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冷酷公爵との新婚生活を未来視したら、なぜか溺愛されていました  作者: 岸根しき


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7/7

最終話 冷酷公爵が私にメロメロでした

 火災に早く気づけたのが、不幸中の幸いだった。


 延焼もなく、被害は最小限で済んだ。


 けれど、クラウス様はその後の処理に追われている。


(「俺のそばから離れるな」……そう言われたのに、私は、足手まといにしかなれなかった)


 居たたまれなくなって、私は静かに宿舎の外へ出た。



 冷たい空気が、肌を刺す。


 見上げれば、夜空には星が瞬き、静かに雪が舞っていた。


 白銀の世界は美しく、すべてを包み込むようで。


 ふっと息を吐くと、白い吐息が儚く散っていった。


(勝手についてきて、勝手に飛び出して……溺愛どころか、嫌われるほうが先よね……)


 そう思うと鼻の奥がつんとして、涙がこぼれそうになる。


 冷え切った風が、頬を撫でた。


「ここにいたのか」


 振り向くと、そこにはクラウス様がいた。


 少し息を切らしているのは――私を、探してくれたから?


 また迷惑をかけてしまった罪悪感と、ほんの少しの嬉しさで、胸がぎゅっとなる。


「クラウス様……腕は、大丈夫ですか」


 私のせいで傷ついた左腕には、包帯が巻かれていた。


「こんなもの、かすり傷だ。問題ない」


 そう言いながら、彼は私の頬にそっと手を添えた。


「……君こそ、大丈夫か」


 氷のように冷たい外気とは対照的な、とても温かい手。


 私の無事を確かめるように、ゆっくりと頬を撫でる。


 私は下を向いて、唇を噛みしめた。


「クラウス様、私……すみません。勝手なことばかり、して……」


 その言葉に、クラウス様の瞳が揺れる。


「――心配した」


 次の瞬間、私はクラウス様の腕の中にいた。


 力強く、けれど優しい抱擁。


「君は無鉄砲で、後先も考えない」


 静かな夜に、クラウス様の低い声が響く。


「真っ直ぐで、芯があって、ときどき抜けていて……」


 抱きしめる腕が、僅かに力を増す。


 俯いていた顔を上げると、彼は――ふわりと、笑った。


「俺をからかうのは、君だけだ」


 初めて見るその笑顔に、鼻の奥がつんとする。


「……俺はもう、君がいないと生きていけない」


 冷えた身体の奥から、温かいものが満ちてくる。


「リディア。……君が、無事でよかった」


 クラウス様の声が、夜風に溶ける。


 そして――


「愛してる」


 その囁きが、静かに耳をくすぐった。


 ――雪。


 静かに降り積もる、白銀の世界。


 その中心で、私を抱きしめて微笑む、クラウス様。


(……あ)


(これ……あの日、最初に視た未来だ)


 ゆっくりと、クラウス様の顔が近づいてきて。


 舞い落ちる雪の中、私たちの唇が、そっと重なった。



 その後、私は熱を出して、三日ほど寝込んだ。


 最後の最後まで迷惑をかける自分が、我ながら情けない。


 今は熱も引いて、ベッドで静養しているのだけれど……。


「ほら、リディア。口を開けて」


 クラウス様がスプーンを手に、私の口元へ運んでくる。


「あの……一人で食べられます……」


 そう言ってみるものの、彼はまったく聞く耳を持たない。


(聞こえていないのか、聞こえないふりなのか……)


 想いが通じ合ってから、クラウス様は、とんでもなく過保護になった。


 書斎で仕事中にも膝の上に乗せようとするし、夜になれば当然のように抱きしめて眠る。


 “氷の公爵”だったはずなのに、これではまるで――“溺愛公爵”だ。


 その変化に戸惑いつつも、心の奥底では、幸福を噛みしめている。


 口数は少ないのに、言葉の端々から滲む執着と甘やかしぶりに、思わず頬が緩んでしまう。


 大人しく雛鳥のように食事の世話をされていると、ふと、気づいた。


(……私、まだ伝えていなかった)


「……クラウス様」


 姿勢を正して、彼のほうを見る。


 名前を呼ぶと、スプーンを持つ手がぴたりと止まった。


「……なんだ」


 ほんの少し、不安そうに揺れる瞳。


 そんな彼が可愛くて、私は少し身を乗り出し、彼の肩に手を添える。


 そして、その頬に、そっと唇を落とした。


 ふわりと触れるだけの、キス。


 クラウス様の身体が固まり、灰色の瞳が大きく揺れる。


「――私も、愛してます」


 その瞬間、強く引き寄せられ、抱きしめられた。


(……ちょっと苦しいくらいだけど……ふふ)


 未来視は、確定された運命じゃない。


 私の行動次第で、いくらでも変わる。


 だったら――この幸せな未来だけは、絶対に手放さない。


 クラウス様の腕の中で、私はそっと微笑んだ。



最後までお読みいただき、ありがとうございました!

不器用な“氷の公爵”と前向きなリディアの物語を、最後まで楽しんでいただけたなら嬉しいです。


面白かったと思っていただけましたら、評価やブックマークで応援していただけると励みになります!

明日からは『条件に合う花嫁を探してほしいと言われましたが、最後に残ったのは私でした』を連載します✨

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