」


アイテムボックスにしまえるならば持って帰る事が出来ると思うので、取り敢えずアイテムボックスに放り込んでみる。するとアイテムボックスにしまう事が出来た。他にも色々と気になる本が幾つかあったので、貰って行く事にする。


「他人の書斎を荒らすとは感心出来んな、小僧。」


「生憎育ちが余りよろしくないもんでな。それに小僧と言われる様な歳じゃないさ、引き籠り野郎。」


「なっ!?ーーー言ってくれたな、小僧!」


「うるせぇ!引き籠りに引き籠りと言って何が悪い!」


本棚にある気になる本を片っ端からアイテムボックスに放り込んでいると、黒ひげが扉を開けて入ってきて俺を小僧呼ばわりしたのでは言い返したら、なにやら不穏な空気になってきた。


「貴様ぁ!覚悟は出来てるんだろうな?」


「待て!ここで暴れる訳にはいかん!折角の貴重な本が失われるのは困る!」


黒ひげが怒りで我を忘れて剣を抜刀しかけたので、船長室から甲板へと蹴り飛ばして室内での戦闘を回避する。ついでに入り口近くの本棚から気になる題名(タイトル)の本をしっけいする。その時点でアイテムボックスに余裕が無くなってきたので、本を盗むのはやめにして甲板へと出る。


「さて、貰う物は貰ったし第2ラウンドと行こうか、黒ひげ?」


「貰うと言うよりも盗んだが正しいだろ?」


「ちょっとした違いだ。所謂言葉のあやってやつだよ。」


しょうもないやり取りをしながらもお互いにーーー黒ひげは右手に剣、左手に銃を持ち構え、俺は拳を構える。お互いに殺気をみなぎらせて睨み合い、ぶつかり合う。ここにクロウVS黒ひげの第2ラウンドが始まった。



ちょっと黒ひげだけで引っ張り過ぎてますかね?次で黒ひげとの戦闘は終わり、海から陸地へと戻ると思います。陸地に戻ったら主人公の子供達に関する話にしようと思っています。因みに幼女キャラが登場する予定です、ついでにロリコンキャラも………ロリコンキャラは誰得何でしょうか?

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