65回目 新しい現実の中で
あの夢の中でゲームをしてから何日か。
ススムはこの現実を受け入れはじめていった。
確かに記憶の中にあるもう一つの現実とは違う。
だが、今いる現実が悪いものというわけではない。
むしろ、期待や希望に満ちあふれている。
幾ら違和感を感じてるとはいえ、この状況を否定するつもりはない。
仮にこちらの方が偽り。
本当の姿ではないとしよう。
何らかの事情で書き換えられた世界だとしよう。
だとして何が悪いのか?
記憶の中にある以前の世界。
そちらよりよっぽど過ごしやすい。
それを否定して、
「こんなの違う」
といってどうするのか?
まさか以前の悲惨な状況に戻すというのか?
そう考えると、この状態に疑問を持つのがばかばかしくなった。
「これでいいじゃん」
自分にそう言い聞かせる。
心からそう思える。
今の状態が、この状態が良い。
わざわざ変える必要はない。
そうする必要があるとしたら、これよりももっと良くしていく為だ。
そうなるなら、この状態を変えてもよい。
だが、無理してススムがおぼえてる状態にする必要はない。
黒船来港前に政治の統合を果たし。
それから外に向かって行動をし続け、国を保ち。
厳しい情勢ながらも常に最先端の研究を続け。
当時の大国であったロシアを撃破して列強となった。
それから周辺国を発展させ、友好国と共に全ての世界大戦を乗り切り。
揺るぎなき大国にのぼりつめた日本。
その日本の人間として、ここから悲惨な状態に陥るのが良いとは思えない。
最低でもこの状態を保った方が良いと思える。
何よりススムはこの状態を失いたくなかった。
生きるためだけにブラック企業ですり切れながら働く。
そんな必要がないのだ。
余裕を持って生きていける。
それなのに、この状態を否定してどうするのか。
例え嘘でも偽りでも。
今の状態が最善だ。
ススムの知る限りにおいて。
ならば、この状態の中で生きていった方がいい。
そうしてススムの新たな人生が始まった。
ただ、それはそれとして、自分の記憶を書きとどめて置こうと思った。
そんな事をする必要はないのだが。
それでも、自分が確かに歩んだ人生だ。
自分の生きていた時代や歴史でもある。
それを完全に否定する事も出来なかった。
つまらない感傷だとは思うのだが。
その為に、今では実用性がかなり低くなった紙に記憶を記していく。
おぼえている事を書き出すだけなので、正確さはないが。
このまま全てを忘れていくよりは良いと思えた。
だが、それでもいつかこの覚書を捨てる日が来るかもしれない。
それならそれで良かった。
いらないと思えたならその時に捨てればいいのだから。
今はそこまで思い切れないから抱えておくのだ。
ともあれ、ススムは新しい現実に乗り出していった。
なぜか持ってる、この状態での記憶を頼りに。




