◇パーティ『剛腕の盾』◇
――見ない見ないと思っていたら、レオの方でも俺を避けて行動しているようだった。
今更そんなことで何も思わない…と無理に思いこむ。
あれから、もう何日も友人の家に泊まってるとスミス夫人に教えてもらって、乾いた笑いが出た。
レオの友人にも紹介してもらってないな。俺がレオだったら、むしろ胡散臭い相手を大切な友人に会わせる訳もないか。
というわけで自由に行動させてもらう。
ギルドでダールマを見つけたので装備品を一緒に買いに行ってもらった。
ゲイルも一緒にきてくれた。砦で応急処置をした人の中にゲイルの彼女がいたら しい、二人からのお礼だと言って防具を買ってくれた。
ウィルからの軍資金では、一点豪華主義の剣を買った。わざわざとドワーフの鍛冶屋まで出向き、選び、カスタマイズしたのだ。
セミオーダーと言って、オーダーするよりは手頃な値段になる。
それに、その日のうちに納品されるのも魅力的だ。
いろんな物に散在するよりも「ウィルからの贈り物の剣」みたいに感じられていいんじゃないかと。
その結果、この剣にふさわしい実力にならないと使いこなせないというジレンマも発生した。
…力で押し負ける、素早さで負けている現状では完全に俺には「過ぎた得物」なんだが使うだけの実力にすぐにでも追いついてやるといった気概ももてる。
ゲイルからいろいろ買ってもらえたから出来る技なんだけどね。
ドワーフの鍛冶屋についてはあれだ。
ウン、さすが異世界やっぱりか…といった感想しか出てこなかった。
もうこんな事じゃ驚けないな。
ダールマからは剣の柄にはめて使う魔石をプレゼントされた。
俺が魔法が使えると知って、用意してくれていたようだ。
そう、剣は魔法剣なのだ。
好意に頬がゆるむ。
帰りがけに二人はニヤっと笑って、ゲイルはウィンクを、ダールマは親指を立ててサムズアップして俺に言った。
「ようこそ後輩。この世界(冒険者)は厳しいが…がんばれよ」
…痺れるぜ。先輩。カッコイイ。
「んで、無茶するんじゃねーぞ。言わずもがなだが、組む相手もよく選べよ」
「ありがとうございます。ドレイクさんとゲイル(ダールマ)さんみたいな人がいるパーティにします!」
そう言うと照れながらも、
「おう!」
と笑った。
「護衛は続けてやる。ゲイルが復活したんで前みたいにはいかんがな」
「お前でも参加できそうな依頼を受ける時には、声かけてやっから、ちゃんと来いよ」
最後にそう言われ、再びお礼を言うと彼らと別れた。家路に向かう足取りも軽い。
心がじわっと暖かくなる。
世界すべてに嫌われたわけじゃない。
レオのことは諦める。どうせすべての人と仲良くなんてできないのだ。
友達100人じゃなくていい。
ふと思った。幼馴染のあの少年には俺以外に、ドレイクやゲイルのような存在はいたのだろうか?
頭を撫で、サムズアップをし合い、ウィンクをするこっちの濃いコミュニケーションとは違って、あっちでは何もかもあっさりしていたように感じる。
…こっちの方が、なんか『生きている』って感じがするな。
腰に下げた真新しい剣を撫でる。この剣はウィルからの軍資金で買った。つまりはウィルの気持ちそのもの…そう思える。
「えへへへ」
思わず笑っていた。この1年しなかった笑い方だ。
「なんか『応援するよ』って後押しされてる気分だよ」
記憶の中の少年にそう報告する。彼はうれしそうに微笑んだ。あの、覚えている 透明な笑い方で。
早朝の鍛錬を復活させた。
ウィルにはお弁当を作って持っていくようになった。
レオが言うように気を引きたい訳からじゃない、感謝の気持ちを表したかったからだ。
その帰りにライラさんのところで攻撃魔法を教えてもらう。
そして午後からは、おおっぴらに冒険者ギルドを活用しだした。
そして時には冒険にも出かけた。
電気ねずみには手こずったが、ホーンラビットは一撃で沈められるようになって いた。剣がいいと、戦闘力が底上げされるな。
毛皮を素材カウンターで換金して、アイテムや装備をもっと充実させた。
肉はスミス夫人へのお土産にした。もちろんお弁当の材料にもなる。
さらには息のあった女性冒険者にくっついて行って酒場デビューもした。
思ったより危なくなかったし楽しかった。
こっちの世界では16歳からお酒が飲める。
とはいえ、酔って正体なくすのもどうかと思ったので舐めるだけに留めていたが。
お酒が入ると、冒険者達は歌ったり、踊ったり、陽気にふるまった。
明日には散ってしまうかもしれない命だから、一瞬一瞬を謳歌しているのかもしれない。
たまには喧嘩も起こるけど、たいてい腕っぷしの強い用心棒が酒場にいて、騒ぎを起こした者を物理で静かにさせていた。
だいたいウィルが守備隊長をしている砦の町なのだ。治安が悪いわけがない。
その日は、泊りがけの狩りからの帰りで、俺もちょっと浮かれていたかもしれない。
何しろ念願のインベントリが使えるようになったのである。
狩りも大成功で、俺が入れてもらったパーティは20代くらいの若者の多かった事もあって打ち上げに行った居酒屋風のお店でしこたま飲んでへべれけになっていた。
独身者が多いってことで、まぁ長っ尻になるわな。
最初のうちは真面目に、その日の反省とか口にしていたのに、途中から武勇伝やら失敗談やら飛び出して楽しかった。
どいつもこいつも面白おかしく話をする。
特に話のうまい奴の周囲は人気だ。人が集まり、その周りにまた人が集まる。
俺も、足りない常識を補おうと、耳をそばだてた。
が、時間の経過とともに話はぐだぐだになって現状にいたる。
床で寝ている者、机に突っ伏している者、死屍累々だ。
帰るタイミングを間違えたか。
スミス夫人には遅くなることを伝えてあったがぼちぼち眠いし帰りたい。
かといって、酔って足腰のたたなくなった仲間をその場に置いて帰るのも何だしなぁと思っていた。
「なぁなぁ。ア…アリサちゃん、このあと俺といいとこいかない?」
ハイハイ。ちょっとガード緩めるとこれだよ。狩りの途中でもちょくちょくとこの青年は俺のことをかまってきていた。
お前、狩りに集中しろよ。ナンパしにきてんのか?
と呆れて相手にしなかったのだが、打ち上げの時も、席を隣を確保され、なんか肉や野菜を取り分けてくれて甲斐甲斐しく世話を焼かれた。
お前が俺のジュースに、こっそりお酒を混ぜていたのは知っていたぞ。
残念だな!俺にはクリス直伝の「解毒」魔法が使えるのだ。
というわけで俺は素面だ。
むしろ俺を酔いつぶそうとした男が酔いつぶれ気味だ。
アハハしまんねーよ。
仲良くなった女性冒険者に聞いたところ、女性冒険者はかなりもてるんだそうだ。
冒険者同士でくっつけば、共働きだし、堅気の仕事をしている男性の中にも冒険者と結婚すれば、食べるのに困らない、と考えるむきもあるくらいだとか。
まぁつまりデビューしたてで誰の手もついてないから、俺に最初につばつけておこうかと…。そういう事らしい。
なんというか、裏事情を知っちゃうと夢がないな。
モテ期がきたか!とか思いあがらなくてヨカッタ。
「と、言うかさ、この連中、どうするの?」
とても歩いて帰れる状態じゃなさそうだ。もちろん当然タクシーなんてものはこの世界にはない。
「んーそうだな」
酔ってはいるが、まともな受け答えに驚く。
彼はフラフラしながら、床に大の字で寝ているパーティリーダーを揺り起こす。
「リーダー。みんな撃沈すよ。」
起こされたリーダーは、まだ焦点の合っていない目をして、何とか起き上がり、ゲフっとゲップを出したあとしゃっくりをはじめたが、青年に背中をバン!と叩かれると目が覚めたようだった。
「おう、そうだな。女将さん、コレで頼む」
リーダーは懐から財布がわりの皮袋を出し、中からチップと思われるお金を店の人に渡す。
店の人も心得たもので、それだけで話がついたようだ。
こういう店は宿も経営しているところが多い。
奥側の通路から、受付経由して宿へ続いているらしく、そっちに自力では帰れない程よっぱらった連中を、放り込む事になったらしい。
「宿代は本人から徴収してくれ、グタグタ言ったら、俺にいいつけてくれて構わないから」
なるほど、リーダーってこういう雑用もあるんだな。
とはいえ、狩りは成功している。懐具合も皆暖かいはず。
渋る奴がいるとは思えない。
「アリサ、悪いが女の子の方を頼む。」
男女別で借りた部屋へ酔っ払いをおしこむ。ベットじゃなくて床に寝かされているが下にはマットみたいなのが敷かれているし、店から放り出されないだけいいだろう。
俺も、店の従業員さんと一緒に、よだれを垂らしてにへらーと笑っている女冒険者を二人がかりで運ぶ。誰だろうと思ったら二人いるハイレグアーマーの子だった。
アーマー着ていないと普通の子に見えそうだな、俺ほどじゃないけど地味顔に分類される顔だ。
他の子は何とかヨロヨロと歩いてついてきた。
青い顔をしているが大丈夫だろうか?解毒魔法しらないのかな?
「酔い少しさます?」
聞いてから、解毒魔法を軽くかけておいた。
気分がよくなったとみえて、手伝ってくれた。まだちょっと千鳥足っぽいが。
「うわ!」
男子部屋の方では叫び声があがっていた。
「オイコラ起きろ!」
ひょいと覗くとあの青年が別の青年に抱きつかれていた。
キス魔らしい。
「目を醒ませ!コラよだれつけんじゃねぇ」
身を捩って、振りほどこうとしているが相手はよっぱらい、かなりしつこいようだ。
目があった。
「た、助けてアリサちゃん!」
「見当を祈ります」
それだけ言うとドアを閉めてやった
「わ!薄情!俺とアリサちゃんの仲なのに!」
何か言ってるけどスル―。がんばってくれ、別に命まで取られりゃしないだろう。
さて帰るべと、外套を羽織っているうちに、パーティのリーダーが居酒屋の会計をして戻ってきた。
「あ、あれ?アリサちゃん帰るの?送ろうか?一人は危ないよ?」
「ねぇ、リーダー?送りオオカミって言葉しらない?」
「え?狼がどうかしたって?」
もちろんこれは冗談だ。リーダーは危ない人じゃない。責任感から送ってくれようとしているのだ。
俺達は居酒屋からではなく宿屋側から店の外へ出た。
だから見方からしたら、そう見えてしまったのかもしれないが…。
「何してるんだよ」
声のかけられた方角を見ると居酒屋の出入り口で魔道具のカンテラを持って傘をさした少年が立っていた。
レオだった。眉間に皺が寄っている。そんなに俺の顔を見るのが苦痛かよ。
いつの間にか外は雨が降ってきていたようだ。




