ラッキースケベ
俺と藤宮は磯貝ら四人と別れてコンビニを後にすると、静寂が支配する夕暮れ時の狭い道路を二人並んで歩いていた。
ここまで歩いてきた中でチラホラと人影を目にしたもののそのどれもが一様に暗い雰囲気を醸し出していのに俺たちは気づいていた。
「ねぇ佐伯、結局どこに行くつもりなの? あの人たちも警察はやめた方がいいって言ってたけど……」
「ん……ああ」
日も落ち始め、焦りがで始めた藤宮に俺は曖昧に言葉を返す。もちろん、どこか安全な場所を確保しなければという考えはある。だが、そのどこか、というのが明確になっていないのだ。
「どう、するかな……」
ポツリと呟いた俺の言葉に藤宮が反応する。
「ねぇ、まだ行く場所決まってないならさ……行きたいとこ、あるんだけど」
◆
藤宮に連れられて歩くこと一時間。俺たちは住宅街にある一軒の家の前にいた。
「ここは?」
未だ自らの現在地すら分かっていない俺は問うた。すると前を歩いていた藤宮は振り返り、特に表情を変えるでもなく言い放つ。
「私の家」
「は……?」
思わず困惑の声が漏れて出た。
「ああ、やっぱりか」
困惑する俺をよそに藤宮は何やら難しい顔で家を睨みつけ、フッと息を吐いた。
「どうしたんだ?」
「ん……まあ、【鑑定】を使ってみたら分かるよ」
疑問を呈した俺に彼女は目を合わせることなく答えると腰にぶら下げていたククリナイフを手にとった。その行動から流石の俺も察しがついた。
「なるほどね、ここもダンジョンってわけか……」
俺は磯貝から聞いた話を頭の中で再生させる。
『世界中の全ての建物が“ダンジョン”という未知のものに作り変えられている』
そして、それはダンジョン攻略によって解放される。彼から得た重要な情報のうちの一つだ。さらに【鑑定】を使うことである程度のダンジョンに関する情報が閲覧できるというのも磯貝から教わったことである。
俺は目を凝らし、【鑑定】を発動。
――
分類:スライムダンジョン
難易度:G
攻略報酬:――
要求レベル:2
――
磯貝から聞いた話ではダンジョンの最低ランクはGなのだとか。まあ、この情報は磯貝が見た中ではという注釈がつくため確実とは言えないわけだが、この鑑定結果を見る限りではその情報も間違いでは無かったと言えるだろう。
攻略報酬が無いってのはイマイチやる気が出ないけど要求されてるレベルも低いし、危険はそこまで無いと考えていい。とはいえ、油断は禁物だけどな。
「もういい?」
ククリを軽く素振りしていた藤宮が待ちきれないといった様子で俺に視線を注いだ。
「ああ、大丈夫だ。すぐ行ける」
俺も藤宮同様に腰のベルトに差し込んでいた短剣を抜く。不恰好で所々に刃こぼれが見られるその短剣はしかし茜色の光を反射してギラリと輝く。
「じゃ、行くよ」
緊張感をおくびにも出さず、藤宮は慣れた手つきでドアノブに手をかけた。その時、俺の目には心なしか、彼女の表情に喜色の色が混じっているように見えた。
ダンジョンと化した藤宮家宅、そこは【鑑定】によってもたらされた情報通り、幾匹ものスライムが跋扈していた。また、例のごとく謎現象である空間の拡張が行われている。藤宮が言うには普段の十倍くらいは広く感じるとのこと。
ただ、三回目と言うこともあって俺たちに驚きはない。というか、緊張感もほとんどない。前二つのダンジョンと違って明らかに難易度が低いと感じたためだ。
藤宮がククリを振るえばスライムの粘体は無残に飛び散り次の瞬間には黒い靄となって消え去り、小さな石を落とす。
俺が壊れかけの短剣を振るってもその結果は変わらず何の抵抗もなくスライムたちは消え失せていく。その様子は端から見れば、流れ作業そのものと言える。
これにはあまりの簡単さに二人して戸惑ってしまったほどだ。
そして攻略を開始して早十分が経過。
《ダンジョンが解放されました》
スライムを一匹残らず始末したと同時に脳内にアナウンスが鳴り響く。
「えっ……もう終わったの?」
藤宮は不満げだ。かくいう俺もどこか消化不良である感じは否めない。難しすぎるのは嫌だが、簡単すぎるのも考えものだ。
ちなみに今回、レベルアップはない。恐らくそれは藤宮も同じはず。経験を詰めるだけの要素が無かったのだからそれも当然なのだが、期待していた自分がいた分、少し残念に思ってしまう。
「まあ、いっか」
落胆から回復した藤宮は自宅が元の大きさに戻ったことで気が緩んだのか俺という異性がいるのも忘れて堂々と着替え始める。
ブレザーを脱ぎ捨て、シャツの上から三つ目のボタンを外そうした時、彼女はようやく俺の目があるのに気づいた。
さらに俺も混乱して声をかけることが出来てなかったのも相まって気まずい空気に。
藤宮の顔が赤い。そして俺の顔も赤い。真っ赤だ。熟した林檎くらいには真っ赤な自信がある。
藤宮は三つ目のボタンを外そうとしたところで手が固定されたまま、羞恥に顔を染めてプルプル震えている。
対する俺はどうせ怒られるなら、と開き直ってはだけたシャツからわずかに覗く下着と柔らかそうな谷間に視線を釘付けにしていた。
ああ、ここが天国か。
――次の瞬間、俺の頬に強烈な衝撃が走った。
こんなラッキースケベなど、現実に起こるわけがないと嘯くアナタ。……その通りですっ! 現実では絶対に起こりません! やりたかっただけです! 反省はしていません! 作者が童貞だとバレようとそんなものは関係ないんだよッ!!




