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生き残り

 

 機械的な女性の声が頭に響いたのと同時にゴブリンの死体がボロボロと崩れ始め、終いには小さな石を残して塵となって消え去った。


 そして視界には3Dホログラムのような画面が浮遊しているのが目に入る。なにやら文字が書いてあるようだが、今はそんなものをじっくり読んでいる暇もない。


 周囲を見渡すとそこはもう生き地獄と形容できる空間へと様変わりしていた。清潔感のあった床には血と吐瀉物が飛び散り、幾人もの死体が転がっている。ゴブリンの数も数匹程度の減りが見えるが、それ以上に俺たち生徒側の消耗が激しい。


 どうやらこの教室から逃げ出した生徒もいるようで数的有利も今ではほとんど無いと言ってもいい。更に、俺以外に武器をとって戦えているのは確認できただけでも四人。それ以外の生き残りは地面にへたり込んで気絶していたり、恐怖のあまり失禁して動けなくなったり、泣きじゃくって何の行動にも映さないような奴らばかり。


 対してゴブリンたちは残り八体。厳しくはあるが、一人二殺もできれば勝てると考えればあながち無理、という訳でもないだろう。


「おい、お前ら!」


 俺は声を張り上げて戦闘に使える四人を呼び寄せる。役に立たない奴らはもう知らない。自分から行動しない限り生き残ることが出来ないような状況で全てを放棄して他人に任せるような奴らとは頼まれても共闘なんざしたくないし、助けてやろうとも思わない。


「このままだといずれ全滅する。バラバラに戦うより集まって戦った方がいい」


 俺は呼び寄せた四人で背後を守り合うような陣形を組んで戦うように指示を出す。三人は同意の首肯で答えたが、その一方で反発する者もいた。


「なんで俺がお前の指示に従わなきゃいけねぇんだよ。群れなきゃなんもできない雑魚は勝手にやってろ!」


 そう吐き捨てたのはタッパのある角刈りの男子生徒。体はそれなりに鍛えられていて服の上からでも筋肉の隆起が見て取れるほどだが、それだけでは数の利は覆せない。一人じゃ限界があるんだ。その力が常軌を逸したレベルに圧倒的でない限り。


 俺は単身ゴブリンの群れに突っ込んで行った彼にハアとため息をこぼし、残った三人の顔を覗き見る。


 一人はゴツい体と糸のように細い目が特徴の男子生徒。確か柔道部だったか。戦力としては一番頼りになるといえるだろう。武器は何も持っていないようだが、下手に使い慣れない武器を持たせるよりも慣れた無手で戦わせた方がいいか。


 二人目はヒョロッとした細長い体の男子。筋力はあまりなさそうな印象だが、リーチの長さがそれをカバーしてくれる。バスケ部のスタメンだと聞いたことがあるので身体能力に関しては問題はずだ。彼は武器として自由箒を手に持っていた。


 そして、三人目。これがなんとも意外だった。適度に鍛えられ、スラリと整った体つきに程よく大きな胸、肩まで伸びた光を浴びて反射する金髪の映える女子生徒。不良少女、ヤリマン、ビッチと噂される問題児だ。校則違反である金髪や、崩した制服を注意した先生を色仕掛けで黙らせたとの逸話があるらしい。名前は……藤宮 (せり)、だったか。彼女について詳しいことはよく分からないが、まさか喧嘩の真似事まで出来るとは思ってもいなかった。ヒョロ男と同様に彼女も自由箒を手に持ち、何体ものゴブリンをそれで殴り殺したのだろう、べったりと赤黒い血が付着している。


 それを見るに、性格がどうあれ戦力としては十分。俺個人としては文句はない。


「どうすんの、あれ」


 呆れたような声がゴブリンの叫びに混じって耳に届く。初めて聞いた藤宮の声が思ったよりも可愛らしいことに少し戸惑うが、すぐに表情を取り繕い、答える。


「ほっとけ。俺たちにあのバカを助けてやれるほどの余力なんて無いんだから。今は自分が助かるためにどうするべきかだけを考えた方がいい」


 冷たいようだが、俺は自分が間違ったことを言ったとは思っていない。それは彼女も同様なようで、あからさまに安心した顔をしている。俺が余計な情を出して救出に行くのを手伝えと言われるのを恐れていたのだろうか。


「おい、こっちに来るぞ!!」


 思考に耽る俺を叱咤するように野太い声が響く。


「チッ、大口叩いてたくせにもう死んだのかよ、アイツ!」


 叫ぶ柔道部の声に反応して愚痴を吐露するのはバスケ部のヒョロ男君。俺も彼らの視線の先を見てみると、三体のゴブリンに馬乗りにされて体を切り裂かれている自己中角刈り男の死骸があった。

 どうやら数を利用されて一方的に殺されたようでゴブリンの数は一体も減ってはいなかった。


「なんて無能なんだ……」

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ! もう来てるわ、構えて!!」


 藤宮の怒声にも似た叫びに応じて俺たちは四人、こちらに迫るゴブリンたちを撃退せんとバットを、箒を、拳を構える。


 机と椅子を蹴り散らかしながら凶悪な笑みを浮かべて近づくゴブリンに少しばかりの吐き気と、不快感が湧き出る。


 もう、この教室で息をしているのは俺たち四人だけ。


 つまり、十数匹のゴブリンに三十人ほどのクラスメイトが殺されたわけだ。なんの意味もなく。ただ、己の快楽を満たすために。


 ――ああ、やっぱり、ムカつくなぁ。





ヒロイン登場回でした。

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