04.朗報
「セットで悪い知らせは付いていませんか?」
僅かな微笑を含めて冗談を飛ばす、そこまで面白くないのが残念極まる。
「全く喜ばしく、光栄な任務が君に授けられた」
「どの様に光栄なのでしょうか?」
「新設されるスランドカイゼ王立騎士団の新たなる部隊で人と国の役に立てる」
それは全くもっての悲報ではないかと、こんな事なら退屈な勉強に毎日の三分の一を費やした方がまだマシだ。
「優殿のステータスは平均的だ。しかし、ステータスは怪物の魂を刈り取ればその分の魂が我が血肉となる。」
「相手は魔族ではないのですか?」
「魔族ではないが、卑しき物に変わりはない。魔獣の征伐を主とした部隊だ。ここから60ミィド南にあるアバードへと明日出発となる」
「明日……ですか?」
「時間は待ってくれないからな。早い方がいいだろう?」
「そうですね……」
夕暮れはとっくに過ぎ、辺りは真っ暗になっている。
スマートフォンの時計は5:40となっており、恐らく異世界と日本の間には時差があるのだろう。
「何だそれは、その光る箱は?」
「お、お守りです。故郷の」
苦し紛れの、それも咄嗟の誤魔化しだったが案外すぐに納得していた。
「そうか。王女様はこの勇者召喚の失敗を大変悔やんでいたそうだ。もちろん私もだ。精一杯のサポートはさせてもらう。これもこちら側からの好意だ、償いとも言えるがな」
「大変有り難く存じます。」
ありがた迷惑だよ畜生。
てっきり、この城の中で一生養って貰えるのかと思ってた。
ただ、ステータス的には前衛をはるよりかは、工芸品とか薬品とか作ったほうが効率的だと思うんだが。
「すみません、質問宜しいですか?」
俺はそう言うと、シモンリガードは頷いた。
「私が騎士になって、前線で戦うのでしょうか?それとも、保持しているスキルから考えて兵士の支援に徹するのでしょうか?」
「何を言っているんだ?騎士たるもの剣を持たねば意味はない。君が剣から逃げるのも無理はない。ただ、私は幼い頃から剣を信じ魂に誓った。君も剣に命を捧げよ、そうすれば自ずと道は見えてくるはずだ。」
得意げな表情を見せて話を続ける。
「話が長くなったな、ではさらばだ。健闘を祈る!」
騎士長シモンリガードはそう言い残すと部屋を去っていった。
大きく溜息を吐き、ベットの上にダイブする。
「なんで俺だけこんな目にあわなきゃなんねぇんだよッ!クソが!」
拳を丸め、マットレスを強く叩いた。
クソ、クソ、クソ……
右手と左手、交互に殴る、柔らかいマットのお陰で延々と殴れそうだ。
「入りますね」
ノックの音は聞こえなかった。彼女がノックをしたかしてないか、そんなものはどうでも良い。
「アリア、このランプはどうやって消す。」
蛍光灯並に明るい光が天井からぶら下げられたランプから放たれている。
今の俺には眩しすぎる。朝も早い、今日一日で沢山の出来事が起こり過ぎだ。
「私、説明しましたよねえ?」
「知らない、忘れた。」
「そうですかぁ。まあ良いですけど」
ふりふりのスカートのレースを揺らしながら壁に描かれた記号に触れる。
灯りは消え、部屋は暗室になった。
「それよりも優さんって勇者じゃなかったんですね、がっかりしました」
表情は見えないが、その言葉の発し方から彼女の機嫌が悪い事は理解できた。
先程までのアリアとは別人の様に攻撃的だった。
「そうか。良かったな、俺はもう寝たいんだ、静かにしてくれないか?」
「私、勇者さまの子供が欲しかったのに……せっかくの機会を、あなたのせいで……」
このメイド達には勇者の性欲処理も仕事の一環なのだろうか?
正直、アリアは滅茶苦茶に可愛かった。華奢な手足、黒いショートヘアの髪、そして幼げな整った童顔。
「ルーズグネア様と一緒に食事をしていたから勇者の中でも一際優れたスキルを持っているのかと思ったのに!後輩の侍女から無理矢理変わってもらったのに……何故?何故貴方は私を騙したの?」
甲高い女の奇声が部屋中に響き渡る。
「ああああ、わたひは勇者さまとけっこんするために侍女になったのにぃいい。なんでこんなめにあうの?きょうのために必死にがんばっでぇぎだのじぃいいい」
床に膝のつく音がした。
彼女の声は吃り、涙声となっている。
自分よりも絶望している彼女を見ていると、悲しい気分も少しは軽くなった。
涙声と共に扉の閉まる音がする。彼女が部屋から出て行ったのだろう。
メイドの女共が欲しがっているのは勇者という肩書きなのだろうなと思いながら瞳を閉じる。
この夜はよく眠れた。