021 ~秘術と終焉~
ヨルが気付いた異変に身構えたアルトの周りには既にその犯人が数多く集まっていた。
そして、覚悟を決めたアルトは念じる。
そう、絶対にラニーニャを守為に……。
ゴッ!!
ヨルが停まるとほぼ同時に何かがぶつかった音が聞えた。
何かがめり込んだ様な鈍い音。
それが後方から聞こえた。
「いってぇ! 鼻を打った!!」
その後すぐに聞こえたケレスの絶叫する声。
フェンリル山を順調に登っていたヨルが急に足を止めたので
その異変にアルトは身構えたが、ケレスのこんなマヌケな叫び声が聞こえたのである。
恐らくジャップの背にでも顔ごとぶつかったのだろう。
ドジなケレスらしいと、アルトはつい思ってしまった。
「ケレス、用心しろ!! 囲まれてる!!
未来、ヨルを小さくしろ!!」
さらにジャップの大声も聞こえる。
「わかった!!」
すると、紫髪の少女の声と共にヨルがどんどん小さくなり、アルトは地上へ下り立った。
(これは、あの祟り神の御供のもの達だね……。あまり得意ではないが、僕も闘わなきゃ!)
そのアルトがそう心に決めると、浦島が無数の青色に輝く掌サイズの泡を出す。
これは寿族が扱う しゃぼんという術で水のマナのヴェールで包まれた泡だ。
基本的にこの術は寿族の遊びとしてのものであるが、扱い方によってはそうではなくなる。
そう、こんな風に……。
「わかってる。共に闘おう、浦島!!」
瞳を閉じたアルトは決意を固め、浦島のマナに自身のマナを共鳴させ、こう念じた。
ーー
我、汝に問う
我の守りし者に、仇なすか
汝、然りと申すならば、我は汝の仇となろう
彼の者の強固な盾となりて
七里結界!
ーー
浦島はさらに多くの青色に輝くしゃぼんを出現させた。
そのしゃぼんはラニーニャ達の周りを守る様に取り囲んでいく。
そして、何も知らない闇夜から襲いかかる魔物達はそのしゃぼんに直進したが、
そのしゃぼんはシャボン玉の如く弾け、ゴギッと鈍い音が聞えた。
さらにそのしゃぼんの雫までもが魔物達の体を深く抉り、揚げ句の果てに、
「グギャアァ!!!!」
という、悲痛な叫び声と共に魔物達を何処かへ弾き飛ばしたのだ。
それから遠くで、ドサッとその魔物達が地面に落ちる音が聞えた。
(ふう……やはり浦島の協力のおかげだ。僕がこんなに龍宮家の秘術を使えるのは!)
そう、龍宮家の秘術 七里結界。
これは水の盾と矛が一体化した攻守一体型の術で、
この様に術者の意志により守る者に仇成すものを寄せ付けなくするのである。
この術は今の龍宮家で扱える者はアルト以外いない。
アルトは一人では水の盾も矛も扱う事が出来ないが、
何故か浦島と協力すると七里結界と、もう一つの技は扱えるのである。
ちなみにアルトは七里結界を実戦で扱ったのは今回で二回目だった。
なので上手く扱えるか不安だったが扱えた事に、ほっと胸を撫で下ろした。
そんなアルトは瞳を開け一つ息を吐いて頷いた。
「おい、青いの!! そっちは任せた!!」
その後すぐに金髪の少年の声が聞こえ、
いつの間にかアルトの傍にはケレスとジャップだけになっていた。
(どういう事だ!? 先輩とあの少年たちは一体、何所に行ったんだ?)
この状況にアルトは辺りを見渡した。
すると、こんな会話が聞えて来る。
「……恐らくな。すまん、ケレス。俺は、お前を守ってやれる余裕がないかもしれん」
「そんなに状況は良くないのか!? 俺はどうしたらいいんだ!?」
それは珍しく余裕を無くしているジャップと、いつも通り慌てているケレスの会話だった。
そこに誰かの気配が近付く。
「うわぁあぁ!? な、何だぁ!!」
それからそう叫んだケレスの声は何故か小さくなっていったのだ。
「お、おい!? ケレス!! アルト、どうなってんだ!?」
「恐らく、あの少年がケレス達を安全な所へ運んだんだろう」
「そうだったのか! よしっ、これで思う存分暴れられる!! 覚悟しやがれ!!」
この状況にジャップは混乱したがアルトが宥めた。
その後ジャップの声には余裕が戻り、魔物達との戦闘が本格的に始まった。
そして、闇夜に飛び込んだジャップの姿は消える。
ガッ! ザシュッ! ブシュゥッ!
その闇から聞こえる何かを切りつける音。
それは素早く、だが力強い音だった。
「ガアァッ!? グギャンッ!!」
それに続く悲痛な魔物達の悲鳴。
(どうなっているんだ!? 彼はこんな中でも魔物が見えているとでも言うのか!?
信じられない……)
アルトは音だけを頼りに周りの様子を窺っていたが、
ジャップは闇ヨだというのに次々と魔物達を倒していったのだ。
すると、気配でアルトの近くにも魔物が数体いるのがわかった。
「……僕を舐めないでくれるかい?」
それを察したアルトはその魔物達の周りに浦島と協力し、龍宮家の秘術、七里結界で防壁を張り、
次々と魔物達を倒していった。
だが、魔物は湧き出る様にどこまでも現れる。
「本当にしつこいね……」
そして、眉間にしわが出来たアルトがまた七里結界の防壁を張ろうとしたその時、
アルトはまたあのふるえに襲われたのだ。
そう、宝珠の国で一度経験したあのふるえ……。
(なっ!? これは、あの猪の祟り神の力……? まずい事になったね……)
そのふるえで脱力したアルトはその場に崩れる。
……タカ タカ タカッ。
トタタたっ……。
集まって来る無数の足音。
そう、有ろう事か、アルトの周りに沢山の魔物達が集まって来た。
その魔物達は追い詰めたアルトを見て仲間の仇を取る気でアルトに殺意を向けたが、
誰がそれをやるのかで醜い争いを始める。
(これが、万事休す、てやつだね……)
アルトがその争いを前に瞳を閉じたその時だった。
ゴオオォーーーーーッ!!!!
見えないが凄まじい炎がアルトの周りに舞い上がった。
そこから防寒着を着ていても激しい熱風がアルトに伝わる。
そう、あんなに寒く、ふるえが止まらなかったがそれを打ち消す炎の壁が突如現れ、
アルトを守り、ふるえを消し去ったのだ。
そんなアルトは瞳を開けた。
すると、アルトの前には燃え盛る炎の壁が連なっていた。
高さはどれぐらいだろうか?
アルトの二倍程と言ったところか。
「この力は……パラ君だね?」
それがわかったアルトが立ち上がるとその炎の壁の中からパラが出現し、アルトを見つめてきた。
そして、炎の壁はゆっくりとパラに全て吸収されていく。
「やはり、君の力だったんだね。ありがとう、助かった!」
そんなパラを見たアルトの表情が緩むと、パラはアルトの傍に近寄り、尻尾を速く動かす。
「わかった。パラ君、力を貸してくれ!!」
そのパラの頭をアルトが撫でるとパラは口から強力な炎を出し、目の前の魔物達を一掃した。
「僕達も負けてられないよ浦島!」
そして、アルトも負けじと浦島と協力し、魔物達を次々と倒していく。
そうやって魔物達を倒していくと朱雀達の炎によりあの猪の祟り神の居場所がわかった。
だが、悪い事にそこはケレス達の所だったのだ。
この事はアルトのあの仮定をさらに確信へと近づける。
「まずい……やはり、あの祟り神の狙いは、先輩だ! 何とか先輩を守らなきゃ!!
それに気付いたアルトがラニーニャの傍に行こうとしたが、
ケレス達の傍に突如、宝珠の国の皇女がララとクリオネと共に現れたのだ。
すると、その宝珠の国の皇女達はケレス達を猪の祟り神から炎の壁で守った。
それに怯んだ猪の祟り神はラニーニャ達の傍から離れていった。
(さすがは朱雀だね……。さて、僕はもう一つの龍宮家の秘術で先輩を守るとしよう……)
それを見届けたアルトは浦島と協力し、
水の盾である冬夏青々をラニーニャ達の傍に、そっと出現させた。
そう、この冬夏青々こそがアルトが浦島と協力して使えるもう一つの技だったのだ。
必ず、先輩を守ってみせる!!
そう強く願い、アルトはその意志を冬夏青々に宿らせた。
そうやってアルトがその冬夏青々でラニーニャ達を守っている間、朱雀達やジャップ、
それに、金髪の少年とエーリガルが猪の祟り神と残りの魔物達と戦っていた。
そして、徐々に戦況が有利になり、敵は猪の祟り神のみとなった。
すると、朱雀達、それにエーリガルが一斉に自身のマナで猪の祟り神に攻撃し、
恐ろしい鳴き声を轟かせた猪野の祟り神を朱雀達の炎の渦の中に閉じ込めたのである。
(もう一歩だ。あと少しで、祟り神は滅ぶ!)
そんな風にアルトが猪の祟り神の様子を窺っていると、
最後の足掻きに出た猪の祟り神は炎を纏いながら見境なく暴れだした。
だが、その時だった。
何故か、ラニーニャが猪の祟り神の傍に行こうとし、それをケレスが必死に止めていたのだ。
(先輩、何をしようとしてるんです!?)
その光景を見たアルトは動揺する。
「ゴギャーーーーーーーーーーーゴオオ!!!!」
フェンリル山に響き渡る断末魔。
それは猪の祟り神の断末魔だった。
その断末魔は恐ろしくアルトは一度竦み上がってしまった。
だが、猪の祟り神は何故か真っ白な氷漬けになっていたのである。
それから氷漬けになっていた猪の祟り神は粉々になり風に流されて消えた。
そうやってこの地に月明かりは戻ったが、
その月明かりの下にはこの国で最も会ってはならない男が立っていた。
次回【因縁の国 ~決して会ってはならぬ男との遭遇~】




