マージョンの語り
前回から間が空きました。
あたしゃ、魔女のマージョン。世界に13人しかいない特別で、平凡な魔女の1人さ。特別で平凡。世界で13人しかいないから特別。でも魔女の中では極普通の存在さ。特段、優れてもなければ落ちこぼれでもない。平均値の魔女さ。
魔女が生まれる理由は、あるようでない。世界の選択は魔女当人達も理解出来ないし、人間達なんてもっとだ。只、世界に選ばれた者は理から外れる、理から外れた者は人智を超える力を発揮する、それ等だけは分かる。
でもねぇ……、その人智を超えた力は万能って訳じゃない。
何でも叶う力、と言う訳ではないのさ。人智を超えた力の行使には代償がある。だから魔女当人は自らの意思一つで、その力を使う事はしない。代償は時に魔女をも殺すからね。
寿命から外れて生きる者にとって、時に死は救いにもなるが、時に更なる地獄への片道切符にも成り得る。余程の覚悟がなけりゃ自死を選ばない。
ま、選ばなくとも世界に代替わりを選択されりゃ、それまでだしね。古きは居なくなり、新たな魔女が誕生する訳さ。
……そしてそんな魔女は、今ではほぼ忘れ去られている。まるで歴史の遺物だね。
何故かって? まず魔女は選ばれた瞬間から、世界の内と外の狭間が還る場所となる。
滅多な事じゃ自ら力を行使しないから、世界の内へ干渉するケースは少なくなる。世界の内ってのは要は人間達が住んでる空間だから、それは人間社会に基本は不干渉であるって事さ。
でもって狭間と内は違う空間だけれど、同じ世界に存在する事には違いない(だから魔女が内から選ばれるのも不思議は無い訳さ)。内から外へ魔女でない人間が流れて来る事もある。ーー夢を通してね。
そう言った人間は強い願いやその元になる、解決したい悩みを持っている。魔女は時にそうした者の願いを叶えてやる。代償を払える者に限ってね。
ーー且つてあたしが、コーカイ国を助けた様に。
魔女は親切な生き物じゃない。代償を払うなら望みを叶えて欲しい当人に出させる。まあ、代償を支払った結果、当人だけに治まらなくなる事も多いけどね。
そんな訳だから、なるべくは魔女に頼るのは止めた方が良いのさ。少なくとも魔女に関わった人間はそう思っただろうね。願いを叶えて貰う、貰わないに関わらず。人間達の望みは人間達で叶えるのが一番って話さ。
だから魔女に関するエトセトラは語られる事が少なくなる。やがて多くは忘れられる。それでも時折、思い出させる。真偽不確かな伝説としてね。
……且つてこの大陸を席巻した恐るべき病は、長い時間を掛けて、多くの犠牲を出して終息した。終息の理由は特効薬が作られた事が大きい。
だが逸早く終息したコーカイ国では、特効薬は存在しない。あたしが助けたからね。特効薬なんか必要とされてなかったのさ。
ーーそして、それこそが代償でもある。人間にとってはね。
魔女であるあたしが封じた疫病。その時点でコーカイ国は疫病に対する手を自ら捨てた。「魔女のお陰で力を失った病」として、固定化されちまう。これが人智を超えた力の因果。万能ではない理由。使えば魔女ですら滅び兼ねない理由。
周辺国では自力で封じた疫病。けれどコーカイ国ではもう人力では対応出来ない病となってしまった。
魔女の力で対応したら、それは「人間の力ではどうしようも出来ない事態」として世界に記録されちまう。代わって本来なら「何時かは人間の力で対応出来る様になる事態」の因果が消える訳さ。
でもねぇ……、それは言うなれば願いが叶った結果さ。人間にとっては代償だとしても、魔女にとっては違うのさ。
例えば病気になり、医者に掛かり、薬を貰って服用する。その結果、病気は治ったが、副作用で後遺症が残るとする。
この場合の医者があたし、即ち魔女だ。薬を貰う=願いを叶える。そして副作用の後遺症=人間の力でどうにもならない事態として固定される事。
じゃあ医者に掛かった代金は? 薬の代金は?
そう、それこそが対価。魔女にとってはそれが代償さ。
コーカイ国は元々滅ぶかもしれなかった国だ。そこに疫病だ、正に泣きっ面に蜂だね。可哀想に。
あたしが払って貰ったのは次代国王の決定権。と言っても政治の事はちんぷんかんだからね、手っ取り早く嫡男、或いは嫡男の立場にある者が次代国王とさせて貰ったさ。
ああ、「嫡男の立場にある者」ってのは「何らかの理由で嫡男でないのに嫡男になった者」って意味さ。ホラ、事故だとか例の疫病以外の病で嫡男が死ぬって事があるだろ? それで次男以降やどっかから貰って来た養子とかが嫡男になったりするだろ? あ、そもそも男児が生まれなかったりも有り得るね。
まあ、そんな理由で嫡男で無い者が嫡男とされるーー、ってな事があるだろうから、それをカバーしただけさ。
そう、あたしには次代の国王を決める権利はあっても、嫡男を決める権利はない。嫡男を決めるのは原則生まれた順、それが機能しないならば人間が嫡男を決めれば良い。
あくまでも「機能しないケース」だよ、暗殺や廃籍なんかで故意に「機能させなくするケース」は認めていない。それはあたしの権利を奪う行為だからね。
ああ勿論、あたしだって理解してるよ。本来なら王位継承を決める権利は国王にあるって事も、その国王が急死したりしたら、国の上層部に渡るって事も。
だから例えばだけど、国王でない人間が企んで、嫡男を暗殺したとして、結果、国王は新たに嫡男になる者を選出したとしてだ、それは国王が悪い訳じゃない。だけどあたしの権利を奪う行為には変わらない。こう言ったケースも勿論、有り得る。其れこそ国王が暗殺に気付いていないケースだってね。
ならそのケースが起こった場合はどうなるか。此れは国王の心次第だね。国王自身に対価を反故にする強い欲求が在ったか、無かったか、此れが測られる。
国王自身が積極的には何もしなかったとしても、心の何処かで嫡男に王位を渡したくないと思っていたならば、嫡男の不幸を「幸い」と喜ぶ気持ちがあったならば、その気持ちの強さが嫡男の不幸を嘆く気持ちより強かったならば、それが相対的に嫡男の暗殺に関与したと見做されるだろうさ。
だけどそんな「邪」がちゃんと否定されるなら、国王にはあたしと相対する機会が与えられる。ちゃんとあたしからの許可を得る機会が与えられる。結構、応用は効くのさ。その様に願いと対価を釣り合わせたからね。
つまりは国王が、自身の意思と対価で板挟みに合うなら、真摯に悩んでいるなら、あたしに相談すれば良い訳さ。ちゃんと対価と言う縁があるんだから、それに沿って夢を渡れるから。
だけど例え真実、国の為だと思っていたとしても、対価を忘れている様なら、独善による判断ならば、対価を反故にしたと言う事になる。そうなれば真摯な心情なんて考慮されない。対価を破ったのだから、契約は破棄される。
ーー契約が破棄されたらどうなるかって?
さてね、あたしゃ未来が見える訳じゃない。最終どうなるかなんて知らないよ。コーカイ国だけに蘇る、薬効が全く効かない、人間にはどうしようもない疫病が流行る事は確かだけどね。
でもその時に国を治める人間が、国を滅ぼさない手段が残しているのか、残していないのか、また何を決断するのか、或いは何も決断しないのか、更にはどう行動するかなんてーー、あたしゃ知らないよ。
契約の破棄が為される瞬間、魔女との縁が途切れる瞬間、答え合わせが為されたその時に、人間が何を思うか、なんて事もね。
ああ、だけど。只1つ確かに言える事は、その時、後悔したって遅いのさ。
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