38回目 これが導火線になる可能性を考えての対策対応
この戦争衝突において、日本は満洲の支援にまわる。
同時に国際連盟において、中華民国への非難決議を提案した。
実効性はともかく、まずは意思表示。
そのつもりである。
具体的な内容は、それから決めれば良い。
同時にこれは確認作業でもあった。
この非難に誰が乗るのか。
どういう態度をとるのか。
それを確かめる為の作業だ。
もっとも、この程度の腹芸、どの国も難なくやってのける。
非難決議には関係各国全員賛同となる。
即座に非難声明は中華民国と全世界に向けて発信された。
具体的な対応は後々詰めるものとして。
とりあえず様々な交易の停止などが決まる。
軍事的な行動はさすがに無いが。
とりあえず出来る事を一つ一つやっていく。
とはいえ、これにはさして効果は無い。
民間の方は打撃を受けるだろうが、軍事支援においては問題ない。
援蒋ルートで物資を送り込むのだから。
求めてるのが軍事行動だけなら、これで十分だ。
更に金銭的な取引などがしたいなら、それこそ援蒋ルートを用いれば良い。
中華民国が特段困る事は無い。
そうしたわけで、非難決議や非難声明。
取引停止などはさほど効果は無い。
ススムもそれは分かっている。
根元を断ち切らねば意味が無いことを。
しかし、現状の国力ではそれも難しい。
なので、使えるものを使うことにした。
幸い、それに便利な連中はいくらでもいる。
中華民国が満洲に攻め込んでから半年。
その日本の策が具体的な効果をおよぼしはじめる。
中国各地の軍閥が活性化していったのだ。
それらは中華民国の側面を、あるいは後背をついていく。
戦力の大半を満洲方面に向けていた中華民国は、対応に苦慮する事になる。
全ては軍閥に武器が渡った為である。
そして、渡したのは当然ながら日本だ。
旧式化した歩兵用装備。
これらを無料でばらまいていった。
おかげで軍閥はおもしろいくらいに暴れ回ってくれる。
これにより、中華民国の攻勢はだいぶ鈍った。
満洲・日本も一息吐く事が出来る。
と同時にススムも覚悟を決める。
これはもう止まらないと。
これが第二世界大戦の幕開けなのだと。
それに向けた準備を進めていく。
勢力圏下の各国・各地域の発展を促す。
と同時に軍需品の工場建設も提案していく。
この先、生産力がないとどうにもならない。
それを確保するためには日本だけが頑張ってもしょうがない。
各地で生産をしていく必要がある。
とりあえず歩兵用の武器・弾薬だけでも良い。
それだけでも作ってくれれば日本の負担は大きく減る。
戦闘機や戦車の製造までは求めない。
それが出来るようになるまでには時間がかかる。
もちろん、一部ではそれも進めていくが。
当面は期待しない。
まずそれよりも重視したのは、基礎的な工業力だ。
採掘にしろ製造にしろ、ここがまだ低い。
これでは効率的な生産が出来ない。
その為に、まずは生産性を上げる事を優先する。
その為に学問所などを設置していく。
これは日本からの支援という形で行っていく。
こうして国民の能力そのものをあげねば意味がない。
また、採掘地と工業地帯を結ぶ道路や鉄道など。
これも急いで整備していく。
今の段階でもあるにはあるが。
道幅を広げ、鉄道路線を複数にしていく。
一度に運べる運搬量を向上させていく。
それも当面はフィリピンや台湾、満洲などに集中させる。
国民の能力がある程度上がってる地域でないと、工業力は期待出来ない。
他の地域はまだまだこれからなのだ。
ただ、前線に近い国や地域には優先して武装をしてもらう。
敵が攻め込んでくるのも時間の問題なので、早急に対処が必要になる。
これにはベトナムや満洲、中華民国北部の国や地域があげられる。
現在は余裕がないから手が回らないが、東と西にも警戒を向けていく。
ベーリング海峡とウラル山脈の向こう側だ。
そちらから敵が攻めてくる可能性は高い。
そうしてまずは防衛戦に備えていく。
他の国や地域の武装状態が悪いのではどうしようもない。
そんな中、トルコとオーストリアから連絡が入る。
ヨーロッパ方面で不穏な動きがあると。
やはり、と思いながらススムは次の手をうっていく。
日本からすれば型落ちの、トルコ・オーストリアからすれば新型兵器の設計図。
これを両国に公開し、生産体制を作らせていく。
それらが製造できるだけの技術や知識も含めて。
これでより上位の生産設備が建造・更新出来るようになる。
それをもとに早速生産体制を構築し始めるトルコとオーストリア。
彼らもこの先がどうなるのかは想像してるようだ。
手にした技術や知識をもとに、急ぎ体制を構築していく。
そしてオーストリアであるが。
日本の進言を聞いて、植民地の自治権を拡大していく。
ここまできて、ようやく日本の言ってる事を理解したようだ。
フランスなどからとったアフリカの植民地を解放していっている。
もっとも、植民地維持費と防衛に割く負担が大きいからなのだろうと思う。
その予算が収益を圧迫してきたので、損を切り捨てていってるのだろう。
結果として、それがオーストリアの負担を減らしていく。
そうして出てきた余裕で、ヨーロッパ方面ににらみをきかせてもらう。
トルコはそういった植民地がないので楽ではある。
ロシアなどから割譲した領地は、もともとオスマントルコの領地だった場所も多い。
それらを吸収したので、あまり負担は大きくない。
そのままロシアとイランアフガニスタンを挟んでイギリス領インドを。
更に北アフリカを警戒してもらう。
そして。
地味に外交やら援助やらをコツコツと続けていた国。
アフリカにおける唯一の独立国。
エチオピアにも接触していく。
彼らにはトルコでは手が出ない部分、アフリカ南部を警戒してもらう。
そちらの方には南アフリカをはじめとするイギリス植民地がある。
これらへの対抗の為に、エチオピアには頑張ってもらうつもりだった。
幸い、日本からのてこ入れのおかげか、かなり国力は向上している。
ヨーロッパの植民地ならばどうにかなるはずだ。
また、東南アジアの独立国タイにも動いてもらう。
他国に攻め込むとまではいかなくても、ベトナムとともに地域の防衛を担ってくれれば良い。
後々、余裕が出てくるようなら、インド方面とインドネシア方面ににらみをきかせて欲しいが。
今はまだそこまでは求めない。
ただ、敵に制圧され、そのまま敵として使われる事態は避けたかった。
こうして支那事変から始まる騒動は、世界中に影響を及ぼしていく事になった。
幸い、まだ戦争は中華民国と満洲の間。
そして、中国全土における軍閥同士の争いでとどまってはいる。
だが、それがいつ終息するのか。
どのくらい世界に影響を与えるのか。
それはまだ未知数だった。
とりあえず、その騒動が起こした影響として、とある出来事は起こった。
朝鮮蜂起である。




