レティvsシスコン
「何でこんなことになってるんだか。私はただリルの為を思っているだけなのに。しかも神龍様方と同程度の結界を作り上げる人族と戦うことになるなんてな。だが負けないぞ!私はその穢らわしい男からリルを守ってみせる!」
そう言ってフリーズは竜化した。
もう公の場でなければフリーズでいいと思います、はい。
本当にリルの事を心配しての行動だという事は分かる。
だから、リルも強くは言えないのだろう。思うところはあるようだが。
実妹に恋をしているなんてことではなく本当に良かったと思う。
別に実妹を異性として好きになる事を否定はしないが理解は出来ないからな。
ただ行動が肥大化しすぎてしまっている。
フリーズの竜の姿はとても凛々しく竜を代表する王族としての威厳を兼ね備えているようだ。
全体的に水色を基調としており、水竜だと分かる。
「安心して。龍にもなっていない子供に本気を出したりしない。あなたはもう少し周りに目を向けるべき。少し痛い目を見てもらう。」
「私が子供だと?ハハハッ、言ってくれるな。勝てると思えるほど慢心はしてないが全力で行かせてもらおうじゃないか。」
恐らくレティのは素の発言だろう。
挑発するつもりはなかったのだろうがフリーズに火をつけてしまったようだ。
先に動いたのはフリーズだ。
無数の氷塊をレティ目掛けて打ち出す。
その速度はかなりのものだ。
しかしレティは難なくそれに同じ大きさの闇球を同じ数だけ当て相殺していく。
だがそこで慌てることはなく、今度はレティの四方八方の地面から水の鞭を生やして縦横無尽に攻撃する。
だがそれもレティが掌に出した闇球が複数方向に伸び打ち返していく。
「塞がれるとは思っていたがまさかここまでとは。本当に人族なのか疑いたくなるな。」
まあ、疑って正解だけどな。
それどころか今この場には人族はいないからな。
「でも、ここからが本番だ。久しぶりに本気を出せそうなんだ、もう少し頑張らせてもらう。」
こいつバトルジャンキーか⁈
元の目的忘れてませんか?
そういえば竜ってバトルジャンキーが多かったんだったな。
その言葉の後すぐにあたり一帯が氷原と化した。
急に寒くなったんだが。
クオは平気そうだったが超寒いので抱き合って温め合う。
「ふぅ、あいつ鬼かよ。いきなり氷原に変えるとか。でもクオは相変わらず天使だな。」
「えへへ〜。あったかいでしょ?素のステータスが上がるとコータも寒くなくなるよ。制限してても一度上げれば大丈夫なんだよ。」
「そうなのか。だけど、クオが温めてくれるなら俺は寒くてもいいけどな。」
むしろそっちの方がいい気がしないでもない。
「ねぇコータ。わ、私も、その、温めてあげる。えい!どう?温かい?」
クオと反対側からリルが抱きついてきた。
「ああ、とっても幸せだ。」
温かいか問われたのに別の答えを返してしまった。
まあ、心はとっても温かいが。
「何をしているんだ!リル、今すぐその男から離れるんだ!穢れるぞ!それにお前が近くにいたらそいつを殺せないじゃないか!」
そう叫びながら空を覆い尽くすほどの鋭い氷柱を生み出すフリーズ。
殺す気満々じゃねえか、あの野郎!
「よそ見をしている場合?そんな余裕があなたにあるの?」
言いながらレティはシャドウバインドでフリーズを拘束する。
「くっ、しまった。」
「でも、クオリティア様も卑怯。私が居ない間に抱きつくなんて。私もやる。」
そう言って拘束したフリーズを置いてこちらに駆けてくるレティ。
そのまま正面から抱きついてきた。
「レティだってさっき大好きって言ってもらってたじゃん。おあいこだよ。じゃあクオにも大好きって言ってよコータ。」
「ん。それでおあいこ。」
勝手に話が進んでるんだが。
まあ、もう慣れてきた部分もあるが。
「仕方ないな。クオ、大好きだよ。いつものちょっと慌てたりして失敗して恥ずかしがるクオも可愛いけど、時々見せる頼り甲斐のあるクオも大好きだよ。これでいいかな?」
慣れてきても恥ずかしい。
「えへへ〜。クオも大好きだよ!」
「わ、私は?今日会ったばかりだからないかもしれないけど…」
予想はしていたがリルがそう言ってきた。
確かに出会ったばかりだが尻すぼみに小さくなっていく声と期待と諦めでコロコロ変わる表情をされると何か言わないとという使命感に何故だか駆られる。
「リルは初めて会った時は同族を思い遣るが故に掟すらも破れる強い信念の持ち主って印象があったけど、話していくうち初対面の相手でも心配することのできる優しさとかリルの弱さとかを感じてそのギャップにやられたよ。」
何故か脱出しようと暴れていたフリーズが静かになっている。
「チョロいとか思われるかもしれないけど今日一日でリルの事を大好きになったよ。だからそんな顔するな。元気なリルの方が俺は好きだぞ。」
今日会ってから何度か見た諦めの顔。この表情はよく知っている。
こっちにくる前によく鏡に向かって自分に言い聞かせるためにやっていた顔とそっくりだから。
自分は他の人と違うと、だから諦めなければならない事もあると。
俺はこっちにきてクオに、レティに出会えて毎日が過去を清算するように幸せだ。
俺は今幸せになれている。そして俺が他の人を幸せにできるのならそうしたい。諦める前にもう一歩踏み出す力になりたい。
全ての人をそう出来るとは思わないし、俺も態々見つけてまでそうしようとは思わない。
だけど、目の前にいる人ぐらいはそうしてもいいんじゃないだろうか。
別にそれが偽善と言われるならばそれでもいい。
幸せになって欲しいという俺の押しつけだ。偽善なんだろう。
本当に嫌がったり必要ないのならやらないし、力になれるのならなりたい。
ただそれだけなのだ。
「うん、ありがと。わ、私も、だ、大好、き。」
多分、クオが大好きと返事をしてそれに倣った形だろうが、言った後に恥ずかしくて顔を見せられないとでもいうように俺の胸に顔を埋めた。
「もう!今はクオの番なのに!あんまりクオを蔑ろにすると拗ねるよ。」
「ん。私もクオ様もとても嫉妬深い。さっきも後ろから刺すって言ってた。もちろん私も三回は確実。」
蔑ろにしているつもりはないのだがクオからしたらそう感じているのかもしれない。
気をつけねば。
それとレティよ。今は流石にやめてくれ。ただでさえ場が混沌としているんだ、その上クオが暴走を始めたらどうなることか。
そして自分も三回刺すとか言っている。抱きついて見上げながら言ってくる姿は言葉とは違って可愛らしさでいっぱいだ。
「あれはレティが変なこと言ったからでしょ!クオはそんなことしないんだから。もし蔑ろにしたら三十分は口利いてあげないんだから。」
最初の方はおぉ成長したなクオ、的な感じで聞いていたのだが、最後の方は想像すると反抗が可愛らしすぎてなんだか心が穏やかになってきた。
クオの場合、口を利かないと言ってもそっけない態度を取ったりというよりも、一生懸命口を利かないように頑張っている姿しか想像できなかった。
ふと周りを見渡すと、何故か周りには人が増えていて温かい目で俺達を見ていた。
フリーズもいつの間にか人化していて拘束も解けている。
まあ、レティが解いたんだろうから危険はないだろう。
そのフリーズが歩み寄ってきた。
「そろそろいいか?人も集まってきたし場所を移動して話そう。」
今までの印象とは百八十度違うすごく真面目な表情で話しかけてきた。
さっきみたいに急に襲われたりするんでなければ話すくらい断る理由もないので承諾する。
「えぇ、構いません。襲われたりしないのならば。」
「それは悪かった。言い訳になるがこちらにも事情があるのでな。では行こうか。」
端的にそれだけ話して歩き出した。
周りの三人の顔を見て目で確認を取り後を追うように俺達も歩き出した。
どうやら色々と心配している理由はシスコンというだけではないようだ。
まあ、多大にシスコンを含んでいるのだろうが。




