『静かなる兆し』
今回は束の間の穏やかな日常です(^^)
記憶を取り戻したカノンに振り回される屋敷の皆と、
そんな彼女を優しく見守るナイト。
少しでも笑顔になっていただけたら嬉しいです!
彼女が記憶を取り戻してから、
グランクロイツ邸は賑やかになった。ーーー
「お嬢様、お止めください!危のうございます!」
執事長の声が屋敷に響き渡った。
「レオン騒がしいぞ、どうしたのだ」
あまりの騒々しさに執務室からナイトが出てきて尋ねると、
レオンが困ったように伝えた。
「旦那様、申し訳ございません。お嬢様が先ほどから
猫を追いかけられて……」
レオンの視線の先を見ると、ベッドの下からカノンの足だけが見えた。
猫を捕まえようと手を伸ばした、その瞬間。ぐいっと後ろへ引っ張られた。
「あれ!?」
ナイトは彼女の腰を片腕で引き寄せ、ベッドの上へ戻すと
思わず息を漏らした。
「君は一体何をしているんだ」
「危ないだろう。埃を被ってまで……床下になぜ猫がいるのだ」
〈困った人だ〉
──そう思うほどに、口元には穏やかな笑みが浮かんだ。
「あーっんと、それはーーー、
木の上で怯えてたからね、下ろしてあげたらココに逃げ込んじゃったの」
「木に登っただと!なんて無茶をするのだ」
レオンへ労るような眼差しをゆっくりと向けた。
その想いを悟ったレオンは、静かに深く頭を下げる。
「猫に夢中になって自分が捕まってしまうとは.....。
君は本当に、目が離せない人だな……」
彼女の頬についた汚れを優しく拭うと、そのまま額へ静かに口づけを落とした。
「落ちて怪我でもされたら、生きた心地がしない。
だから、こんな無茶はもうしないでくれ」
「わかったぁ~」
彼女の温もりを確かめるように深く息を吸い込むと、離れがたいように腕の力を強めた。
「そんなに心配しなくてもいいのに」
ナイトの首に腕を回し、小さく笑いながら額を
くっつけた。
「心配するのは許してくれ。.....君とこうする時間は、俺にとって何より尊いことなんだ」
触れ合う額から伝わる温もりに愛おしさを
噛み締めるように、ナイトはそっと目を閉じた。
その温もりを感じていたカノンは、不意に猫の姿を見つけると、勢いよく顔を上げた。
ゴッ。
「っつ……。」
「あーーー!猫ちゃん逃げちゃう!レオンさん早くっ!早くっ!」
額を押さえながら楽しげなカノンにつられるように、固く結んでいた表情がふっと和らいだ。
「君はここまでだ、後はレオン達に任せておけばいい」
「えーーーっ」
行こうとする彼女の手首を素早く、そして優しく掴んで引き止めた。
不満そうに頬を膨らませるカノンに、困ったように苦笑する。
「ハンナ」
呼びかけに応え、1人の侍女が静かに姿を現した。
「悪いが、カノンの埃を払って湯浴みを手伝ってやってくれ。驚かせないよう、優しく頼む」
「かしこまりました。」
カノンに微笑みかける。
「ハンナぁ~」
ハンナの腕に手をまわすと、
一度だけナイトを振り返って微笑み、
楽しそうに言葉を交わしながら、浴室へ向かった。
ーーー湯浴みを終え髪を拭いてもらっていると、公務を終えたナイトが戻ってきた。
「何を話していたのだ?外まで笑い声が聞こえてたぞ」
「それはねぇ~。ヒミツー」
「教えてはくれないのか……」
ハンナはそんな二人を微笑ましく見つめていた。
「ハンナすまない。私が代わろう。今日はもう休んでくれ」
一歩下がり、深く一礼すると。
「失礼いたします」
「もう帰っちゃうの~。ありがと、ハンナ♪」
ハンナはくすりと笑い、指先だけで小さく応えると、静かに扉を閉じた。
ハンナが出て行った後、手を振る自分の左手に目をやり。
「ねぇ、ナイト。見て見てー、なんかこれ、違ってる気がするんだけど」
カノンの髪を拭く手が止まる。ナイトはそっとその紋章を指でなぞった。
「……綺麗になったな……」
「でしょ!めっちゃカッコよくなってない?!」
嬉しそうに紋章を眺めていたカノンは、不意に表情を曇らせた。
「こんなののせいで、パパとママが、、」
左手をそっと取り、紋章を愛おしげに見つめてから静かに首を振った。
「そうだな。だが、君が自分を責める必要はない」
不安を消し去るように、指先を絡めて体温を伝え、力強く言葉を紡いだ。
「今はただ、俺たちの未来だけを見ていてほしい。
……君のその手は、誰かを傷つけるためのものでは
ないのだから」
「だけど…もうすでに傷つけた人が…」
ナイトの瞳の奥に、夢で見た優しい面影が重なった。
「………待たせてごめんね」
カノンの髪を優しく撫で、困ったように眉を下げて微笑んだ。
「君を愛することに、辛いことなど一つもなかった。
.....ただ、君に忘れられることが少し怖かっただけだ」
カノンを抱き寄せ、額へ静かに口づけを落とした。
「もう謝るのは終わりにしてくれ。......これからは、二人で失った時間以上の幸せを築いていこう」
頷いてナイトを強く抱きしめた。
「これからは、私の持てる愛はナイトにぜぇ~んぶ注ぐから、ちゃんと受け止めてね」
カノンの指が優しく鼻に触れた。
「全部だなんて、欲張りな俺が本当に独り占めして
しまうぞ」
「んー……ナイトのは重そうだから、半分にして
もらってイイ?」
イタズラに笑った。
ナイトはかつてのような君の茶目っ気ある言葉に、
胸の奥が熱くなるのを感じて目を細めた。
「半分などと言わずーーー」
一度は反対しようと口を開きかけたが、重なった唇の熱に全ての言葉を飲み込んだ。
「半分がいいの」
〈ナイトにはあんなツラい想いを二度として欲しくないから…〉
カノンはそう笑って、少し痛みの走った左手へ視線を落とした。
「ずるいな、、そんな風に塞がれては抗えるはずがない」
頬を包む手に自らの手を重ね、愛しさに翻弄される
自分を受け入れるように目を閉じた。
「うふふ、改めてよろしくお願いします」
カノンは何事もなかったように笑った。
ナイトも穏やかに微笑み返す。
しかし、その視線は彼女がそっと後ろ手に隠した左手から離れなかった。
──今の光は……。
最後まで読んでいただきありがとうございまッす!
笑顔いっぱいの日常の中にも、少しずつ物語は動き
始めています。
最後の"光"が何だったのか──。
次回も楽しんでいただけたら嬉しいです(*´-`*)ゞ




