6.駆けつけたのは
「入れ替わりが、出来ません。公女様の魂の形が、変わっているようです……!」
「!!!」
その場にいる全員が、愕然とした。
何を言われたのか、よくわからない。
(公女様との入れ替わりが出来ない? でも私は今、エヴァマリー公女様の中にいるのよ? じゃあ、コニーに戻れないということ?)
焦る私の横で、公女様も動揺している。
「そ、そんなわけないじゃない! わたくしは栄えあるカロッサ公爵家の娘なのよ。こんな性病持ちの平民のままだなんて、嫌よ。すぐに戻しなさい。きっと魔道具の故障だわ」
「性病……?」
「あら、言ってなかったかしら。ごめんなさいね。複数人同時だったから、どいつのせいか判らないの」
「公女様……、あなたは──!」
私の身体で、そういうことをしたということ!!?
信じられない。キスだってまだ、したことなかったのに!
その時だった。慌ただしい人の声がしたと思うと、バンと扉が開く。
「そこまでだ!」
「! ユルゲン殿下!!」
「殿下!? なぜここに」
突然の、皇太子殿下。一瞬の静止の後、すぐに動いたのは公女様だった。
「はっ。お助けください、ユルゲン殿下! わたくしはあなたの婚約者、エヴァマリーです。そこの平民に身体を奪われ、お父様までもが彼女に毒を盛られてしまいましたの!」
「違……。ど……く、は……むす、め……の、エ……が……」
「公爵様っ?」
公爵様が真実を訴えようと、口をぱくぱくさせるものの、すでに舌が痺れてきているのだろう。
断片的な音だけが漏れる。
(ああ、殿下に誤解されたら絶望的だわ──)
どう言ったら信じて貰えるんだろう。私が頭を悩ませていると、ユルゲン殿下の明瞭な声が、部屋の空気を一新した。
「下手な芝居はやめるんだ。きみは僕の婚約者じゃない。──きみたち、すぐにカロッサ公爵を連れて、適切な処置を」
殿下の後ろにいた公爵邸の人たちは室内の惨状を見て目を丸くした。が、彼の指示に従って、即座に公爵様を運び出す。
(ああ、どうか応急処置が間に合いますように)
祈る私に反して、公爵様が助かっては困るだろう公女様が、慌てて殿下に訴える。
「嘘ではありませんわ! 魂の入れ替わりの事実は、そこの魔術師が証明してくれます! ですが、なぜか戻れなくなってしまって──」
「それはそうだろう。魂は同じ形をしていてこそ、入れ替わりが成立する。善行を積んだ彼女と、父親に毒まで盛ったきみの魂が、いつまでも同じはずがない。悪行を重ねると、魂は歪むんだ」
「!!」
私と公女様の魂の形に、違いが出た?
ううん、それより殿下は何をどこまでご存じなの?
唖然とした私の前で、公女様が醜く表情を歪めた。
「っく、よくも! 皇太子殿下と言えど、失礼極まりないわね! 筆頭公爵家として皇家に抗議してやるわ!」
公女様がキッと魔術師を睨む。
「その魔道具を貸しなさい! 魂が歪んだなんて嘘! わたくしが操作すれば、きっと正常に動くはずよ!」
そして公女様は魔術師から魔道具をひったくり、強引に魔力を注ぎ込んだ。
「お嬢様、それ以上は負荷がかかりすぎて爆散します──」
魔術師が言い終える前に。
大きな爆発音。
天井が崩れる。私は咄嗟に落ちてくる梁から殿下を突き飛ばす。
そして盛大な埃が宙に舞った。
「う……っ、痛い……」
「エヴァマリー嬢!」
殿下の悲痛な声が、私に向けられる。
身体のあちこちが凄まじく痛い。頭から流れ落ちる血で、片方の目が開かない。
足に至っては、天井から落ちて来た梁の下敷きになっている。
「! 公女様の身体が!!」
「ひいっ、わたくしの身体が!!」
慌てて駆け寄った殿下が梁をどけてくれたけど、その顔は痛ましく泣きそうに見える。
自分でもわかる。相当に、状況が良くないと。
「あ、わ、わたくし、こんな、こんなつもりじゃ……」
その時、入れ替わりの魔道具が、チカッチカッと光始めた。
作動する時の開始音。
殿下が公女様に声を向けた。
「どうした、元に戻るんじゃなかったのか!? 顔に大きな怪我を負い、足も一生立てないと思うが、魔道具が動きそうだぞ」
「ひ、あ……。嫌よ、嫌っ……!」
血まみれの自分の姿を見て、公女様が後ずさる。
「わかった。それがそなたの選択だな」
殿下がきっぱりと言った。そして。
「この平民はカロッサ公爵に毒を盛り、魔道具で僕と公女を殺害しようとした。すぐに捕えろ!!」
部屋の外にいた公爵家の警備兵に、殿下が命じる。
兵たちはただちに公女様を取り囲み、両脇を掴んで引きずっていく。
その中にはかつてリネン室で望まぬ情事を強いられた兵もいたが、私にはわからないことだった。
「やっ、いやぁあぁぁ!」
公女様の声が、廊下にこだまする。
(私の……身体……。でも、もう……私は……)
意識が朦朧としてくる。
(ああ、お別れです、ユルゲン殿下……)
力を振り絞ってでも、謝っておかなくては。
「すみ、ません、殿下。私、殿下に嘘を、ついていました。私は、あなたの婚約者じゃなくて」
"ただの平民の女です。
公女様の姿でだましていました。
こんな私に良くしてくださって、本当に有難うございました"。
許されないこととわかっていても、私はあなたのお傍にいたかった。
たとえどんな姿であろうとも──。
心の中の想いを言葉に換えるより先に、殿下が私の手を握った。
「いいや、きみは僕の婚約者だ。少しだけ我慢して」
「っ!!」
殿下が触れた手から、強い力が流れ込んでくる。
それは力強く体内を駆け巡り、そして。
殿下の髪色のような、白く清浄な朝の光がその場に弾けた。
公女様退場。代わりに殿下が来ました。
このあたりいっきに書き上げたので見直し不十分です。大丈夫かなぁ。あとで読み返して「ぎゃあーっ」て悶えそうな自分(∀`*ゞ)テヘッ




