表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雨ノ幻  作者: 美橘
7/11


「っひゃー!風が冷てえ!」


放課後、昇降口を出ると開口一番、優一は叫んだ。

結局、あの後騒ぎ続けるこいつを見兼ねて、定春と俺は保健室へ連行した。

保健医から腹痛薬をもらって飲むと、安心したのか優一は大人しくなった。

だがそれも一瞬のことで、数秒後には痛みがなくなったと騒ぎ出したのだった。


「あいつは毒を盛られても気付かないんじゃねえか?それか、腹が痛え!くらいで済みそうだよな」


俺が関心を含んだ声で呟くと、隣を歩く定春は呆れた溜め息を吐く。

視線を、少し先を歩いている優一に向けて呟く。


「あいつが小学生の時に、クラスの男子から嫌がらせで、腐った牛乳を給食の時に入れ替えられた事があった」


「うわ、なんだよそれ」


「あいつは幼い頃から、ああだったらしい。だから自然と人が集まってくる。それをひがんでやったとの噂だ」


定春も人伝てに聞いた話みたいだな。

まあ、優一の性格を考えれば、そんな事されても気付かなそうだ。


「で、どうなったんだ?」


俺が先を促すと、定春はもう一度短い溜め息を吐いた。

だが、表情は明るい。


「腹痛で早退した次の日、元気に登校したそうだ。そしてクラスのやつ皆に挨拶して回ったそうだぞ」


「一晩で治してきたのか…。治癒能力高えなあ。嫌がらせした奴も、さぞかし驚いただろうな」


その状況を想像して笑うと、定春は口に笑みを浮かべて言った。


「優一のやつ、誰が犯人か知っていたらしい」


「え?」


つい、足を止めて横にいる定春を見つめた。

定春も一歩先で足を止めたが、視線は優一に向けたままだ。


「それでもクラスの奴全員に声をかけて、それを卒業するまで続けたそうだ。その日以来、優一に嫌がらせをする奴なんかいなくなったらしい」


「…………」


俺はこの時、優一も違う意味で大物になると確信した。

俺達が立ち止まっているせいで、当の本人は校門の外まで進んでしまったようだ。

右手を大きく振りながら、俺達を呼んでいる。


「何してんだよー!!早く来いよー!!!」


「悪い悪い!!」


俺が手を振り返していると定春がこちらを向いて、ひとこと言った。


「だから俺は、あいつのことを気に入ってる」


「おぉっ」


定春がこうもはっきり好意を主張するなんて珍しい。

俺達がつるむようになったのは、中学に入って同じクラスになってからだが、もう何十年も一緒にいるような気分だ。

……6年に対しちゃ少し大袈裟か?


「おせえよ!2人で何話してたんだよー!」


校門で合流した優一をなだめつつ、俺達は暮れ始めた西へと向かって歩き始めた。

カラスが鳴く空にうっすらと遠く、月が浮かんでいる。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ