シスコン
「見えてきましたよ。あれがユニスト竜王国に唯一ある町、オルデストです。守護隊本部の訓練場におりますので降りる準備をしておいて下さい。それと姫様、あまりコウタ殿の近くにおられるとフリーズ様がまた暴れ出しますよ。」
確かに見えてきた。
町の周りは山で囲まれていてそれ自体が防壁の役割を果たしているようだ。
グロウよりも二回りほど小さな町で四角い統一規格の家が整然と並んでいる。
家は二階建てで、扉と窓が付いているだけの漆喰のシンプルな白い家だ。
奥の方に手前の家々より大きな建物が数える程だが存在する。
そして一番奥にはタージマ○ルを彷彿とさせる建物がある。
それは周りと比べようがないくらい巨大だ。
ター○マハルは写真でしか見たことがないので詳しくは分からないがその巨大さも相まって圧巻である。
ユニスト竜王国唯一の町は俺が今まで見てきた景色の中で一番といって過言ではないくらい圧巻の景色ではあるが、それ以上に暴れ出す方が気になる。
何故俺はいつも気になることがあるのか。
某アニメのヒロインの如く素で気になるならいいが、俺の場合、周りが態と気になるように仕向けているようにしか思えない。
俺も言った方がいいのか?
わたし、気になります!
はい。お見苦しい姿をお見せしました。
そのフリーズさん?その人の常識的思考に賭けよう。
急に暴れ出したりしないことを願う。
「兄様のことなんて考えても仕方ないじゃない。どうせいつものことなんだから放っておきましょ。それにコータなら大丈夫よ。強いもの。」
俺の願いはものの数秒で潰えたようだ。
神は俺を見捨てたのか。あぁ、神よ。このか弱き子羊にどうかご慈悲を。
そういや神は膝の上と右隣にいたっけな。
俺はそっとクオとレティを撫でる。
「コータどうしたの?そんな諦めたような笑顔で急に。理由は分からないけど元気出して。」
「少しでも慰めになるなら私でよければ好きにしていい。」
ありがとう二人共。
だがレティよ。別の意味に聞こえるから他の表現方法でお願いする。
「ねぇ、コータ。そ、その、わ、私にもしてくれない?」
左隣から真っ赤な顔でリルがそんな事を言ってくる。
だが、
「着きましたよ。今降ろしますので。」
そう言ってグレイスは乗る時とは逆の手順で降ろしてくれた。
どうやら着いたようだ。
ここは奥に見えていた大きめの建物の一角にある広場のような場所だ。
降りてすぐに、
「何をすればいいんだリル?」
「だ、だから、クオとレティみたいにな、撫で、てって。」
めちゃくちゃ顔が赤い。
恥じらう美少女は反則だ。可愛すぎて反射的に撫でてしまった。
優しくゆっくりと、髪を梳くように。
ただでさえ赤かった顔がもっと赤くなる。
力が入らなくなったのか俺の胸にしなだれかかってきた。
流石に俺も恥ずかしい。
周りには多分人化した竜族だろうが、少数だがいるのだ。
このやりとりを好奇の眼差しで遠巻きに見て何やら話している。
すると声が聞こえてきた。
まだ人化してないグレイスの反対側から聞こえる。
「グレイス、お前が早く帰ってくるなんて珍しいな。人族を数人乗せてきたみたいだが何かあったのか?」
「はい。例の邪竜の件で竜王様にご報告が。」
何故か声が聞こえた途端リルが焦り出した。
急いで離れようとするがまだ力が入らないようだ。
「そうか。急用そうだし父様のところに早く行くといい。その前に聞きたいことがあるんだが、私の可愛い妹のリルが祠に行ったと聞いたんだが今どこにいるか知らないか?」
「え?そ、そうですね、祠には来られましたが少し話されて帰られましたので分かりませんね。」
グレイスは少しこちらを見て焦ったように言葉を返す。
どうやら向こう側にいるのは危険人物の兄らしい。
理由は分からないがしょっちゅう暴れるらしいからな。
「そうか。可愛い妹の願いだ、叶えてやりたいのは山々なんだがこればかりはな。それでいつまでその姿でいるつもりだ、町に帰ってきたのだしその姿では不便だろう。」
「そ、そうですね。今人化しますので。」
こちらを再度見るが諦めたように人化した。
「父様は今は宮殿の執務室か自室にいるだろう。そのもの達が連れてきた人族か。ゆっくりしていってくれ。私は別のところをあたるとしよう、では。ん?」
人化したグレイスの向こう側には体格の良い水色髪のイケメンが立っていた。
このイケメンがリルの兄ことフリーズ様なのだろう。
話が終わりフリーズ様は後ろを向いて歩いていくかと思い何事もなかったと安堵しかけたのだが、何故かその体制のまま停止した。
一応、王家の嫡子なんだから様くらいはつけないとね。
「ど、どうされたのでしょうか、フリーズ様。」
「いや、グレイスよ。私の見間違いじゃなければ寄り添い合う男女がいたのだが、少し初対面の人物の前で失礼だとは思ったが空を飛んでくれば飛べないものが恐れるのも無理はない。なので流していたのだが、もしやそこにいるのはリ、リルではないのか?」
フリーズ様は振り返らずに言葉を発し、最後の方に信じたくないと言わんばかりに錆びついたロボットのようにギギギとこちらを振り返ってた。
「これはどういうことだ、グレイス。いないはずのリルが何故ここにいる。そして何故見知らぬ人族の男に寄り添って真っ赤な顔になっているのだ!」
「そ、それは色々と事情がありまして。」
「そうか、色々な事情か。その話はこの男を排除してから三人でゆっくり話そうか。まずはその男からだ。いつまでくっついている!早く離れろ!」
えっ?急にこっちに向かって猛スピードで突進してきたんですけど!
と思ったら急停止し距離を取る。
「いきなり危ない。あまり不用意に近づくと痛い目に合うことになる。」
「おいグレイス、この人族はなんなのだ!こんな凄まじい結界、神龍様と六龍殿達以外で見たことないぞ!」
どうやらレティが結界を張ってくれたようだ。
それにしてもあの極悪結界が見えているのか⁈透明で途轍もなく強力なやられる側からしたらたまったもんじゃないあの結界が。
「む。光太今、失礼なこと考えた?使う側からしたらすごく便利。」
「っ!いやいや、何も失礼なことなんて考えてないぞ。いつもこの結界には助けられてるなぁ、と。俺も覚えたいくらいだよ。」
「結界って難しいんだよ、コータ。結界は魔法じゃなくて技術なんだよ。コータはまず魔力のコントロールからだね。」
レティは時々もの凄く感の良い時がある。
極悪なんて思って申し訳ありませんでした!
それはともかく、結界は魔法じゃなかったのか。
魔力を使った技術って言われてもピンとこないな。
向こうは向こうで片方は冷や汗を流しながら、片方は呆れながら会話をしている。
「この結界なら竜王様も張れると思うのですが。コウタ殿達は邪竜を討伐に来た冒険者です。その件でここに連れて来たのです。」
「このステータスで、って偽装してあるのか。しかし、邪竜を倒せる冒険者は多くはいなくてもある程度はいるはずだ。その冒険者でもこの結界はありえんぞ。しかもこの域の結界を瞬時に。」
邪竜を倒せる冒険者はある程度はいるんだと。
そいつらにやらせろよ!今思ったがいないなら他のところから呼べばいいだろ!
交通機関の整備や遠距離の意思疎通の方法がないかもしれないが、魔法なんて便利なものがあるんだから簡単そうなものだが。
「しかし!それでも私の可愛いリルに何処の馬の骨とも知らぬ男が触れるなど、それだけに飽き足らず寄り添うなど!私でも大きくなってからは触れることすら許してもらえないのに!なんとうらや、怪しからん!この程度の障害などで引いてはリルの兄として示しがつかん!リル、今助けてやるからな!強いのはそこの幼女と見た!幼女に守らせ自分は誑かした他の女と高みの見物か!腐ってるな、私が成敗してくれる!」
ああ、こいつはあれだ。俗にいうシスコンというやつだな。
しょっちゅう暴れているのはこれが理由なのだろう。
結構重度のようだ。
しかも何故か俺がめちゃくちゃ最低野郎みたいに言ってきているんだが。状況から見て否定できないのが悔しい。
それに多分幼女とはレティの事だろうがギリギリ中学生くらいには見える。
人によっては幼女に見えなくもないかもしれないが。
「私が幼女?ふふふ。言ってはならないことを言った。覚悟するといい。」
なっ!レティが笑っただと!
楽しそうにすることはあっても笑うところなんて見たことないぞ。
しかもめちゃくちゃ怖い。
幼く見えることを気にしていたようだ。
絶対怒らせないようにしよう。近くにいるだけでも鳥肌がものだ。
レティの周りを紫色の半透明のオーラのようなものが渦巻いているような錯覚すら見えるようだ。
いや、これは実際に何かが渦巻いているらしい。
「なっ!この魔力の奔流は何だ!こんな高密度の魔力は感じたことがないぞ!グレイス何故離れていく、お前達も守るべきものが危険にさらされているのだぞ!逃げるな!」
グレイスも遠巻きに見ていた他の守護隊の竜達も更に距離を取る。
「兄様は少し反省するべきよ。私の近くに男性がいるのを見ると誰彼構わず排除しようとするんだから。女性に対しての言葉にも気をつけるべきよ。思いっきりやっちゃっていいわよ、レティ!」
やっと力が入るようになったようだ。
結構、兄に対して鬱憤が溜まっているらしい。
「死なない程度にしてくれよ。リルは結構鬱憤が溜まってるみたいだな。」
「なっ!リルだと⁈その穢らわしい口で私の可愛い妹を気安く呼ぶんじゃない!」
「兄様は黙ってて!実はみんなが名前で呼んでくれないのは兄様にも原因があるのよ。私の周りは偉い人が多かったからその人達は元からだったけど、昔は宮殿で働いてた人達は気安く呼んでくれていた。でも、兄様が私のことを名前で呼んでいる男の人を見つけるとそれを許さなかったの。それでみんな呼んでくれなくなって。」
なるほど。シスコンを拗らせすぎて本人にまで迷惑をかけているのか。
これはリルが可哀想だな。
「レティ、少しお灸を据えてやってくれ。それと俺は今のそのレティが大好きだぞ。少し幼く見えたってレティはレティだ。他の奴のいうことなんて気にするな。俺はそんなこと気にしたりしない。」
「ん。ありがとコータ。嬉しい。リルの為にも少し痛い目を見てもらう。」
そう言いながら初めて俺の前で微笑んだレティは凄く魅力的だった。
前に活動報告にTwitterを始めたことを書きましたが、あまりに端的に書きすぎていましたので再度修正して載せました。
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