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清隆学園の夏休み  作者: 池田 和美
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七月の出来事・⑥

「今度は乗車拒否されないようにしろよ」

 陽が傾き始めた頃、さんざん大げんかした後にやっと仲直りした六人は海水浴場のバス停の待合室にたむろっていた。

 まだバスの時間まで時間があった。

「喉、渇いたんじゃない?」

 恵美子が透の顔を覗き込んだ。それに弘志が反応した。

「買ってくるよ」

「オマエは座ってろ」

 由美子の手が弘志の肩を押してベンチに戻した。

「郷見はコーラ? トールはオレンジ?」

「あ、リンゴで」

 由美子は小銭を探すために、横に置いた自分の荷物へ手を入れながら立ち上がった。

 恵美子も当然のように座っていたベンチから立ち上がった。そして二人が同時に空楽と正美へ手をのばした。

「?」

「へ?」

 それぞれがそれぞれの耳たぶをつまむと、遠慮無く引っ張り始めた。

「いたたたた」

「おい、ちょっと待て!」

 女子二人はそのまま男子二人を待合室から連れ出していった。

「うわ、痛そう」

「今日はありがとうございました」

 目を丸くして見送ってしまった弘志に、意を決したように透が話しかけた。その声に弘志は笑顔を取り戻して振り返った。

「楽しめた?」

「はい」

「また来ようか?」

 弘志の言葉に少し泣きそうな表情で彼女は顔をあげた。

「今度はもっと元気な池上さんが見たいな」

 なにかを告白しようとした透にウインクしてみせる。透はそのとびっきりのウインクにじんわりと涙を滲ませはじめた。

「あ〜 泣かせたぁ」

 待合室に正美の無遠慮な声が響いた。

「バカ」

 由美子の鉄拳が炸裂した。

「覗きとは悪趣味だな」

「そういう不破くんも覗いていたじゃない」

 ワイワイガヤガヤ。

「こんなことじゃまたバスに乗れませんね」

 透が弱々しく微笑んだ。

「そうだね。朝と同じ運転手さんだったらヤバイかな」

 弘志の言葉に透は無理に吹き出してみせた。

「話しがぜんぜん違うけどさ、池上さんはどんな花が好き?」

「馬鹿ね、郷見くん」

 騒いでいる輪から外れてきて、恵美子はベンチに座る弘志を見おろした。

「女の子だったら『好きな男の子に贈られた花』がいいのよ」

「そうだったね。そういうモンだったね」

 納得して何度もうなずく弘志。そこへ外から声がかけられた。

「あ、バス来たよ〜」

 ブロロロロン。プシュー。

 で、朝と同じ運転手だったりした。



 来る時に騒いだために乗車拒否されたバスに乗るほど、女子たちが図太くなかったため、六人はバス停の待合室からスマホでタクシーを呼ぶことにした。

 だが行楽シーズンでどの車も出払っており、また道も混んでいるので遅くなると言われてしまった。

「どうする?」

 世界の色がオレンジ色に塗りつぶされた中で、由美子はとりあえず一度スマホを切ってみんなに訊ねた。

「歩いて駅は遠いし、上り坂だよ」

 正美が念をおした。

 空楽は、オレンジ色をハサミで切って取り除いたような日陰で、船をこぎ始めていた。

「次のバスまではけっこう時間あるよ。タクシー待っても同じくらい」

 時刻表を見てきた恵美子が困った声を出した。

「また同じ運転手だと嫌だから、タクシーにしようよ」

 正美の提案に由美子はうなずいて、携帯を取りだした。

「時間あるんでしょ。権藤くん、散歩に行かない?」

 恵美子は口元に自慢の八重歯をのぞかせて振り返った。

「え」

 夕陽に頬の色が隠れた。

「はいはい」

 携帯でタクシー会社とのやりとりをしながら、由美子は再び空楽の耳たぶをつまみ、恵美子と一緒に歩き出した。

「Zzzっ! あいたたた!」

 抗議の声は耳に入らないとばかり、反対の手に持ったスマホでタクシーの配車を頼んでいた。

 キョトンと見送った二人は顔を見合わせた。

「姐さんたちも捻りがないよな」

 呆然と見送った二人は、傍らを見おろした。

「オレたちも行こうか」

「え?」

「さんぽ」

 透の荷物を提げ、自分の荷物を背負った弘志は、開いた右手を彼女に差し出した。

「はい」

 その手にチョンと小鳥が留まるように、透は手を置いた。

 とはいえ行く当てもないので、昼食を食べた岩場へ足が向いた。早めに海水浴場を引き上げたのに、ゴタゴタしたせいで、あたりはすっかり夕方になっていた。

 まだまだ地球を熱しますぜ、とでも言いたげに太陽は水平線と山なみの接続点から、暖色の光を投げかけていた。

 海は夕凪で先程までの荒い波は消えていた。

 投射角が緩くなったことで、風景はすべて赤いオレンジ色に染め上げられていた。そして光が届かない場所には夜が一足早くやってきていた。

 砂浜との境目で足元が不安になったのか、彼女は彼から手を引いた。彼はそれには構わず海が見える位置まで足を運んだ。

「風がないとけっこう暑いね」

 振りかえると彼女は、手を離した場所で立ち止まっていた。

「?」

 ちょっとよろめいた彼女は、そっと近くの岩によりかかった。彼は慌てて駆け戻った。

「大丈夫?」

「はい」

 岩々の足下からのびる黒い影が、太陽が傾くにつれて育つように延びていくのが見て取れた。

 彼女の目はその様子をただ呆然とした様子で見ていた。

 弘志はそこいらに荷物を置くと、また彼女に手を差しのべた。

 微笑みその手を取ると、弘志は安心した顔をした。

「きれいです」

「え?」

 つぶやいた言葉が聞き取れずに見ると、彼女は微笑みを大きくした。

 彼の横顔に暖かい陽が差している。

 でも私の服を黒い黒い影が冷やしていく。

 そういう風景が美しく、そして哀しく心に残された。



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