第6話 いきなりといきなり
「シロ! 《音波砲》!」
アルティナをお姫さま抱っこしたまま、エイルは命じます。
彼女たちを背に乗せたままのシロは大きく息を吸い込み、『アオーン!』とひと吠え。目の前の大男めがけて、リング状の衝撃波を放ちました。
「受け止めろッ!」
大男はすかさず指輪から魔法生物を召喚し、盾にして身を守らせます。
大男と同じ、2メートルを超える大きさの黄色い四本足の体。背中にはゴツゴツとしたウロコがびっしりと生えていて……さっき暴走していた【フルメタルアルマザウルス】によく似た姿をしていました。
『ギャアッ!』
相手のワンダーもまたひと吠え。それに呼応するかのように、シロの放った衝撃波は岩石のような体にぶつかり、拡散して消え去りました。
「あの体……硬い!」
シロの背中の上で戦いを見つめていたエミルが、苦々しくつぶやきます。
家族なので、シロの《音波砲》の威力はよく知っています。だからこそ、それを真正面から受け止めたあのワンダーの、見た目以上の頑丈さにおどろいているのです。
攻撃をしかけたエイルも、むっと顔をしかめました。
「フフフ……マスターウィザード様のチカラってのは、こんなモンかァ?」
大男はニタッと、あざけるような笑みを浮かべます。
「だれだ、お前」
エイルはすごみのある声でたずねました。
「俺の名はドレッド。"凶星の魔女"様の忠実なしもべよ!」
「「凶星の……魔女!?」」
エミルとアルティナの声が重なりました。
「まさか……手下までいたなんて……!」
アルティナはエイルに抱かれたまま、顔をこわばらせます。
エミルも息をのみました。魔女が組織を作っているとなると、非常にやっかいな話です。
「アストライト王国第一王女アルティナ! その命、いただくぜ!」
ドレッドと名乗った大男がバッと右手をかざすと同時に、彼のパートナーである黄色いアルマザウルスの背中から、無数の鋭いウロコが発射されました。
アルティナは、おそらくあのウロコの弾丸こそが【アイスペガサス】を撃ち落としたものの正体なのだと理解します。
「シロ!」
エイルの合図で、シロは『ワン!』と応えると、左へ大きく横っ飛びしました。
次の瞬間、ウロコの弾幕がさっきまでいた空間を切り裂きます。
「きゃあっ!」
アルティナは思わず悲鳴をあげました。
自分を抱き上げているエイルが背中の上で直立したままなのに、シロが大きく身をひるがえしたのです。怖くないはずがありません。
「エミル! 降りるよ!」
エミルはうなずき、すぐにシロの背中から飛び降りました。
エイルもアルティナをお姫さま抱っこしたまま、軽やかに地面へ着地します。
「アイツは私がやる。エミルはお姫さまと、あのコをたのんだ!」
エイルが指差した先には、撃墜されたアルティナの騎獣――アイスペガサスが草原の上に横たわっていました。
美しい氷の翼はひび割れ傷つき、苦しそうに荒い息をついています。すぐに手当てをしなければ命が危険な状態でした。
「わかった! アルティナ様、こちらへ!」
「え、ええ……」
エミルは即答し、アルティナの手を引きます。
アルティナは次々と起こる出来事にとまどいながら、半ば引っぱられるようにその場を離れました。
『おねえちゃん、シロ、きをつけてね!』
「おう! そっちもね!」『ワン!』
健闘を祈り合ったあと、シロンもエミルたちを追ってパタパタと飛んでいきました。
その姿を見届けると、エイルは無言でドレッドをにらみつけます。
そしてシロと並び立ちながら、腰の二本の剣を静かに引き抜きました。
「巨獣狩りの剣星……史上最年少マスターウィザード……こんな大物とやり合えるなんて、ラッキーだぜェ……」
ドレッドが高揚感に舌なめずりした、その瞬間。二刀流のエイルが問答無用で斬りかかりました。
『ギャオッ!』
すかさずアルマザウルスが主人をかばい、エイルの剣を受け止めます。
「シロ! そいつを抑えてろ!」
『ワンッ!』
エイルは弾かれた反動を利用して飛びすさると、今度はシロがアルマザウルスへ跳びかかりました。二体の大きさはほぼ互角です。
シロ自慢のツメもキバも、アルマザウルスの装甲を貫くまではいきません。しかし、その動きを封じるという役目は十分に果たしていました。
そのスキにエイルは、守りを失ったドレッドへ容赦なく斬りかかります。
ガキン! ガキィーン!
エイルの剣がドレッドの腕に当たると、金属同士がぶつかったような音が響きました。およそ、人間を斬った音ではありません。
それもそのはずです。すぐれたウィザードは契約の指輪――"コネクタリング"を通じて、パートナーとなった魔法生物のチカラを受け取っています。そのため身体能力は常に強化された状態となり、ときには鋼鉄のような頑丈さすら手に入れるのです。
ドレッドが右手にはめている指輪は三個。つまり、今シロと戦っているアルマザウルスを含め、三体のワンダーのチカラが彼の肉体を強化しているのでした。
……しかし、それはエイルも同じ条件です。
ズバン!
「ぐあっ……!?」
ドレッドの右腕が斬り裂かれ、血しぶきが舞いました。
エイルが右手にはめている指輪も三個。しかし、パートナーの数が同じでも、そのチカラの強さや絆の深さには大きな差があります。
とくに重要なのは後者です。パートナーから「チカラを貸したい」と強く思われているほど、引き出せるチカラも大きくなるのです。それこそが、すぐれたウィザードの条件ともいえるでしょう。
二回、三回と鋭い斬撃を浴びせられ、ドレッドはたじろぎながら後ずさりました。
契約による身体強化だけで渡り合うには、相手が悪すぎます。
なにしろパートナーのチカラ以前に、エイル自身の体力と運動能力がずば抜けているのです。よほどの達人でもない限り、彼女の動きについていくことはできません。
「チッ……!」
かくなるうえは、とドレッドはギラリと目を光らせ、右手をかざしました。
「来い! アルマザウルス! 武装魔術だッ!」
その呼びかけに応えるように、シロと戦っていたアルマザウルスが黄色い光となり、吸い込まれるように指輪の中へ戻っていきます。
さらに――
ドレッドの全身がまばゆい黄色の光に包まれ、メキメキと音を立てながら姿を変えていきました。
「ハァーッ! どうだァーッ!」
ドレッドは得意げに両腕をひろげます。
身長は2メートル超から3メートル近くまで伸び、全身を黄色いトゲトゲしたウロコで覆われていました。それはまるで、アルマザウルスの背中そのものを鎧にしたかのような姿です。
これが武装魔術。パートナーの魔法生物を武器や防具に変形させ、それをもちいて魔法つかい自身が戦う技術です。
剣の精霊エクシリアがエイルの剣と合体して大剣になるのも、氷の妖精スノーベルがアルティナの剣と合体して氷の剣になるのも、この武装魔術にあたります。
「だがコイツは、ただのアームズじゃねェぞ!」
ドレッドは胸を張って叫びました。
「俺の【アルマザウルス】三体すべてを装備してるからなァ! パワーもディフェンスも三倍だ! ガハハハハ!」
アルマザウルス三体分のアーマーをまとったドレッドは、勝利を確信したように高笑いします。
それに対し、エイルはまったく興味がなさそうに、ふう、と息を吐きました。
そして右手を軽くかざし、指輪からエクシリアを呼び出します。
金色の剣の精霊は二本の剣と融合し、巨大な大剣へと姿を変えました。
「へ?」
ドレッドが間の抜けた声をもらした次の瞬間――
ズバァンッ!
振り下ろされた一撃が、アルマザウルス三体分の装甲ごと、ドレッドを真っ二つに斬り裂きました。
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