解放
俺と藤宮はコンビニ食品を“魔法背嚢”へと詰められるだけ詰めんだ。“魔法背嚢”に入る上限は合計百キログラム。それも加味してなるべく軽い、でも腹に溜まりやすいものを重点的に収納していった。もちろんグミは大量に、というかほぼ全てを掻っ攫ってやった。
今やグミコーナーはすっからかんな状態だ。
「そろそろ出よう」
“魔法背嚢”の上限ギリギリまで食料、飲料を詰め込んで、数時間ぶりのグミを貪りながら藤宮に声をかける。が、藤宮の返事を聞く前にウィーンという音がしてドアが開き、遅れて数人分の足音が耳に入る。
「お、おい、ここもう『解放』されてるぞ!」
男の声だ。続いて更に二、三人の困惑と驚愕の入り混じった声が聞こえてきた。
「あの……」
俺は躊躇いがちに話しかける。一番最初に反応したのはガタイのいい男だった。動きやすそうなジャージを着込んで右手には包丁が握られている。年の頃は自分よりもいくつか上、恐らくは大学生だろう。他三人も同じような年恰好であることから友人関係にあることが察せられた。
「もしかして……君たちがここを『解放』したのかい?」
幾度となく彼らから発せられる『解放』という言葉、それはダンジョンの攻略を指しているのか、それとも違った意味合いがあるのか。
俺と藤宮は頭上に疑問符を浮かべて問う。
「『解放』というのは、いったいどういう……?」
俺の問いに彼らも一瞬その顔に困惑の色を浮かべたが「ああ」と手を叩いてにこやかに説明を始めた。
「すまないね。『解放』というのは仲間内で言っているだけで他の人には分かんなかったよね。えっと、そうだな……つまりは、君たちがこのダンジョンを攻略したのかって聞きたかったんだ」
この男――磯貝というらしい――は人当たりの良さそうではあるがなにぶんガタイがいいだけに無駄な威圧感がある。だが、根っこの人柄が良いのか話していくうちに自然とその感覚も薄くなっていく。
「それで、どうなんだい?」
「ええ、まあ……ここのダンジョンは俺たちで攻略しましたけど……」
「やっぱりか、すごいな……」
磯貝は“魔法背嚢”に入りきらなかった商品たちを眺めながら遠くを見るように呟いた。
「すごい、というのは?」
ダンジョンの攻略というのは確かに危険だ。俺と藤宮の二人でなんとか狼を撃退し攻略に成功、彼らがいうところの『解放』を成した訳だが命の危機には何度も陥った。とはいえ、俺たち二人よりも遥かに強そうな見た目で人数も多い磯貝たちがやるのなら安全に攻略できるはずだ。ならば、なぜ「すごい」なのか。それがどうしても気になった。
「……俺たちは、まだ一回もダンジョンを攻略できてはいない、いや詳しく言うのなら俺たちだけの力ではダンジョンを攻略できていない、になるのかな?」
「え……? いや、でも」
なら、なんでこんなにも“ダンジョン”についての知識があるのか。“ダンジョン”というものが現れてから、まだ一日と経っていないにも関わらず。
「さっき、仲間内、と言っただろう? 俺たち以外にもいるんだよ。ダンジョン攻略を進めている人間は。……俺を含めたこいつらは、ただダンジョンを攻略出来る力があるやつの近くにいただけに過ぎないんだ。実際俺らは何もできなかったよ。モンスターに襲われてもろくに動くことすら出来なかった。争い、戦うだけの勇気がなかったんだ。そして、そのせいで友人を一人見殺しにしてしまった。だから、俺たちは自分たちの力だけでもダンジョンを攻略できるようになりたかった」
だから、このダンジョンを『解放』してやろうと考えていた、と。
「俺たちは力のある仲間がいたお陰で生き延びることは出来た。でも、それだけじゃダメなんだ。これ以上仲間が、友達が傷つくのを見ないためにも“誰か”じゃなくて“自分たち”が強くならなきゃいけないんだ」
磯貝は更に言葉を続ける。
「そして強くなるためにはダンジョンを攻略するのが手っ取り早い。何でも“攻略報酬”なんてものがあるらしいからね。レベルが上がるだけじゃなくスキルや場合によっては特殊なアイテムすらも授けてくれると聞いているよ」
そう言って磯貝は俺たちに視線を向けた。これは暗にお前たちも何か持っているんだろうと問いかけているのだろうか。
磯貝という人間は話してみるととても良い人間だ。だが、だからといってそれは自身の持つ情報を易々と話してやれるほどに信頼があるわけではない。
「へぇ、そうなんですね」
俺はあえて露骨にぼかして話す。
「それにしてもランクEのダンジョンともなればその報酬も相当なものだろうね」
ここでまた、磯貝の口から新たな単語が出てきた。
「ランク……ってなんのことです?」
「えっ……それも知らなかったのかい?」
これには磯貝も心底意外、という表情を前面に浮かべた。
「ランクっていうのはダンジョンの攻略難度のことさ。これについてはダンジョン――つまり建物を【鑑定】してしまえばわかることだよ」
少しばかりの苦笑を浮かべつつも磯貝は懇切丁寧に説明してくれる。自分とは違いこれだけの情報を無償で提供してくれたにも関わらず何にしないのは心苦しい、と流石の俺も感じ始めた。
そして「何かお詫びをさせてくれ」という俺に磯貝たちはこう返したのだ。
「――何か食べ物を恵んでくれ」
と。




