第11話 イシビトあらわる
「こ……これは、いったい……?」
腰かけていた岩から立ち上がったアルティナは、揺れに耐えながら左右の岩壁を見回しました。
なんと、谷全体が進行方向の右へ向かって、ぐぐぐっと曲がっていったのです。
そして完全に曲がりきると、今度は右側の岩壁が音を立てながら地面へ沈みはじめました。
あきらかに自然ではありえない、ふしぎな現象でした。
やがて――揺れと轟音がおさまると、あたりの景色は一変していました。
高い岩壁が柵のようにぐるりと周囲を取り囲み、その中心には、いくつもの石が積み上げられた山が存在しています。山といっても、アルティナの身長の半分ほどしかない小さなものですが。
それらをよく見てみると、ところどころにトンネルのような穴が空いており……
「あれらは、いったい……?」
「アルティナ様がおっしゃったとおりなら、おそらくイシビトたちの住居……だと思います」
さっきまで不敵な笑みを浮かべていたエミルも、さすがにこの光景にはおどろきを隠せないのか、その表情は苦笑いへと変わっていました。
すると、エミルの予想どおり――
カタカタ……
石と石がぶつかり合うような音を響かせながら、無数の石山の中から、小さな影が次々と姿を現しました。
「彼らが……イシビト……」
アルティナは、上品に口元へ手を添えながらつぶやきます。
現れたものたちは、みな一様に、いくつかの石がくっついてできた胴体と手足を持ち、頭にはどこかアンバランスなほど大きな石が乗っています。
さらに頭部には二つのくぼみがあり、その奥では黄色い目がほのかに光っていました。
大きさは30センチほど。まさに、石でできた小人そのものでした。
「「かわいい~!」」
エミルとアルティナは、思わず声を重ねてもだえました。
まじめな性格のふたりがそうなってしまうほど、イシビトたちは愛らしかったのです。もしぬいぐるみになって売り出されたら、きっと大ヒットまちがいなしでしょう。
『王族の娘よ。そなたが来るのを待っていた』
すると、どこからともなくだれかの声が響いてきました。
エミルとアルティナは、きょろきょろとあたりを見回しながら声の主を探します。
『探さずともよい。我らは、そなたらの足下にいる』
ふたりはそのひとことにハッとして、まさか……と、おそるおそる足下の石の小人たちへ視線を向けました。
『我らはイシビト。この谷の聖域に棲まう者なり』
「「や……やっぱり……」」
エミルとアルティナは、そろってショックを受けました。
まさか、こんなにもかわいらしいイシビトたちが、あんなに低い声で、お堅い口調でしゃべるなんて――信じられない。
いえ、信じたくなかったのです。ギャップがありすぎます。カタいのは、見た目通りではありますが。
『王族の娘よ。汝、試練を受ける覚悟はありか?』
イシビトたちに問われ、放心していたアルティナはハッと気を引き締め直しました。
「……はい。どんな試練であろうと、受ける覚悟はあります!」
その態度は堂々としていて力強く、エミルも思わず見とれてしまうほどでした。
この人はやっぱりお姫さまなんだ――そう、あらためて実感するほどに。
『よかろう。それでは、ついて参られよ』
イシビトたちはくるりと振り返ると、ぞろぞろと歩きはじめました。
やっぱり、あの見た目でその口調にはまだ慣れないなあと思いながら、エミルとアルティナはそのあとをついていきます。
……平たい岩の上で気持ちよさそうに昼寝を続ける、エイルとシロンをほったらかしたまま。
☆ ☆ ☆
エミルとアルティナは、イシビトの集落の中心部へ案内されました。
そこには、ツルッと平たく削られた円形の舞台のような灰色の岩が埋まっていました。さらにその中心には、オレンジ色の土がこんもりと盛り上がっています。
遠目から見ると、お皿に盛りつけられた練り調味料のようだと、くいしんぼうのエミルは思いました。
『あちらに立たれよ、王族の娘よ』
イシビトたちにうながされ、アルティナは緊張した面持ちでごくりと息を飲むと、ゆっくりと石の上へ歩み入ります。
「あのー、わたしは入っちゃダメ……ですよね?」
エミルはイシビトたちを見下ろしながら首をかしげました。
『試練に挑めるのは王族のみ。それ以外の者が踏み入ることは許されぬ』
「あ、そうですか……」
まあ、予想どおりの答えではありますが、やっぱりイシビトたちの見た目と中身のギャップには慣れず、とまどってしまいます。
アルティナが石の舞台に上がったのを確認すると、イシビトたちはそのまわりを取り囲むように立ち、輪を作りました。
そして、小さな両手を舞台へ向かって突き出し……その全身から、紫色のオーラがゆらめきはじめます。
「わあっ!?」
この異様な光景に、エミルは思わず声をあげました。
イシビトたちのオーラは両手を伝い、舞台中央の盛られた土へと注ぎ込まれていきます。
すると……土がうねうねと動き出し、変形をはじめました。まるで粘土細工のように。
――いえ、あの土は本当に粘土だったのでしょう。
エミルは思い出しました。イシビトたちがいま行っているのは、念じるだけで物体を動かす力――念動力と呼ばれる、ふしぎなチカラの一種であるということを。
やがて粘土は、一体のずんぐりむっくりした巨人へと姿を変えました。高さは、およそ五メートル。
エミルは図鑑で、アルティナはアカデミーの授業で習って知っています。
【ネンドーレム】――粘土で作られた魔道人形です。
その製法にはナゾが多いとされていましたが、まさかこんな方法で作られているなんてびっくりです。
これを発表すれば、魔法生物学会は震撼するかもしれません。
『王族の娘よ。試練の時だ。その土塊の巨人を見事打ち倒してみよ』
念動力を放出し終え、だらりと両手を下げたイシビトたちがそう告げました。
ちなみに彼らの声も、念動力によってこちらの頭の中へ直接響かせているのだと、エミルは気づきました。
ネンドーレムは、たくましい右脚で石の舞台を踏みしめます。
ドンッ――と重い音が響きました。
続いて太い両腕を振り上げ、戦闘態勢を取ります。
イシビトとは逆に、大きな体に対して頭部はアンバランスなほど小さく、その顔には彼らと同じ黄色い二つの光が、目のように灯っていました。
「く……!」
アルティナはネンドーレムの異様な威容にわずかにたじろぎながらも、腰に差した剣をシャリンと引き抜きます。
指輪から呼び出されたパートナーの雪の妖精スノーベルも、透明な羽を震わせながら、キッと相手を見すえました。
「……参ります!」
アルティナは覚悟を決めると、力強く地面を蹴ります。
そして――
ダッ!
ネンドーレムへ向かって、一気に先制攻撃をしかけました!
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
このおはなしがおもしろい、つづきが気になると思っていただけたら、
ブックマーク登録や下↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価していただけるとうれしいです。




