12回目 でっかい相手を倒せば、もう一つのでっかい相手がやってくる
日清戦争が終わったが、それで全てが終わったわけではない。
むしろ、本番はここからになる。
清を倒したのはいいが、それによってロシアが活気づく。
彼らからすれば、面倒な奴が倒れてくれたのだ。
少なくとも弱体化している。
これを好機ととらえてきたようだ。
すぐにという事は無いが、軍勢が極東に集結してくる。
放置していたら危険な事になりそうな勢いだ。
さすがに手をこまねいてるわけにはいかない。
対応や対策が必要になる。
「とはいえ、本当にきついね」
予想したとおりの流れである。
いつもながら、ここは頭が痛い。
清も結構きつい相手ではあるのだが。
ロシアはそれ以上だ。
幸い、清は首都近くまで進軍した事でやる気を失ってくれた。
国力的には余裕があったにも関わらずだ。
しかしロシアはそうはいかない。
首都は遙かに遠く、そこまで進軍してやる気をそぐというわけにはいかない。
双方、疲れるまで殴り合う事になる。
そうなった場合、国力でまだ劣る日本は不利になる。
有利な点があるとすれば、ロシアにとっても極東は遠い事。
そこまで軍や物資を運ぶのも大変だ。
この距離がロシアに大きな負担をかける…………事になれば幸いだ。
ただ、実際はどうなのかなんとも言えない。
実際、日露戦争は勝つのが結構難しい。
どうしても消耗戦になる。
そうなった場合、日本の息がどこまで続くかだ。
史実よりも余裕があるのは確かだが、それでも厳しい戦いになる。
とにかく、消耗を強いるしかない。
その為にも可能な限り防御をととのえておく必要がある。
駐留する事が出来るようになった朝鮮のロシア側国境。
そこに基地を作っていく。
事実上の要塞だ。
他に兵器の開発や、ヨーロッパの国々との協力関係の構築。
できるだけ有利な条件を構築していく。
ただ、味方を増やすと言うよりは、敵対しないように根回しするという色合いが濃い。
積極的な支援はなんとか回避するように。
ただ、ロシアとの同盟国もいるので、これはあまり期待出来ない。
やらないよりはマシという程度の気休めだ。
なにせ、今回も起こった三国干渉。
これにドイツとフランスも絡んでいる。
この二国が日本に対して協力的になるとはとても思えない。
なので、あくまで牽制が出来ればというくらいだ。
幸いな事に、史実通りに日英同盟が締結された。
これで最悪は回避出来た。
また、オランダも何くれとなく協力してくれている。
情報提供くらいだが、それでもありがたい。
出島の縁はまだ続いてるようだった。
資源をオランダ領のインドシナから輸入してるというのも大きいだろうが。
何はなくとも、協力者がいるのはありがたい。
それが消極的なものだろうと、最低限として敵対しないだけでも今は良い。
それより酷くなったら打つ手が無くなる。
ただ、少しだけ有利な点もある。
以前から支援していたロシア内の協力者達だ。
火縄銃と日本刀に始まり、その後は歩兵銃も提供している。
そんな対ロシア抵抗運動と言うべき者達のおかげで、ロシア内部も大分混乱している。
明確な国力低下とまではいかないが、行動にマイナスの補正がかかっている。
それ自体は小さなものだが、時間とともに積み上げられていく。
その累積によって出来あがる成果は、日本にとって大きな戦果だ。
戦わずして、ロシアを疲弊させているのだから。
「防諜対策はしてあるから、国内に心配はないし」
日本の方も、同じように仕掛けられてるのだが、対策をしてある。
おかげで、問題になるほど大きな損害は無い。
皆無では無いが。
ただ、生産力の成長はほんの少しだけ緩やかにはなる。
それも、ロシアなどが被ってるものに比べれば微々たる差でしかない。
この調子で開戦までに出来るだけ大きな損失を与えておきたい。
その間に、出来るだけ準備をしておきたい。
開発中の新兵器も投入できるように。
戦争の方はそれでかなり有利になる。
ただ、政治の方はどうなのかという問題が残る。
たとえ戦争に勝ったとしてもだ。
その後の疲弊した所を突かれたら元も子もない。
また、三国干渉のような事が再び起こったら意味が無い。
そこは考え物である。
とはいえ、打開策などそうそうありはしない。
もうこれは、その時に上手く立ち回るしかない。
ただ、日露戦争が終われば、ある程度落ち着ける。
当分、大きな戦争は無い。
ゲームなので史実とは違った動きを見せるかもしれないが。
しばらくは平穏な時期がやってくる。
それはそれでやることはあるが、とにかく戦争は遠くのものになる。
清にロシアと日本周辺の大国が消えるのだ。
少なくとも、当分はおとなしくなる。
そうなれば、しばらく日本は安泰である。
国力増強に励めるようになる。
その為にもすぐそこに迫る日露戦争に勝利しなくてはならない。
軍事的にも、政治的にも。
その為の根回しをとにかく行っていく。
今は外国の動きにとにかく気をつけねばならない。
そこをどうするかだ。
その働きの甲斐あってか。
イギリスに続き、日本の協力者があらわれてくれた。
トルコ、そしてオーストリアである。
どちらもロシアの影響を無視できないので、日本に肩入れするようだった。
勝っても負けても、日本がロシアを疲弊させてくれれば御の字といった思惑なのだろう。
それでもかまわなかった、味方についてくれるなら。
史実より協力的な国が多いのは、事前の努力が実を結んできたからだろう。
開国前から研究開発を進め、国力の増強につとめてきた。
おかげで、フィリピンを制圧し、清も下した。
日清戦争では、これまでになかった兵器である戦闘車両も投入している。
また、軍艦を自主開発しての国産もなしとげている。
そうした自力を評価されてる。
そうした協力をとりつけていく事で、日露戦争への準備を進めていく。
これで有形無形の圧力を加えられるならありがたい。
その恩恵はすぐに出てきた。
オーストリア帝国とオスマントルコ帝国。
この二国が日本に協力的という情報はロシアにも入る。
当然ながら、この方面に軍備を張り付かせねばならない。
その分、日本側に送り込む軍勢が減る。
たとえ参戦しなくても、それだけで日本にとってはありがたい。
また、追い風になったのはもう一つ。
清で起こった反乱だ。
義和団事件として発生したこのゲームイベント。
しかし、日本からの事前の工作の効果もあり、その規模は通常よりも大きくなった。
それこそ、清が崩壊するのではないかというほどに。
また、それは諸外国の清内居留地にもおよぶ。
租界と呼ばれる外国人居留地。
ここに清の反乱勢が押し寄せる。
これらの保護のために、各国が軍隊を送り込む事になる。
日本はその中でも地理的に最も近いために、即座に軍勢を送り込むことが期待された。
各国の承諾をもらい、それから日本は軍を派遣。
在清外国人居留地の租界の保護に乗り出す。
このイベント、実際に戦争と同じように戦闘が発生する。
その戦闘を短期間で終わらせると、諸外国からの好感度が上昇する。
軍備の強化をしていればそれは造作もない。
ススムによって強化されていた日本は簡単にそれをやってのけた。
おかげで、各国の評価はかなり上がっていく。
こうした事も、日本に協力する国を増やしていく原動力になった。
トルコとオーストリアの協力は、こうした事も理由になっている。
そうしてる間にもロシアも動いていく。
史実通りにロシアは南下。
清での反乱鎮圧の為にやってきたロシアだが。
そのまま清国内に軍勢を居座らせていく。
各国がすぐに撤退して行ってるというのに。
朝鮮半島にも、権益を作りだしてその保護を名目に軍を駐留させようとする。
これはなんとか阻止したが、国境沿いに軍勢を張り付かせたままだ。
やる気満々なのは疑いようもない。
何度も行う撤退要請も無視される。
上手くいく場合もあるのだが、今回は駄目なようだった。
「戦争か」
高確率でそうなるので、覚悟はしていた。
そして、西暦1907年。
日露戦争開戦。
こちらは史実よりも幾分遅く始まった。