俺には戦闘狂の素質があるのかもしれない
「次は魔法実技ですね。これは、魔法の効果範囲や威力、正確性、発動までの速度などがどれほどかを測る試験です。」
やっと最後の試験に移るわけだが、どんなことをするのかその言葉だけでは分からない。
「どうしても広い場所や専用の場所を要する試験内容ですので移動しましょうか。」
「そうなんですか。分かり」
「よしっ、移動するぞ!」
カルディナ先生に言葉を遮られる。
「いやいや。ここで授業してろよ。わざわざ着いてきてまで見に来る必要ないだろ。」
いつまで生徒を放置すれば気がすむんだ、この駄教師!
「そんな面白…面白そうなこと見ないわけないだろう。それに威力の試験は私も担当することになっているしな。」
「言い直すならちゃんと言い直せよ!わざとだろ!これだから脳筋は。」
「ほう。それは私に言っているのか?」
しまった!つい口が滑った。
ずっと思っていたことがポロっと。テヘッ
周りを見回す俺。
男子生徒の中には少し体つきの良い奴はいるが脳筋というほどではない。
ちっ。誤魔化そうにも誤魔化せない状況だ。
一応、準備だけはしておこう。今の俺ではカルディナの動きについていけない。
「カルディナ先生しかいないじゃないですか。どう見ても魔法使いではない。」
「良い度胸じゃないか。確かに私は魔法使いにしては戦士よりかもしれないな。分かっているなら覚悟はできてるんだろうな?」
「いえ、まったく。」
その言葉を合図に超スピードで突っ込んでくるカルディナ。
先生なんてこの状況で言ってられるか!
少しでも距離を離すためにバックステップで距離を取る。
「おい!出来てないって言ってるだろ!それに教師なんだから手加減しろ!」
「はっ!喋る余裕がある癖に手加減なんて必要ないだろう!上げていくからな、死ぬなよ!」
教師が可愛い生徒を殺そうとするなよ!合格は貰っているから一応生徒だぞ!
拳と蹴りを流れるように繰り出してくるカルディナの攻撃を危なげなくいなしていく俺。
制限解除しておいて良かった。
「『水球』」
「ふざけっ!」
背後から水の球が襲ってきた。
魔法名は言わなくても魔法は発動する。魔法名は意思疎通の目的のためのものだからだ。
つまり、今のは詠唱を極限まで短くしたものだろう。
俺は並列思考がなかったら近接戦闘中に魔法の行使なんて出来ない。
まさか並列思考なしでこんなことやってくるやつがいるとは思わなかった。
「今のも躱すのか。それにしてもなんで攻撃してこないんだ?攻撃されるのが趣味なのか。」
「っんなわけあるか!仕方ないんだよ。早く諦めてくれると助かる。」
制限解除をする際に攻撃に当たらないために速度を、つまりはSTRとDEXを上げる必要があった。
それに加えて、あまり時間がなかったので魔法関連のステータスを上げると魔力の奔流が前みたいに周辺に被害をもたらす恐れがあったので上げることが出来なかった。
なので上げたのはSTR、DEF、DEXの三つだ。
そしてSTRを上げたということは結果的に攻撃力が爆上がりしているのだ。
攻撃をしてしまえば怪我をさせる可能性大だ。
こんな事で怪我をさせるわけにもいかない。
「甘いね。私は脳筋なんだろ?そんな言葉で止まると思ってるのか?」
「都合よく脳筋って認めるな!面倒だな、もう。」
また攻撃してくるカルディナ。
それにしても楽しそうに攻撃してくる。
最初からそれほど怒っているようには思えなかった。終始楽しんでいる、そんな感じだ。
もうあの魔法を使おう。でも今のINTじゃ確実に破られるよな。
制限解除するにも周辺被害を起こす可能性が。
かといってレティみたいな結界を張る技術は俺にはまだないしな。
うーん。何かないか。流れるような体術と不意を突いてくるようにいやらしい魔法を躱しながら頭をフル回転させる。
そうか!この魔法を自分にも使えば良いんだ。一瞬なら耐えられるはず!
思わず口角が上がってしまう。
「おっ。何かするつもりか?出来るといいな!」
攻撃の手を緩めるどころか段々早くなっていく。
こいつ!生徒に対してどこまでやれば気がすむんだよ!
それでもまだ余力を残していそうなのは流石最高峰の教師という事だろう。
「やってやるさ!『スペーシャルイソリューション』」
俺は空間魔法を使う。
カルディナは俺が何をしたのかまだ理解できていないようで固まっている。
チャンスだ。カルディナが固まっている間にINTとMNDに制限解除を使う。
カルディナからの攻撃に気を遣わなくていいので魔力漏れの心配もない。
カルディナが何か言っているが聞こえないので魔法を解く。
「何をしたんだ?ただの虚仮威しか?」
「いやいや、前準備だよ。今攻撃してこなかった時点で俺の勝ちだな。」
「随分と自信があるじゃないか。その威勢がどこからくるのか是非知りたいね!」
もうちょっと会話というものを楽しんでもいいんじゃないだろうか。
「『スペーシャルイソリューション』」
何かにぶつかったように後ろに倒れ尻餅をつくカルディナ。
「俺の勝ちだな。」
カルディナは立ち上がり自分のぶつかったであろうものがある場所を手で確認している。
それは見えるはずも無いのでこちらから見ると完璧なパントマイム状態だ。
俺が使ったのは空間魔法スペーシャルイソリューション。つまりは空間隔離の魔法だ。
まず周辺被害を起こさない為と少しでも時間を稼ぐ為に俺自身の周りに使った。この時、カルディナが攻撃してこなかったのが大きなアドバンテージになった。攻撃されていたら擬似結界とでもいうべきかの魔法は破られていたかもしれない。
そうしてそこで上げた魔法ステータスを使ってカルディナを隔離したわけだ。
あの時、攻撃されていたらこの戦いはまだ長引いていたかもしれない。
「もう相手も攻撃してこないだろうか。」
この魔法の難点は中の音や魔力の動きなど、一切の情報が得られない事だ。結界ほど自由度は高くないのだ。
つまり、カルディナが攻撃してこないかは分からないのだ。口約束さえできない。
よし、一時放置だな!
「では移動しましょうか、ルロイ先生。」
口空いてますよ、ルロイ先生。
声を掛けると何処かに行っていた意識が戻ってきたかのようにハッと我に返ったようだ。
「カルディナ先生はあのままで良いのですか?」
振り返るとこのまま置いていくと殺すと言わんばかりの形相でこちらを睨みつけている。
おっかな!
「えー。解くんですか?あの顔みてくださいよ。きっと俺殺されますよ。」
「しかしこのままというわけにも。それにこのままだと私の方にも被害が及びそうです。」
そうですか。それが理由ですね。
薄情だが仕方ない。俺だって関係ないのにアレに巻き込まれるのは嫌だ。関係あっても嫌だ。
「仕方がないですね。それに俺の為にも早めに解いた方が良さそうだ。」
言いながら解除する。
カルディナは手を伸ばして先程まであった次元の壁とも言うべきものがないことを確認してこちらに歩いてくる。
下を向いているので顔を伺うことが出来ず、何を考えているのか分からない。
目の前まで歩いてきた。
「まだ名前を聞いていなかったな。私はもう知っているとは思うが、カルディナだ。」
顔を上げたカルディナは清々しい程に笑顔でそう言った。あれ?
「こ、光太。」
唐突な名乗りに若干の戸惑いが出てしまう。
「いやー、久々に力を振るえて楽しかった。それにしてもまさか負けるとは思わなかったな。また今度やろう。次は負けないけどな!」
あっはっはと笑うカルディナ。
カルディナがまだ本気を出していないことくらい分かるので本気で勝ったなんて思っていない。
「嫌だね。この世には勝ち逃げという素晴らしい言葉があるんだ。あるのは逃げの一手のみだな。」
とは言うものの本当は戦って欲しいぐらいだ。
今回の突発的な戦いで様々なことが学べた。
これから敵として出会うであろう人達が今日見たような技術を使ってくるかもしれない。
言ってみれば俺のは完全な力押しなのだ。技術なんてないに等しい。
そこでこういう実技で盗んでいけるのならまた戦ってもいいと思う。
それに、俺も戦っていて楽しかったしな。
分かったこともある。カルディナは脳筋などではなく、ただの戦闘狂である。
そして、俺にも戦闘狂の素質があるのかもしれない。
初めての詠唱の最後の方に加筆修正しました。
クオ達が属性試験を行っていませんでした。
気になっていた方申し訳ございません。




