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36 帰りたくないけれど、王都へ戻らざるを得ません……。



「……では、王都へお帰りになりますか?」

「そうですわね。でも……どうせ数日はかかりますけれど……」


 オルタニア夫人と、今後の動きを確認しております。


 ついにお義母さまから帰ってこいとお手紙を頂きました。

 感情を排した文章だというのに、ため息が聞こえてきそうなお手紙でしたわ!?


 それは……だいたい全部、ケイトのせいです……。


 ケイトがサンハイムの山荘へと逃げたことを知ったお義母さまが、私に課題を手伝わせようと企んだケイトに合格を与えました。

 自分で解決しなくとも、解決策を見つけることができれば合格だなんて……。


 お義母さまはケイトに甘いのではないかしら……?

 私にはとても厳しかったのに!?


 ……おそらくスチュワートからも情報が入ったのでしょう。スチュワートにはいろいろと調べさせましたから。


 私がスチュワートを動かしたことで、机上の空論ではなく、本当にブラスガーの村を発展させられるかもしれないとお考えになったのでしょうね。

 ケイトの課題については、そういうことですわ。


 あとは王妃陛下からの打診があったことも大きく影響していると思います。

 狙ったように噂も広がっているようですし……。


 ケイトだけでなく、私を呼び戻すのはそちらの方が大きいでしょう。


「王家からは命じられた訳ではないのですね?」


 オルタニア夫人の言葉に、私はゆっくりとうなずきます。


「流石に……ウェリントン侯爵家に対して、簡単に命じたりはしないでしょう」


 公爵家とウェリントンの関係があまりよくない現状で、王家がウェリントンに命令するのは難しいと思います。

 公女殿下との婚約破棄はウェリントンの瑕疵とはいえ、その賠償は十分に行われているのです。ウェリントンの海の宝石たるミンスクを手放すことで……。


 償いが終わっているのであれば、王家は余計な口出しをできません。


 そこで……公女殿下が望んだ、私をミンスクの代官にすること。

 あくまでも公女殿下の望みであるという部分が重要になります。


 おそらく公女殿下も……そのための根回しをきっちりとなさったのではないか、と……?


 王家と公女殿下の間で具体的にどういうやり取りがあったのかは分かりません。

 サンハイムの山荘は王都から遠すぎますので、そこまでの情報は手に入りませんし。


 しかし……もし王家が自分たちで代官を決めたいと考えていたのであれば、今回の代官の件は公女殿下の王家に対する意趣返しという可能性もあります。


 ……その場合、公女殿下は国外に嫁ぐことに関して不満があるということになりますわね。もしくはウェリントンに嫁ぐことをものすごーく不満に思っていた、か。


 どちらにせよ、公女殿下の動きは……そういう可能性が見え隠れしています。


 その上で……国王陛下ではなく、王妃陛下からの打診という形。

 王妃陛下からの打診も……こちらが断れるような形にするために、命じなかったということも考えられます。


 慎重に調べたとしても、王家に関する裏での動きを完璧に読み取ることはできませんわ。どれだけスチュワートが優秀でも、できないことはあります。


 だから、誰がどういう意図で動いているのかはどうしても分からないのです。そこは推察を重ねていくしかないのですけれど……。


「誰かの思惑に振り回されるよりも……自分の思惑を叶えていく方が楽で、手に入るものも多いわ」

「……奥様らしいお言葉です」

「流石はお嬢様です!」

「……タバサ。貴女、少しは反省しなさい……」


 ……オルタニア夫人が最近、タバサのこういう部分については諦めているような気がしますわね?


 お義母さまの思惑とウェリントンとしての考え。

 王妃陛下や国王陛下の思惑と、公女殿下の考え。


 そういった読み切れないものではなく……結果として私が得られる利益に目を向けるとしましょう。その方が建設的ですわ。


 つまり、ミンスクに手を伸ばすことで……私はどういう利益を手に入れられるのか、という部分です。


 もちろん、港を好きにできるのなら……手を出すべきは貿易です。

 それなら……あの時の彼には手紙を書きましょうか。後進に譲って引退しているのですから、こちらで使える可能性が高いですし、貸しもあります。


 ……他には……愚弟からも会いたいという手紙が届いていますし、少しくらいはあの子の顔を見てもいいですわね。


 ケンブリッジ伯爵家のお屋敷の引き渡しも終わっているでしょうから、確認は必要です。

 約束通り、お祖母さまのドレスは残してくれているはず。


 どうせ、ケンブリッジ伯爵家をどうやって豊かにするべきか、という相談でしょう。

 手はなくもないので、あの子をうまく騙……説得するだけですわ。


 そうなると……帰ったら忙しくなりそうです……。


 だからといって、王都に長々と滞在する気は微塵もありませんけれど!


「仕方がありませんので、一度、王都へ戻りましょうか」

「……奥様。もう十分に温泉は堪能なさいましたでしょう? それなのに、仕方がないなどとおっしゃいませんように……」


 呆れたようにオルタニア夫人はそう言いました。


「ここの新館は本当にすごかったです……」

「王都のお屋敷にもあの大浴場が欲しくなります」

「王都でラホース式の浴場は見かけませんから、もし作るとなるとそれは話題になるでしょう。新たな流行になる可能性もあります」


 でも、呆れ気味なのはオルタニア夫人だけ。

 護衛騎士でもあるクリステルは特に何も言っていないけれど、他の侍女たちは私と同じで、まだまだ温泉に入りたいようですわね!

 ステラなんて、新たな流行にしていくつもりすらあるのでは……?


 ……ああ。王都になんて!? 本当は帰りたくありませんわ!?


 でも、そうも言っていられないので、帰るしかないのです。


 エカテリーナ、帰ります……。






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