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【完結】悪役令嬢に転生したので婚約破棄の準備をしていたら、王太子殿下が私の計画書を添削してきます  作者: フトダマノミコト


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20/20

第20話 今度は私が添削します

最終話になります。

 結婚式まで、あと三か月。


 王宮の一室は、今日も紙の山に埋もれていた。招待客の一覧、式次第、晩餐の献立、王都の通りを回る馬車の順路。


 その山の真ん中で、私は一冊の手帳を開いていた。


 金文字の表紙。『婚姻計画書』。


 一ページ目には、もう何も白いところが残っていなかった。


「エステル、昨日の分、書いておいたよ」


 扉が開いて、セドリックが入ってきた。


 婚約が正式に発表されてから、殿下と呼ぶと返事をしてくれなくなった。おかげで、名前を呼ぶのにもすっかり慣れた。


 ……慣れたつもりでいる。


「ありがとうございます。確認しますね」


 私は、セドリックの書いたページを開いた。


『結婚生活計画書(案)

 第一項 朝食は毎日、二人でとる

 第二項 新婚旅行は、王家の湖の離宮とする(人目がない)

 第三項 執務の合間に、一日一回はお茶の時間を設ける

 第四項 週に一度、互いの好きなところを手帳に書く

 第五項 ――』


 第五項以降は、文字が小さくなって、ページの端までびっしりと続いていた。


 私は、黒いペンを取った。


 まず、第二項。


『新婚旅行は、王家の湖の離宮とする(人目がない)』


 その横に、書き込んだ。


『人目がない、は不要な記述です。削除してください。

 また、海沿いのマリエも候補に追加を希望します。夏の夕日が美しいと、以前どなたかが書いておられました。』


 セドリックが、横からのぞきこんで、小さく笑った。


「覚えていたんだ」


「マリエへの船便は、一度調べましたから」


「……ああ、そうだったね」


 セドリックの声が、少しだけ沈んだ。私が生徒会室に計画書を置いていった、あの一週間のことを思い出したのだろう。


 私は、知らないふりをして、ペンを走らせた。


『なお、マリエへの船便は、すでに調査済みです。時刻表は別紙のとおり。』


 別紙。


 セドリックが、ふき出した。




 第四項。


『週に一度、互いの好きなところを手帳に書く』


「これは……」


 私はペン先を止めた。


「却下しないでほしいな。いちばん楽しみにしている項目なんだ」


「週に一度、は少なすぎます」


「え」


「三日に一度に修正します」


 私が書き込むと、セドリックはしばらく黙って、それから、手で顔を覆った。


 耳まで赤くなっていた。


(勝った)


 心の中で、小さく拳を握った。


 この一年、ずっと添削されてきたのだ。却下、異議あり、保留、花丸。逃亡資金を結婚資金に書き換えられて、移住先を新婚旅行先に書き換えられて、婚約破棄計画書を、婚姻計画書に書き換えられた。


 今度は、私の番だ。




 そのあとも、私は一項目ずつ、丁寧に添削していった。


 晩餐の献立に、セドリックの苦手な人参が入っていないかの確認。招待客の席順の矛盾の指摘。式の当日の段取りに、休憩の時間が足りないという意見。


 セドリックは、ひとつひとつに目を通して、うなずいたり、反論を書いたりした。


 赤と黒の文字が、ページの上で混ざりあっていく。


 入学前夜に、ひとりで黒いペンを握りしめていた私に、教えてあげたかった。


 あなたの計画書は、一年後には、こんなふうになっているのよ、と。


 それから、最後のページにたどりついた。


 セドリックの字で、こう書かれていた。


『最終項 この計画書の目的

 一、エステルを、一生、幸せにする。

 二、エステルに、一生、期待してもらえる夫でいる。

 三、エステルを、一生、誰よりも好きでいる。』


 ペンを持つ手が、止まった。


 セドリックが、隣で静かに私を見ていた。


「……ここは、添削しにくいかな」


「いいえ」


 私は、ゆっくりとペンを動かした。


 一と二には、小さく花丸をつけた。


 いつか、セドリックが私の「二歩」につけてくれたのと同じ、花丸を。


 それから、三の横に、黒いペンで書き込んだ。


『第三項、却下。』


 セドリックが、目を瞬いた。


「却下?」


「はい。理由も書きます」


 私は、ペンを走らせた。


 前世の私も、今の私も、ずっと計画を立てて生きてきた。期待しないように、見込みは常に保守的に。


 でも、この計画だけは、少しくらい大きな見込みを立ててもいいはずだ。


 インクが乾くのを待って、私は手帳をセドリックのほうへ向けた。


 セドリックは、それを読んで、しばらく何も言わなかった。


 それから、赤いペンを取って、その下に一言だけ書き足した。


『異議あり。』


 私は、黒いペンで、その横に書いた。


『保留。』


 二人で顔を見合わせて、同時に笑った。


 窓の外では、藤の花が、ちょうど咲き始めていた。


 手帳の最後の行には、私の字で、こう書いてある。


『第三項、却下。

 ――私のほうが、もっとあなたを好きになる予定ですので。』


(完)

これにて完結となります。お読みいただきありがとうございました!

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