最終話 手に入れる方法
かずくんは、私のことを何も分かっていない。
私がずっとそばにいたのは、幼馴染だからじゃない。家が隣同士だからでもない。
どうしようもなく、かずくんが好きだから。
隣にいるのは、ずっと私だけがよかった。
それなのに、かずくんの周りには、いつも可愛い女の子が集まってくる。
生意気で、かずくんをからかいながら、嬉しそうにまとわりつく紗奈ちゃん。美人で面倒見がよく、何かと世話を焼く瑞希会長。趣味の話で盛り上がり、かずくんと楽しそうに笑い合う乃亜ちゃん。
みんな……私からかずくんを奪おうとする、最悪な女たち。
かずくんは、昔からよくモテた。
顔がよくて、運動神経もいい。頭だって悪くないし、人当たりもいい。
私にも気があるように見えるのに、こちらが気持ちを伝えようとすると、冗談にして逃げてしまう。
きっと、このまま待っていても、かずくんは私を選んでくれない。
たとえ押し切って付き合えたとしても、気の多いかずくんは、きっとほかの子に目移りする。私だけを見て、一生そばにいてくれるとは思えなかった。
それに、かずくんは私を少し下に見ている。
何をしても許してくれる、都合のいい幼馴染。恋人になっても、その関係は変わらないだろう。
だから……かずくんには、私しかいないって思ってもらわなくちゃ。
でも、可愛い子たちに囲まれているうちは、その関係に甘えて誰か一人を選ぼうとしない。
だったら、全部奪っちゃえばいいと思った。
手を伸ばせば、いつでも私やほかの可愛い子がいる。その安心を、なくしてしまえばいい。
お馬鹿なかずくんは、失うまでその大切さに気づけない。
昔から、そういう人だった。
かずくんの友達である大和くんが、私に好意を持っていることには前から気づいていた。
彼には悪いけれど、利用できると思った。
目の前で私が誰かのものになったら、かずくんはどんな顔をするだろう。
もう手に入らなくなった私を、どれほど欲しがってくれるだろう。
想像するだけで、ひどく興奮した。
でも、お馬鹿なかずくんのことだ。私を取り戻そうとする勇気もなく、きっとほかの誰かに手を伸ばそうとする。
だから、その先にも手を打っておいた。
紗奈ちゃんを嫌っている子たちに噂を吹き込み、面倒見のよさで有名な御手洗先輩が、あの場に居合わせるように仕向けた。
不安定な紗奈ちゃんなら、助けてくれた御手洗先輩にきっとすぐ依存するようになる。
かずくんが生徒会に入ろうとすることも予想できた。だから、その前に、会長が放っておけなくなりそうな一年生を推薦しておいた。
真面目で一生懸命。けれど、要領が悪くて手がかかる。
ああいうポンコツに頼られたら、面倒見のいい会長は、きっと見捨てられない。
乃亜ちゃんには、歩久くんと知り合うきっかけを作った。
歩久くんはいかにも、キモオタって感じで誰も近寄らない。
でも、乃亜ちゃんは優しいから、見た目なんて気にせず仲良くしようとする。自分自身も、そういう差別が嫌いな子だから。
そんな二人を見て、焦ったかずくんが何をするかも大体予想がついた。
かずくんの居場所を、一つずつなくしていく。
私は、少しきっかけを作るだけでよかった。その先は、お馬鹿なかずくんが自分で壊してくれる。
本当に、どうしようもない人。
でも、そんなところも大好きだよ……かずくん。
ずっと幼馴染として、隣で見てきたんだもの。
何を考えて、次にどう動くのか。私には、手に取るように分かった。
やがて、かずくんは誰が見ても心配になるほど、塞ぎ込んでいった。
準備は整った。
あとは、最悪な形で私を欲しがってもらう。
家の前で大和くんと足を止め、わざと少し大きな声で話した。隣の家の、かずくんの部屋まで届くように。
そして、彼の部屋からよく見える場所で、大和くんとキスをした。
かずくん以外とキスするなんて、死ぬほど嫌だった。
でも、かずくんとは、もう何度もキスしている。
朝、起こしに行ったとき。まだ彼が目を覚ます前に。
かずくんが知らないだけで、何度も何度も。
だから、一回くらいなかったことにしてもいいよね。
これもかずくんを手に入れるためなんだから。
カーテンの隙間から、かずくんがじっとこちらを見ているのが分かった。
もう、限界なんだ。
ぎりぎりのところで踏みとどまっている。あと少し揺さぶれば、張り詰めていたものが切れる。私には、そう思えた。
その夜、私はシャワーを浴びてから、わざわざメイクと髪を整えた。そして、普段と変わらない様子を装い、あえてラフな部屋着でかずくんの部屋を訪ねた。
誘うように距離を縮め、焦らすように帰る素振りを見せると、かずくんは引き止めるように私の手を引いた。
強い力ではなかったけれど、私はそれに乗じて、わざとベッドへと倒れ込んだ。
視線を向けると、かずくんの目は赤く血走っていた。
ベッドの上に投げ出された私の無防備な姿に、興奮しているのがはっきりと伝わってきた。
ようやく、本気で私を求めてくれた。
かずくんが、今はほかの誰でもない私だけを見ている。そのことに、胸が高鳴った。
ただ必死に、自分の欲望をぶつけるだけ。いかにもかずくんらしい、身勝手なセックス。
それでも私は、言いようのない高揚感と幸福感で満たされていた。
にやけてしまう顔を見られないように、腕で覆って隠していた。
終わった後は泣くふりをして、かずくんの罪悪感を煽った。
すべてを失ったと思い込み、絶望に顔を歪めるかずくんを、私は優しく抱きしめた。
かずくんは、一生をかけて償うと約束してくれた。
もうかずくんには、私しかいない。
紗奈ちゃんも、瑞希会長も、乃亜ちゃんも。きっと、まだかずくんのことが気になっている。
でも、もう遅い。
かずくんと私の間に、入り込む隙なんてない。
これから先、どんな女の子に出会っても、かずくんは私を置いていけない。隣にいる私を見るたびに、自分のしたことを思い出す。
私という十字架を、一生背負って生きていくんだから。
あの日から、かずくんは私だけを大切にしてくれるようになった。
大好きだったゲームもやめて、いつも私を気にかけてくれる。
二人の将来のためだと言って、勉強にも励んでいる。成績も、目に見えて良くなった。
私だけを見て、私との未来を考えてくれる。
これが、私の求めていた、完璧なかずくん。
「どうしたんだ、ひな?」
声をかけられ、私は顔を上げた。
「ううん、なんでもないよ」
微笑むと、かずくんは私の手をしっかりと握った。
「ひなのことは、俺が絶対に幸せにするから」
「……うん」
私も、その手を握り返した。




