ステータス
「ッ――ラァ!!」
返り血で赤く染まったバットを振る、振る、振る。野球部も真っ青なスイングスピードでゴブリンの頭部を打ち抜いていき
「三体目ェェ!!」
雄叫びを上げて己を鼓舞する。八体のゴブリンのうち三体を黒い靄へと変え、休みをとることなく次の獲物を探す。
俺以外にも藤宮が二体、柔道部とバスケ部が一体ずつヤったみたいだ。
これで残りは一体。追い詰められたゴブリンはさっきまでの威勢はどうしたと言ってやりたいほどに怯え、もういっそ可哀想なくらいガタガタと体を震わせていた。
でも、だからといって見逃してやるような甘い性格はしていない。
俺は震えるゴブリンに近づいてバットを振り下ろした。ゴツッと鈍い衝撃がバットから手に伝わる。頭部はバットの形に凹み、体は力なく地面に横たえる。
やはり生き物を殺すというのは、いくらやっても気持ちのいいものではないな。けどこれで一旦の脅威は去った。
《レベルアップしました!》
胸をなでおろしたその時、また頭の中で女性の声が響き渡った。そして視界に広がるホログラムに目がいった。
「なんだ、これ……?」
――佐伯 修
Lv.2
状態:興奮(小)
能力値
体力: 1 筋力: 1
思考: 1 敏捷: 1
魔力: 1 耐久: 1
器用: 1 幸運: 1
スキル
魔法
ステータスポイント:4
――
「ステータスって……ゲームかよ」
さっき一度スルーしたホログラムに写っていたのはゲームやライトノベルでお馴染みのステータス。よく見れば下の項目にはスキルや魔法なんてものもある。異世界に飛ばされたわけでもないのにこんなこと起こるんだな……と感動していると他の三人も同様に宙に浮くホログラムに気づいたのか驚愕の声を漏らした。
《ステータスポイントを使用しますか?》
また、声が聞こえた。
ステータスポイントというのはホログラムの一番下に表示されているものだろう。仕組みはよくわからないがとりあえずはい、と答える。
すると音声を認識したのか画面が切り替わった。どうやらステータスポイントというのはレベルアップ時に貰える物で能力値を上昇させるために使うらしい。一ポイントにつき能力値が一上昇して、一レベルアップごとに二ポイント入手可能。というのが、しばらく調べてみて分かった。
結局俺は今後絶対に必要になるであろう体力、筋力、敏捷、耐久に一ポイントづつ振り分けて終了とした。
他三人もステ振りは完了したようでどこか満足げ表情だ。
「さて、これからどうする?」
いつまでも死体が散乱した教室にいるわけにもいかないだろうが、恐らくこの教室を出たとしてもさっきのゴブリンみたいな奴がいることだろう。今回はなんとか生き残れたが、次また戦闘になって死なない保証はない。
なんとか戦わずして安全な所に逃げ込みたいものだが……そりゃあ無理、か。
「とりあえず此処をでた方がいいんじゃないか」
いの一番にそう提案するのは柔道部の……そういえば藤宮以外の奴ら、名前しらねぇ。でも、今更聞けることでもないし……まあ、いっか。なんとかなるだろ、とポジティブシンキングで乗り越える。
「そりゃそうだろうけど、どこが安全なのかも分かってないんだぞ? 当てはあるのか?」
バスケ部に指摘されてウッと言葉を詰まらせる。だが、動かなきゃ何も変わらない。
「当ては無くても、ずっとここにいるより動いた方がいい。先のことは動きながら考えよう」
かなり後先考えない行動のように思えるが、なんの情報もない現段階でいくら考えても良い案なんて浮かんで来るはずもない。無駄な時間を過ごすくらいならさっさと行動。
「どうしても嫌ならついてこなくても良いんだぞ?」
煽るように横目で見ると、バスケ部は苛立った顔になりながらも「好きにしろ」と吐き捨てた。
「んで、藤宮はどうすんだ?」
俺はこの中で唯一知っていた彼女の名前を呼んだ。すると、彼女は俺が自分の名前を知っているとは思いもしていなかったようで、心底意外といった表情で目を見開いた。
「あ、ああ、いいんじゃない? 私もこのままここにいても得るものがあるとは思えないし」
狼狽える彼女を尻目に口を開く。
「じゃあ、全員賛成ってことでまずは学校を出よう」
「そのあとは?」
「まあ、警察に助けを求めるってのが妥当だろ」
俺の意見には皆反対意見は無いようで、余計な口出しはしてこない。
「――よし、行こう」