◇ヤンデレ◇
やっとここまできました。
下書きを書いては消し、書いては消し・・・
しばらくして、これじゃいけないと全書き直ししたりして。生みの苦しみと
いうものでしょうか。
おそらく、ウィルかスミス夫人に言われて迎えにきたのであろう。
手にはもうひとつ傘を持っている。
高圧的な物言いにちょっとムっとした。
だからつい、こんな言い方になってしまったのも仕方ないだろ?
「別に、打ち上げで飲んでただけだし、送ってもらうから平気だし」
「何してんだよ。こんな店で!」
こんな店って…料理はうまいし、内装は綺麗だし、店の人の接客もいいし、いい店だよ?
プチってきたぞ。
「別に、あんたに関係ないし、そもそもあんたみたいな子どもが入れるお店じゃないし」
なんだか、反抗期の人みたいな言い方になってしまった。恥かしい。
「おいアリサ、大丈夫か?」
リーダーが心配して俺の肩に手をかけた。
「っつ!」
レオがリーダーの手を振り払いながら言った。
「何してるんだって俺は聞いたんだ!こんな奴といったい何をしているんだ!」
「あ゛ぁ?こんな奴って俺のことか?なんだ?お前」
リーダーも男子だ。売られた喧嘩は買う。
いかん、リーダーに火がついた。ヤバス。
オークをもふっとばすゴリマッチョな腕に、力瘤が盛り上がってくる。
「ごめん、リーダー。コレ、弟みたいなもんなんだ。迎えにきてくれたみたいなんだけど、ちょっと口喧嘩みたいになっちゃって…。帰るね。送ってくれようとしてありがとう。また誘ってね」
「本当に弟か?むかつくぜ。まあいいや。アリサがそう言うんなら。
また一緒に行こうぜ!」
俺とリーダーは腕を合わせてパーティ「剛腕の盾」の挨拶をして別れた。
え?パーティ名の意味がわからない?つけた本人達もわかってないと思う。
多分ノリでつけたと思われる。
「リーダーに失礼なこと言わないで」
ウィルにはお世話になっているけど、こいつ(レオ)には世話になっていない。
だいたい悪意を向けられて平気なほど俺は出来ていない。
「お前にお似合いのお仲間だな」
「どういう意味?」
「粗野で品がない」
「・・・・・・・・」
リーダーがどんなに現場で頼りになるのか、どんな風に仲間を守って勇ましく闘うのかも知らないで、何を言っているのだ、ガキのくせに。
「兄さんに心配させて気を引くつもりだろう?」
ハァ?
何言いました?コイツ?
「まるでガキだな」
思ってた事を先に言われちゃいましたよ!
何なのこいつ?ムカツクムカツク。
「お子様に何を言われても…」
つきあってられませーんといったジェスチャーをする。
もう濡れちゃったし、腹ただしいから傘もいらねーや。
レオを置いてズンズン歩いていく。
「待てよ。おい傘」
「いりません!そんな根性のまがったお子様のもってきた傘なんか使いたくありません!」
「濡れて帰ったら兄さんが心配するじゃないか!」
何なの一体。
兄さん、兄さんて、何なの!
お前のブラコンは知ってるけど、何でもかんでも俺の行動を兄絡みで邪推すんじゃねぇ。
「おいっ!」
俺の腕をとって強引に傘を渡そうとしてきた。
俺もムキになって受け取るもんかと手を引く。
「さわんないで!」
「このっ!」
握られた腕をふりほどこうと手を捻る、つられて腕をねじられた格好になったレオは転びかけて怒号をあげる。
傘から手が離れ、レオも雨に濡れる。
「いい機会だからじっくり話しをしよう」
俯いて拳を握りしめたレオが黒いものを漂わせて俺を睨む。
「はなから人を疑ってかかるような奴と話ししたくない」
「人が下手に出てれば…いいから来い!」
防御する腕をかいくぐって髪を掴まれた。
痛い!
「何するんだよ!この暴力男!」
傘を拾うと閉じて小脇に挟んで、手は俺の髪から離さず、掴んだままぐいぐい引っ張って歩かれた。
家の門を開けると、母屋には入らずに木戸をあけて馬小屋に入る。
俺を突き飛ばすと内側から鍵をかけ、俺の事を冷めた目で見降ろした。
「言え。兄さんに近づいて何を企んでいる?」
俺はレオを睨んだ。もう話すらする気にならない。
「言えよ。どうせよからぬ事だろう?」
いちいちガキの妄想につきあってられるか。
フンと横を見れば、ふいに、パンっという音とともに衝撃が右頬をおそった。
「……・」
信じられない。女子の頬を張ったと!?
頬に手をやり、信じられないという顔でレオを見上げれば憤怒の表情を浮かべている。
「お前達、女共はっ」
言いながらもう一方の頬も叩いてくる。
「兄さんが優しいのをいいことに!」
庇った手を振り払われ、さらにまた叩かれる。
「つけこみ!つけあがり!傷つける!」
所謂、往復ビンタというやつだ。
顔にかぁぁっと血がのぼる。
「このっ!」
思わずぐーでパンチが出る。
が、難なくその手を掴まれてしまった。
ならばもう一方と繰り出したパンチも塞がれる。
レオの口の端があがった。
「どうした?何か言ってみろよ」
……こいつおかしい…
ぐっと両手を握ったまま後方に押されて、背中から転んだ。
腰と背中を打った。痛い…。
「妙な武道をかじっているみたいだが、こうなると反撃もできないだろう?」
両手両足に馬乗りになって体重をかけて抑え込まれ、攻撃を防がれている。
「…さいってぇー」
俺は侮蔑の言葉とともにつばをその顔に吐き出してやった。
「行儀がいいことだな。それが地か?お前がつきあってる連中と一緒だ」
レオは動揺もしないで、肩でそれを拭いた。
「あんたの方がよっぽど下司い」
言って俺は、視線で殺せないものかとレオを睨む。
「恥ずかしくないの?自分より力の弱い相手にこんなマネをして」
「は?そういう扱いされたかったら、それなりな態度を取ってみろよ。普通の女子に俺はこんな風にしたりしない…粗暴ぶった相手に礼儀にかなった態度を取るつもりなんかないからな」
「どいてよ。」
「やだね、まだ質問に答えてないじゃないか」
「何考えてるのか知らないけど、別に何も企んでないから!」
「嘘だね」
どこまでも平行線だ。こいつは自分の聞きたい返事を俺から引き出したいだけなのだ。
「どうせ何言っても信じないんでしょ…」
「あんな奴らに混じってチヤホヤされて浮かれているお前みたいなアバズレ、兄さんが相手にするわけがないんだ」
「アバズレって…」
呆れた。俺にそんな要素どこにあるというのだ。彼氏いない歴=年齢なんだぞ。
女子らしいことを苦手として、漢らしくありたいと願う俺にあるわけないだろう?
今日の服装だってそうだ。男物のチェニックとズボンにショートブーツだぞ。外套だってモスグリーンの地味な色だ。
地味顔も相まって、ハイレグアーマーの装備者が二人もいる「剛腕の盾」じゃ
目立たない事この上ない。アバズレる要素皆無だ。
つくづく曇ってやがる。レオの目は節穴だ。
気が抜けて、ただ白い目でレオを見ていた。
思い込み激しいにも程があるだろう。
「お話になんない」
レオの瞳に暗い炎が宿った。
「自分から話ししたくなるようにしてやろうか?…人のこと、お子様だって言うけど、そういう事言うお前は大人なんだろ?……そういう事も慣れているんだろ?。 さっきだって…あの男としてたんじゃないか?」
ハァ?
どこをどう取ったらそう取れるわけ?
馬鹿なの?死ぬの?
「俺だって・・・出来るんだからな」
何が?とも聞きたくもなかった。
お前の生理現象なんか知らない、俺にむけんじゃねぇ。
ウィルに似た顔でこれ以上ゲスいこと言うな。頼むから。
「●ッパカッター」
ごめん言ってみたかっただけ。
「エアハンマー」
どうも俺の魔法は、イメージに寄る所があるようだ。
イメージに名前をつけ事象と結びつけると発現しやすい。
その辺ほら、ラノベ的知識からいくらでも引っ張ってこれる。その辺が『魔術の素養』ではないかと俺は睨んでいる。
まさかのコラボ発動、
発動しちゃった・・・カッター的な何か。
救いなのは威力があまりなかったこと。
馬小屋の中の敷き藁が凶器になってレオを襲う、
「うっ!何だ?」
驚いて顔の前で腕を交差してかばったところを、今度は圧縮された空気の塊がレオを襲う。
結果、自分も巻き込まれました。
衝撃で気を失ったレオが腹の上にモロに倒れてきて、俺も目を回しかけました。
予測って大事ですよね。
ごめんなさい。出来心でした。
ちょっとお仕置きするつもりだったんです。
出来るようになったばかりの攻撃魔法。威力があまりないといっても人に向けるんじゃありませんでした。
苦労してレオの身体の下から這い出してみれば、馬小屋の中は藁が大散乱。
…レオの奴、俺よりちょっと背が高いだけなのに、太ってもいない癖になんでこんなに重いんだよ。
馬は柵の中で怯えて暴れまくってるし、雨はやまないし、傘は壊れてるし、もう!
俺はヒールをかけて傷を治し、意識を失くしているレオを見てため息をついた。
いつもよりヒール、多めにかけてみました。
レオの様子を思い出すとある言葉が浮かぶ。
「ヤンデレ」
だめだ、ヤンデレは手に負えない。
何だってあんなにいい兄貴の弟がヤンデレなんだよ。
リア充DAZEEEE!!ヒャッハーな顔面偏差値している癖に何でヤンデれているんだよ。
俺か、そんなに俺が悪いのか。