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清隆学園の夏休み  作者: 池田 和美
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七月の出来事・②

「しかし、意外だったな」

 場面は変わって、『正義の三戦士』が学外で溜まり場にしている喫茶店〈コーモーディア〉の店内である。

「何が意外なんだよ」

 空楽の独り言に弘志が反応した。

「藤原さんって、デートの仲介なんかしないタイプかと」

「いや、甘い! 甘いぞ空楽」

 偉そうに弘志はふんぞり返って言った。

「あの手の女は『やり手ババア』と相場が決まっておる」

「藤原さんだったら、ジジイの間違いだろ」

 三人の中では一番殴られる率が高い空楽が、弘志のセリフを悪い方へ訂正した。

「明日は海か」

 でへへと頭のネジが緩んだ顔の弘志に正美は告げた。

「言っておくけど弘志、あの藤原さんの紹介だって事を忘れちゃダメだよ」

「というと?」

「わからんか?」

 今度は空楽が当たり前のように片方の眉を上げた。

「へたに手を出すと、ニープレックスとか、原爆固めとかプロレス技をかけてくるかもしれんぞ」

「まさかぁ」

「いいや違うよ」

 正美の銀縁眼鏡がキラリと光った。

「体落としとか、地獄車とかでしょ」

「どうでもいいが、お前ら」

 三人の会話に店のマスターが口を挟んだ。

「ダベるんだったら、なにか注文してからにしてくれ」

「いいじゃん、オレらとマスターの仲でしょ」

 明るく弘志が言った。もうポンと手で肩を叩きそうな気軽さだ。

「絶対遅刻しないでね空楽」

 正美が強調するように空楽の顔を覗き込んだ。席についたまま舟をこぎ出しそうな様子の空楽は取りなすように目を開いた。弘志が下ネタと化学実験が大好きなように、空楽は読書と居眠り、そしてアルコールを(未成年なのに)何よりも愛していたのだ。

「弘志、よろしく」

「まかされた。でも、今朝みたいな乱暴なことはおよしになって」

 よよよと空楽に寄りかかって泣く真似をした。

「やめんか。へんな誤解が起きたらどう責任取ってくれる」

 トンと冷たく突き放した。

 ちなみに今朝の果たし合いに間にあうように弘志が空楽を起こすために取った手段は、いきなり彼のベッドへ潜り込んで耳元へ生暖かい息を吹きかけるというものだった。

「優しく起こしたら全力で顔面パンチだもんな」

「あれが『優しく』…」

 その様子を同じ室内で見守っていた正美があきれた声を出した。

「なんといっても明日はグループ交際で海! しかも生徒会の裏投票で『学園のマドンナ』に選ばれたコジローと一緒なのだぞ。残りの中坊と『拳の魔王』を置いておいても、男ならば参加しなければ」

 いつもより妙に力の入った言葉で空楽が語った。

 清隆学園高等部生徒会が非公然活動として行っている『学園のマドンナ』投票。非公然にはもちろん意味があった。誰が当選するかトトカルチョが行われるのだ。その胴元はもちろん生徒会の中枢の人間である。道義的どころか、賭け事に関する法律に抵触する物なんていう可愛い物ではない。莫大な闇金を生み出しているという噂まであるのだ。

 ちなみに『学園最恐』部門で一位を取ったのは(もちろんというか)由美子だったりした。

「ひどい。あたしというものがありながら、佐々木さんのほうが良いのね」

 自分で自分を抱きしめるように腕を回した弘志が、身を捻って抗議の視線を空楽に投げた。

「嫁入り前は無垢な身体でいたかったのに。あたしに、あ〜んなことやこ〜んなことをしたのを忘れたの?」

「やめんか」

「やっぱり、そういう関係だったんですね」

 三人とは顔なじみになっていたウエイトレスが、お冷やのお代わりを持ってきながら三人に親しげに訊いた。

「冗談じゃない。こいつとは敵同士です」

「あ、そうなんだ。なら明日の朝は起こさなくてもいいね」

「貴様〜」

 わいわいがやがやと騒ぎ出した三人を見るマスターに、カウンター脇に戻ってきたウエイトレスは訊いた。

「どうしましたマスター? なんか疲れているようですけど」

 それに対してマスターが自分のこめかみに左手を当てながら答えた。

「そうなんだ。憑かれているんだよ」

 席は埋まっていても注文数は全然増えない。こんな常連客じゃあ疫病神扱いされても仕方がないだろう。



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